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5 地雷、爆発(あまりよくないタイミングで)

「リザエルという中隊長は、立派な武人という印象じゃった。もしかしたら、本当に宿泊するだけで乱暴はしないかもしれん」

「指揮官がそうでも、部下も全員同じとは限らないぞ」

「そうだ。リザエルは人間でも兵隊は魔族。何をするか分からん」

「だが実際問題、我々には戦う力がない」

「たしかに。戦ったらみんな死ぬぞ」

 村の集会所にやって来ると、村長を中心として村のお偉いさんたちが会議をしている最中だった。ドアの外から聞き耳を立ててみると、どうやら議論は、穏健派が優勢になりつつあるようだ。

「お話し中、失礼」

 俺はそう言って、ミシュラと一緒に部屋に足を踏み入れた。一瞬、会議が中断する。その場にいた十数人、誰もが眉をひそめる中、アダンが椅子から立ち上がった。

「ネロウさん。もう『用事』は済んだのですか」

「ああ」

 俺はうなずき、ふと思い出して尋ねた。

「そうだ、アダン。聞き忘れていたんだけどな。この村の住人に魔族はいるか?」

「え? いませんけど」

「分かった。それなら大丈夫だ」

 俺は安心して目を閉じると、地雷魔法(マイン)に魔力を送った。これで魔法の罠が発動したわけである。もちろん、わざわざ話をややこしくすることもないので、この場で説明するつもりもない。


「こちらは、魔法使いのネロウさんです。隣にいるのはミシュラさん」

 俺が何か言いだす前に、アダンは村のお偉いさんたちに紹介してくれた。

「実は先ほど、僕の妹・カヤの命を救ってくださって。今回のことには巻き込まれた形ですが、ありがたいことに、協力を申し出てくださいました」

「カヤの命を、じゃと?」

 村長が疑わしそうな目を俺に向けた。こういうときは第一印象が大事だと思い、なるべく丁寧な物腰を心がけることにした。

「ネロウです。はじめまして」

 そう言って、俺はお辞儀しようとする。そのときだった。


 ドカンッ!!!!!!


「な、なんじゃ!?」

 窓がびりびりと震えるほどのすさまじい音が、森の方から聞こえてきた。いや、森の方などとぼかす必要はないのかもしれない。村の柵のすぐ外――この集会所から見て南南西で、爆発が起こったのだ。


 ドカンッ!!!!!!


「また同じ音だ……!」

「いったい何事だ!」

 集会所にいた村の有力者たちがざわめく。俺は天井を見上げ、数秒間、なんと言ってごまかそうか考えたが……すぐに面倒になってしまった。


 俺は取り繕うのをやめにした。


「驚かせてしまって、申し訳ない。地雷魔法(マイン)が発動したみたいだ」

「マ、マインじゃと……?」

「ああ。『二時間以内に結論を出す』という話になっているはずだけどな、魔族の全員がその約束を守るとは限らない。念のため、勝手に村に入ろうとしたら爆死するようにしておいたのさ。今のはおそらく、そういう不届きな誰かが引っかかった音だろう」

「ええ……?」

「ああ、村人が引っかからないか心配、って顔だな。安心してくれ。設定を微調整して、魔族が引っかかったときにのみ発動するようにしておいた。魔族と人間には肉体的な差異があるだけではなく、魔力の性質が異なっているから、それに反応して自動で……」

「ぼ、僕が頼んだんです! 会議中の安全を確保するために!」

 ドン引きする村長たちに向けて、アダンがとっさの機転で言い訳をしてくれた。頼まれてはいないが、彼も俺が地雷を設置したのを知っていたのだから、まあ、共犯といえなくもない。


「妹を助けてくれたときもそうですが、ネロウさんは少し珍しい魔法を使うんです。だから最初は僕もビックリしましたが……」

「そ、そうでしたか。……いや、いきなりのことで驚いてしまいまして。ワシが村長ですじゃ」

 村長は狼狽しながらも立ち上がった。そして気を取り直した様子で、俺とミシュラと、順番に握手する。枯れ木みたいに細い手だった。いや、村長だけではなく、集会所にいる十数人のうち半分ほどが同じような手をしていた。

「もしも魔族がこっそりと村に入り込んでいたら、どうなっていたことか。礼を言いますぞ」

「いや、当然のことをしただけだ」

 ごまかそうとしていたのは忘れたことにして、俺は落ち着いた声でそう答えた。

「この村には、ワシのような老人や女子どもも多いのですじゃ。だから、人手があるに越したことはございませぬ。ご協力、心から感謝いたしますぞ」

 村長はチラリと俺の顔を窺いながら、そう言った。一方、ミシュラは人と握手をするのが新鮮だったらしく、もう一度やりたそうに手を出したが、俺がやめさせた。


「もしかしたら何かお手伝いを頼むかもしれませんが、そのときはどうぞよろしくお願いします」

「ああ」

 俺はとりあえずうなずいておいた。しかし村長の声色からは、俺のことをまったく信用していないことがひしひしと伝わってきた。「もしかしたら」などと言っているが、きっと頼る気はないだろう。

 その点に関しては、この場にいるアダン以外の人間はみな同じだ。いきなり現れた俺に対して、不審の目を向けている。

 彼らを責めることはできない。人間からの裏切り者もいるのだから警戒するのは当然だ。「この男は通りすがりの魔法使いで、村の周りに勝手に地雷を設置したりするが、悪い奴ではないので信用してほしい」などと言うのはあまりにも無茶である。

 まあ、それならそれで構わない。

 魔王軍と戦いになった場合に勝手に参戦すればいい。


 俺の旅の目的は魔王を倒し、ミシュラの記憶を取り戻すこと。そのためには、魔王が侵略を成功させ、強大な力を手に入れてしまっては困るわけだ。

 だから、もしもこの村が戦場になるとしたら。

 村長の許可があろうとなかろうと、俺は全力で魔王の手下どもを叩き潰す。




 話し合いの末、ポポポ村は魔族に宿泊場所を提供することに決まった。人口300の村に200人の兵士を泊めるというのは大変な負担だが……やはり、戦いになるよりもマシと判断したわけだ。

 俺にとっては肩すかしだが、まあ、村の決定ならば仕方がない。


「それならば、事前にきちんと文書で取り決めをするべきです。何の約束もなく迎え入れては、食料や金品を際限なく要求されることになりかねません」

 自警団のリーダーとして、アダンがそう提案した。これにはみな異論はないようだった。村長は文書を取り交わすために、リザエルを自宅に招くことになった。


「僕はもしものときのために、自警団のみんなをすぐ動かせるよう、待機しています」

「うむ。よろしく頼むぞ、アダンよ」

「サビナは村長の護衛として、話し合いに参加してくれるか? 他にも何人か自警団員を連れて行ってくれ」

「え、ええ。分かったわ」

 アダンの婚約者であるサビナが、緊張した面持ちで答えた。魔族の兵士たちと対峙したことなどないのだろう。隠そうとはしているが、表情から不安がにじみ出ている。

 部外者が口を出すのもおかしいので、俺は集会所の壁に寄りかかり、黙って事の成り行きを見守っていた。かたわらではミシュラが、窓の外を飛ぶ蝶を眺めている。

 アダンは一瞬、迷ったようだったが……結局、サビナを安心させるような言葉は何も言わなかった。サビナは自警団の副リーダーだ。副リーダーが変に励まされているところを他の自警団員に見られでもしたら、そこから不安が伝染しかねない。

 みんなギリギリなんだな、精神的に。

 集会所から出て行く村長やサビナたちの後ろ姿を見送りながら、俺は思った。


「ネロウさん。とりあえず、僕らと待機していてもらえますか?」

 村の代表たちがぞろぞろと集会所をあとにする中で、アダンは俺に声をかけてきた。

「自警団には魔法使いが一人もいません。だから一緒にいてくだされば、とても心強く……」

「いや、俺は部外者だからな。いきなり自警団に交ざっても、連携とかは無理だ」

 俺は、先ほどの村長から向けられた疑いの目を思い出しながら、言った。どうせ信頼されていないなら、単独行動した方がいい。

「俺は俺で勝手に準備しておくさ。戦いにならなければそれで良し。もし戦いになったら、あんたたちの邪魔にならないようにうまくやる。それでいいだろ?」

「もちろん、かまいませんが……。しかし、どうしてそこまでしてくれるのですか? 単独で危険を冒そうなどと」

「言っただろう? 魔王は俺の倒すべき相手。だからその手下どもとの戦いも避けられないんだ。あんたたちのためじゃなく、俺自身のためってわけさ」

「そうですか……。分かりました。では、いざというときにも別々に戦うということで」

「ああ。ところで、一個訊きたいことがあるんだけどな」

「え、なんでしょうか」

「この村の墓地はどこにある?」

「墓地?」

「そうだ。戦力を整えるのに必要でな」

「墓地が必要、ですか。よく分かりませんが……。教会の裏です。目立つ尖塔があるので、場所はすぐに分かると思いますよ」

「助かる。……よし、ミシュラ、行くぞ」


 俺は礼を言うと、さっそくミシュラを連れて墓地に向かおうとした。200人の兵士と戦うには、それなりの準備が必要だ。すでに地雷魔法(マイン)を5000個ほど仕掛け、魔族がかかればいつでも爆発する状態。普通の防衛戦ならこれだけでもなんとかなるが、今回はもともとの戦力差が大きすぎる。敵200に対し、自警団は50。いや、最悪の場合、俺一人で戦うくらいの覚悟をしておかなければ……。

 そんなことを考えながら、俺はドアノブに手をかけた。


 だが。


「どうかしたか?」

 集会所から出ようとしたところで、アダンの様子がおかしいことに気づいて、俺は動きを止めた。彼は、すでに他には誰もいなくなった集会所において、テーブルに手をついて立ち尽くしている。彼はこちらに背を向けたまま、言った。

「ネロウさん」

「なんだ」

「宿泊場所を提供すれば、本当に魔族は村人に手を出さないと思いますか?」

「さあな。少なくとも、リザエルは正々堂々とした武人だ。略奪なんかは許さないはずだ」

「そう……ですよね」

「ただ、『村人に手を出さない』って言葉が、あんたたちの考えている意味と、向こうの思い浮かべる意味とで、ずれている可能性はあるな」

「ど、どういう意味ですか?」

 振り返ったアダンは、今にも不安に押しつぶされそうな顔をしていた。ミシュラがアダンに駆け寄って、その頭をなでる。よほど余裕がないのか、アダンはされるがままだった。


「国が変われば常識は変わる。とすると、人間と魔族の間にも価値観の違いはある。多分、あんたが思ってるよりも大きな違いが」


「じゃあ、約束しても意味がないと?」

「そこまでは言ってないが……サビナが心配か?」

「はい」

「それなら、ここでうだうだ言ってても仕方がないな。見に行くぞ」

 そう言うと、俺は自身とミシュラ、それからアダンに隠密魔法(ステルス)をかけた。

 姿を消した俺たちは、真っすぐに、魔族と人間の話し合いの場――村長の家に向かったのだ。


 そこで何を見ることになるか。

 俺には、なんとなく予想ができていた。

次回は明日(11月7日(日))更新予定です。

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