第120話 シルマによる作戦会議……あれ、俺は?
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
家の整理をすればするほど図書が出できて半笑い状態です。漫画に小説(ハードカバー・文庫本の両方)、絵本に児童書……自分のことながらよくここまでため込んだと思います。
絶対床が抜ける。読まない漫画は無償で譲渡したり売ったりできるのですが、絵本と児童書はどうしても手元に置きたい……何故?
漫画だと「君を本当に必要としているヒトのところで大切にされておいで」って言う気持ちになれるんですけど……。
ああ、早く何とかしないと。プチ図書館でも開くつもりか、私は。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
かくして、またもや俺を置いてけぼりにして目の前で戦いが始まった。ど、どうしよう、普通に考えたら俺も参戦するべきなんだろう。剣を抜き放って「俺も加勢するぜっ」みたいに爽やかに言うべき状況なのはわかる。
……いや、それはちょっとサムイな。緊張感がある戦場で爽やかに駆けつけるとか絶対浮くと思うし、俺なら引く。そもそも爽やかに助けに入るとか俺には無理な話である。
みんなと実力差があるのは痛いほど分かっているし、寧ろヘッポコの俺が介入する方が迷惑なんゃないかと言う考えが参戦への決意と勇気をぐらんぐらんに揺らがせる。
「余裕の表情も今の内!あたしとレオの力を嘗めないでよね。さあ、レオ。遠慮なく暴れちゃえっ」
エクラのGOの合図と共に白く大きな聖獣が勢いよく地を蹴った。大きな体を物ともせず、飛ぶようにしながら一瞬で間合いをライアーと詰めたレオはその勢いのまま鉛の塊にも似た太く鋭い爪を標的に向かって振り下ろす。
「おや、意外に素早い」
レオが想定外のスピードで接近して来たことに一瞬だけ驚き、目を見開いていたライアーだったが、口ぶりは動揺とは程遠いもので、1ミリも慌てることなく瞬時にレオの一撃を左ステップで軽やかに躱す。
ライアーを捕えることが出来ず、レオの一撃は、地震か衝突事故でも起きたのではないかと錯覚してしまうほどの轟音を鳴らして地面へと吸い込まれた。
「まだまだ、レオの攻撃は物理だけじゃないんだから」
軽々と攻撃を躱されしまうことはエクラも想定内だったのだろう。余裕で攻撃を躱されようとも、決して慌てることなく次なる行動へと備えた。
「レオ、最大火力でぶっ放して」
「ウォーーーン」
エクラの叫ぶような指示の後にレオが低く喉を鳴らしながら咆哮し、同時に鋭い牙を携えた口元に集まり始めた。
眩しいぐらいにオレンジ色に輝くその光からは離れた位置にいる俺たちのところにまで届くほどの熱を感じる。まさに小型の太陽と言っても過言ではないだろう。
俺が呆然と見つめている間にレオはエネルギーチャージを済ませ、一度その光を飲み込んだと思った瞬間、ゴウッと勢いよく風を切る音を立てて、溜め込んだ熱原体をオレンジ色のビーム砲に変えて勢いよく口元から吐き出した。
「うおっ、すげーゴ●ラじゃん」
『一周回って落ち着いてるんだとは思うけど、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ』
画面越しでしか見たことがない非現実な現象の連続で感情と脳内がバグったのか、俺の口から不謹慎なほど場違いで間の抜けた言葉が出る。
それを聖に冷静にツッコまれたことによって、やっと脳が目の前の現実を受け入れ、ふとライアーの方を見やれば彼はこの強烈なビーム砲すらも余裕の笑みを浮かべたまま舞う様に躱した。
一応攻撃に警戒してか、エクラたちと少し距離を取って静かに着地したライアーは胸元に手を置いて穏やかに微笑んで言った。
「お見事です。当たれば消炭間違いなしの強烈な殺人ビームですね。ですが、ビーム砲の弱点は真っすぐにしか飛ばないこと。きちんと見極めて躱せば問題はありませんよ」
「くーっ!マジムカつく!!絶体にボコすっ」
厭味ったらしく戦いのアドバイスまでして余裕を見せつけるライアーにエクラは頬を膨らませ、地団太を踏みながら顔を真っ赤にして憤慨した。
「お、落ち着いて下さい、エクラさん。感情を乱せば相手の思うつぼです」
「安い挑発に乗ってしまっては私の二の舞だ。私が言えたことではないが相手の挑発に乗るな」
今にもライアーに向かってがむしゃらに飛びかかりそうなエクラを制する様にシルマとシュティレが彼女の前に左右から立ち塞がった。
「あ、ヤッバ……思わず我を忘れちゃった。ってけあいつ煽るのうまくね?」
2人に注意を促され、落ち着きを取り戻したエクラは頭を思いっきり左右にぷるぷると振りながらジト目でライアーを見やった。
「あの方の戦闘能力は相当高いと思われます。それに戦い慣れている気がします。相当な場数を踏んでおられるのではないでしょうか」
「さらに言えば、余裕があるせいか精神攻撃も煩わしいな。的確に怒りのツボを押してくる……まあ、それに反応してしまう私も未熟だとは思うが」
懸命にライアーを分析するシルマの隣でシュティレが挑発に乗ってしまったことを恥じてか複雑そうな表情を浮かべて言った。
「挑発に乗ったのはあたしも同じだよ。反応もあたしの方が大分ガキっぽかったしぃ。でも、挑発に乗るなって言われて現実問題無理だよね。頭ではわかっていても精神的な問題だし、精神力は瞬時に鍛えられないもん。魔術強化もできないしさぁ」
自分の全力の攻撃が通らないことと、攻撃を繰り出す度に小馬鹿にされることがが余程悔しいのだろう、いつも細かいことには囚われないエクラが目地らしく愚痴っぽくなっている。
カラッとした性格の彼女が珍しく精神を湿気らせているのを見ると、ライアーの手強さを改めて実感するし、あの神経を逆なでする精神攻撃も効果が抜群なのを改めて思い知らされる。
「精神力か……日々の修行を積んでいたと言うのに情けない」
悔しそうに拳を握りしめ、戦いが始まったばかりの状況でモヤモヤとした空気が流れ始めたのを感じ、俺も焦りを覚える。
俺も一応仲間って言うかこのパーティのリーダーなのだから、ここまで戦力になっていない分、みんなを励まして悪い空気を払拭し、士気を上げなければ。
そう勢い勇んで自分の中で何かみんなの気分を上げられる言葉がないかと模索していると、シルマが胸の前で両手拳を握りしめ、力強く言った。
「大丈夫です。嫌なことを言われて怒りを覚えてしまうのは当たり前のことです。自分を見失わず、冷静な判断で力へと変えることが出来れば、怒りの感情は戦闘においてプラスになるはずです」
いつもは控えめで大人しいシルマの熱い思いが込められた励ましに一瞬面食らっていた2人だったが直ぐに表情を柔らかくして頷いた。
「うん、そうだね。闇雲に相手に相手に攻撃をぶつけるんじゃなくて、感情をしっかりと戦闘に活かす、当たり前だけど大事なことだと思う。ありがと、シルマさん。元気出たよ」
「ああ、シルマ殿は普段は大人しいのに常に物事を俯瞰で見ることができているな」
ああ、何ということだ。もう完全に俺なしで団結力が生まれている。完全に俺の出る幕がなくなってしまった。
無理に会話に割り込んでも空気を悪くする予感がするし、息を潜めて状況を見守ろう……俺は空気でーす。はあ、悲しい。そして空しい……。
「はあ、えーっと……シルマさん、と言いましたか。そう言えば、あなたはクロケルさんが私の罠に引き込まれた際もいち早く助けに来られましたね。ふんわりとした方かと思いきや意外と聡明でいらっしゃる」
スッといるような視線を送られたシルマは、ビクッと体を震わせ、しまったと言わんばかりに顔を青ざめさせた。
「私の作戦をことごとく阻まれてしまうのは少々腹立たしいことですが、頭脳を含め強い者の相手をするのは喜ばしいことです。せっかく皆さまのやる気も出たようですし、楽しみましょうかっ」
言い終わると同時にライアーは鋭い風の音と共に数十本の小型ナイフを目にも止まらぬ速さでシルマ達に向かって投げつける。
ナイフの雨がシルマたちを襲う。掠っただけとは言え、アレのせいで頬から流血してしまったのであの攻撃の威力は十分に理解している。危ない、と叫びそうになったその時、数回の金属音が暗闇に響き渡った。
「接近戦では敵わないかもしれないが、動体視力には自信がある。この程度の攻撃は全て打ち落としてくれよう」
槍を中段に構え、毅然と言い放つシュティレの足元には先ほどライアーが投げた分のナイフが散らばっていた。あの数のナイフを全部叩き落したのか。流石だな、と思うと同時に湧き上がる劣等感。
「動体視力、俺も良かったはずなんだけどなぁ」
『目だけじゃだめだよ。それを往なせる実力は伴わないと』
「うるせぇ、バーカ」
ぼやいた俺に聖が冷静にツッコミを入れて来たので、イラッと来たおれは俺は口悪く返した。俺、完全に恰好悪い奴じゃん。
「みなさん、一旦相手から離れてください、体制を立て直しましょう。盾の女神の加護」
シルマが杖を大きく振り、防御壁を作り上げる。まだ戦いに参加していない俺たちにも壁を張ってくれる辺り、彼女の慈悲深さと気遣いを感じる。
「おや、これは厄介ですねぇ」
防御壁を張られてしまっては迂闊に手を出せないと思ったらしいライアーの動きがとまる。下手に攻撃を続けても体力と魔力を消耗するだけだと判断したのだろう。
手を出せないと知っても決して感情を乱したり、慌てたりせず、落ち着いて状況を窺っている辺りは敵ながら流石と言える。
前線で戦う女子組3人は、互いに身を寄せてなるべくライアーには聞こえない様になるべく小声で作戦会議を始めた。なお、ライアーと同じぐらい離れた位置にいる俺たちの方に会話が聞こえているのは聖が特殊な力を使って音を拾っているからなのである。
何と都合のいい力があるものだなと言えば隠密調査には持って来いでしょと言う、全く会話のキャッチボールができていない回答があった。
呑気な会話をする親友に俺が頭を痛めている間にも流れもあってか、すっかりリーダ―的ポジションとなったシルマがキビキビと話を進めて行く。
「まず、大変申し訳ないですがエクラさん、先ほどは少々突っ走り気味です。私に補助を任せて頂けるのではなかったのですか?頼もしい召喚獣を呼ぶこと自体は悪くないですが、連携すると決めたのであれば、声掛けもなし先制攻撃はよくないです」
「う、はい。ゴメンナサイ……レオ攻撃ならある程度相手の動きは抑えられるかと思ったんだ。補助して欲しいとは頼んでだけど、シルマさんには本当に危ない時の補助をしてもらおうって考えで」
割と真面目なトーンでシルマに注意をされたエクラは胸の前で人差し指同士をちょんちょんと意地って気まずそうに謝罪した。
「シュティレ様も同じく突っ走る癖があります。みんなを守りたいと言う正義感は評価値しますができますが自分の身を粉にして良い戦いんてないのですよ」
「む、すまない……」
ビシッと指を差され、エクラと同じ様に注意をされたシュティレがクールを装いつつも見るからにしゅんとして頭を下げた。
あれ、何かリーダーって言うよりオカンっぽい気も……いやいや、それはそれとしてすシルマって意外と怖いかも。
「もしかして戦闘に関しては結構シビアなのか?ライアーに手間取っている俺たちを見て相当やきもきしてたとか?」
『あー、それはあるかもねぇ。シルマちゃん、相当苦労して今のレベルになったんだろうし、もしかしたらその辺の戦士や騎士よりも戦いに精通しているかもよ』
いつもの穏やかな雰囲気から突如として厳しめな雰囲気になったシルマに若干困惑して疑問を口にすると聖が頷いた。
そりゃあそうだよなぁ。シルマのレベルがカンストしていると言う事実は一応は俺と聖とシルマだけ秘密と言うことになっているが、シルマだって最初からレベル500だったけじゃないもんな。
彼女のレアリティは3だし、通常のレベル上げもそうだが限界突破用の素材集め等には相当苦労したはずだ。努力あってのレベル500と言うことだ。
素材集めのためにそれなりに危険なめにも遭ったと思うし、戦場把握や相手のレベルに合わせた戦い方は彼女の方が詳しいのかもしれない。
「エクラさんの様に強力な攻撃で短期戦を狙うのは悪くないですが、やはりここは連携をしましょう。メインの攻撃は威力と素早さを考慮してエクラさんとシュティレさんにお願いします。私は後方からの遠距離攻撃と戦闘中のお2人の防御・回復を担当します」
本人に自覚はないだろうが本人は無自覚だろうが凄い歴戦の戦士みたいな判断と指示だ。もうリーダー交代でいいんじゃないかな。
「おっけー!了解っ、今度こそちゃんと連携して戦うよ」
「ああ、騎士ならば1対1、と思っていたが仲間と連携して戦術を学び、自分の可能性を広げることも悪くない」
エクラとシュティレがしっかりと頷き、それに対してシルマがいつもの笑顔で優しくに笑って見せた。そして直ぐに真顔に戻って言った。
「それでは、結界を解いたら作戦開始です。みなさん、くれぐれも行動には細心の注意を。自分を守って、仲間に頼ることを忘れないで下さい」
「りょぅかーい!!」
「ああ」
元気よく勇ましい返事の後にシルマが戦闘を再開すべく結界を解く。俺とアストライオスさん側の結界と解かなかったのは彼女の気遣いだろう。
「おや、もう結界を解いてくれるのですか。意外に早い作戦会議でしたね。では、お手並み拝見と行きましょう」
結界内で作戦会議をしている間は完全放置されていたライアーが待ってましたと言わんばかりに肩と首をパキポキならして両手にナイフを構えた。
シルマたちも各々の武器を構え、どちらともなく地を蹴って戦闘が再開された。獣の咆哮、槍とナイフがぶつかる金属音、シルマが魔術を繰り出す姿が目に映る。
目の前で激しい戦いが繰り広げられる中、俺はただ呆然とその場に立ちつくしていた。作戦会議にも入れてもらえなかったぜ、チクショウ!!
「ううう。俺、完全に置いてけぼりなんですけど」
「大丈夫です。どんな立場にあっても一生懸命なご主人様はかっこいいです」
戦う前から自尊人がズタボロの俺をアムールが純粋な笑顔と言葉で応援する。キラッキラの笑顔から、決して社交辞令ではない真っすぐな本心であると言うことは理解できる。
その言葉は嬉しい、嬉しいがどんなに評価を上げられ励まされようと、自分が現状役立たずなことには変わりないので、励ましを受けることすらも悲しくなってくる。ああ、俺ってばダメ人間でダメ騎士……。
そんな時だった。完全ブルーな俺の隣で同じく戦況を見守っていたアストライオスさんが不意にとんでもない言葉を口走った。
「暫くは大丈夫のようじゃし、ワシはギリギリまでお手並み拝見と行くかの」
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聖「次回予告!シルマちゃんの的確な注意と指示の元、本格的にライアーとの戦いが始まった。彼女たちは上手く連携して、今度こそライアーを討つことができるのか。そしてクロケルはいつまでのけ者なんだろうか、活躍が待たれる!」
クロケル「もういいよ、ここまで来たら活躍もクソもない。もう大人しくしてる……」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第121『やっと固まった決意ですがゼリーみたいにプルプルです』ちょっと、そんなウジウジしない!シケらない!キノコ生えるよ?」
クロケル「いいよ、もう。この際菌類になる……」