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7 ポポポ村防衛戦

「これは……?」

 ポポポ村の門の前で、リザエルは足を止めた。彼女は今まさに、中隊を率いて門をくぐるべく前進していたところだった。彼女に合わせて約200人の兵士たちも立ち止まる。

「気づかれたな」

 建物の陰――水晶玉にリザエルの様子を映していた俺は舌打ちした。村の門の近くにある民家の陰には、自警団員が隠れている。奇襲で一気に仕留めてしまえれば楽だったのだが。そう簡単にはいかないらしい。

「こうなったら、総力戦になるぞ」

「ええ。それも覚悟の上です」

 アダンはそう言ってうなずくと、建物の陰から出た。気づかれたのなら、隠れている意味もないと判断したのだろう。民家の間を歩いて進み出ると、柵を挟んでリザエルと対峙した。

「僕は自警団のリーダー、アダンです」

「アダン。そうか、お前が」

 リザエルはうなずき、眉をひそめる。

「何のつもりだ。ポポポ村は我々を受け入れると約束したではないか。それを反故にするのか?」

「先に卑劣なマネをしたのはそちらでしょう」

「卑劣なマネ?」

「あなたはサビナにおかしな魔法かけ、彼女をかどわかした」

 アダンはリザエルに指を突きつけた。建物の陰にいる自警団員も、怒りに燃えた表情をしている。みなの心は一つだった。


 ――ネロウさん。どうかサビナを……この村を救ってくだされ……!

 俺も先ほど、村長に頭を下げられたばかりだ。

 もっとも、そんなことをされてもされなくても、俺のやることは変わらないが。


「サビナを取り戻すために、僕らは戦います」

「何を言っているの、アダン」

 しかしながら。

 魔族の中隊の中から、一人の人間の女性が歩み出てきて、自警団員たちは息を呑んだ。魔王軍のエンブレムのついた漆黒の鎧を身にまとった、サビナだった。

「サビナ!」

「私は自分の意思でこっち側に来たのよ?」

 アダンの叫びなど聞こえぬかのように。サビナは誇らしげだった。

「つまらない意地を張らないで、魔王軍の庇護下に入ろう? それがポポポ村のためになるんだから」

 アダンの表情に苦悶の色が広がる。婚約者がかつてとは決定的に変わってしまったという事実が、矢となって胸に突き刺さったかのようだ。


 もしもアダンが激情に任せてリザエルに斬りかかろうとしたら、俺も建物の陰から飛び出すつもりだったが。幸い、アダンは感情を抑制した。婚約者にあれだけの仕打ちをされたというのに。大したリーダーだ。

「……サビナ。君の意思は闇魔法によって歪められているんだ」

「違うったら。私は、私が入りたくて魔王軍に入ったの」

「以前の君なら、絶対にそんなこと言わない」

「目が覚めたのよ。今の私は違う」

「だったら、今の君と話しても仕方がない。その魔法を解くまでだ」

 アダンがそう言うと、サビナは心底失望したような顔をした。リザエルもまた、沈痛な面持ちになる。


「……どうやら、話し合いでは解決できないようだな」

「そうですね、中隊長。まさか、アダンがこんなに分からず屋だったなんて」

「しかし、大丈夫だ。彼らも魔王様の魔力に触れれば考えをあらためるだろう」

「本当ですか?」

「ああ。しかし、それにはまず無力化する必要がある」

 リザエルとサビナ――歪められた二人は歪んだ言葉を交わし続ける。今の二人は魔王の下僕。アダンの声は届かない。

「それに、この地を宿営にせよというのは、ダイモン殿、さらには魔王様からのご命令だ。私は命令を遂行せねばならない」

 リザエルが、腰の剣のうち長い方を抜き、高々と掲げた。そのとたんに、彼女の背後に控えていた中隊の全体が動く。ただの行進のための隊列だったものが、剣や槍を持つ前衛と、魔法使いの後衛とに分かれていく。


 すなわち、戦闘のための隊列へと変わる。


 身をひそめる自警団員たちに緊張が走った。空気が、手で触れれば切れてしまいそうなほどに、張り詰める。

「アダン。これが最後の忠告だ。我々を受け入れる気はないか?」

「答えはノーです。それにこれは僕の独断ではなく、村長たちの許可も得ています」

 アダンは首を横に振った。それは宣戦布告のようなものだ。もう後戻りはできない。するつもりもなかろう。

「村の仲間を洗脳するような危険人物を、受け入れるわけにはいかない。それが村の総意です」


「……残念だ」


 言葉だけではなく、リザエルは本気で残念そうだった。彼女の背後で、隊列の整備が完了する。自警団の指揮をとるために、アダンが駆け戻ってきた。

「交渉決裂か」

「ええ。しかし分かっていたことです。ネロウさん、僕はこれから自警団を率いて敵を迎え撃ちます。だから後方から援護をお願いします」

「ダメだ」

「ええ!?」

「まだ出るのは早い。合図するまで待っていろ」

「早いって、敵はもう来ますよ!?」

「どのみち、正面から戦ったら勝ち目はないんだ。我慢しろ」

 水晶玉をにらみながら、俺はそう言ってやった。水晶玉には敵兵の全体の配置が映し出されており、ある程度は声も拾うこともできた。部隊は横長に布陣している。もしこのまま突っ込んできてくれれば、地雷で約半数は仕留めることができるはず。

 だが。

「地雷の座標、特定完了!」

 中隊の後方にいた魔法使いが叫んだ。水晶玉を見ながら、俺は苦笑い。

「そりゃそうだ。地雷があるのはバレてるからな」

「言ってる場合ですか!」

「落ち着け。こうなることも分かっていた」

「分かっていたって……」

 アダンはやきもきしている様子だ。気持ちは分かるが、ここで焦っては準備が台無しである。


 敵の布陣が変わる。単なる横長の陣形から、いくつかの小隊に分かれて、村を囲む柵の前に陣取りはじめたのだ。地雷の少ない3か所に人員を集中させている。あと30秒もしないうちに突入してくる。

「まだですか!?」

「まだだ、まだ動くな」

「大丈夫なんですよね、本当に!」

「アダン。自警団の人数は50人だが、武器をまともに使えるのはせいぜい20人。違うか?」

「それは……たしかにそうです」

「ならばせめて、突入してくる敵の数も20人以下に削らないと話にならないだろ?」

「できるんですか?」

「できる」

「でも、もう時間がないですよ!」

 アダンの言う通り、もう時間がない。すでに魔族の兵たちの配置は完了しており、今まさにリザエルが剣を振り上げたところだった。突撃の合図。建物の陰に隠れた自警団員たちは、固唾をのんだ。

「魔法小隊の指示に従い、突……」


 ピッ ピッ ピッ ピッ


「ん?」

 リザエルは、剣を振り下ろしかけた手を止めた。響き渡るのは笛の音である。魔族も人も、束の間、戦闘寸前であることを忘れてあたりを見回す。笛の音は村の奥から聞こえてくる。自然と、全員の視線がそちらに集中する。

「あっ!?」

「あれは!?」

 複数の叫びが重なった。彼らの視線の先には一人の女が――ぶかぶかの魔法衣を着た小柄な女、ミシュラがいた。ミシュラは笛を吹きながら歩いてくる。彼女の後ろには、笛の音に合わせて行進する人の群れ。


 ピッ ピッ ピッ ピッ


 100人ほどの人が、ミシュラに率いられて突き進んでくる。自警団員ではない。というか、生きた人間でもない。

 それは、100の死体の群れだった。

「ええええええ!?」

「なんだ、なにが起こってるんだ!?」

「この世の終わりか!」

 敵も味方も動揺し、恐れおののく。100の死体は、腐りかけていたり、完全に白骨化したりしていたが、誰もかれもが剣や、クワや、スコップを手にしていた。俺は「よしっ!」と膝を叩いた。

「間に合ったな!」

「ネロウさん!? なんですかあれ!?」

「墓地で死人形魔法(パペット)を使っておいたんだ。安心しろ、心強い味方だ」

「味方……?」

 アダンは半信半疑の様子で、死体の群れに目を向ける。ミシュラに率いられたアンデッドたちは、次第にばらけ、やがて柵を挟んで魔族の兵たちと対峙する。あっという間に、防御陣が完成してしまった。

 突入箇所が分かっているのだから、そこに兵を配置すればいいわけだ。


「あれだけの数の死体が、朽ち果てずに残っていたということですか?」

「いや、死体の一部でも残っていたら、魔力で勝手に復元されるからな。便利な魔法だ」

「ええ……?」

「ミシュラ、案内役ご苦労さん」

 役目を終えて建物の陰にやってきたミシュラに、俺は言葉をかける。ミシュラはもっと褒めてほしそうだったので、「えらいえらい」とテキトーに付け加えておいた。

「ネロウさん、なんで教えてくれなかったんですか」

「教えたら止められるだろう。死体を利用するなんて」

「た、たしかに……」

 アダンは周囲を見回した。家々の陰に隠れた自警団員たちは、まだざわめいていた。


 というか、悲鳴を上げていた。


「きゃあああああ! 去年死んだおじいちゃんが!」

「あれは病死したワシの息子!」

「おのれ! 鬼! 悪魔! ゴブリン!」

「人でなし!」

「何を言っているんだ。死者の尊厳よりも生者の安全が優先だろう」

 俺はそう言ってみなをなだめようとしたが、ブーイングはやまなかった。仕方がないので、俺は大声を張り上げることとする。敵に狙われるからあまり目立ちたくないのだが、この際、仕方がない。

「みんなよく見ろ! あの死者たちの表情を!」

「え?」

「笑っているだろ!」

 俺の言葉につられて、自警団員たちは柵を守るリビングデッドたちに目を向ける。正直、表情筋が腐ったり消失したりしているのだから、笑っているかどうかなど分からないのだが……。顔の骨がカタカタと動いているので、それが笑顔に見えなくもなかった。俺は強弁した。

「生前はきっと家族想いな者たちだったんだろう! あんたたちの役に立てて嬉しいんだ!」

「そ、そうなのか」

「たしかに、言われてみればそんな気もするな……」

「じいちゃん……。それに名前も知らないご先祖様……俺たちのために……」

「ありがとう、ありがとう」

 自警団員たちは、リビングデッドに向かって手を合わせたり、涙を流したりしている。アダンは「何言ってんだこの人たち」と言いたげな顔をしていたが、幸い、黙っていてくれた。


 これで準備は整った。


 同時に、魔族の兵たちも動揺から立ち直ろうとしていた。リザエルが声を張る。

「落ち着け! これは我々の戦意を奪おうという、敵の魔法使いの策略! 数はまだこちらの方が多い!」

 そうだ。ここからだ。

 俺はあらためて気を引き締めた。

 剣を振り上げるリザエル。魔族たちは武器を構える。自警団員たちもそれぞれの武器を抜いた。


 放たれる寸前の矢のような、危うい一瞬の静止。


「我々の優位は揺るがない! 予定通り魔法小隊の指示に従い……突撃だ!」

「今だ、出るぞ!」

 敵の突撃からワンテンポ遅らせて、俺は自警団員たちに合図を出した。アダンが真っ先にとび出し、他の者もそれに続く。これまで見えていなかった戦力の出現に、敵の魔族が一瞬ひるむ。その隙をついてリビングデッド部隊が攻撃する。


 ポポポ村防衛戦が、ついに始まった!

評価やブックマークなど、ありがとうございます!

これを励みとして、今後もどんどん書いていきます。


次回は明日(11月9日(火))更新します。

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