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【時の末子】  作者: 志村しむら
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《第46話》巨体

「かがり火を!!」

 遂道はあの魔物が入れる大きさではなかった。だが、壁面に体当たりでもして崩されたりしては、部隊が生き埋めで全滅しかねない。幸い、かがり火を恐れ、魔物は近づいてはこれなかった。


「私が飛行して撹乱する。あの鱗みたいのも落とすから、そこに一気に攻撃を」

 インフィはアミールに言う。いつの間にか将軍との作戦会議に割り込んできた傭兵を兵士たちは不思議そうに見ていたが、他でもない将軍が受け入れているようなので、問題視をする者は少なく、それを口に出す者はいなかった。

「だから、飛行術は禁止だっつってんの!」

 アミールの怒声は遠慮なくインフィに飛んだ。

「だったらどうやって戦うんだ!! 見たろ? 傷口はあの硬い鱗みたいのに変質して、術で強化した剣も通らなかった! 上空からも攻撃しないと、地上から手が届く範囲なんてすぐにあれで埋まってしまう! 私の剣で削ぎ落とすのだって一人だけで地上を走ってやるんじゃ、焼け石に水だ!」

「それでも、禁止なもんは禁止なんだから、ダメ!! あんたは何度言わせるの! まったく!! 勝手なこと言わないでちょうだい!」

 二人が声を張り上げ、しかもまるで見知った仲の喧嘩の様相を、エリックやサディウスは半ば呆れながら見守っていた。周りの兵士たちも唖然としている。

 その周囲の様子に気づいたのはアミールが先だった。だが気まずさでは多くの部下たちに囲まれたアミールの方が圧倒的にインフィより上だろう。アミールは咳払いをして居ずまいを改める。

「とにかくこれは、本行動指揮官である私の命令です」

「だから……」

「それともグルスティラム帝国将軍である私の命に背くというのですか?」

「私だって……!」

 インフィは勢い余って発した言葉に行き詰まった。アミールはインフィにだけ聞こえるように声を潜めて語りかけた。

「あんたはもう将軍じゃないの。二年の間一体どこで何をしてたっていうの? こっちは死んだと思ってたんだから」

 インフィはアミールの顔を直視した。アミールは視線を受け止め、複雑そうな顔をしていた。だがこちらを心配する様子の、優しげな目で見返してきた。インフィはそれ以上何も言えなくなった。

 アミールは再び声を張る。

「作戦を練り直します。各位、立案を」


 作戦会議がはじまった。インフィはとりあえずは成り行きを見守っていた。

 仲間たちに話しかけようと周囲を振り替えると、エリック、サディウスはすぐ身近に立っていたが、ドニエらの姿が見当たらなかった。

「ドニエたちは?」

 言われてエリックとサディウスも辺りを見回す。

「あれ? どこいったんだ?」

 サディウスは遂道の出口ーあの魔物がいる空洞の方を見る。

「まさか……」

 サディウスが耳を澄ませる。こちらの兵士たちが立てる音とは全く別に、遂道の先から音が聞こえないだろうか。金属のぶつかる音……そして人の怒声と悲鳴。

「戦闘音が!」

 インフィは一瞬アミールの方を振り返り、作戦会議が依然続行されているのを確かめた。そしてエリックらを再び見る。

「だめだ、待ってられない! 助けに行く!」

 エリックとサディウスも頷き、兵士の目を盗んで走り出たインフィに続く。


 再び遂道から空間に躍り出たインフィ。ドニエらの姿を探す。魔物は一目でどこにいるかわかる。だがドニエたちは……

「いた!! 右の魔物!」

 ドニエらは一体の魔物を引き付けながら戦っている。他の二体に挟み撃ちに合うことのないよう、うまく誘導している。

 だが、数人で戦うには限界がある相手だ。陽動するにも人手が足りない。インフィらがそこへ向かう間にも、すぐさま囲まれ、魔物になぎ払われてドニエの体が宙を舞うのを目撃した。

「無茶だ!!」

 インフィは駆け出し、飛行術を使って飛び出した。

「ヴァナベルド!!」

 ドニエらに向かおうとする魔物の後頭部に、上空から灼熱の弾丸を撃ち込む。魔物は不意打ちを受け、インフィを敵として認識する。すぐにドニエらの包囲は解除される。

「インフィ……!」

 ドニエは魔物に打ち弾かれ、体を強く打っていた。それでもなんとか体を起こそうともがく。仲間たちがドニエを支えるが立ち上がれない。サディウスが駆けつける。

「無謀ですよ!」

 サディウスが唱術を使い、幸いにしてドニエは回復した。サディウスは別の場所を見る。血だまりができており、ドニエの仲間が二人倒れていた。息はしていない。サディウスは目を反らす。

「無謀でもなんでも、やらなければならない」

 ドニエは立ち上がり、まだ闘志を見せた。

 インフィが魔物を陽動しながら飛行している。時おり術を打ち込むが、致命傷は与えられない。むしろ魔物はそのことに苛立ちを募らせていく。


 インフィは驚愕した。魔物がインフィに向かって跳躍したのだ。逃げようとしたが、魔物は素早い動作で、上部の腕でインフィを捉える。頭部が間近に迫り、魔物が笑っているように見えた。

「ぐあっ」

「インフィ!!」

 エリックとドニエは揃って魔物の腕と頭部に矢を撃ち込む。サディウスもまた術を放つが、例の鱗に阻まれ効果をなさなかった。一体がインフィを捕らえたことを察したのか、残りの魔物もまるで優越感にひたるように、ゆっくりとにじり寄る。

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