プロローグ 開幕ピンチの主人公
水無月都と申します。
お読み頂きまして誠にありがとうございます。
処女作である『死神補佐』にそろそろ目処をつけようと思い、新作を投稿させて頂きました。
とは言え、そちらもまだ完結まで至っていないので、しばらく同時連載で頑張ろうと思います。
どちらの作品も少しでも多くの方に見て頂ければ幸いです。
本日もどうそよろしくお願いいたします。
「待って待って!死ぬから!ホントにやめてぇ~」
俺の現世の名前はクロケル。かの地獄の48軍団を従える序列49番の偉大なる公爵の名を持つ者である。
生まれた際に付与されるレアリティも最高ランクの5。しかも魔法騎士の称号を得ている上に、体力・攻撃力のMAX値は数千万を超えており、スキルや魔術も万能でHPを示すゲージも4本もある有能なステータスを持つ最強の存在。
そんな最強の俺は人生クライマックスな状況に陥っていた。
現在、木々が生い茂る森の中を全力で走っている。何故ならばドラゴン型の全長2メートルはある巨大なモンスターに追われているからだ。
相手は体が大きいため、走るスピードはそれほどないが、残念な事に大きな両翼を持っている。しかも、その羽は相当な強度があるらしく、どっしりと生える木々を平然と翼でなぎ倒しながら俺の後を追ってくる。
例え距離が離れていても、口から火を吐いて来るから攻撃のリーチがアホほど長い。丸焼きになりたくない俺は必死でそれを避け続けながら走っているため、ぶっちゃけもう体力の限界である。
そして逃げ道も平たんではない。歩く事を目的とされていない森の中は当然の事ながら整備などはされておらず、非常に足元が悪い。石や木がそこら中に転がり、道もでこぼこしている。
時折、地面に盛り上がる太い木の根っこのハードルを疲労が溜まった体に鞭打ち、飛び越える様にして走り抜ける。
足元が悪すぎて足を滑らせそうになったり、足を挫きそうになるが全て根性で耐え、背後のモンスターから必死で逃げる。
『クロケル、後ろ来てるよ。もっと走って』
「これが限界だよ!ちくしょぉぉぉぉぉぉっ」
俺の隣では銀色のタブレットが黄色く点滅しながら急かしてくる。心配をしてくれている事は声色から伝わってくるが、物理的にも精神的にも追い詰められている俺はどんな励ましや気遣いを受けても心に響く事はない。
むしろ安全な場所にいる相手を恨めしく思い、焦りと怒りに感情を乗せて叫ぶしかできない。
逃げて逃げて、必死で足を動かした先に草木に隠された身を隠せそうな小さなくぼみを見つけ、俺は渾身の力で地面を蹴り、前回り受け身で転がる様にしてそこに入り込む。
体制を立て直して息を潜め、草木の影から後をそっと確認する。俺と言う獲物を見失ったモンスターは俺を諦めていないのか、よだれを垂らし、喉を鳴らしながら同じな所を円を描きながら旋回している。
「くそ、さっさと諦めて巣に帰れよ」
『そんな事より、今の内にスキルを発動しておいた方がいいよ』
タブレットは空中で自在に動き、ピコピコと黄色く点滅しながら俺に話しかける。
「んな事わかってるよ。あと、あんま喋るな。モンスターに見つかる」
『あっ、ごめん。てっきりスキルの存在を忘れてると思ったよ』
「バカにしてんのか。てめぇ」
俺は苛立ちを覚えつつ息を整えながら『スキル』を発動する。
え、お前はレアリティ5で最強のはず?最強ならどうして逃げるのか?
はははは。疑問はごもっともだ。俺のステータスに嘘偽りはない。ただそれはレベルMAXだった時の場合だ。
いいか、よく聞け。俺のレベルはたったの1なのだ!