第111話 ミハイルとライアー
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
ここ最近似たようなことを前書きで書いている様な気がしますが、今回も言わせてください。
この先どうやってまとめよう(頭を抱える)
キリの良いところですっぱり終わろろうかと思いつつ、自分が当初想定していたものと内容が大幅に変わってタイトル詐欺みたいになっているので、もう少し続けてタイトル通りのお話に路線を戻してもいいかなと思っていたり……
しかし、新作も書きたい。今度はプロットをきちんと作成したので大丈夫なはず(何かのフラグかな)……現在検討中にございます。書くのは楽しいんですが、アイディアが思いつくまでが苦しいですよね。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「ライアーの一部!?お前が!?」
予想だにしていなかった衝撃過ぎる言葉に俺は目を剥いて立ち上がり、驚いた。自分でもびっくりするぐらい大きな声が出て、俺の隣でお茶菓子を楽しんでいたシュバルツがむせる。
「シュバルツくん、大丈夫ですかっ」
「あっ、やべっ」
咳が止まらないシュバルツの背中をシルマが必死で摩り、俺は無意味に口を押える。絶賛咳き込み中のシュバルツに気を取られていると今度は肩の上から声がした。
「わあ、落ちゃいますーっ」
「おわわわっ、あぶねぇっ」
突然立ち上がったせいで肩の上に乗っていたアムールがバランスを崩して落ちそうになったので慌てて支えて事なきを得る。
「い、今のは危なかったです。油断していました。転げ落ちて床に叩きつけられるかと」
「わ、悪い。驚かせたな」
俺の肩によじ登りなおして真っ青になって小刻みに震えるアムールを罪悪感もあってよしよしと撫でてやる。
『もおー!!君いっつもオーバーリアクション過ぎ。心臓に悪いから突然の大声ヤメて。で、早く座って』
「うう、ホントにすみません」
聖に己の行動を注意され、全くその通りで返す言葉もなく俺は身を小さくしてすごすごと椅子に座り直した。
「大声を出したことはともかく、クロケルが驚くのも無理はないわよね。流石にアタシも驚いてしまったもの。さらっと凄い暴露をくれるじゃない。ミハイル」
シャルム国王は驚いたと言いながらもいつも通りの優雅で涼しい顔でミハイルを見つめた。本当に驚いているのだろか、なんだったらエクラがアストライオスさんの孫だと言う事実を知った時の方が動揺していた気がする。
ミハイルが自分たちの命を狙っている奴の一部と言うことより、アストライオスさんに孫がいると言うことの方が衝撃なのか。どんだけ息子(エクラの父)険悪だったんだよ、アストライオスさん……。
「ふん。言っておくがお前たちの俺への見方が変わることを恐れてこの事実を隠していたわけではないからな」
ツンと外方を向いてミハイルは刺々しい言葉を吐いた。うーん、抱えていた秘密を暴露してもこの態度。一貫して態度を改めないその姿勢は逆に尊敬するわ。
『じゃあ、どう言う理由で黙っていたの』
遠慮のない聖が構わず追及し、ミハイルは不機嫌モードを保ちながら俺たちに視線を戻してキツイ口調で言った。
「何度も言わせるな。俺の願いはラピュセルと生きること。お前たちもさっき話していただろう。いたろう、同じ魂は同一世界に存在できない。存在したいのならばお互いに“認識”をしない様にするしかないと」
「なるほどな、お前が戦いに積極的に参加しなかったのはなるべくライアーと鉢合わせない様にするためということか。存在を認識されてしまうとお前は消滅してしまう可能性もある。そうなれば未来永劫ラピュセル殿とは会えなくなってしまうものな」
「現在、私たちが戦うべき相手は実質ネトワイエ教団ですものね、ミハイルさんからしたら大きなリスクですものね」
シュティレが溜息交じりに納得し、シルマも複雑な表情を浮かべて頷いた。俺もその事情を聞いて、ミハイルが常に戦いに対し消極的な理由に納得した。
「つまり、ミハイルは存在としてはフィニィの一部であるツバキと変わらないと言うことか……」
『ツバキちゃんはフィニィの理性だよね、じゃあミハイルはライアーの何なの?』
「記憶だ。ライアーが世界の滅亡を決意するまでの記憶の欠片。それが俺だ」
俺の呟きと聖の問いかけを受けたミハイルはきっぱりと言い切った。うーん、ごめんちょっと何言ってるか分からないかも。
ツバキは理性、ミハイルは記憶、そんな何とも抽象的なものが別個体として存在できるなんて、平凡な世界で生きていた俺には全く納得も理解もできないし、寧ろツッコミたいが、とりあえず今は我慢して話を進めよう。
「ライアーって感情どころか記憶も抽出できるのかよ。凄い技術だな。あれ、でも」
ミハイルの言葉に驚きながらも、1つの疑問が浮上する。突然言葉を止めた俺に苛立ちを覚えたのか、ミハイルが眉間に皺を寄せてイライラとしながら俺を急かす。
「なんだ。言いたいことがあるならさっさと言え。時間がないと言ったのはそっちだろ」
「そんな言い方をしなくてもいいだろ。俺は記憶を失ったら“滅亡させる理由”も頭の中から消えるんじゃないかって疑問に思っただけだ」
理不尽なぐらいにイライラとした物言いに俺もイライラとしてきて語調を強めて返すと、ミハイルは唐突にふっと怒りを吹き飛ばし、数秒前とは大違いの落ち着いた様子でゆっくりと言った。
「……もし、この世界に大事だと思うものがあるのなら、世界を消滅させることなんて不可能だろう?ライアーは“ためらい”を持たない様にするために俺を斬り捨てたんだ」
「ためらい……世界の消滅を望む奴がそんな感情持つのか」
『ミハイルの言うことが真実なら、記憶を切り離さなければならないぐらい彼が“この世界が好きだ”と思う瞬間もあったってことだろうね。全くためらいがなかったとは言えないかも』
ミハイルの言葉とライアーの感情を疑う俺に聖がうーんと唸り、悩みながらも考えをまとめながら推測を述べる。
「世界の消滅を望むに差し当たり、ライアーが“世界で生きた証である記憶”は一番不必要で最も邪魔なものだったんだろう」
聖の推測に続く形でミハイルが自虐的に言った。こうして見てみると、ツバキもミハイルも自分が本体から切り離された存在だと言うことに劣等感を持っている様に思う。
それもそうだよな。だって元は同じ存在だったのに“いらない”とか“邪魔”と言う感情だけで簡単に切り捨てられたんだ。いい気分な訳ないよな……ツバキもミハイルも性格が厳しめだけど性格も歪むわ……それでヒトに当たるのはよくないけど。
それに、本体から分かたれたサブ的存在だからいつかは消えゆく運命なんだろうし、本人たちに取ったら複雑な人生だ。
「そう言えば、ツバキは本体であるフィニィと比べて力が弱いって聞いたけど、お前もそうなのか。前に聖がアナライズした時にはレベルは100だった記憶があるが」
聖がアナライズした情報と、アストライオスさんの視た未来でミハイルが俺たちに力を貸すことによって戦闘の難易度が変化すると言う発言から、俺みたいに役立たずレベルで弱いわけではないだろうが……。
ミハイルの戦闘能力はこの後に控える戦いはこれからの戦闘を大きく作用する。だからこそ、彼の実力は知っておきたいのだ。
そんな思いを抱える俺の問いかけにミハイルは拘束された状態でソファーに座るツバキを見やってから、いつも通りぶっきらぼうに答えた。
「そこのぬいぐるみの場合は、元々残っていた理性が僅かだったから力も弱いんだ。俺の場合はライアーが生きた分の記憶の集合体だからな。抜き出されたモノの質量が違う」
「抽出されたモノの質量が力に直結していると言うことですね。なら、魂を分けたことによって本体の力が下がると言うこともあり得るのですか」
集合体だの質量だのと理系チックな言葉が飛び交い、直ぐには理解できなかった俺とはことなり、即座にミハイルの言葉を理解したシルマが鋭い質問を投げかける。
正直、俺はまだミハイルの言葉を半分も理解していないが、魂が別れれば本体の力も落ちる可能性は期待したいところ。今思えばライアーもミハイルと同じようにあまり積極的に戦おうとていないし、もしかして本当に可能性はあるかもしれない。
そんなことを期待してミハイルの返事を待ったのだが、彼はゆっくりと首を左右に振り、あっさりとその可能性を否定した。
「いや、残念ながらそれはないな。抽出されるのは魔術ではなくあくまで魂の一部だ。それに特にライアーは魔族なだけあって元々の魔力量が半端ない。仮に魂を半分に分けて能力が低下するにしても、微分子レベルの影響しか出ないだろう」
「び、微分子……」
つまり、万が一にも“弱い”と言う可能性はないと。そう言えば一度ライアーと戦った時は、多少力を押さえていたと言えど、レベル500のシルマと結構余裕で戦ってたもんなぁ。
あの時も強いやつと戦うのが好きって言ってたし、そんなイカレ思考の持ち主が弱いわけがなかった。いや、それ以前に未来視で辛勝って言われている時点で弱いわけないじゃんね。無意味な期待をしちまったぜ。
「はあ~」
俺は勝手に期待をして、勝手に裏切られて、勝手に落ち込んで大きな溜息をついているとミハイルは淡々と言葉を続けた。
「寧ろあいつから分かたれて捨てられた俺の方が弱かったよ。戦えないほどじゃないけどな。だが、体を持たない魂だけの存在だったせいか苦労した」
ああ、そう言えばレベルも自分で上げたみたいなこと言ってたな。ラピュセルさんを捕えた族の盗品でレベル上げたとか言っていた気がするし、実力をつけたのは彼女と出会って以降、と言うことになるのか。
『へぇー、最初は体がなかったんだ。クロケルを襲った時のあの影みたいな姿はキープできないの?』
「レベルを上げる前は形を維持するのが難しくてな。体を維持しようとすると戦闘能力が落ちるし、戦闘能力に集中すると体の維持が難しくなる。だkら、適当なモノに憑いて長い間やり過ごしていたんだ」
聖の興味深そうにミハイルに尋ねると渋い表情と疲れたような口調での返答があった。どうやら当時は相当苦労したらしい。
俺も現状レベル1で苦労しているから気持ちはわかるぞ、ミハイル。限られた力で自分の身を守るって結構しんどいもんな。
「ああ、だから鏡の精霊になったのね!」
ミハイルに親近感を覚えうんうんと頷いていると、話を聞いていたラピュセルさんが納得したわと嬉しそうに手を叩いたが、聖はすぐさまそれを遮って疑問を口にした。
『いや、それはおかしいよね。話から察するに、君は魂だけの存在だと不都合だから適当な鏡に憑いたってことでしょ。精霊って言うのは嘘だったの?ラピュセルさんと契約したんじゃなかったっけ』
「確かに、俺が鏡に憑いた経緯は複雑だから当時、ラピュセルには自分は精霊だと言って誤魔化した。それについては嘘をついたと認めよう。これまで騙し続けてごめん、ラピュセル」
聖の指摘を受け、ミハイルは素直に自分の嘘を認め、ラピュセルに謝罪した。頭を下げられたラピュセルさんは優しく微笑んで言った。
「いいえ、騙されていただなんて思っていないわ。あなたが鏡に憑いていたことは事実だもの。嘘なんてついてないじゃない」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ラピュセルさんの心の底からの優しい言葉を受けてミハイルは寂しそうに、それでいて嬉しそうに微笑みを返した。
『はい。甘い雰囲気を作らない。今はそれどころじゃないでしょ、戦う前から胃もたれする様なことはやめてね』
また2人の世界が作り上げられそうになったのを聖が棒読みの早口でぶち壊す。タブレットなので表情は見えないが、多分画面の向こうでは張りついた笑みを浮かべているに違いない。
「んんっ。事情はどうあれ、ラピュセルを騙す形になったことは確かだ。だが、俺は魔族だからな。眷属の契約は結べないことはない。だから、俺とラピュセルが契約関係にあることは事実だぞ」
聖の穏やかで圧のある静止の言葉にラピュセルに意識を持って行かれていたミハイルが我に返り、咳払いをしてそう続けた。
「えっ、そうなのか」
てっきり契約うんぬんも“自分が精霊である”と言うことに合わせた適当な嘘かと思ったが、そうではないらしい。
「何度も言わせるな。これについては嘘ではない。俺はラピュセルだけの眷属で、ラピュセルには逆らえない。いや、逆らうつもりもない」
なんと言う強い忠誠心……いや、愛情と呼ぶべきか。と言うか、ミハイルって一応はライアーの一部なんだよな。魂と言う点だけで言えば同一人物なわけで……それを考えるとこんなにラピュセルに盲目的な愛情を向けていることに違和感がある。
ライアーはラピュセルさんの父親をネトワイエ教団に勧誘した過去があると聞いたが、その時は顔を見た程度だったみたいだし、その時にライアーが惚れたと言う可能性は極めて低い。
単純にライアーのタイプがラピュセルさんってことか?そんな単純なモノでもない気がするが……うむむ、考えれば考えるほどよくわからなくなってきたぞ。
『なるほどー、興味深いね。ひょっとするとミハイルはラピュセルさんと契約したことによって魂として魂として独立したのかもしれない』
「いや、待って。なるほどーじゃねぇよ。お前が納得した内容を俺たちにも分かりやすく教えてくれ、頼むから」
「そうですね、私もちょっと混乱して参りました……噛み砕いた説明を頂けると幸いです」
俺は1人でどんどん理解して納得して行く聖を止めて説明を求めた。シルマも苦笑いを浮かべて俺と同じく説明を求める。
他の仲間たちも先ほどの聖の言葉は理解が追いつかなかった様で、聖は説明を求める視線をその身に浴びることになった。
『うわ、こんなに見られちゃうと緊張しちゃう!』
「そんなのどうでもいいから、早く説明しろ」
わざと照れた様な素振りを見せる聖に苛立ちながら促せば「はぁい」と全く反省をしていない間の抜けた返答があり、ようやく本題に入ろうとする。
『じゃあ、ちゃんと説明するね~。ああ、でも一応推測の域だから。あんまり間に受けないでね』
そんな前置きを1つして聖は再度口を開き、今度は真面目な口調で話し始めた。何でそんなに直ぐにシリアススイッチを入れられるんだ。お前のテンションの差にこっちは風邪聞きそうだぞ。
『魔族と契約する者は己の生命力を共有することが大前提になるって話は前に聞いたよね。さらに付け加えれば魔族も契約した時点で己の力の半分を契約者に与えることになる。これはどんな場合でも例外はない』
「ふむ、契約者は生命力を魔族に与え、魔族は契約者に魔力を与えると言うことか。わかりやすい等価交換だな」
聖の回りくどい質問にまたハテナマークが浮かびそうになったが、シュティレが分かりやすくまとめてくれたので何とか理解できた。
『その通り!わかりやすい解説ありがとう、シュティレさん。で、ここからは僕の推測。ミハイルはラピュセルさんと契約して生命力を分けてもらうことで、魂が混ざり物になって、魂として独立したんじゃないかと思って』
「混ざり物って、どういうことだ」
聖の言葉を理解したと思った矢先、また意味が分からなくなって結局を質問するハメになる。
『通常であれば本体から切り離された一部は、ツバキちゃんとフィニィみたいに記憶も感情も共有するものなんだけど、ミハイルは本体から切り離された状態で契約を成立させ、ラピュセルさんの生命力を貰う形になった。ここで“混ざり”が生じた』
俺たちに理解してもらうためか、ゆっくりと話してくれている。その気遣いには感謝だが、ごめん。話す速度を落としても俺にはさっぱりわからない。理解しようと考えながら頑張って聞いてるけど、マジで分からない。
「えーっと、存在として不安定なミハイルさんの魂に、契約者であるラピュセルさんの生命力が偶然合わさったと言うこと言う理解でよろしいでしょうか」
『そうそう。ミハイルとラピュセルさんの魂が混ざったの』
困惑しながらもちょっとずつ理解してる様子のシルマに驚愕する。と言うか、シルマ以外の仲間も首を縦に振っているんだが……まさか、さっきの話だけでみんな状況を飲み込み始めていると言うのか……嘘だろ!?
話が複雑すぎるのか、それとも俺の理解力が低いのか、そもそもどうして俺以外の奴はあれっぽっちの説明で何で理解ができるのかが理解できないわ。ああ、俺と同じく話について行けなくてキョトンとするシュバルツが愛おしい。
『2つの異なる魂が混ざったことによって、ミハイルは本体がいるにも係わらず、完全に独立した存在になった可能性がある。つまり、今のミハイルはライアーの素質は持ちながらも“ミハイル”としての存在意義を手に入れているのかも』
「ほぇー、じゃあミハイルくんはミハイルくんってことなんだ。じゃあ、価値観とか考え方も本体と異なっているってこと?」
目を丸くして驚くエクラに聖は淀みなく肯定の言葉を返す。
『うん。ミハイルがラピュセルさんに行為を抱いているのも“ミハイル”だからと言っても過言ではないよ。ツバキちゃんの場合は本体と繋がっているから同一存在だけど、ミハイルとライアーはもう完全に別個体なのかも』
そこまで言われて俺はようやく色々と理解した。ミハイルは“ミハイルとして”ラピュセルさんが好きなんだな。要はライアーの記憶の集合体であることは変わりないが、感情や考えはライアーとは全く関係ない別人と言うことか。
「んん?待てよ、ミハイルとライアーが異なる存在になったのならまた疑問が生じるんだが」
『お?質問とは積極的だねぇ、関心関心。何、言ってごらんよ。わかる範囲で答えてあげる』
俺の表情からようやっと戸惑いと疑問が消え、この話に前向きになり始めたことが嬉しいのか、聖は弾むような声でそう返して来た。微妙に上から来られたので若干イラッとしたが、とりあえず怒りの感情は一旦置いておこう、非常に不本意だがなっ!
「世界の理として同一世界に同一の魂は存在できないんだよな。じゃあミハイルが魂として独立しているこの状況はどうなるんだ。別個体と認識される可能性があるとするなら、本体であるライアーに認識されても消える心配はないってことか?」
「おー、そう言えばそうですね!さすがご主人様、鋭いところに気がつきますね」
俺の肩の上で尊敬の眼差しを向けながらパチパチと拍手を送りながら、無駄に俺アゲをしてくるアムールに若干の照れと、別にそんなに鋭くない質問だぞと内心でツッコミを入れながら俺は聖からの返事を待った。
「うーん。この状況はかなりのレアケースって言うか、多分この世界ができて以来の始めてのケースなんじゃないかな……だから申し訳ないけど、僕からは明言はできない』
聖から帰って来たのは非常にあやふやな返答だった。この世界の世界の長である聖でさえ戸惑うこの状況は、まさに異例で奇跡なのかもしれない。しかし、それ故に俺の疑問は解消されず、ただモヤモヤが増えただけだった。
『ただ大本は一緒だからねぇ。異例的に魂が独立したからと言っても“世界”がライアーとミハイルを同一の存在と認識しているのなら、理のとおりミハイルは本体に認識されると消えるだろうね』
最後に複雑そうな口調でそう付け加えた聖に続き、ミハイルが静かに頷いて自虐を交えながら、少しだけ哀愁を漂わせて言った。
「ああ、俺もその可能性を恐れてあいつに近づけないんだ。本来なら“いらない記憶”の自分なんて消えてやっても構わないが、今の俺はラピュセルと共にありたいからな」
「ミハイル……」
ラピュセルさんが切なそうにミハイルを見つめ、この場が何とも言えない、非常に複雑な雰囲気に包まれる。
「ええ……ライアーとミハイルを鉢合わせることがヤバいなら、消滅フラグが立っているミハイルが戦いに参加するのはこっちにリスクがありすぎるのだろ……」
ミハイルが参戦することで戦いが有利に運ぶとしても、ミハイルに消滅する可能性があるとするのであれば、おいそれと力を貸せとは言えない。
先ほどまでミハイルに力を貸してもらうことを望んでいた仲間たちも、流石にミハイルの存在を犠牲にしてまでライアーに挑みたくないと思っているのか、複雑な表情を浮かべて口を噤んでいた。
と言うかアストライオスさんはミハエルが消滅する可能性を分かった上で彼に力を貸してもらえばいいなどと発言したのだろうか。
そう言えばアストライオスさんは辛勝すると言っていたが犠牲が出ないとは一言も言っていない。ミハイルが消滅すること込みで発言して、なおかつそれを黙っていた可能性がある。と言うか、絶対黙っているつもりだっただろ。
そんな疑念を抱きながら、平然としてお茶とお菓子を楽しみ、時に書物を読んでいるアストライオスさんを見つめていると、場に流れる重い空気にそぐわない明るい元気な声が部屋に響き渡った。
「興味深そうな話をしてんじゃねぇか。俺も混ぜろよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
聖「次回予告!大事な話し合い中に突然の割り込みが。まだ話もまとまらない中、さらに人数を増やしてライアー対策の会議は続いて行く。果たして、明確な解決法を見つけることができるのだろうか」
クロケル「ああああっ!まだ会議が続くのかよ!何の対策もできていないし、よく考えたらミハイルも素性は明かしたけど戦闘への参加にはまだ了承してないし、どうするんだこの状況っ」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1第112『ミハイルの決断、戦いへの決意』やだなぁ、対策のための話し合いでしょ。無駄な時間ではないと思うよ、多分」
クロケル「漫画とかアニメでよく試合中や戦闘中で時間が限られている状況で回想や話し合いが始まったりして、何週またぐねん。普通こんなに時間かけたら絶対敵にやられとるやろって毎回思っていたが、まさに今がその状況だな……」
聖「ご都合主義って奴だね!でも今回の場合、単純にライアーが手間取っているだけなんじゃないの。ほら、僕たちがいる宮殿にはセキュリティ込みの結界が張ってあるわけだし」
クロケル「ホントかぁ?俺はどこかの誰かのご都合主義としか思えんぞ」
聖「どこかの誰かって誰」
クロケル「しらん。しらんが、何となくそう思うんだ」




