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第11話 ペンダント騒動決着!擬態モンスターカゲボウズ

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


あああ!また次回予告詐欺をしてしまった(泣)短く済ませるつもりが長くなってしまったので一旦切ります。


それによってこの話(11話)のタイトルを変更させて頂きます。本当に申し訳ございません。明日こそ!キャラクターたちを新しい地へと赴かせて見せますよ!


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「わあ!シルマさんすごいっ」


 クラージュが瞳を輝かせてシルマの力を称賛し、シルマはやりすぎたかとハッとしながら明らかに動揺しながらも取り繕った。


「あああ、あの程度のモンスターにクロケル様のお力を使うなんてもったいないですから。私1人で十分です」


 うん、まあ、ある意味シルマ1人で十分だけどな。でもありがとう。シルマ、助かったぜ。感謝の視線を送ればシルマはそれを感じ取り、誇らしげににこりと笑って頷いていた。


「申し訳ございません。クロケルさん。モンスターとはわかっていても国王様のお姿をしていたせいで踏み込みが浅くなってしまいました」


 クラージュがお手本の様な角度で頭を下げ、俺に謝罪をする。

 動揺してあの動きなら、本来なら一撃で仕留めていたと言う事か。はは、やっぱり怖いなぁ。


 まだ見ぬクラージュの実力を想像して顔を引きつらせていると聖がふよよ~んと浮かびながら近づいてきた。


『ねえ、モンスターを放置するのは良くないと思うよ。確認しに行った方が良いんじゃない』


「そ、そうだな」


 聖に促される様にしながら、弾き飛ばされて転がったままピクリともしないモンスターにみんなで警戒しながら近づく。浅く息をしているため、まだ生きている様だ。


 細心の注意を払いそれを覗き込んでみればそれは本当に黒い球体だった。てっきり動きが速すぎて黒く見えているだけかと思ったが、本当に真っ黒だったとは……。


 ゴルフボールサイズで質感は見た感じだとつるんとしていて柔らかそうだ。今は閉じられているが、小さな目が二つ付いている。形状的にスライムに近いかもしれない。


「カゲボウズと言うモンスターは聞いたことがありますが、どの地域でも珍しいモンスターですね。擬態と言う能力も全種族の中でも所持しているものも少ないとても珍しい能力です。おそらくそれがこのモンスターがレアリティが5である所以なのでしょうね」


 シルマが冷静に分析をした。なるほど、そう言う理由でレアリティ5でありながらも低レベルなのかこいつ。うむぅ、なんかこう、妙な親近感が湧いて来たぞ。ぐったりしている姿が哀れに見えてきた。


「あっ、クラージュ様、ご覧ください。あそこ」


 シルマが指で示す先にはロケットペンダントが転がっていた。クラージュは慌ててそれを拾い上げ、大事そうに胸に抱いた。


「よかった、これで()()()に顔向けができます」


 旦那様、やっぱりこいつ、時々国王のことを旦那様って言ってるよな。何でだ?


「なあ、聞いてもいいか」


「はい。何でしょう」


 きょとんしてこちらを見るクラージュに出会った頃からずっと気になっていた質問をしようとしたその時、ぐったりとしていたモンスターが弱々しく反応した。


「キュゥゥッ……」


「おわっ、動いた」


 突然動いたモンスターに思わず仰け反ったが、クラージュに俺の事情を悟られては困るので何とか踏みとどまる。


 わずかに動揺した俺に気づいた様子はなく、クラージュは毅然と、そして素早くレイピアの先をモンスターに向けた。


『待って。この子にはもう戦う力は残っていない。それにこの子は君に迷惑をかけたかもしれないけど、他の人間には被害を与えていない。無意味な戦いはいけないよ』


 とどめを刺す気満々だったクラージュを聖が凛とした声でそれを止める。いつもの呑気な声ではなく、あまり聞きなれない毅然とした声に俺は驚いた。


 そう言えば聖は自分が治める世界での無意味な戦いは許さないと言っていたな。確かに、このモンスターは人や物を傷つけたり、破壊したわけでもない。

 

 窃盗をしたのは罪かもしれないが、今ここで始末する様なことでもないのかもしれない。なら、一旦このモンスターを捕えて現状を把握する方が行動としては正しいと俺も思う。

 

 クラージュが苛立ちを露わにしながら宙に浮かぶ聖を睨みつけたが、聖はひるむ様子もなく、自分の発言を撤回しようとはしなかった。


 なんとなく空気がピリついているのを察して俺はもの凄くハラハラした。もしこの2人が争うことになれば止められる自信がない。


 だって、王国騎士VSこの世界の長だぞ、レベル1の俺では処理しきれん!止めに入ったとして一瞬で消滅コースだわ。


「……。そうですね。確かに、極悪非道な輩ならともかく、抵抗ができないものを一方的に断罪する、と言うのは騎士の誇りに反します」


 クラージュは聖の言葉を聞いて納得できるものがあったのか、姿勢を正してスッとレイピアを鞘に納めた。同時に張り詰めた雰囲気が緩まったのを感じ、俺はホッとした。


『シルマちゃん。回復魔法をお願い』 


 聖がシルマの方へと飛んで行き、そう言ったので、俺とクラージュは目を見開く。このモンスターを生かすのは納得だが回復までさせるのか!?


「え、でも……」


 申し出をされたシルマも困った様な反応を見せる。それもそうだろう。だってモンスターに回復魔法をかけろなど突拍子もないことを言われたのだから。シルマが動揺する気持ちは十分すぎるぐらい理解できる。


 戸惑う俺たちの空気を察したのか、聖は俺たちをぐるりと見渡しながら言った。


『大丈夫だよ。多分、この子には最初から戦う気なんてなかったと思うしね。あ、でも逃げられても困るな……話が聞きたいんだけど』


 困った様な素振りを見せる聖にシルマがすぐさま提案する。


「では、このモンスターの周りに簡易な結界を張るのはいいかがでしょう。私の結界は外側からの攻撃を防ぎ、内側からも出る事ができないので檻の様な役割を果たせると思います」


『おお、それいいね。お願いできるかな』


「はい。ではまずは結界を張ります」


 おお、話がどんどんと進んで行く。と言うか結界も張れるのか。しかも質も良さそうだ。どんだけスキル持ってるんだよ。シルマ……めっちゃチートじゃん。


 シルマに対して恐怖に近い関心を示していると、シルマが弱々しく動くモンスターに向かって手を翳す。するとモンスターを包む様にして四角い透明な箱が現れた。恐らくあれが結界だろう。モンスターの姿に合わせたのか5cm四方ぐらいの大きさだった。


「続いて回復魔法を施しますね」


 モンスターに翳したままシルマの手から淡い緑色の光が現れる。それと同時に、虫の息だったモンスターの呼吸が徐々に安定してきた。


「キュ、キュウッ!!ギュッ」


 体力が回復し、意識を取り戻したモンスターが俺たちに囲まれていることに気がつき、身の危険を感じたのか慌てて逃げようとして勢いよく跳ね上がり、そしてシルマが張った結界にガゴンッ鈍い音を立ててぶつかった。痛い、あれは絶対に痛い。


「キュゥ……」


 せっかくシルマが回復魔法をかけたと言うのに、逃げようとして自滅。自ら結界にぶつかりに行って体を強打し、再び目を回して伸びてしまった。


「たっ、大変ですっ。回復しないとっ」


 シルマは慌てて叫び、モンスターに回復魔法を施すのだった。

 何とか再び体も意識の回復したモンスターは、先ほど逃げようとして体を打ち付けたことに懲りたのか、今度は逃げようとせずに結界の中で大人しく震えていた。


『さて、さっそく話を……聞きたいところだけどちょっと騒ぎ過ぎたね。ヒトが集まってきた』


「げ、マジだ」


 中庭での捕り物騒ぎは宿全体に知れ渡ってしまった様で、俺たちはすっかり注目の的になっていた。


 なんだ、なにがあったと騒ぐ野次馬が溢れている。宿の従業員たちも何か不祥事があったのかとオロオロとしており、その内の1人、この宿の主人らしき人物がこちらへ走って来た。


「な、なにか問題でもありましたか」


 ここでモンスターがいました。なんて言えばもっと騒ぎになる予見がする。こんなに小さいがモンスターであることには違いない。モンスターが忍び込む宿など、宿の沽券に関わるだろうし、泊客や従業員に余計な不安や迷惑をかけるわけにはいかない。


 そう思ったのは俺だけではないらしく、シルマとクラージュをそれぞれを見やれば2人とも頷き返してきたので、恐らく同じ考えだと言うことを察し、俺は長身を生かしてモンスターを己の体で隠し、顔面蒼白で様子を窺う宿の主人に言った。


「すっ、すまない。仲間が落とし物をしたようで探していたんだよ」


「は、はあ……落とし物ですか」


 ただ落とし物を探すだけでこんな騒ぎを起こすだろうか、遠慮がちながらもと疑わし気な目で見られたが、モンスターのことを隠したい以上、これでもうゴリ押すしか手はない。


「落とし物は見つかったから、俺たちはこれで失礼するよ。みんな、行こうか」


 俺の言葉にシルマとクラージュが頷き、みんなでモンスターを隠しながら、そそくさとその場から離れる。


「え、ちょっと、お客様!?」


 さすがに納得してもらえないか。強行突破は無理かと諦めかけたその時、クラージュがスッと宿の主人の前へと踏み出る。


 驚き戸惑う主人に恭しく礼をしてさっと紙切れを取り出してそれを渡す。


「主人よ、すまない。後でこの騒ぎの礼はきっちりとさせてもらう故、ひとまずはこれで対応してくれ」


 渡された紙切れを見た主人は一瞬だけ目を剥いたのち、すぐに笑顔に変わり両手をする合わせながらにこにことして言った。


「王国騎士様でしたか。探し物が見つかったのであればよかった。この騒ぎは私共が沈めます故に、お部屋でおくつろぎ下さい。ささ、他の皆様も」


「ああ、すまないね。部屋で休ませてもらうよ」


 クラージュは凛として言いながらさっさと歩いてゆく。宿の主人の変貌ぶりに戸惑いながらも俺たちは中庭を後にすることに成功した。


「なあ、あの紙切れ何だったんだ」


 こっそりと確認してみればクラージュが平然として言った。


「小切手ですよ。大したことはありません。この宿で1ヶ月は食事付きで豪遊できるぐらいの金額です」


 あっさり返されて、そしてこの宿の1泊2日食事付きの宿泊料を考えて頭の中で計算した結果俺は叫んだ。


「大したことあるだろっ!」



 中庭を後にした俺たちは人払いがしてあると言う理由から、一般客宿泊施設とは離れた位置にある王室専用のVIPルームに集まっていた。


 俺たちの泊っている部屋もそれなりに大きかったが、VIPルームと言うだけあって部屋の広さ、窓、備え付けの風呂や庭、ベットなど全てがビックスケールだった。


 明らかな金持ち仕様の部屋に動揺してしまったが、今はそれどころではない。このモンスターをどうするべきか。


 俺は自分の掌の上に乗る結界に閉じ込められたままのモンスターに目をやる。モンスターがビクゥと震えて結界の中でおたおたとしていた。


 さて、連れて来たはいいがどうしたものかと困り果てていると聖が言った。


『僕が話をしてみるよ』


「そんなことできるのか」


 言語能力を持たないモンスターとの会話など可能なのか。そんなことを思っていると聖は自慢げに言った。


『できるとも。僕にかモンスター語の翻訳機能もついてるからね。っというわけで、こんにちは。カゲボウズくん、どうしてクラージュさんのペンダントを盗んだのか教えてくれないかな』


 聖が優しく話しかければモンスターはおずおずと口を開き、キュイキュイと小さく鳴きながら懸命に何かを伝えようとしていた。それをうんうん、と聖は頷きながら、同時通訳を始める。


『ボクはカゲボウズと言うモンスターです。レアリティは5ですが、擬態能力意外は何の能力もないのでボクたちの種族は誰かに擬態して生きて行くほかはないのです』


「擬態をして生きて行くって、姿を模すだけだろ。能力はそのままなら、状況は変わらないだろ」


 俺が問えばモンスター……カゲボウズはキュイ~と身振り手振りをする。聖の翻訳は続く。


『ボクたちカゲボウズは擬態した相手の能力もコピーできるのです。でも、擬態する相手の姿や声、能力を自分の目で見る必要があります』


「あー。クラージュのペンダントを盗んだのはそう言うことか」


 シルマやクラージュも納得した様だった。呆れた様子でクラージュが騎士口調で言う。


「つまり、貴様は国王様の姿を擬態するために私のペンダントを盗んだと言うわけか」


 クラージュに睨まれたせいでカゲボウズがキュッと悲鳴を上げて震える。そしてさらに必死に鳴き続ける。まるで取り繕う様なその姿がだんだん可哀そうに見えてきた。


『ボクたちの種族はそうして生きて来ました。ボクの家族はみんな擬態に成功し、別の種族として新たな生活を始めています。残されてしまったボクは焦ってしまい、何も考えずに今回の犯行に及びました』


「なるほど。あくまで衝動的な行動だったと言うわけか」


 俺の言葉にカゲボウズは勢いよくコクコクと頷く。


『でも、やっぱり写真だけでは姿()()()模すことができなかった。あなた達が追いかけてきた来た時、事情を話したかったけど写真に写る人間を模しただけでは声が出なかった』


 ああ、なるほど。あの時口をパクパクさせていたのは国王の声を知らなかったからコピーできなかったんだな。


『カゲボウズの中でボクだけが擬態できていないことが情けなくて、みじめで、つい出来心で盗みを働いてしまいました。本当にごめんなさい……だったさ。どう、許してあげる?クラージュさん」


 聖の言葉でその場の視線がクラージュに集中する。クラージュは顔をしかめてカゲボウズを眺めていたが、やがて長いため息をついて言った。


「はあ、反省をしているのならいい。騎士であるのにモンスターに遅れを取った私にも落ち度があるしな。ただし、もう窃盗はしないと誓えよ」


 クラージュが騎士口調でカゲボウズに言うも「キュゥゥゥ」と悲しそうな鳴き声が返って来た。


「ん、どうしたんだ」


 反応が気になった俺が聞いてみればすぐさま聖がその理由を聞く。


『うん、ああ。そうか、カゲボウズのままだと生きていく自信がないんだね。そうだね、君はレベルも低いし、モンスターの生存競争の中で生きていくのは厳しそうだ』


「このまま逃がしてもこの子はほかのモンスターによって命を奪われてしまう可能性があるんですね」


 シルマが悲しそうに言い、結界の中のカゲボウズも今まで以上に元気をなくし、へにゃりとしおれている。

 生存競争は自然の摂理とは言え、このモンスターには情が湧いてしまう。自分と状況が近いからだろうか。


「なあ、聖。お前、基本はチートなんだろ。ちょっと俺の考えを聞いてくれ」


『ん、なに?』


 俺が手招きすれば聖がふよよんと寄って来て、俺はなるべくシルマたちには聞こえない様に小声であることを確認する。


 シルマとクラージュが不思議そうな視線を向けて来るが、こればかりは仕方がない。俺の過去を話すわけにはいかないからな。


『ああ。可能だとも。僕に任せて!』


「そうか。頼むぞ」


 ダメ元で確認したものの、どうやら実現可能な様でよかった。これでカゲボウズを救える。俺が胸を撫で下ろしていると聖がくすりと笑う。


『ふふ。優しいね、クロケル。生前と全然かわらないよ』


「別に、ただの偽善的な行動だよ」


 この行動がカゲボウズにとっての正解かはわからないし、今後の責任も取れないわけだしな。


「カゲボウズのこと、ひとまずは何とかなりそうだ」


 俺がそう言えば、シルマとクラージュの表情が和らぐ。


「まあ、そうですか。救える命は多い方がいいですものね」


「ペンダントのことは許せませんが、小さな命が守られると思って良しとしましょう」


 窓の外を見れば白く丸い月が浮かんでいた。ああ、なんだか疲れたな。早く寝たい……。


 こうして謎のモンスターが起こした王家ペンダント窃盗騒ぎはなんとか幕をおろしたのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!無事モンスターを捕獲できたクロケル。クラージュさんと何だか変な縁が結ばれたっぽいけどこれから先、どうなるのか」


クロケル「はあー、腐れ縁ができちまったかぁ」


聖「次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第12話 『氷壁の国、グラキエス王国への招待』グラキエス王国かぁ……ちょっと大人しくしてようかな」


クロケル「ってどうした聖、なんか落ち着かないみたいだが」


聖「なんでもないよ。でも、腐れ縁は面倒だなって気持ちには同意」


クロケル「お前、やっぱりちょっと変だぞ」




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