第9話 小休止、豪華で楽しい!幸せ気分の晩御飯
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
誠に勝手ながら前回予告したものとタイトルを変更させて頂きました。食事の流れを簡単に済ます予定だったのですが、長くなってしまったので(汗)
やっぱり、5000文字を超えると読みにくいですよね?なるべく超えない様には努力しているのですが自分の才能では限界が……今後はあまり長くならない様に頑張ります。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
クラージュの提案で俺たちはひとまず食事を取る事にした。彼女曰く、腹が減っては戦は出来ぬ!とのことで俺たちは一緒に食事を取ることになった。
まあ、俺も腹は減ってはいたが。温泉に入りそびれた挙句、この流れで食事まで抜きとかちょっと辛いと思ってたからそこは嬉しいんだが。
「いやぁ、嬉しいです。1人での食事って私、好きじゃないんですよね。おいしいもの食べて、感想を言い合うのが食事の醍醐味だと私は思うんですよ」
食堂へと向かう道でクラージュはスキップをしながら上機嫌でそんなことを言った。アホ毛をぴょんぴょんと揺らして鼻歌を歌っている姿はやっぱりどこか犬っぽい。先ほどからブンブンと千切れんばかりに揺れる尻尾の幻覚が見える。
「はあ、なんだってこんなことになったんだ」
ご機嫌なクラージュの後を歩きながら俺はがっくりと肩を落とす。シルマは困り顔で「あはは」と笑い、聖は俺の傍をふよふよと浮きながら小声で言った。
『情けは人のためならずって言うでしょ。相手は騎士と言えども王国の関係者。恩を売っておいて損はないよ』
「え、何、お前そこまで考えてクラージュに協力しようとか言ったのか」
『半分はその通り。もう半分は好奇心かな』
好奇心とかぬかしやがったのはさておき、ただのお人好しの感情だけで動いたわけではない聖を少しだけ見直した。流石、一度はこの世界を救うために奔走した神子だ。ちゃんと考えた上で行動している。
「王家に恩を売る、なんてなんか気が引ける気もするが」
『そんな事気にしなくてもいいよ。お金がある人から搾り取らなくて誰からとるのさ。そんな事気にしなくてもいいの』
前言撤回。やっぱり金に汚いだけかもしれない。
「あはは。グラキエス王国はこの辺りではとても大きな国ですから、期待はしてもいいかもしれませんね」
聖の言葉を冗談として受け取ったのか、シルマは冗談ぽく笑って言った。
クラージュはよほど浮かれているのか、俺たちの黒い会話に全く気がつく事なくスキップを続けていた。
そんなこんなでぐだぐだしている内に俺たちは食堂に辿り着いた。扉の前には和風スタイルきっちりと制服を着こなした若い男性の給仕が姿勢を一瞬も崩すことなく背筋をしゃんと伸ばして佇んでいた。
「先だって予約を入れさせてもらったグラキエス王国が騎士、クラージュだ。すまないが、この者たちと共に食事がとりたい。私と同じメニューで追加の食事を用意してもらうことは可能だろうか」
突如としてキリッとした口調になったクラージュにを俺は二度見した。腕にしていた銀のブレスレットを掲げて毅然と佇む姿はまさに騎士そのもの。
小柄で勇ましい女の子とか、かっこよすぎなんですけど。敬語使いの女の子が突然毅然とした口調になるのも個人的にどストライクなんですけど!?ギャップがたまらん。
ってそんな己の性癖はどうでもいい。今、さらっとすごいこと言ったよな。私と同じメニューってことは王国騎士用に用意されたものってことだよな。絶対超絶お金かかってるヤツじゃん。
「つ、追加!?そんな事しなくていい!俺たちは俺たち用の食事が用意してあるみたいだし、俺たちはそれを食べる。なあ、シルマ」
ちょっとペンダント探しを手伝うだけにして報酬が大きすぎる。しかもまだ1ミリも協力していないし、こんな序盤で恩恵を受けるのはちょっと怖い。
食べたことによって、他に何か大きな願い事を申し出られでもしたら断われないし逃げ場がない。そう思った俺はシルマに同意を求めた。
「そうですね。せっかく宿の方が私たち用の食事を用意して下さっているのに、それを食べないと言うのはもったいないですもんね」
俺の考えとは若干ズレた返答をしたシルマだったが、結論としては同じで良かったと思う。
何とかクラージュの申し出は回避できそうな流れに胸を下したのも束の間、給仕は顔色1つ変えず、さらりと言った。
「問題ございません。当宿はご着席頂いた後に配膳させて頂いておりますので、食事内容の変更は可能でございます」
なんと言う対応力の良さ。ここは相当いい宿なんだろうな。でも今の俺にはこの対応がとても憎らしく感じるぞ。
「では、この者たちには私と同じもものを。もちろん、食事代は私が持つので請求はこちらに。ああ、食事する場所は最初に予約した通りで構わない」
ことごとく思惑が外れた俺が眩暈を覚えている間にも、クラージュがテキパキと話を進め、結局俺たちはクラージュと席を共にするどころかメニューまで同じものになるハメになった。
なんだろう、食事の前からすごく気が重い。
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
給仕が恭しく頭を下げ、俺たちを人目につかない奥に用意された個室へと案内する。促されるままにそこへ足を踏み入れる。
洋式のその部屋は俺が想像しいている個室よりも広かった。多分、畳6畳ぐらいか。ほぼ一部屋じゃねぇか。
真ん中に設置されているテーブルは黒の漆塗りでその大きさは(聖は食べないから)俺たち3人で使うにしても大きすぎるぐらいだ。庶民の俺ではチープな表現しかできないが、ちょっとした工作なら可能であろう作業台ぐらいの大きさはあると思う。
机と同じ漆塗りの椅子は既に3脚用意されており、電飾の光りを受けて黒く美しく輝いていた。机も椅子も高級感が凄すぎて怖い。
壁にはクラージュのベストに施されているものと同じグラキエス王国の紋章が刺繍されたタペストリーが飾られてある。どうやらここは俗に言う「王室御用達」もとい王室関係者の専用ルームだと思われる。
「ははは、すげぇ」
あまりのスケールに俺の顔が引きつる。怖い、金持ち怖い。特になにかされたわけでも要求されたわけでもないが、自分とは無縁の光景を目の当たりにすると何故こんなにも恐怖を感じてしまうのか。
「わあ!素敵なお部屋ですね。本当にこんなところでお食事を共にしてもよろしいのですか」
「はい!ここは王室用に用意されたお部屋ですので使用料などはかかりません。追加の食事代は私が払いますのでどうかごゆるりと食事をお楽しみ下さい」
シルマが瞳を輝かせながらも少し遠慮した様なことを言えば、クラージュが満面の笑みで返答した。
ごゆるりとできるか。こんなところで。緊張しすぎて飯の味がするか心配だ。
そんな思いを抱えながらも俺たちは着席した。因みに、聖は俺の隣で呑気にふよふよと浮かんでいる。
「お待たせいたしました」
着席したとほぼ同時に個室の扉が開き、複数の給仕がその手に大皿を持っては行って来る。
……なんか、3人分にしては皿が多くねぇか。
並べられた食事はテーブルに乗りきらないほどの量で、内容もとても豪華だった。野菜たっぷり練り込まれたミートローフに、デミグラスソース、ケチャップソース、ホワイトソースと数種類のソースがかかったハンバーグはそれぞれ皿の上で山を作っている。
あと、漫画しか見たことがない豚の姿焼き。本当に豚そのものの形をしていて、見慣れない光景に「ひっ」と言う情けない声が出てしまった。
その傍には七面鳥と唐揚げも並ぶ。うん、唐揚げは馴染み深いな。安心するよ。ちょっとデカいとは思うけど。絶対鶏むねを丸々1枚揚げただろって形状だけれども。
そんなか感じで肉料理を中心に大量の野菜(温野菜も含む)、たっぷりの果物、数種類のスープなど、量が多いのと彩りが良いせいで目がチカチカするほどのごちそうが目の前に並んでいた。
『わあ!すごい。肉料理ばっかりだ』
聖が空中でふよんふよんと弾む様にはしゃぎながら言えば、頭を掻き、クラージュが照れくさそうに言った。
「実は私、人よりも良く食べるんですよね。特にお肉が大好きで……私が遠征の時は国王様が宿の方にお願いして、こんな感じで特別メニューを用意してくれるんです」
特別メニューねぇ。ただの騎士にここまでするなんてよっぽど部下思いで懐が深い国王様なんだなと俺は思った。
「にしても多すぎないか。これで3人分?」
「足りなけれ追加をするので遠慮なく言ってください」
何を勘違いしたのか、クラージュは弾ける笑顔でそう言ったが、いや、足りるわ。むしろ余るぐらいだわ。
「それでは!冷めないうちに食べましょう。全ての命に感謝を。いただきますっ」
クラージュはきっちりと食事の挨拶をした後、意気揚々とナイフとフォークを手に持ちながら食事をお先に失礼しますといいつつ、食事を始めた。
肉料理を口に運んでは幸せそうに唸り、そして顔をにやけさせている。
すごく美味そうに食うなこいつ。何か腹減って来たかも。くぅと言う小さな腹音がして隣を見ればシルマが下を向いて赤面していた。
なるほど。お前が音の主か、と思ったが俺はそれを指摘するほどデリカシーのない男ではない。
「シルマ。せっかくのご厚意だ俺たちも頂こう」
俺がそう促せばシルマはパアッと効果音が似合う輝く表情を見せ、嬉しそうに笑って返事をした。
「はい!頂きましょう」
シルマと共に手を合わせ、俺たちもテーブルを埋め尽くす料理たちに手を伸ばし、舌鼓を打った。
料理はどれもおいしく、俺にとっては久々の肉だったためとても幸せな気分だった。
……途中までは。だって、量が!多い!これが3人分だなんて絶対嘘だろ。1人分で3~4人前はあるぞ。どんな感覚してんだ。
隣を見ればシルマもミートローフとサラダを食べたところで限界らしく、先ほどまでの笑顔とは一変、とてもグロッキーになっていた。
正直、俺も限界だった。残すのはもったいないと思い、取り分け皿に乗せたものは辛うじて食べきったが、これ以上は……吐く。
しかし、クラージュは1人幸せ気分をキープしたまま、もりもりと食べていた。肉も野菜も小さな口に瞬く間に吸いこまれ、華奢な体にどんどん収まって行く。
「お前、すごいな。どこに入ってんの」
「えへへへ。お肉大好きなんです。でも国王様に野菜も果物もきっちり食べなさいと言われているので、こうして食べているんですよー」
そう言いながらボウルに入った野菜をシャクシャクと食べていくが、嘘だろ。まだ入るのか。そして会話になってないぞ。
俺とシルマは既に皿を開けることを諦め、止まらぬクラージュの食欲を見守る事にしたのだった。
数時間後、クラージュは俺たちの分まで食事をたいらげ、全ての皿を空にした。いっぱい食べる君が好き。どころの騒ぎではない。ここまでの食欲を見せつけられると好きだと思う前に引く。
「やっぱりここのお食事は最高ですね。味と言い、ボリュームと言い、大満足です」
食堂から出て、廊下を歩きながらクラージュはとても満足気に言った。そりゃああれだけ食べれば満足だろうよ。
でも、あれだけ食べた割にクラージュのお腹が全然膨らんでないけど、ホントに体のどこに入ったの。あの料理たち。
「量は多かったですけど、とてもおいしかったですね」
『うん、見ているだけしかできない僕でもワクワクしちゃう豪華さだったよ』
シルマと聖もキャッキャとしながら廊下を歩いている。お前ら、絶対本来の目的を忘れてるだろ。
「はは、そりゃよかったな。じゃあ、腹ごなしもすんだわけだし、そろそろモンスターを探さない……と」
呑気な連中にそう声をかけようとした瞬間、大きな窓ガラスが連なる廊下の外、日本庭園風の中庭の隅に何か見えた。
窓の外はすっかり日が落ち、真っ暗になっていたため、非常に外の様子が確認し辛かったので、見間違いかと思い足を止め、目を凝らして違和感を覚えた場所に注目すると、見えた。
月の光を浴びて輝くそれは、青色で銀の薔薇の紋章が刻まれたロケットペンダントだ。そしてそれを体に引っ掛ける様にしている影は、ゴルフボールサイズの黒い物体。
間違いない、件のモンスターだ。
俺の喉がヒュッと鳴り、一瞬思考が止まった後、俺は思わす叫んだ。
「いたーーーーーーーーーーーー!!」
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聖「次回予告!ついにモンスターを発見したクロケルたち。お腹も満たされた事だし、きっと活躍できるよね!いやぁ、クロケルの勇士がタノシミダナー」
クロケル「棒読みになってんぞ。舐めてんのか」
聖「いやあ、ここまで君の活躍の場がゼロだなぁって思って」
クロケル「悪かったな!別に俺も好きで大人しくしてるんじゃねぇんだよ」
聖「次回レアリティは最高ランクだが素材がないのでレベル1 第10話 『モンスターを追え!盗まれた王家のペンダント』そろそろ頑張らないとダメだよ。クロケル」
シルマ「わ、私もサポートします!頑張りましょう」
クロケル「うん、シルマの優しさが身に染みるよ。惨めだけど」