第100話 捕虜の心身のケアはしっかりと
この度もお読み頂いて誠にありがとうございます。
ついに100話!!なのに時間がなくて内容が雑に(泣)100話記念に特別ストーリーとか書きたかったのに時間が!時間がないっ!!でも、記念ストーリーは書きたいので頑張って時間を確保します!
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
特に邪魔も入ることなく。何事もなくアストライオスさんの宮殿に戻ることができた俺たちは、フィニィを宮殿内にとある場所のとある部屋へと運んだ。
何故“とある”と表現したかと言うと、実のところ俺にも所在が良く分からないからである。わかっているのはこの部屋が捕虜を専用の部屋ということのみ。
この部屋に辿り着くまでの道のりが凄かった。道が入り組んでいると言うか、空間が曲がりくねっていると言うか、とにかく迷路みたいになっていたのだ。ずっと歩き続けていると段々と目が眩んできた。正直、ちょっと酔ったかもしれない。気持ち悪い。
アストライオスさん曰く、捕虜が逃げ出したり、敵側の助けの手が届かない様に魔術で意図的に空間を曲げているらしい。ワザと迷う様な造りになっているのた。
正解の道は術者であるアストライオスさんにしかわからない。なので彼の後をついて行くがまま辿り着いた。なのでよくわかっていない俺はこの場所を“とある”としか表現ができないのだ。
「捕虜専用の部屋だと聞いていたが、普通の部屋と変わらないのだな」
肩にフィニィを俵担ぎにしたままシュティレが辺りを見回し言った。確かに、それは俺も思った。シルマもコクコクと頷いているので同じことを思っているのだろう。
「ああ、そうだな。どう見ても普通の部屋にしま見えない」
「はい。掃除も行き届いている様ですし、清潔感もあります」
捕虜専用と言うくらいだから、石の壁とか、鉄格子がある牢屋っぽい造りかと思ったが、至ってシンプルで普通の小さなアパートの一室の様な造りだった。
ドアは重い鉄製だったが、ベッドはきれいで見た感じではふかふかそうだ。それにトイレやお風呂も別にある。流石にキッチンや冷蔵庫はないが、寝泊まりするぐらいなら十分な場所だ。
不便があるとすれば窓がないことぐらいだが、それは多分逃亡を防止するための対策だろう。何にせよ、捕虜を閉じ込めておく部屋だとは思えない。
想像と目の前の現実のギャップに戸惑っている俺たちを見て、エクラがおかしそうに笑って言った。
「あははは、もしかして牢獄みたいな場所だと思った?みんな思考回路ぶっそうスギ~」
「いやぁ。捕虜を手厚く扱うなんて話はあんまり聞かないというかなんと言うか……」
捕虜=ぞんざいな扱いをされると言う考えが潜在意識の中にあるのは確かに物騒かもしれないが、どうも違和感は拭えずに苦笑いする俺たちにエクラは両手を腰に当てて当然のことの様に言った。
「辛気臭い場所に閉じ込めたら捕虜だってもっと心を閉ざしちゃうじゃん。なるべく快適に過ごしてもらって、心を許してもらった方が話も聞き出しやすいでしょ。もちろん、食事も三食しっかりバランスを考えて出してるし」
『最早、捕虜じゃないね。客人をもてなすのとなんら変わりない対応だ』
捕虜への待遇を何故か胸を張って自慢げに語るエクラに聖の驚きを通り越して感心にも近い冷静なツッコミに俺も今回ばかりは頷いた。
「まあ、それも全てエクラのアイディアを採用したんじゃがな。ワシとしては捕虜に掛ける慈悲などなくてもいいとは思うのじゃが、これが意外と効果があってのう。こちらの対応が丁寧ほど捕虜も絆されるのじゃよ。単純なモノじゃのう」
アストライオスさんが顎髭を撫でながら複雑な表情を浮かべて言った。あ、効果あるんだ。うーん、まあ自分の立場になって考えた時に、捕虜なのに必要最低限の物が揃った部屋と食事が三食も出してもらったら例え敵でも確かに心を許すかもしれん。
「でも、対立する相手とは言え、苦しくて辛い思いをする必要がないのは良いことですよね」
「それはどうだろうか。捕まったまま命を敵に預けるほうが恥と思う者もいるだろう。少なくとも、私はそうだな」
この国の捕虜への平和的な対応にシルマが安堵した表情を浮かべ、シュティレが渋い顔で言った。
は~考え方ってヒトそれぞれなんだなあ、と思ったアストライオスさんがにんまりと笑って続けた。
「だが、これはあくまでも基本的な対応じゃ。そこまでしても口を割らぬ輩はそれなりの対応を取らせてもらっているがな。ほほほ」
「そ、それなりの対応……」
それってやっぱり拷問的なあれやそれか……こわっ、やっぱりそう言うこともずるんじゃん。捕虜怖い!俺、絶対敵に捕まりたくない。
「ちょっと!いつまで担いでるの。下ろしてよっ」
わちゃっとなりつつあった空気の中、フィニィの苛立たしげな声が響く。そうだったすっかり話し込んでしまってフィニィの存在をすっかり忘れていた。
ここまで運んでくる間もフィニィは何とか逃げようと必死でもがいていたが、アストライオスさんによる拘束術とシュティレに俵担ぎでがっちり体を掴まれていたので、逃げることは不可能と悟り、途中からはすっかり無言になり大人しくしていた。
しかし、自分の存在を忘れて会話が始まったことに腹を立て、また暴れ出したフィニィにシュティレが落ち着いた口調で言った。
「そんなに暴れずとも今下ろしてやる。大人しくしていろ」
そう言って肩の上で暴れ回るフィニィをそっとベッドの上に座らせる形で下ろした。ちゃんと柔らかい場所に優しく解放するあたり、流石騎士と言える。なんと言う紳士的な行動だろうか。あ、いやシュティレは女性だけど。
「よ~し。ここなら結界も張ってあるし、空間もねじ曲がっておるからそう簡単に邪魔は入らないね!さっそくフィニィちゃんのお話を聞かせてもらおう!」
フィニィがベッドに腰を掛けたタイミングでエクラが今からパーティでも始めるのかと言うテンションで言った。
「私、あなたたちと話すことなんてないし、ネトワイエ協会のことも口を割らないから」
こちらを睨んでくるフィニィを受けたアンフィニは少しだけ寂しそうな表情をした後に自分を抱きしめているシュバルツに声をかけた。
「俺を地面に降ろしてくれ。もう一度、俺から話してみたい……無駄かもしれないが」
「う、うん。気をつけてね」
少しだけ諦めている様な雰囲気のアンフィニをシュバルツは心配そうな表情を浮かべながらもそっと地面に降ろす。
「ああ、すまないな。ありがとう」
アンフィニにしては珍しく、シュバルツに礼を言てから小さなぬいぐるみの体でポテポテと足音を立てフィニィに近づく。
「何?またあなたなの。私、あなたのこと嫌い。だって、いっつもお兄様のフリをして私を惑わそうとするんだもん」
目の前にやって来たアンフィニをフィニィが忌々しそうに睨み、嫌悪感を露わにして吐き捨てる様に言った後、眼中にも収めたくないのか、プイッとアンフィンニから視線を逸らした。
一瞬傷ついた表情を見せたアンフィニだったが、自らを奮い立たせるように頭を振って静かな口調でフィニィに呼びかけた。
「俺が“お兄様”のフリをしていると思ったままで構わない。そのまま俺の話を聞いてくれないか」
「……」
フィニィからの返事はない。だが、アンフィニは構わず話を続けた。
「俺も感情的になって一方的に自分の気持ちをお前に押し付けていた自覚はある。俺の考える幸せが、お前にとっての幸せとは限らないと言うことも、理解はできる」
今まで一貫して復讐をやめろと言い続けていたアンフィニだったが、ここに来てフィニィの気持ちを汲む様な発言に変わったことに驚いた。
フィニィも今までと同じように復讐することを咎められると思っていたのか、予想外の言葉にピクッと肩を反応させて視線をアンフィニに戻した。その表情には疑念が浮かんでいる。
「自分の気持ちを理解してもらうことばかり考えて、お前の気持ちを考えていなかった。でもそれはお前も同じだ。お前は俺の気持ちを考えたことがあるか」
眉間に皺を寄せてアンフィニを真っすぐに見据えるフィニィの表情が更に険しくなる。やはりアンフィニの言葉は今の彼女にはひどく不快に聞こえるらしい。
無言で睨み続け、文句を言おうと口を開いたフィニィよりも先にアンフィニが更に懸命に言葉を投げかけた。
「自分の妹が自分を犠牲にしてまで復讐を果たしたとして、それで俺が……兄が悲しまないとは思わないのか」
兄が悲しむ、その言葉に一瞬フィニィが息を飲むのがわかった。どんなに復讐に燃えて心が壊れようと、彼女の中で兄であるアンフィニの存在は相当大きなものらしい。
何か思うことでもあるのか、確かな動揺を見せたフィニィは口を開くことなく、今度は気まずそうにアンフィニから視線を逸らした後、暫く無言だったが突如険しい表情に戻り、怒りを抑えた様な震えた声で言った。
「あなたはお兄様じゃないでしょ。偉そうに言わないで。お兄様はもうこの世にはいないの。あの日、研究施設で人工魔術師の実験中に事故でなくなったんだから。私、目の前でみたもん」
その時の光景を思い出したのか、フィニィの瞳が涙で揺れる。あまりにも悲痛な悲しみが伝わって来て、見ているこちらまで息苦しくなる。
俺だけじゃない。聖にシルマ、シュティレやエクラはもちろん、敵に対しては冷酷な底面を持つアストライオスさんやミハイルも切なげにフィニィを見つめていた。
フィニィの感情が限界まで昂り、彼女の頬を涙がを伝う。拘束されているため止めどなく溢れるそれを拭うことはできず、フィニィは頭を左右に振りながら悲痛な思いをこちらにぶつける。
「復讐が完了して、私が命を燃やせば何の未練もなくお兄様の元へ行けるの。私は、私はお兄様の元へ行きたいの。それの何が悪いのよっ」
声をからすほどに叫んだ後に、フィニィはわあああっと絶叫してベッドの上で身を屈めて泣き崩れた。
『復讐をしたいって気持ちは本物なんだろうけど……この子、本当はアンフィニと一緒にいたかったんだね……』
重苦しい空気で誰もが口を閉ざす中、聖がポツリと呟いた。誰もがその言葉に同意をしたが、誰も声に出して頷くことはできなかった。その場の全員がただ黙って兄妹の対話を見守り続ける。
泣き崩れるフィニィの前に佇むアンフィニは妹の本音を聞いて何と言葉をかけていいのか迷っているのが分かる
俺たちの視線を受ける中、アンフィニはゆっくり言葉を選んだ後に、極めて優しい口調でフィニィへと言葉を紡いだ。
「俺もお前と一緒にいたかったよ。だからこうして魂だけの存在となって戻って来たんだ……お前は信じてくれないみたいだけど」
「……っ。信じられるわけないじゃない。だって、だってお兄様はいつだって私を応援してくれて、否定なんてしたことなくて、どんなことでも一生懸命に一緒に頑張って来たんだもの。私の考えを否定するお兄様は、お兄様じゃないわっ」
フィニィには涙に濡れた顔をガバッと勢いよく上げて感情的に叫ぶ。痛々しい想いを受けたアンフィニは、ゆっくりと首を横に振った。
「確かに、俺はある程度の意見を受け入れて来たし、協力もした。それはお前のためになるならと思ってやってきたことだ。お前のためにならないことなら、俺は何度だってお前を止めるよ。それが、家族としての務めだからな」
「知らない、知らないッ」
優しく諭すアンフィニの言葉を否定かのする言うにフィニィは両耳を押さえて頭を振り乱す。
これは良くない流れだ。話ができる様な状況ではない。そう思った俺は対話の邪魔をするのは申し訳ないと思いつつも、悪い流れを断ち切るべくある提案することにした。
「アンフィニ。ここは一旦話を切り上げよう。このまま話を続けるにしても、お前の想いを伝えるにしても、フィニィの心を守ることも大切だと俺は思う」
元々精神面がモロいフィニィは感情の起伏が激しく、キャパシティオーバーになることが多い。例え対話が重要な状況だとは言え、心に負担をかけるのは非常に良くない。事態が悪化する可能性もあるし、精神的負担でフィニィの精神が崩壊する可能性もある。
「それはわかっているが……せっかくフィニィが目の前にいるのに……わっ」
頭を押さえて蹲るフィニィをもどかしそうに見つめていたアンフィニが言葉の途中で驚いた声を上げる。エクラがふいに後ろから抱き上げたのだ。
「はいはーい。もどかしいのわかるけど、クロケルさんの言う通りだよ。今は少し時間を置こう。言ったでしょ、この空間は魔術セキュリティがしっかりしてるから、逃走されたり誰かに連れさられたりする心配はないよ、お兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんだ!俺はお前の兄ではない」
エクラに抱きしめられるのは不快なのか、アンフィニは何とか逃れようと体を捩るがガッチリホールドをキメめられており、逃れるのは難しそうだった。
「そうだな。今までとは違い、話が終わる前に逃走されたり、邪魔が入る心配はないと保障されているんだ。ここはクロケル殿とエクラ殿の言う様に時間を空けよう」
シュティレがダメ押しと言わんばかりに俺たちの意見に賛同し、納得が言ってない様子のアンフィニを諭す。
「この部屋までの案内は私にもできるから。時間を空けてまた来よう。フィニィちゃんと2人っきりになりたかったらそう言う場を準備するから。ね、今は納得して」
エクラが胸に抱くアンフィニを幼子をあやす様に優しく体を揺らして呼びかけると、アンフィニは暫く口籠った後、不機嫌な表情を浮かべむすっとした表情で頷いた。
「……わかった。ここは一旦引き下がる。そのかわり、フィニィの身の安全は保障してくれよ。もちろん、精神面でもな」
「わかってる。ちゃんと保護するって約束するよ。ね、おじいちゃん」
「ああ、お前たちがそう望むならワシは余計な手出しはせんよ」
エクラに話を振られたアストライオスさんは特に嫌な表情や反論をすることもなく、頷いた。
「では、一応フィニィさんに回復魔術をかけておきます。体力だけでも回復できればらくになると思います」
話に区切りがついたのを見計らいシルマが優しい申し出をし、手早くフィニィに回復魔術をかけた。シルマって本当に思いやりの塊だよな。しかもこれでレベル500なんだから強さも人間性も最強の存在と言えるだろう。
自分の実力を隠したがるのはちょっとアレだけど、死にたくないって気持ちはわからなくもないし。
「よし、フィニィちゃんの体力も回復したことだし、私たちは一旦部屋から出よう。おじいちゃんの部屋に戻ったらまたお茶を出すから、みんなで一息つこうね」
シルマに気を取られていると、エクラが呑気なことを言って話を締めくくり、アンフィニを抱えたまま歩き出した。
そのまま全員で部屋の外へ出て、重厚な鉄の扉を閉める前にフィニィを振り返った。彼女はまだ頭を抱えてうな垂れたままだった。
「じゃあね、フィニィちゃん。またお話に来るよ」
エクラがにこやかに手を振って呼びかけたが、もちろん反応はない。暫く待っても小さな体はピクリとも反応を示さなかったので、エクラは残念そうに溜息をついて扉を閉めた。
『んん?あれ、アストライオス、ぬいぐるみもって来たの?』
聖がアストライオスさんの手元をみて不思議そうに言ったので、その手の注目が集まる。確かに、彼の手にはフィニィの半身であるウサギのぬいぐるみが拘束魔術である金の輪を身に纏った状態で収まっていた。
「ああ、これか。まあ念のためじゃよ。コレはあの少女の半身で一応、魔法具の一種じゃからな。本体と離しておいた方が色々と安全かと思って持って来た」
アストライオスさんはぬいぐるみを片手で持ち上げてにこっと笑って説明をした。どこにもツッコミどころのない返答だったため、誰も追及をすることはなく、ウサギのぬいぐるみの話題は終了した。
それでも、少しだけアストラオスさんが手に持つぬいぐるみが気になってちらっと視線を送ると、つぶらだが無機質な瞳と目が合ったような気がして、ギクリとしたので目を逸らした。
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聖「次回予告!ようやくフィニィを捕えることが出来たものの、対話をするのはまだ先になりそうな雰囲気。時間を空けてフィニィと再び会話をすることになった時、彼女の心に触れることはできるのだろうか」
クロケル「擦れ違いの根本が価値観や考え方の違いから拗れたものだからな。時間をかけて理解してもらうしかないだろう」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第101『アストラオスの不穏な未来視』時間をかけるのは大切だけど、ネトワイエ教団の動きも気になるところだよ。あんまり時間をかけていられないかも」
クロケル「そうだよなぁ、わざわざフィニィをスカウトしたライアーがあの子をそう簡単に手放すとは思えない」
聖「油断は大敵、対策はしっかりと!だね」
クロケル「ううう、まさかまた戦闘になるのか。ああ、不安で胃が痛い」