第112話 ミハイルの決断、戦いへの決意
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
9月なのにまだまだ暑いですね。職場でも中々空調を切れない状態が続きます。しかし、その直下にいる私は本当に寒いです。カーディガンとひざ掛けが手放せません。
ヒトと合わせるって大変ですね(ニュアンスが違う)
本日もどうそよろしくお願いいたします。
「えっ、ケイオスさん!?なんでっ」
「ペセルちゃんもいるよー」
俺たちの会議に突如として割って入って来たのはケイオスさんとペセルさんだった。空中に1つしか表示されていなかった通信画面はいつの間にか3つになっている。
「あっ、お久ぶりです、私」
ペセルさんの姿を見るや否や、肩の上のアムールがぴょんぴょんと飛び跳ねて元気よく手を振った。
「あらー、ミニセル……じゃなかった。アムールちゃん!元気そうだねぇ、どう?ちゃんとクロりんたちの役に立ってる?」
「はい!ご主人様のためにいっぱい頑張ってます」
アムールの存在アピールに気がついたペセルさんがアイドルスマイルを浮かべて手を振り返し、アムールは投げかけられた言葉に元気よく答えた後、むぎゅーっと俺に身を寄せて来た。
まあ、アムールが俺たちのために頑張ってくれているのは嘘じゃないし、文句はないんだが、何で俺の頬にくっつく必要があるんだ。
「ん、なんだ。小さいペセル?」
「あっ、ケイくんには言ってなかったっけ。ペセルちゃんはアイドル業が忙しいからクロりんたちの旅に同行できないの。だから、ペセルちゃんと能力値の変わらない分身を渡したんだ。それがアムールちゃん!」
きょとんとするケイオスさんにペセルさんが意気揚々と説明する。ケイオスさんは興味深そうに「ほぉー」と頷いてからにっこりと笑った後に首を傾げた。
「そりゃあ便利だな。でも、なんでアムールとやらはクロケルにべったりなんだ。お前と同じ顔の奴が誰かにラブアピールしているこの絵面にすっげぇ違和感があるんだが」
「それが初期設定で好感度を最高値にしちゃってねぇ~。でも、能力には影響ないからそのまま放置したんだ★ね、クロりん」
「アッ、はい、そうです」
完全に話は逸れているがテンポの良い会話の途中に話を振られて反射的に頷いた。ペセルさんもケイオスさんも無駄に明るい登場に、あれだけ重かった部屋の空気が明るいテンションで一気に換気された。改めて陽キャのオーラは凄いと思った。
ペセルも十分陽キャだが、流石にあの激重シリアスな空気を1人で換気するのはちょっとしんどかっただろうな。あと、ペセルの場合は真面目な話の時は空気を読んで黙っている真面目なところがあるし。でも、それはそれとして……
「えっ、なにどういう状況これ」
「割り込み通信ね、まあこの2人とはここ最近、ネトワイエ教団関連で定期的に連絡を取り合っているからアタシは別に不思議ではないけれど……話合いの途中で唐突に割り込んでくるのは品がないわね」
突然現れた陽キャ2人に戸惑っているとシャルム国王が足を組み、椅子の手すりに頬杖をついて、うんざりとして画面の向こうで場違いな笑顔を浮かべるケイオスさんとペセルさんを睨む。
「ああん?話し中だったから割り込み通信で応答申請はしたぞ。それを無視して応答しなかったのはそっちだろ」
「あら、本当。気づかなかったわ。ごめんなさい。でもアタシ、基本割り込み通信には応答しない主義だから」
明らかにイラッとしているケイオスさんの言葉を聞いて通信履歴を確認したシャルム国王が涼しい表情でしれっと謝ったが、その適当な態度が気にいらないのかケイオスさんは不満そうに続けた。
「少し待っても全然繋がる気配がないし、いい加減イラッとしたから一度回線を切ってペセルに連絡したんだよ」
「ケイくんから連絡を受けて、ペセルちゃんからシャルっちに連絡しても繋がらなかったから回線をハッキングしたんだよ」
ハッキング、今さらっとハッキングって言葉がきこえたんだが。応答がなかったら「そうだハッキングしよう」とはならないよな。普通はちょっと待つよな。
シャルム国王の氷の様な冷たい睨みを物ともせず、ケイオスさんは応答しない方が悪いと苛立ちながら、ペセルさんは何も悪いことはしていないと言う風に、小首を傾げながらきょとんとして言った。
「はあ~、グラキエス王国の勝手にハッキングしたことに関しては反省する気はないわけね……。応答がなかったら時間を改めなさいよ。それとも何、ハッキングをしてまで伝えたい急ぎの用事でもあったのかしら」
全く悪びれることのない2人を目の当たりにし、シャルム国王は氷の視線を送るのをやめ、追及を諦め、非常に大きな溜息をついた。
「いや、得に急ぎの用はない。ハッキングに成功した後、直ぐに声をかけようと思ったんだが、何か複雑な話をしていたみたいだが、俺たちも無関係ではなさそうな内容だったからな。一応、聞いておいた方がいいと判断して暫く黙って聞いていたんだよ」
ケイオスさんはきっぱりと言ってのけ、つらつらと状況を説明したが、凄い。何ひとつ納得できない。何をどう説明されてもハッキングしてもいい理由が見当たらない。
「い、急ぎの用事もないのにハッキングしたんですか」
「ああ。俺が話したい時に応答してくれなかったから、仕方がないよな」
ゴリ押しの割り込みにドン引きしている俺に向かってケイオスさんはけろりとした態度で返した。うわぁ……我儘なやっちゃなー。
『クロケル、ケイオスに追及も注意も無駄だから。無視していいよ。そんなことより、君たちどこから聞いていたの。ここまでの話は理解している?』
昔からこんな感じで自分勝手でマイペースなのか聖は決して悪びれないケイオスさんの行動を咎めることなく、自然な形で会話への参加を促す。
「ああ、それなら心配するな。大分序盤から話を聞いていたから大体の事情は理解できているぞ。なあ、ペセル」
「うん、ここまでのクロりんたちのもろもろの事情はみんなで共有しているから基礎知識?はあるし、直ぐに理解できたよ。ライアーの一部がどうのって話には流石に驚いたけど」
軽く頷いてケイオスさんが話を振るとペセルさんも大きく頷いた。どうやら本当に最初の方から話を聞いていた様だ。
だとしたら声をかければいいのに。俺たちの話に割って入るタイミングを窺っていたみたいなことを言っているが、よくよく考えたら勝手にハッキングする根性があるなら適当に間に入ることも容易だろうに。
どこに気を遣っているんだか、と矛盾した2人の感情に疑問を抱きつつも、ツッコむのもしんどいのでとりあえず黙って流す。
『そう、それじゃ問題ないね。丁度いいから君たちもこのまま参加して。もうマジで時間がないから、知恵を貸して欲しいんだ』
聖は早口で素っ気ない態度で2人に協力をして欲しいと願い出た。そうだった、ライアー対策の会議が長引きつつあるから気が逸れかけていたが、ライアーが目前まで迫ってきているんだった。
って言うか何度目だよ、この焦り。そんでライアー中々攻めてこないな。本当に近くまで来ているのか?
確認の意味も込めて、すぐそこまで来ていると未来視したアストライオスさんを見やったが、完全にこちら側に興味をなくしたのか小さくあくびをしてやがった。ねえ、本当にライアー近くまで来てるの?俺たちを騙してないかい、爺さん。
分かりやすいぐらい再度疑念たっぷりの視線を送ってみたものの、アストライオスさっは俺に一切視線を合わせることなく、無視をする姿勢を貫き通していた。くそぅ、100パーセント俺の視線に気がついているハズなのになんだよ、その涼しい顔はっ。
「まあ、協力してやらんこともない。ルシーダは遠いから残念ながら直ぐには言ってやれないからな。知恵ぐらいは貸そう」
「って言うか、最初からそのつもりだったし、わざわざお願いしなくてもいいよ、アッくん」
ケイオスさんもペセルさんも俺たちへの協力を快諾した。まあ、よく考えたら当たり前だがな。通信回線をハッキングしておいて協力しませんとか言われたらもう意味が解らん。そしてどうしてケイオスさんは何で上から目線なんだ
『よし、じゃあ話も中途半端になってたし、続きを始めようか』
「ああ、ちょっと待ちなさい。このメンツが揃っているならシェロンさんも呼びましょう。今後を決める大事な会議ですもの。1人だけ仲間外れは良くないわ」
話を進めようとした聖をシャルム国王がゆっくり左手を挙げて制し、優雅に意見をした。シェロンさんの名前が挙がった瞬間、条件反射なのか同じ竜族であるシュティレの背がいつも以上にピンと伸びる。
さすが騎士……例え今はこの場にいない人物であっても礼儀は忘れないんだな。まあ、一族の長であるシェロンさんも威厳や器も影響してるんだろうが。格式ある一族の縦社会って凄いよな。
『むー、せっかくいい感じで話を進めようと思ったのに流れをぶった切らないで欲しいなぁ。でも、どうせ情報は共有するんだし、後から説明をするぐらいなら確かにシェロンもこの場に呼んでおいた方がいかぁ……ちょっと待って、僕から呼び出すから』
シャルム国王の突然の提案に話を断ち切られ、一瞬だけむくれていた聖だが、直ぐに考えを改め、俺たちの返答を待たずしてシェロンさんへと連絡を繋いだ。
空中に新な電子画面が現れ、数回のコール音が鳴り響く。そして通信は直ぐに繋がり、画面にはシェロンさんの姿が映し出された。
「なんじゃ、ヒトの昼寝中に突然連絡など寄こしおって。驚いたではないか。何か問題でも……っておおお!?懐かしい顔ぶれじゃの」
久々の再会に面倒くさそうに応答した後、自身の目に映った面々を見て大きな瞳を更に丸くして嬉しそうに驚いた。ってか昼寝してたんかい。
「ご無沙汰しております。長様」
シェロンさんが画面に映し出された瞬間、シュティレがさっと立ち上がってその場に膝をつき、頭を垂れる。
素早い、何て素早い動き……そして忠誠心だ。流石は騎士、主への礼儀が半端ない。あ、俺も設定上は騎士か。やべ、今更だけど騎士の流儀とか何にも知らねぇ。まあ、俺に主なんていないけど。
「うむ、元気そうでなによりじゃ。そなたが無事に我の前におること、それが一番の吉報じゃぞ。楽にするがよい」
「は、有難きお言葉、痛み入ります」
シェロンさんから労いの言葉と頭を上げることを許されたシェロンは、もう一度深々と頭を下げた後、静かに椅子に座り直す。
「ふふ、世界を救った英雄の集合ね、同窓会みたいで楽しいわ」
シャルム国王も珍しくちょっとわくわくしながら笑っていた。よく見てみれば他の面々もちょっと嬉しそうだ。アストライオスさんもクールを装っているが、懐かしさを感じてか少し口元が緩んでいる。
これが世界を救うと言う大きな使命をやり遂げた仲間意識と言うやつか。これまでのやりとりから察するにドライな関係かと思っていたが、ちゃんと絆があるじゃねぇか。そう言うの何かちょっとうらやましい。
「同窓会か、いいなそソレ。俺たちもそれなりに年食ってなんやかんやしてる間にあんまり連絡とか取らなくなったしな」
「そうだねぇ、ネトワイエ教団の騒動がなかったらほぼ連絡とかしなかったかも」
同窓会と言う表現に反応したケイオスさんとペセルさんも楽しそうに頷いた。ノリが完全に学生だ。もしくは就職して数年連絡取っていない友人たちとまさかの再会をしてテンションが上がっている感じのアレだ。
「やれやれ、若い者のテンションにはついて行けぬなぁ。大して仲が良かったわけでもない連中を相手にこうもテンションを上げられるのはうらやましいことじゃ。のう、アストライオス」
「全くじゃな。十代の若者でもあるまいし、もう少し大人な再会はできないのか..
ワシは騒がしいのは苦手なんじゃ」
キャッキャッとする若者(?)たちを眺めながら年配組であるシェロンさんとアストライオスさんは露骨にやれやれとした態度を見せていたが、やっぱりどこか嬉しそうだ。
『懐かしいのは分かるけど、今はそれどころじゃないから。シェロンにもここまでの経緯と複雑すぎる事情を話して知恵を借りよう』
すっかり同窓会ムードの中、平然として素っ気ないを超えた冷たい態度で話を戻しにかかったのは聖だった。こいつ、本当にクールだな。情緒ってもんがないのかお前は。お前の親友ながら、いや、親友だからこそ心配だわ。
「ああ、すまぬな。我は現状をあまり把握できておらぬ故、しっかり説明を頼むぞ」
聖のかつての仲間たちとの再会を喜ばず、義務的に話を進めようとする態度を一切気にすることなく、シェロンさんは笑顔で頷いて話を聞く姿勢を取った。
『……と言うわけなんだよ。どうしたらいいかな』
複雑さが入り混じる話を途中参加のシェロンさんにも分かる様になるべくわかりやすく、それでいて簡潔に丁寧に聖は話した。俺たちも再度状況を把握すべく、頭で色々と整理をしながら聖の話を黙って聞いた。
「それは簡単にはいかぬ問題じゃな。仲間1人の犠牲を出してまで勝つべき戦いなのか、と問いたいところじゃの」
話を聞き終えたシェロンさんは複雑な話を大方理解したのか、特に細かい質問をすることはなく、難しい表情で溜息をついて言った。
「アストライオスの未来視ではミハイルの力を借りなくても勝てるんだろ。なら、無理矢理にミハイルから力を借りることはないんじゃないのか。ミハイル以外の連中が全力で頑張れよ」
どうやらシェロンさんとケイオスさんはミハイルを参戦させることについては反対の様だ。だが、言い分はわかる。ミハイルがいなくても負けないのであれば、例え辛勝でも力を借りる必要はないのでは……と思い始めている自分もいる。
「うーん、確かに犠牲を出すのは良くないと思うけど……本体と鉢合わせても消滅しない可能性もあるんだよね。ミーくんが参戦することで勝率が上がるなら、ペセルちゃんとしてはそっちに懸けた方が良いんじゃないかなっと思うな」
「ええ、そうね。戦いにはリスクはつきものよ。プラスの可能性があるのにリスクを恐れるのは良くないわ。それに、辛勝ってことはミハイル以外にも危険があるってことよね。なら、少しでも全員が安全に戦える方を選ぶのが賢い戦略よ」
ペセルさんとシャルム国王はミハイルを戦闘に出すことに肯定的なようだ。うん、この2人の言い分も分かる。
未来視ではアストライオスさんを含めたこの場にいる全員でライアーに立ち向かっても辛勝と言ったのだ。ミハイルが参戦しても辛勝らしいが、戦いは各段に楽になると言われてしまうとこちらの身の安全を少しでも確保したいと言う思いもある。
かつての英雄たちの意見が真っ二つに別れ、あっちも正しいしこっちも正しいと、どこかの国の童話に出で来るコウモリの様な気分に陥ってしまう。
俺だけではない、仲間たちもどちらが最善かと頭を悩ませ始め、その場に気まずい沈黙が流れる。
埒が明かないと判断したシェロンさんが核心を突いた質問を眉間に皺を寄せているミハイルに投げかけた。
「ふむ、こればかりは他人が決める様なことではないな。これに関しては本人に聞くしかあるまい。ミハイル、そなたはこれからの戦いに身を投じることを望むか」
「……自分の消滅の可能性があるんだ。本当は断りたいところだが、ラピュセルがそれを望むなら喜んで協力しよう」
ミハイルはここで初めてこれからの戦いに協力する意思を自分から見せた。しかし、その口調と表情はとても複雑だ。
彼の一番の願いはラピュセルさんと共にあること。自分の本体であるライアーに認識されてしまうと世界の理とやらで消滅の可能性があるため、接触は避けたいと言う思いを払拭できないのだろう。
しかし、仮に今ここでライアーを止めることを手こずってしまい、将来的にネトワイエ教団が世界の消滅と言う野望を叶えてしまうとラピュセルさんの未来が失われてしまう。
それは何としてでも避けたい。そんな想いが伝わって来きて、切なさすら覚える。協力を望む立ち場である俺たちにはかける言葉もない。
「あの……凄く今更なのですがミハイルがライアーさんと出会って消えてしまう可能性があるのなら、私としては避けたいと言う思いもあります」
「えっ」
ここへきてラピュセルさんが非常に申し訳なさそうにミハイルの参戦に否定的な姿勢を示し始めたのでその場にいる全員の思考が停止する。
『うわ、新たなトラブル発生だよ』
聖は突如として路線変更されたことをうんざりと嘆いた。タブレットの向こう側で天を仰いで頭を抱える親友の幻覚が見えた気がした。
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聖「次回予告!ミハイルの説得のために呼び出したラピュセルさんがまさかの反対派に!?どうして大事な局面で面業事を起こしてしまうんだ、クロケル!」
クロケル「いや、今までも今回も面倒事を起こしてるの俺じゃねぇし。俺はどっちかって言うと巻き込まれる側だから」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第113『解禁!ミハイルのステータス』巻き込まれ体質が面倒事を呼び出していると思うから、この状況はやっぱり君せいなんじゃ……」
クロケル「んなわけあるか!俺のせいにすんなっ。ちょっと不幸に見舞われているだけで誰のせいでもないわ!!」
聖「それが言えちゃうお人好しだから、君はいろーんなことに巻き込まれるんだろうねぇ。ヒトの良さと鈍感さだけは主人公級だよ」
クロケル「ヒトが良いって言うな!……ん、鈍感ってなんだ?確かに敵の気配とか殺気とかは待ったく読めないがそれって主人公級とは言えないよな?俺のどこが主人公?」
聖「気付いてないならいいよ。面白いし」