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第117話 ただ結界を張りたいだけなのに

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


最近寒暖差が激しいですね。服は衣替えをしてもさほど影響はないかな。とは思うのですが、お布団が微妙で……このタイミングで冬仕様に変えてしまうと後悔する様な……まだ少し蒸し暑い日もありますし。


毎年似たようなことで悩んでいます、と言う日記でした。誰も興味ねぇよ!?ですよね、だって前書きのネタが思いつかなくて(泣)


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「空間を断絶する結界っですか」


「ああ、そうすればライアーとワシらは別空間に移動することになるからな。ヤツが宮殿に侵入することも、戦闘中に宮殿が被害に遭う心配もない」


 アストラオスさんはドヤ顔でそう言った。突然の申し出に困惑はしたものの、空間を断絶すると言う言葉には覚えがあった。


「それって前にライアーが俺たちを罠にハメた時に使った魔術と同じやつか……?」


 以前、風の国アエラスでライアーの罠にかかり、仲間たちと分断された時のことを思いだして呟くと、それを聞き拾ったエクラが目を丸くして言った。


「ええっ。何それ、初耳。罠って何?クロケルさん、そんなヤバい経験したの?詳しく知りたい!教えてよ」


「い、いや、直接罠にかかったのは俺じゃなくてアンフィニなんだが。まあ、元々の狙いは俺を仲間から引き離すことだったみたいだから、結果的には変わりないが……」


 驚いている様でどこか興味津々に俺に詰め寄ってきたので、勢いが怖かった俺は若干身を放しながら、アエラスで経験したことを掻い摘んで話した。


 この緊迫した戦いの中で何故に過去の不幸を話さねばならないのか訳が分からなかったが、エクラが気になっている間に聞きたいとしつこいので仕方ない。


 ある程度の話を聞き終えたエクラは俺が話す度に徐々に表情を曇らせて行く。これについては申し訳ないが仕方がない。ライアーの罠にかかった時の話すと言うことは必然的にアンフィニが誘導されてしまったことを話さなければならないのだから。


 実際に妹思い出あるところを利用されたわけだしなぁ。かと言って嘘をついたり誤魔化したりするのも何にか違う気がするし、逆に変な気を遣うなとアンフィニが怒るかもしれない。


 秒速で色々と考えた上で、ここは正直に話させてもらうことにした。別にお前責めている訳じゃないぞ、ごめんな……アンフィニ。


「へぇ、アンフィニくんがねぇ。普段はちょっと短気だけど冷静なのに、妹ちゃんのことになると冷静さを欠くなんて、何か抜けてて可愛いね」


 大方の話を聞き終えてエクラがマジマジとアンフィニの方を見た後に頭をぐりぐりと撫でた。当時の彼の行動を決して責めている訳ではない様だが、自分をからかう様な行動が気に食わなかったのか、バシッとエクラの手を払いのけてアンフィニは叫んだ。


「うるさい!それは反省しているし、同じ手にかかるつもりはない。そんなことより、今は目の前の戦いに集中しろっ」


「あっ、そうだったそうだった。アンフィニくんで遊んでいる場合じゃなかった」


 エクラはしつこいぐらい撫でまわしていたアンフィニの頭をからパッと手を離し、ハンズアップしながらテヘペロと下を出した。


 ダメだ。また空気が緩くなってきた……と言うかエクラ、お前アストライオスさんの未来視によると人質になるかもしれないんじゃなかったっけ、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ。


 人質になる不安とか恐怖はないのだろうか。それとも、そうなると分かっているから覚悟がきまっているのか?いずれにしろ俺には到底持つ事が出来ない精神構造だ。


 そんなことを思ってまた戦いから意識が逸れかけていた俺の耳に、金属同士がぶつかり合う音が届いて意識が引き戻される。


 激しくかち合う金属王が響く方へと視線を向ければ、今度はライアーがシュティレに攻撃を仕掛けていた。


 時には間合いを取ってナイフを投げて遠距離からの攻撃を、時には投げたナイフによって隙ができたところを狙い接近して懐に潜り込み、握りしめたナイフで突きを繰り出すと言う、距離を上手く使った攻撃だ。


 シュティレはライアーから繰り出される素早く的確な攻撃に何とかそれに対応していたが、ほぼ紙一重で攻撃を往なしている状態だ。寧ろ押されていると表現しても過言ではない。


「空間を断絶でもなんでもいいです、とにかくシュティレの手助けをお願いします」


 苦しそうに表情を歪めながら攻撃を防ぐシュティレの姿をみて俺は焦りを覚える。詳細はわからんが、空間を断絶することで教会からライアーを引き離せるのであれば正直何でもいい。深く考えもせずにアストライオスさんの提案を受け入れる。 


「そんなに焦るでないわ。急いては事を仕損じると言う言葉を知らんのか、若造。よいか、空間断絶する結界を張ること自体は構わん。ただし、それなりの覚悟は必要になるぞ」


 焦りから早口で願い出た俺を軽く説教した後にゆっくりと見据え、アストライオスさんは念を押す様に確認して来た。


「覚悟……ですか?」


 予想もしていなかった言葉に俺の脳内を支配していた感情が焦りから疑問に切り替わる。その言葉の意味を汲み取れなかったのは俺だけではないらしく、シルマもエクラも困惑と不思議そうな眼差しをアストライオスさんに向けている。


「覚悟って何、結界を張るのにあたしたちも魔力が必要とか?いいよ、多少の魔力消費ぐらい。あくまで戦闘に支障が出ない程度の話だけど」


 この中で唯一アストライオスさんに意見がしやすい立場にあるエクラが 毅然として聞き返す。流石は孫、これだけ強めの圧を放つアストライオスさんに強気で立ち向かえるなんて尊敬に値するわ。


「いや、魔力の問題ではない。と言うかこれぐらいの魔力ぐらいワシ1人で何とかなるわい。もっとおじいちゃんの実力を信じておくれ。結構凄い魔術師なんじゃぞ?」


 愛しい孫からの強めの言葉が余程ショックだったのか、アストライオスさんは明後日の方向を向いてすっかりむくれて口を閉ざしてしまった。何と言うことか……この急がなければならない状況で拗ねちゃったよ、この爺さん。


このままでは先ほどの言葉の真意を聞くどころか、件の結界すらも張ってもらえない可能性があるんだが!?


 口を尖らせたまま一行にこちらを向こうとしないアストライオスさんにほとほと困り果て、このままでは埒が明かないとエクラに視線で助けを求めるとエクラはしょうがないなとため息をついてから声を和らげてアストライオスさんに呼びかけた。


「はあ……おじいちゃんが凄いのは当たり前じゃん。そんなのいちいち言わなくても分かるでしょ。私はいつだっておじいちゃんを尊敬してるよ。ね、その凄い魔術師が言う覚悟が気になるから、詳しく話してくれる?」


 エクラに背中を優しく摩られたアストライオスさんは尖らせていた口をだらしなく緩ませて嬉しそうに笑った。


「そうかそうか。おじいちゃんを尊敬してくれているのか。それは嬉しいのう」


『ねえ、もうぐだぐだはいいから急いで説明して。仲間がピンチなんだ』


 全く行動に移ろうとしないアストライオスさんを聖がイラついた口調で急かす。年上に対して失礼な物言いかもしれないが、状況が状況だ。非常に申し訳ないが俺も聖と同じ心境である。


 云々の話になってから大分時間が経っている。シュティレが何とかライアーを足止めしてくれているが、揺さぶられているせいか疲れも見え始めている。この状況では地面に気配を消して身を隠すミハイルもライアーの隙をつきにくいだろう。


 もうアストライオスさんの言葉を待たずにシュティレに加勢をした方が状況を打破できるのではないかと思い始めた時、今度はアストライオスさんが溜息をついた。


「せっかちじゃのう。ワシの未来視では、あの竜騎士の少女はもう少し頑張れる実力をもっておると言うのに。もっと自分たちの仲間の実力を信じんか」


 いや、知らんがな。それに溜息をつきたいのはこっちだ。それにシュティレのことは十分に信じている。信じた上で大怪我をしないか心配しているのだ。余計なお世話だっつーの!!


 俺たちには未来視の力はないんだぞ。仲間が怪我をしないか心配するし、不安にもなるし、と言うか未来視で時間に余裕があることが分かっているからと言って引き延ばすのもおかしいだろ、寧ろ急げ。


「覚悟、と言うのはな。空間を断絶する結界の性質が少々面倒だからなのじゃ」


 先ほどから気付いていたであろう場に流れるイライラの空気をやっと読む気になったアストライオスさんが真面目なトーンで続けた。


「ワシの空間断絶結界は封印魔術に近いのじゃ。そもそもの役目は空間や建造物を守るためのものではない」


「封印魔術と言うことは、フィニィさんと戦った際にシュバルツくんが使ったあの影の繭の攻撃に近いのでしょうか」


 シルマがアストライオスさんの言わんとすることを即座に理解して質問を投げかける。凄いな、あんな短い言葉でなんでそこと結びつけることができるんだ。俺なんてまだ疑問も持てないぐらい理解していないんだけど。


「そうじゃな。そう思ってもらう方が理解をしやすいかもしれん」


『へぇ、アストライオスと似た魔術が使えるなんて凄いじゃん、シュバルツ』


 アストライオスさんはシルマの言葉に大きく頷き、それを聞いた聖が先ほどから複雑な会話に入って来ることが出来ずにモジモジするシュバルツにテンション高めに詰め寄って彼の能力をちょっと大げさに褒めた。


「え。そっ、そうかな……ボク凄い?」


 突然褒められたシュバルツは一瞬面食らっていたが、直ぐに頬を赤らめて嬉しそうにはにかんだ。相変わらずあざといな……シュバルツ。すっかり健気で純粋系年下キャラが定着しつつある。が、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「話を逸らすな、聖っ。シュバルツが凄いのは分かるが、今は話を聞くのが先だ。アストライオスさん、続きをお願いします」


 ぶっちゃけ俺はここまでの話を一欠けらも理解していない。そんな状態で中途半端に話をぶった切られたら余計に混乱するから茶々を入れないでくれ、頼むから。


「空間断絶結界の本来の用途……役目と言った方が良いかの。どんな抵抗をしようが内側からはこの結界を破ることはできん。そうさなぁ、対象を中に閉じこめる檻と言っても過言ではない」


 俺が話について来られていないことを察しているであろうアストライオスさんは、不自然なまでにゆっくり、そいて噛み砕いて説明してくれた。


「檻、ですか。でも要は敵を捕えるためのものなんですよね。しかも外に影響がでないようなので思い切り戦えそうな気がします。あまり危険はないように思うのですが、何故覚悟をする必要があるのですか」


 丁寧な説明にようやく理解が追いついた俺が疑問に思ったことを素直にぶつけるとアストライオスさんは、ぎゅむっと眉間に皺を寄せて呆れた視線を俺に向けて言った。


「鈍い奴じゃのう。結界の中に自分たちも入ると言うことがどう言うことか考えて見よ。強固な檻の中に敵と共に入ると言うこと同義なのじゃぞ。十分にリスクはある」


「た、確かにライアーと同じ檻に入るなんて考えただけも恐怖ですが……でも、術者はアストライオスさんなのですから、術の解除は自由じゃないんですか?」


 敵と同じ檻に入るのは危険だと思うが、結界があろうとなかろうと、どうせ戦わなければならない状況なのだから危険とリスクがあることは百も承知である。


 そもそも、俺たちが結界を張ってもらう目的は激化が予想される戦いで宮殿が倒壊することを防ぐためだ。自分たちの身を守ることが目的ではない。それぐらいのリスクは背負う。


 俺の更なる問いかけにここまで言ってもまだ理解できぬかと言うアストライオスさんに唸りが聞こえ、自分の理解力を低さに申し訳ないと思いつつも、心を強く持ってもう一度疑問を投げかける。


「え、えーっと……結界を解除することに何か不都合でも?」


「いや、結界の解除自体には何の問題もない。結界なぞ何時でも何度でも容易く張れるし解除もできる」


 アストライオスさんは疑問に対してキッパリと自信たっぷりに「可能」と言い切った。だとしたら、この渋る反応は一体何なのか……何か他に不都合でもあるのか?


 先ほどからアストライオスさんが結界を張ることに関して、しつこいぐらいに念を押して説明を重ねて来るが、何度言葉を聞いてもここまで慎重になる理由がわからない。


「……問題がないのにどうしてそこまで慎重になっている理由を教えてください」


 何度目かの質問をする俺をアストライオスさんが無言で見つめて来た。しかも無表情だったため、無駄に緊張感が増し、何も悪いことはしていないのに心臓がギクリとする。


 謎の視線に耐えきれず、ふとシルマたちの方を見ると、やはり誰1人としてアストライオスさんの真意が分からず、首を傾げていた。シュバルツなんて頭を傾げすぎて横転しかけていた。


 困惑が拭えない俺たちにあまり気を遣うことなく、アストライオスさんはズカズカと自分のペースで説明を続ける。


「結界を解けば敵も解放されてしまうことになる。敵に勝利した後ならそれも問題はないやもしれぬが、相手を倒しきれず、味方が負傷する等のイレギュラーが起きた場合は話が変わって来るのう」


 その言葉を聞いて俺はようやく彼が言わんとしていることを理解する。他の仲間たちも顔色が変わったので恐らく同じことに気がついたのだろう。


『そっか、せっかく敵を結界内に捕らえてもこちらにイレギュラーがあって解除しちゃったら結果の意味がないもんね。寧ろ向こうも結界から解放されたことによって警戒心が高まる可能性がある』


 聖が俺たちの気持ちを言葉にするとアストライオスさんはようやく理解したかと深く頷いた。


「その通りじゃな。ワシが結界を解除することを除けば、内側から破ることはできんと言う条件はこちら側にも課せられるからのう。敵も味方もそう簡単には結界から逃れることはできんのじゃ」


「それって1回結界の中に入っちゃうと助けが呼べないってことだよね。もしもシャルム国王様たちが駆けつけてくれても戦いに介入できないってこと?」


 エクラが首を傾げるとアストライオスさんは少し考えてから、かなり微妙な表情を浮かべてに口を開く。


「それに関しては微妙なところじゃのう。外から強い魔力介入があれば結界を解除することは可能じゃからな。あいつらなら、結界で歪んだ時空の流れを呼んで戦いに介入できるじゃろうて」


「よ、良かった。援軍が望めるんだったら勝機はあるかもしれないな」


『でも、外から魔力介入するってことは結局は結界を解除しちゃうってことでしょ。それじゃあ結果的には普通に結界を解除するのと変わらないよね?』


 強い力を持っていれば外からの介入は可能と言う言葉に喜びかけた俺の心を聖が遠慮もクソもなくへし折りにかかる。


 ああっ、俺たちがこうしている間にも頑張ってくれているシュティレのためにも早く行動に移したいのに、なんでこうもことが上手く運ばないんだ。


 ただ結界を張りたいだけなのに、問題が山積みなせいでこのままもどかしい状況が続く予感に俺は頭を抱えることしかできなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


聖「次回予告!結界を張る提案をしたはずのアストライオスから覚悟の確認と言う名のダメ出しに二の足を踏んで行動に移せないクロケルたち。突破口を見つけ、覚悟を持って結界を張ることができるのか!?」


クロケル「もうヤダ!何でこんなに行き詰まってばっかり何だよっ。戦うのは怖いけど、ここまで引きずるならもういっそ戦わせてくれっ」


聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第118『戦いへの覚悟』シュテレさんの体力も限界だよ急げクロケル」


クロケル「急いでるよ!覚悟を決める度に意味がわからん否定で覚悟を鈍らせてんのはお前とアストライオスさんだろ!!すっと力を貸してくれよ、もぉーーーーーっ」


聖「いやぁ、僕たちだって君らに苦労させたいわけじゃないから、世界を救った先輩として色々アドバイスをしてるんだよ?」


クロケル「それは有難いが、この状況で過保護なアドバイスはヤメて、本当に」


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