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【時の末子】  作者: 志村しむら
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《第47話》ランスマスター

「このバカ! 相変わらず無茶するんだから!」

 女性の甲高い叱責が聞こえ、インフィは声が聞こえた自身のすぐ横を見る。飛行するアミールがインフィを捕らえた魔物の腕に素早く槍を繰り出す。一払いで鱗を削ぎ落とし、もう一払いで腕を切り落とす。ふいに空中に放り出されたインフィはすぐさま魔物から離れ、体勢を立て直す。

「アミール……!」

「勝手はやめてよね! もう!」

 インフィはアミールが手にした槍を見た。三ツ又の刀身を持つ槍だ。インフィはその槍のルーツを知っている。

「その槍もあれを払えるのか」

 インフィの心は高揚した。あれだけ頑なだったアミールが助けに来てくれたのだ。兵士はいない。アミール一人で来てくれたのだ。

「そうみたいね。で、どうするのよ?」

 問われて魔物を見る。腕を切られた魔物はもがいている。他の二体の魔物は、どうやら自分が同じ目に合わないように警戒しているようだ。こちらの様子を伺って身構えている。

「足止めは有効?」

「術じゃすぐに破られる」

 インフィはあの魔物が自身の重みで陥没した地面に躓いていたことを思い出した。

「あいつ、どれだけの高さまで跳躍できるだろ」

「試してみる?」

 言うなりアミールは魔物の頭のすぐ上まで飛行して突進する。

「危ない!!」

 魔物は自らの射程範囲に獲物が入ったのを認識してすぐさま跳躍して捕らえに来た。アミールはその動きを読みながら更に上空に飛行して逃げる。このアミールは、飛行術を部下たちには禁止しながらも、自身はその優れた使い手だったのだ。飛行術に関してはインフィよりも卓越していた。それはランスマスター特有の能力に由来する。

 アミールは魔物の腕をかいくぐり、再び降下すると、先ほどより高い位置まで魔物をひきつけた。インフィがひやひやしながらそれを見守る中、それを幾度か繰り返した後、インフィの元へ舞い戻る。

「無茶だなぁ……人のこと言えないじゃん」

 アミールは平然とした表情でちらりとインフィを見る。

「で、わかった?」

「うん。どこまで跳べるかはね。アミール。薪はたくさんある?」

「駐屯地にはたくさん運び込んでいるわ。補給部隊に言えばいくらでも運んでこれるわよ」

「よし、頼んだ。あと、この遂道、少し地形変わるけどいいかな?」

「いいけど、後で戻してね!」

 軽く言い残し、アミールは遂道の方へと飛び去る。

「えっ……それは難しいかもなぁ……」

 インフィは再び魔物の上空に舞い上がる。三体の魔物がインフィに集まる。魔物は自分達の届かない高さに獲物がいて、怒っているのだ。

「何をするつもりだ、インフィ?」

「みんなは離れていて! サディウス! 足りなかった時のために補助を頼む!」

 足りなかった、と言われてサディウスはすぐに強力な術を使うのだと察する。サディウスはインフィがいる場所まで飛び上がる。

「いでよ時空の杖、七色の型!」

 上に掲げた両手の間に、小さな赤い球体が現れ、宝石のような透明の質感に変質する。球体はインフィの手の間で浮遊する。表面は油膜を張ったように虹色に煌めいていた。

「それは?」

「物質を変質させる術を闇雲に強化する」

 インフィが術の発動のために集中すると、球体の内側から薄く光が発せられる。

「真円に深き闇を穿ちたる御足をもって祖の至る高き頂より、積み上がる時の砂塵よ。汝らが身の内に抱く宇宙の真理によりて、我が名を呼べ! 我が名は時の化身なり! ディムズガレイズ!!(強制地質結晶化)」

 地面に向かって手をつき出すと周囲に光の粒がいくつも現れ、それが地面に向かって落下し、魔物を通り抜けていく。光の粒は地面に到達すると、青い雷を発して地面に吸い込まれていく。そして光の粒が当たった場所に次々と変化が起こっていく。地面は底の方から引かれるように沈み、同時に黒鉄のように変色していった。次々とそれが起こり、魔物がいる地面が陥没していく。魔物はよろめくが、自身の重さがかかる部分はさらに早く陥没していった。跳躍して逃げようにも地面が沈むので脚に力が入らない。

「地面に大穴を開けて閉じ込める。しかも地面を硬質化させた上でね」

「この術はこんな形で結晶方向を操作できませんでしたよね?」

「そ、だから補助道具を使ったの」

 言ってインフィは手の上に乗せた球体をサディウスに見せた。球体はインフィの手のひらに乗っているかと思えば、微かに浮いている。インフィが手を自分の方に戻すと、球体は少しだけ遅れてインフィの手に追従した。

 魔物がいる地面はかなりの深さまで陥没し、降下を停止した。魔物が穴の底から自分達を囲む壁に体当たりをしかけ抵抗するが、壁もまた硬質化しているため、びくともしない。振動だけが地面に伝わる。

「ほら、サディウス。術が解けないように、重複させておいて。同じ場所にかけるだけでいいから」

 サディウスは了解して、術の継続時間を延ばすために同じ術を使った。インフィは遂道の方へと戻る。アミールが補給部隊を引き連れて広場に踏み込んでくる。

「うわ、なにこれ。あんたがやったの?」

 地面にぽっかり明いた穴とインフィを見比べるアミール。

「これで魔物の動きを止めたから、あとは松明を放り込んで魔物を炎で焼き付くそう」

 アミールは頷いて部下たちに指示をする。

 燃え盛る松明が次々と穴へと投げ込まれていく。松明の炎はあの鱗のようなものを溶かした。松明の炎は魔物を遠ざけるだけではなく、直接攻撃することもできるのだ。




 インフィは駐屯地でドニエを見つけた。ドニエは地面に横たえられた、布の被せられた三つの物体を見つめていた。物体は人間くらいの大きさをしていた。いや、布に覆われているのはまさに人間だった。魔物との戦いで命を落としたドニエの仲間たち……そしてあの空間より先の遂道で発見されたガイズの遺体が入っていた。

「ドニエ」

 ドニエは無言でインフィを振り返った。

「感謝する。ガイズの遺体を回収できた。カタキもとれた」

 インフィは軽く頷く。

「私たちは、先に帝都に戻るよ」

 ドニエは何も言わずにガイズの遺体を見つめていた。インフィはそのままその場を後にした。




 インフィとエリック、サディウスは後処理中の駐屯地から一足先に切り上げようと歩き出した。

「そういえば懸賞金の換金、まだだったね」

「だな。帝局はまだ混んでるかな」

「今回の報酬も出ますね」

「!?」

 会話をしていて、唐突に、インフィが前のめりに倒れた。驚いたエリックとサディウスが振り替えると、倒れたインフィの背後には将軍アミールが仁王立ちしていた。なんとインフィはアミールの足払いを受けたのだ。

「何すんだよ!」

「どこへ行くつもりかしら?」

 インフィは言葉に詰まる。アミールが暗に催促する内容を察し、インフィはそれをあえて無視しようとしていたからだ。

「帝都へ一足先に戻るんだ」

「一緒に来なさい。陛下に会うのよ」

 アミールの口調は低く、厳しく、インフィは逆らいがたい恐怖を感じた。

「あ、後で行くよ……」

「ウソ言いなさいよ!」


 インフィはその場で将軍アミールに捕縛され、引きずられるように連れて行かれた。

 エリックとサディウスが唖然として立ち尽くす。

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