《おまけ3》夢プロローグ:守護者が見る夢
男の名前はロフスト。ロフスト・バニヴェルと言う。
長く、長く、眠っていた。
空気の動かない、暗く、音の無い場所で。
ある時、光が射して目が覚めた。
光の中にいた少女が、自分が守るべき存在なのだと認識した。
それからはその者と共にあった。
彼女は槍を振るう。彼が宿る槍を。
彼女の力と役目は竜の神から与えられた。
彼の役目もまた竜の神から与えられた。
彼女は戦った。
多くの魔物と、神を失い狂った神の使いと、魔の力を生み出した者と。
竜の神と自分が愛する者達を守るために。
彼女は眠る時、苦しむことがある。
戦いの苦痛を、失った弟を、夢に見る。
その時は彼は彼女の傍らに立ち、額に触れる。
「……ロフスト?」
一瞬目を覚ますが、すぐに穏やかな寝息へと変わる。彼には彼女の悪夢を引き受けることが出来た。
彼女の夢は暗く悲しい物だったが、悪夢を引き受けることは彼にとって苦痛ではなかった。彼女の痛みを共有することができたからだ。
彼はかつて人であったことがあった。だが覚えてはいない。かろうじて、彼女の苦痛が理解出来、これを無くしてやりたいと願うようには人であった頃の心が残っていた。
彼が罪に感じていることがあった。
彼の力が、彼女の命を悠久の物へと変えてしまうことだ。
竜の神の力が、彼女の命に注ぎ続けられてしまう。
彼女は苦しみを受け続けることになる。
多くの決定的な別れを彼女は体験し続けなければならない。
せめて自分だけは側にいる。
幸い、命を長くする者と出会い、大切な存在となった。
彼女の苦しみが少しでも減り、彼女の幸せが少しでも長く続くように彼は願う。
「ロフスト。私はあなたも幸せであってほしいの」
「私はおまえが幸せなら、幸せなんだ」
「そ、そんなわけ無いじゃないっ。あなたはずっと私の側にいてくれる。でも誰にも、インフィにだってあなたのことは見えない。あなたは自分が好きなことも出来ないのに……」
「本当だ。私は本当に幸せなんだ。それに、おまえはいつも楽しそうに、幸せそうにしている。それを見るのが好きなんだ」
本当の気持ちを正直に告げると、彼女は顔を真っ赤にした。愛おしくてたまらなくなり、彼は彼女を抱きしめた。
彼女に触れられる形でこの役目を与えてくれた竜の神に感謝しながら。
「双子の赤ちゃん、可愛かったな。私も赤ちゃん欲しいな……」
これも彼がちくりと罪悪を感じることだった。
「すまないな。叶えてやれない」
「そんなことないわ。竜の神にお願いしたらできそうだと思わない?」
彼女はその場しのぎで励まそうとして言っているのではなく、本当にそう考えているようだった。
「……ふふっ」
彼女がいつでも前向きで揺るぎないことに自然と笑みが漏れる。
「そうだな」
彼はそっと彼女に口づけした。
より深く、竜の神に感謝しながら。
「俺、子宝の神とかじゃないんだけどな……」
どこかで赤毛の少年の呟きが聞こえた。
おまけは次で最後になります。
シリーズ別話も書けたらいいなぁ。




