第108話 運命を変えるキーパーソン!?ミハイルを説得せよ
この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。
ギャグ路線のつもりで書いていた本作品、シリアス色が強くなってきた様な……?もうちょっとわちゃわちゃした感じの作風にしたかったんですが、自分の思い描いた通りの作品を形にするって中々難しいですね。
ですが、せっかくなのでこの感じで突き進んで行きます。頑張るぞ。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「ミハイルがいると戦いが楽になるってどう言うことですか」
アストライオスさんから唐突に提示された予想外の未来。これからの戦いの運命を左右する中心にいるのがまさか一番戦いに前向きでないミハイルだなんて、信じられない。
彼は自分に関係のない物事に関しては戦いであろうが会話であろうが基本無関心。しかも今回の俺たちが立ち向かうべきネトワイエ教団はミハイルとはまるで関係がないと思うのだが、何がどうなってミハイルがキーパーソン的な存在になったんだ。
「どうもこうもないぞ。お前たちが望むより良い勝利にはこの城フクロウの存在が不可欠なのじゃ」
混乱する俺にアストライオスさんは自分の視る未来に迷いはないと言う態度で、しっかりはっきりと言い切った。
「それは、ミハイルさんがそれだけ協力なお力をお持ちだということですか」
シルマも突然ミハイルが話題になったことに戸惑い、困惑の感情を露わにしてアストライオスさんに質問を投げかけた。
「それもある。だが、こやつが戦いに参加して楽になる理由は他にある」
「他に?」
質問を肯定した後に含みのある言い方をされたので、更に訳が分からなくなってミハイルの事情を知りたいと踏み込もうとしたその時、怖いぐらいに不機嫌で刺々しいく、ドスの効いた声がその場に響いた。
「おい。それ以上言うと戦いが始まる前にここで暴れるぞ」
「うぉい!怖いこと言うなよ」
とんでもない暴言にアストライオスさんに向いていた意識が一気にミハイルに向く。すかさずツッコんだ俺に対してミハイルは不機嫌さを大放出させ、くちばしをカチカチと鳴らして攻撃的に言った。
「怒って当然だっ。なんで他人でも仲間でのないやつに俺の素性を暴露されなきゃならないんだ。俺は、素性を話すのも戦いに参加するのも断固拒否する」
そう強く言い放ってプイッと俺たちから目を逸らし、機嫌を損ねた乱暴に飛び立って俺たちとは少し離れた位置にある窓の縁に止まって身を休めた。
『うーん、あの様子じゃ事情を聞くのも協力を仰ぐのは難しそうだね』
聖が残念そうな口調でミハイルを眺める。その視線の先で彼は気を静めるためか顔をしかめて毛繕いを始めていた。
「あいつが常に不機嫌で辛辣で嫌味なのにはもう慣れたけど、ここまでブチギレしたことはなかったもんな。驚いたよ」
「素性を暴かれることを気にしていた様ですね。確かにミハイルはレベルと属性、レアリティ以外はステータスにジャミングしているみたいですし……ご主人様以上にヤバい秘密を持っていたりする可能性もありますよ」
いつも以上に態度が最悪なミハイルを気にずる俺の肩の上でアムールがむぎゅっと眉間に皺を寄せながら毛繕いを続けるフクロウを凝視していた。
「俺以上にヤバい秘密って何?」
「秘密ですか……ラピュセルさんにも関係していることなのでしょうか」
ミハイルの秘密に気を取られていると隣で立っていたシルマが首を傾げながらミハイルがブチギレた理由と抱える秘密を考察していた。
「なるほど、ラピュセルさんか」
シルマの言葉を聞いて俺の脳裏に思い浮かんだのはのんびりと微笑む女性の姿。自己中の塊みたいな存在のミハイルが唯一心を許し、優先する相手で何度も言うが彼の想い人だ。
『そっか。本人がダメなら弱みに付け込めばいいんだよ』
「弱みに付け込むってお前……もっと言い方があるだろう」
聖はミハイルに聞こえない様に小さな声でその手があったかと声を弾ませたが、言い回しがあまりにも酷かったので頭を抱えながら嗜めると、目を丸くして聖は何もおかしいことは言っていないよときょとんとして返してきた。
『でも、君も少しでも楽に勝ちたいでしょう?それにはミハイルの協力が不可欠だし、本人に話す気も協力する気もないんだもん。事情を知ってそうなヒトに協力を仰いだ方が賢いんじゃない?』
「うん、そうかもしれないけど弱みとか言っちゃうとなんか俺たちが悪者見ないな雰囲気出ちゃうからやめた方がいいんじゃないかな……」
『そう、じゃあ言い方を変えよう。ここはラピュセルさんに頼ってみない?彼女からなら何を話されようとミハイルも文句を言えないだろうし、スムーズに話を聞けるよ』
あっさり言い換えた。ってか最初からそう言えよ。何で1回印象の悪い表現を口にしたんだ。
この件はミハイルに聞こえるとややこしいことになるので、俺たちはなるべく身を寄せ合いながら、小声でコソコソと会話を続ける。
「アキラさんの言う通りですね。もしラピュセルさんにお話を聞けるのであれば聞きましょう。勝手に話を聞くなんてミハイルさんには忍びないですが」
「確かにあれだけ怒るほどの事情を第三者から聞くと言う行為は頂けないが、事態は急をようするのだ。仕方がない」
ミハイルを気にして申し訳なさそうにするシルマを気遣う様にシュティレが声をかける。それを受けたシルマは少し表情を曇らせ「そうですよね」しょんぼりと頷いた。
シルマの気持ちはわからなくもない。知られたくないことがある奴の秘密をありとあらゆる手段を使って聞き出そうとする俺たちの行動は大分鬼畜だと思う。だがこれはシュティレの言う通り“仕方ない”で割り切るしかない。
どう転んでも辛勝なのであれば、少しでも戦いを有利に運ぶため、ミハイルの協力は不可欠。こういう言い方は良くないかもしれないが、手段など選んでいられない。
「ラピュセル殿、と言うと先だってクロケル殿が言っていたミハイルの想い人か。そう言えばミハイルがクロケル殿たちに同行しているのもその方に頼まれたからだったな」
「ああ、そうだ。ミハイルたちとはグラキエス王国で出会って、王国を旅立つ際にラピュセルさんのお願いでここまで同行してくれているんだ」
小首を傾げるシュティレを見て、俺はミハイルの事情を知らない仲間たちもいたことに気がつき、改めて話しておくべきだと判断した。
ミハイルとラピュセルさんの出会いから始まり、彼が俺たちと行動を共にしているのは思いを寄せるラピュセルさんから俺たちに協力する様にお願いされたからで、もの凄く嫌々ついて来ていると言うこと、本当は協力する気がないことも全て話した。
「へぇ~、好きな子にお願いされてついて来たけど、やっぱり協力はしたくないから何もしないってある意味ちゃっかりしてるよね。ウケる」
俺の話を聞いたエクラがこれまでの経緯に興味深く頷きながらも、ケラケラと笑ったが、こちとらウケたことは1度たりともない。何でもかんでの“ウケる”と表現するのは若者の良くないところだぞ!
「……今のところ助けてくれたのは俺がおとぎの国で異世界転移した俺たちを助けるために毛玉回収をしてくれた時ぐらいか」
想像以上にウケているエクラに若干どこがおもしろいねんと不満を抱きながら、気を取り直して言うと、エクラの笑いがピタリと止まる。
「え、毛玉回収って何」
エクラが興味津々で聞いてきた。話題を出したのは俺だし、ここまできて話を流すのも変だと思ったので、先だっておとぎの国で異世界転移に巻き込まれた際のことをかいつまんで話すことにした。
「……で、元の世界に戻るために見つける必要があったウサギを見つけるため、元の世界に残っていた聖が開発した“生物探索アプリ”を使用するために必要だったウサギの毛玉を回収するため、ミハイルとアンフィニが屋敷中を駆けずり回ってくれたんだ」
「へぇ、ミハイルくんってドライなところかがあるから、クロケルくんたちを異世界に放置するぐらい平気な奴だと思ったけど。ちょっと見直しちゃった。アンフィニくんも偉いねぇ」
エクラが目をパリクリさせながらミハイルとアンフィニを交互に見た。それはミハイルにも聞こえるぐらいの声の大きさだったが、彼がこちらに対して反応を見せることは一切なかった。完全に無視を決め込んでいる様だ。
「俺はフィニィを取り戻すための協力者を失いたくなかっただけだ。フィニィのことがなかったらスルーしている」
ミハイルと同時にエクラから褒められた(?)アンフィニは素っ気ない態度で好きで俺たちを助けたわけではないと訂正した。なんでそこ訂正するかな。“助けてやったんだ”ぐらいで止めて置けよ。いらん否定をするな。友達作るの下手か。
「あはは、アンフィニくん照れ屋だなぁ」
そっけないアンフィニの反応にエクラが笑って返す。照れ屋、だと!?あの態度のどこが照れ屋だと言うのだ。口調も態度もはっきりしていたし、割と本心だった気がするぞ。デレがあったとしても1パーセントぐらいだろ。
ミハイルとアンフィニが助けてくれたのは少しぐらい俺たちに仲間意識があったからだと思っていたが、自分の目的のためだった可能性があると知って脱力する。もしかして俺が異世界から生還できたのは奇跡だったのか?
「俺が覚えている限り、ミハイルが俺たちを明確に助けてくれたのはその時だけだ。もちろん、そのこのことには感謝しているが、それ以降は基本的に我介せずの態度を貫き通しているんだ。助言すらしてもらえたこともない」
現状を口に出してみると、自分のパーティ内の人間関係を見直すべきだと改めて思ったが、とりあえず今は話を進めることに専念する。
「ふーん、じゃあおとぎの国でミハイルくんが協力してくれたのはかなりレアケースだったってことなんだ」
「そうなるな。正直、何でおとぎの国で協力してくれたのかもわからん」
人差し指を口元にあてて小首を傾げるエクラの言葉に俺は肯定で返す。彼女は「ふーん」と鼻を鳴らしてから、相当ミハイルに興味が湧いたのか更に質問を重ねて来る。
「ミハイルくんは戦えないわけじゃないんだよね?」
「ああ、多分。戦った姿は視たことはないが、鏡に憑く魔族で本来の姿はフクロウじゃないみたいなことを言っていたし、理由があって実力を隠しているのかもしれないな」
俺の脳裏に初めて会った際にミハイルが鋭利で長い爪を携えた長くてオドロオドロしい真っ黒な手で俺の足を掴もうとしていた時の光景がフラッシュバックする。
あの時はシャルム国王が助けてくれたからよかったものの、あのまま足を掴んでいたらこいつは俺に何をするつもりだったのだろうと考えるとちょっと震える。
俺を狙った黒い手からは確かなさ殺気と言い得ぬ不気味さを感じた。下手をしたら命を奪われていたかもしれない。それに出会た当初、聖がミハイルをアナライズした際に告げられたレアリティは5で、レベルも100だったことを思いだす。
彼は決して弱いわけではないのだ。わかっているステータスだけでも戦うには十分な力を秘めていそうな気がするが、何故一度も戦闘に参加しようとしないのだろうか。
そんなことを考えながらぼんやりとミハイルを見つめていると向こうも視線を感じてバッチリ目が合い、思い切り睨まれたので思わず目を逸らす。
『こうしてグズグズしていても仕方がない。今からシャルムに回線を繋いでラピュセルさんに繋いでもらおう』
全く話が進まないと思ったのか、聖は俺とエクラの会話に無理矢理割り込んできた後にグラキエス王国に向けて素早く電波を飛ばす。タブレットからはコール音が聞こえた。
「わぁ、いよいよご対面かぁ。あのミハイルくんの弱みになりうるヒトってめっちゃ気になる!会うのが楽しみだよ」
いざラピュセルさんに会うことになったことにエクラがテンションを上げてそわそわワクワクとし始める。
ああー、そう言えば前に(※88話参照)にアンフィニに対するミハイルの態度が目に余ったから注意するために引き合いに出したことがあったなぁ。一瞬しか話題に出していなかったのに印象に残るもんなんだな。
まあ、俺がラピュセルさんにチクるぞって脅した時、ミハイルがめっちゃ動揺して素直に謝ったことが印象的だったんだろうナァ。
「あんまりワクワクしてやるなよ。あいつ、ラピュセルさんへの想いを本当に大切にしているんだから」
恋愛の気配を感じてか、変な方向にテンションを上げ始めたエクラを軽くたしなめる。興味があるのは分かるがこういう感情はデリケートなことなんだから楽しむのはちょっと違う気がするんだよな。
「ごめんごめん。だって、本当に楽しみなんだもん」
エクラは謝っているが、多分反省していない。だって全然ワクワクとする感情を止められていない。顔はにやけているし、よっぽど楽しみなのか体がリズムを取って揺れている。
「だから楽しむなっての」
なんと言うかいつの時代も恋バナというヤツは会話に花を咲かせるよなぁ。主に女子が好んでいる傾向にあるが、意外に男子もするんだよな。俺は二次元に興味を向けるのに忙しかったからガチで興味湧かなかったけど。
男子の場合、女子の様に常日頃アンテナを向けているわけではないが、修学旅行とか体育際とか学校行事の時になんかアンテナが出る奴いる。男子の恋愛=エロ思考と連相される場合もあるが、大半の男子はそんなことはない。
そもそも女子を見て心を高揚させたり、夢を見ている時点でエロではなく初心の部類に入ると真面目に思う。
ガチで欲望に忠実でどうしようもない人間は性別に関わらず異性に対してドキドキしない。心が動く前に多分、体が動く様な気がする。いや、異性にドキドキしたことがないから確証はないし、偏見かもしれないが何となくそんな気がする。
『おっ、繋がった』
学生の恋愛への価値観に思いを馳せていたが聖の言葉で現実に引き戻される。ふと見上げてみると空中にはいつもの電子スクリーンが映し出されていた。
画面が一瞬だけ乱れた後、画面に相変わらず優雅な品やかさの中にどこか氷の様な冷たい雰囲気を纏うシャルム国王が映し出される。氷艶の薔薇と称される国王は、俺たちの姿を確認すると優しく笑って言った。
「ごきげんよう、お久しぶりね。元気にしていたかしら」
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聖「次回予告!シャルムと久々の再会を果たしたクロケルたち、作戦通りラピュセルさんからミハイルが抱える事情を聞き出せることができるのだろうか。そして、ミハイルに協力してもらえることはできるののか」
クロケル「そもそもラピュセルさんがミハイルの秘密とやらを知っているかどうかも、まだ分からない状態だからな。せっかく連絡が繋がったんだ。有益な情報が得られたらいいんだが……」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第109『第109話 シャルム国王との再会、エクラの事情……ってなんで話がそれてんの!?』早くミハイルに協力を了承してもらわないとね。ライアーもホントに間近まで来てるし」
クロケル「そうなんだよ。なんかぐだぐだっとしてきたが、急がないとヤベェんだよ。このままじゃ何の準備もできないし、下手すりゃ迎え打つことさえできなくなってまた未来が変わりそうで怖い……」
聖「ああー、それはあるねぇ。ミハイルの説得に気を取られて本来の目的がおざなりになるパターン。そう言う未来があってもアストライオスは黙っていそうだなぁ。あいつ、そう言う奴だし」
クロケル「何でそう言う危険度が高い案件を黙るんだよ。普通言うだろ、なあ、教えてくれるよな。未来視とか言うチート能力持ってるんだから」
聖「未来がわかっているからこそ刺激が欲しいんじゃない?」
クロケル「命の危機が関わることは刺激とは言わないんだよっ!!」




