第99話 フィニィ捕獲、くっころは男のロマン?いえ、個人によります
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
このご時世前はストレス発散と言えば友人とカラオケだったのですが、オタクの友人とパンピの友人がおりまして、オタクな歌しか歌えない私はパンピとカラオケに行ったときは頭を抱えていました。アニソンとキャラソン意外だと演歌と歌謡曲しか歌えない……。
流行りの歌とか全く知らない民ってこう言う時に困るんです……。もっと一般社会に上手く溶け込まないとと思って何年たったのでしょう(遠い目)
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「くっ、なにこれっ、外れないっ」
アストライオスさんが発動させた魔術に拘束されたフィニィは地面に体をこすりつけながら必死で抜け出そうともがいているが、彼女とぬいぐるみを拘束している金の輪はびくともしない。
「ははは、威勢がいいのう。無駄じゃよ、その輪はワシが念じない限りはどんなにもがいても解除されない仕組みじゃからのう」
アストライオスさんは意地悪く、そして豪快に笑った後に呆然として視線を送る俺たちに振り向いて手招きをした。
「ホレ、お前たちもこっちへ来んか。話し合うのじゃろう?こやつからの反撃の心配はもうない故、早う防御壁から出て来い」
いや、出て来いと言われましても……そこの地面で転がっているのは先ほどまで敵意むき出しで闇雲に強力な攻撃を繰り返していた奴ですよ?
安全だからおいでと言われても「はいそうですか」と出ていける度胸と信用はない。それはシルマやシュティレ、そして人一倍怖がりで警戒心のあるシュバルツも同じようで、手招きをされてから数秒の間俺たちは目を見合わせて防御壁の外へでるか戸惑っていた。
「おじいちゃんが心配いらないって言ってるんだから大丈夫だよ。シルマさん、防御壁を解除してもらってもいい?みんなでおじいちゃんのところに行こう」
モタモタとする俺たちをエクラが笑顔で促し、同時に早くしろ言うアストライオスさんの視線も感じるので、いつまでもこうしていられないと判断した俺たちは目配せをして覚悟を決め、シルマはこくりと頷いて防御壁を解除した。
「全く、呼びかけてからどれだけヒトを待たせるつもりじゃ」
いつ反撃や予想外のことが起きても言い様に、細心の注意を払いながらアストライオスさんと拘束されたフィニィの元へと向かうと、ちょっぴり待たされて不機嫌モードなアストライオスさんが俺たちを睨んできた。
「す、すみません。色々ありすぎて不安で」
「ははは、遅れた上に言い訳までするか」
反応が遅れてしまったことを詫びたが笑顔でさらっと嫌味を言われてしまった。いや、ホントにすみません、ビビリですみません。でも怖いものは怖いんだから仕方がないと声を大にして言いたい。
アストライオスさん曰く、フィニィとフィニィの半身であるウサギのぬいぐるみを拘束している金の輪は魔力と筋力を抑え込む特殊なものらしいが、見たたけではその効果は分からなのでやはり少し不安になる。
「うん、やっぱり今のフィニィさんからは魔力を感じません。完全に魔力回路を絶たれています」
『うん。アストライオスは見た目はゴリラマッチョで筋力もゴリラだけど、使う魔術のレベルは高いし繊細だからね。彼の言うことは信頼しても良いと思うよ』
間近で見て確信したのかフィニィは警戒心を解いてうん、と自信ありげに頷く。隣で浮かぶ聖もそれに同意した。
レベルカンストの最強少女とこの世界の長である2人がそう言うのであれば間違いないだろう。別にアストライオスさんの実力を信用していないわけではないが、信頼と保険は多い方がいいので安心した。
「別にお前さんたちから信頼してもらえずとも構わん」
まだご機嫌斜めのアストライオスさんを宥める様に肩をポンポンと肩を叩き、エクラが笑顔で言う。
「機嫌直しておじいちゃん。そんなことよりも、フィニィちゃんが無抵抗の今がチャンスじゃない?アンフィニくん、もう一度気持ちを伝えてみなよ」
エクラにそう言われたアンフィニは一瞬だけ表情を曇らせ、迷う様に視線を泳がせる。これまで何度もフィニィに復讐を諦める様に呼びかけたが彼女はアンフィニを拒絶し、聞く耳を持つ様子もなかった。
アンフィニはここまで諦めずにフィニィを追い続け、合う度に想いを伝えたが何度も拒絶されたことによって流石に心が折れかけているのだろう。必死に妹を追いかけ続けたこれとは異なり、明らかに弱気になっていた。
「そんなに暗い顔をすることない!アンフィニくん。何回拒絶されても、君がフィニィちゃんの幸せを望む気持ちが変わらないなら、想いは伝わるまでぶつけた方は良いよ。前にダメだったことが、今度もダメなんてことないよ」
下を向いてしまったアンフィニの顔を鷲掴み、強制的にグイッと顔を上に向かせ、心を沈ませるアンフィニを励ました。
突然の乱暴な行動と励ましの言葉に、つぶらな瞳を丸くさせた驚いたアンフィニだったが、言葉はしっかりと心に響いたのか曇っていた表情は強い意志を取り戻してゆく。
「……わかった。話して見る」
「うん、そうした方がいい!」
ボソリと返したアンフィニにエクラは笑顔で頷いた。そんな2人の間にアストライオスさんが割って入って来る。
「話し合うこと自体は止めんが、ここではやめておいた方が良いぞ」
「え、それってどう言う意味ですか」
良い感じに話が進んでいたのに一体どうしたと言うのだろうか。首を傾げるとアストライオスさんはふぅーと深く息を吐いて自らの目を指差した。
「ワシには視えておるのだよ。このままここで話し合いとやらを始めると邪魔者が入るとな言う未来がな」
「邪魔者……はっ、助けが来ると言うことですか」
アストライオスさんの言葉に直ぐにピンときた俺の脳裏に薄気味悪く微笑むライアーの姿が過り、一瞬で血の気を引いて周囲を見渡す。俺の言葉に反応し、シュティレとシルマも武器を手に周囲を警戒し始めたが、アストライオスさんは少しだけ鬱陶しそうに言った。
「そんなに殺気立たなくともよいわ。確かにお前たちの予想通り、こやつを回収しに仲間がやってくる。それもかなり厄介な奴がな。だが今のところは入国はしておらん。だからその無駄な警戒を解け」
「む、無駄な警戒って」
果たして警戒することは無駄なことなのだろうか。用心するに越したことはないのではないか。と言うツッコミはさて置いてアストライオスさんの言う“厄介な奴”とは十中八九ライアーのことだろう。
『ふむ、君の未来視ではこのままここに留まっていると救出にやって来た仲間と鉢合わせるから危険だと言うことなんだね』
聖が確認するとアストライオスさんが頷き、苦笑いで詳細を語った。
「ああ。そして間違いなく戦闘になる。こんなことはあまり言いたくないが、視えている未来ではワシでも少々骨が折れる展開でな。正直、このままここに留まるのはお勧めできんのぅ」
「お勧めできないなら、どうしろと言うんだ。他人の意見を否定するだけしておいて策なし、だなんてことはないよな。策なしで発言するだなんて、どこかのアホと一緒だぞ」
核心を隠したもどかしい態度と発言に苛立ったのかミハイルが言葉尻をきつくして発言する。オイ、どこかの策なしで発言するどこかのアホって俺のことだろ。遠回しでディスるんじゃねぇ。唐突に傷つくだろうがよ。
「年寄をバカにするものではないぞ。若造、ワシはどこかの誰かと違って考えなしに発言などせんわ」
アストライオスさんは唇を尖らせて返す。だから、なんでこのヒトまで俺のことディスるんだ。何か悪いことしましたかね!?寧ろ(手助けがあったとは言え)フィニィの攻撃を切り抜ける様に頑張って働いた方ですけど!?
何となく空気を読んで黙っていたが、この理不尽なディスりに我慢できなくなって文句を言おうとしたが、それをアストライオスさんに阻まれる。
「まあ、策と言うほどのものではないがな。単純なことじゃよ。こやつをワシの宮殿に連れて帰ってゆっくり話をすればいい」
「うんうん、それが良いと私も思う。宮殿には結界が張ってあるし、仮にそれを突破されて侵入されたとしても色々と仕掛け(点々)もあるし、ノープロブレム★じゃあ、そのお仲間さんが来る前に宮殿に戻ろっか」
その提案にエクラが弾む様に頷き、他に意見も出なかったので拘束したフィニィを連れて宮殿に戻ることが決定した。意味のない俺へのディスりに文句を言いたかったのだが、すっかり流されてしまってちょっと不満が残るが、仕方がない。
「それで、誰がこの子を運ぶ?ここから宮殿までは距離があるから、なるべく力持ちのヒトの方が良いと思うけど」
エクラが俺の方を見て言った。何故、何故俺の方を見るんだ。確かに俺は長身だし、女の子を運ぶぐらいは容易にできるかもしれない。しれないが……
「悪い、無抵抗の女の子の体に触れるのはちょっと遠慮したいかな。男として……」
『えー、クロケルってばフィニィちゃんに何かするつもりなの?最低~』
ぎこちなく断った俺に聖がすぐさまからかって俺の周りを虫の様にしつこくウザ絡みで飛び回る。激しくイラッとしたが、そのからかいの言葉を聞いた瞬間のアンフィニが鬼の形相で俺を睨みつけて来た。
シュバルツはしっかりと抱きしめているので飛びかかってくることはなかったが、生きの良い魚の如く体をくねらせて俺に掴みかかろうとしているのをシュバルツが必死で抑え込んでいる。
「だ、ダメ!シュバルツに怪我をさせるのはダメっ」
必死で宥めようとするシュバルツに構わず、アンフィニは暴れながら凄い勢いで俺に怒りをぶつけて来た。
「お前、このどさくさで俺の妹に何をするつもりだ。つぶすぞ。ぬいぐるみの体だからって嘗めるなよ。俺ができる全ての手段を使ってお前をボコすぞ」
「怖いこと言うなよ!ない!ないから下心なんて。見た目もあんなに幼いんだぞ、俺的には恋愛対象外だし、仮に魅力を感じたとしても手を出したら犯罪なことぐらいわかるわ!」
怪我をしている等の緊急事態ならともかく、女の子を担ぎ上げるなんて恐ろしいことが出来るわけでもなく、申し訳ないが丁重に断ったのに聖の余計な一言のせいで唐突にアンフィニから殺意を受けるハメになってしまい、変な誤解をされたくはない俺は全力で否定をしたが、それは逆効果になる。
「はあ!?お前、フィニィに女性としての魅力がなっていうのか。外見が子供でも魅力はあるだろ」
「お前、何言ってんの。魅力を感じていてもそうでなくても怒るのかよ!面倒くさい奴だな!!」
何これ、理不尽。どう答えても結果は同じとか、あまりにも理不尽すぎるだろ。ってかシスコンキャラってこういうヒト多くない?きょうだいに魅力を感じて欲しいのか欲しくないのかどっちやねん、と常に思う。
「ええい、うるさい。お前は少し黙っていろ、ややこしい」
「ぎゅむぅっ」
文句を言い足りないのか、俺を睨みつけてシュバルツの腕の中で体を捩って暴れ回るアンフィニの頭の上からシュティレが苛立たしげに親指でギュッと抑えつけた。何か変な呻き声が聞こえたけど大丈夫かな。
「クロケル殿の女性に不用意に触れたくないと言う気持ちは理解した。なら、同性である私が彼女を運ぼう。そこのぬいぐるみもこれで問題ないだろう」
「ぐ、まだ言いたいことはあるが……いいだろう。」
アンフィニはまだ納得がいっていないのか、俺を睨みながら渋々シュティレの提案を飲んだ。ナイスだぞ、シュティレ。
「ありがとう、シュティレ。助かったよ、悪いけどフィニィの件、頼んだ」
改めて御礼とお願いの言葉を伝えれば、シュティレは俺に向き直って一瞬だけキョトンとした表情をみせてから柔和に微笑んだ。
「いいや、気にするな……寧ろクロケル殿にその様な常識があって安心した」
「ん、何か言ったか?」
気にするなと言った後に何か呟いた気がしたが、声が小さすぎて聞き取れなかったので聞き返したが、シュティレは咳払いをした後首を振った。
「なんでもない。では、さっそく運ぶとするか」
シュティレは俺が投げかけた疑問を軽く流して、拘束され地面に倒れ伏しながらも必死でもがくフィニィの元へと歩みを進めた。
「こっちに来ないでっ、私に触らないで。あなたたちに連行されるぐらいなら、ここで死んだ方がマシよっ……魔法さえ使えたら自爆してるのに」」
やはり、自爆するつもりだったのか。それだけの覚悟を持って俺たちを襲ったと思うと彼女の抱える恨みの深さを改めて思い知らさせる。
アストライオスさんの特殊な術で拘束されているせいで魔術の発動どころか指1本も動かせないため、恐らくそれは叶わないのだろう。フィニィは悔しそうに何度も体を捩る。
「任務に失敗したら組織の情報漏洩を防ぐために自爆か。その精神は戦う者としては素晴らしいが、残される家族のことを考えてから発言しろよ」
フィニィの目の前で武器を片手に仁王立ちに佇みmシュティレが諭す様に言ったが、フィニィは睨んで抵抗して見せた。
「私に家族なんてもういない。知った様な事を言わないで」
叫びにも似たその言葉は間違いなく彼女の本心で、家族であるはずのアンフィニはひどく傷ついた表情を浮かべ、しかし何も言わずに視線を逸らした。
『クロケル、クロケル。これってアレかな“くっころ”的な展開?』
「なんでそんなにワクワクしてんだよ。後、趣味と性癖がモロバレだぞ。自重しろ」
シリアスな気持ちの中、聖がふよふよと俺の耳元まで飛んできて、小声でとんでもなく不謹慎でしょうもないことを言ったので、注意をしたが、残念なことに悪びれる様子は一切なかった。
『でもさ、今の流れって絶対そうだと思うんだよね。僕、異世界生活長いけど、くっころ展開には遭遇したことがないよ。本当にこういう展開ってあるんだねぇ』
「何をそんなに感慨深げに言っているんだお前は」
くっころとは“くっ、殺せ”の略である。多分、大体のオタクは耳にしたことがあるだろう。多分大半のヒトは本来の意味としてではなくネタとして。
敵に捕まった気が強い女性や誇りが高い女性キャラがなす術がなくなった際に吐く言葉であり、最後の強がりや抵抗と言ってもいいだろう。
なお、元ネタのこの後の展開は官能的なアレなので、転生前は高校生だった俺にはビジョンは思い浮かばないが、予想はつかなくもない。
そして女性が危機的状況に陥っている展開でテンションが上がる我が親友に少しだけ頭が痛くなった。そう言えばこいつ、気の強い系女子が物語が進むにつれてほだされていくのが好きだったよな。
そりゃくっころ展開にテンションも上がるわ。でもこのリアルな状況下でテンションを上げるのはやめろ。超絶不謹慎だから。大体、女の子を捕獲して喜ぶとかどっちが悪だかわかんなくなるだろ。寧ろ状況的にこっちが悪みたいになるから。
『もう、クロケルは真面目だなぁ。冗談だよ、冗談。ちょっといいな~って思っただけだから』
「真面目じゃねぇよ。ヒトとしての常識だよ。そう言う冗談は人道的によくないぞ。十分クソ野郎の思考だ。んでいいなって思ってんのかよ」
フィニィの外見は5歳ぐらいの子供だぞ。実験の影響で本来の年齢と見た目がちぐはぐになっていると聞いたから、厳密に言えば子供ではないかもしれないが、それでも捕虜の女の子にそう言うことを思うのは良くない。
それにくっころならフィニィよりもシュティレの方が似合っていそうな気がしなくも……いやいや、何を考えているんだ俺、聖の性癖に引き込まれるな。
『あー、うんうん。確かに、シュティレちゃんならに似合いそうだね!ってか凄く言いそう。あと、同じ騎士系統でクラージュちゃんも』
「お前、それシャルム国王に前で言ったらヤバいと思うからやめろよ。と言うか誰に対してもそんなこと思うな。想像もするな」
自分でも思っておいてアレだが、俺はどこまでも自分の性癖に忠実な聖にもう一度注意した。だが、「は~い」とか言う間延びした返事を返しやがったので多分、次からも言う。絶対言う。
こそこそとくっころ談議をしているアホな男2人の会話は一切聞こえていないのか、冷静かつシリアスな雰囲気を纏い、縛られながらも視線で抵抗するフィニィを見下ろしてシュティレが口を開いた。
「悪いな。お前にも事情がある様にこちらにも事情がある。一緒に来てもらうぞ」
シュティレは突き放す様に言った後、有無を言わさずフィニィを自分の肩に担ぎ上げた。まさかの俵担ぎ。いや、まさかでもないのか。仮にもフィニィは敵だし、お姫様抱っこって言うのも妙か。
「やだ、放して!放しなさいよっ」
フィニィは俺たちに連れて行かれまいと必死で抵抗していたが、シュティレの腕にがっちりと固定されてうもがくことも叶わない様だった。
ってかシュティレの奴、相手が外見5歳の少女とは言え片手で持ち上げたよ。どんな筋力と腕力してるんだ。凄ぇよ。くっころが似合いそうとか言ってマジですみません。
「よし、じゃあ捕虜の運搬は竜騎士の少女に任せて、早速戻るとするかの」
そう言ってアストライオスさんは踵を返して歩き始めた。ここに長くいてはライアーがやってくる可能性があることを思い出し、それだけは絶対に避けたい俺たちは慌ててその後を追いかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
聖「次回予告!ようやくフィニィの捕獲に成功。このまま何事もなく話し合いができればいいけど、ライアーの動きも気になるところだよね」
クロケル「ああ、あいつの能力はよくわかってないし、警戒はしないとだな。あと、フィニィとアンフィニがちゃんと落ち着いて話し合えればと思う」
聖「次回、レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第100『捕虜の心身のケアはしっかりと』そうだね、アンフィニの想いが今度こそ届けばいいね」
クロケル「ああ、そうだな」




