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【時の末子】  作者: 志村しむら
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《第40話》遠征駐留地

 徒歩での移動、駐留地点に近づいてきたところでドニエが作戦の簡単な説明をはじめた。

「オレたちが魔物と遭遇したのは帝都東方、レグラ遂道は知ってるか? ……そこに魔物が住み着いていたのさ」

「帝都間近じゃないか」

 レグラ遂道はインフィらがたどった港町リトマールから西への道とは別の、港町から北上する道程で帝都直前で通過することになる山中を貫く洞窟だ。点在する洞窟を掘ってつなげ、道として整備した。洞窟の天井は高く、天井が開いて日の光が入る場所が所々あり、石灰質の白い岩肌が煌めき、インフィらが通ったスァウ道と並ぶ風光明媚で名高い名所だ。グルスティラムには風光明媚な場所が多く、戦がなければ他国からの観光客も多いのだった。

「討伐部隊は中規模。遂道に住み着いた魔物の殲滅、街道機能の調査と整備、対策の検討がおおまかな作戦内容だ」

 後続部隊の一部となって街道を進み遂道の片側の出入口が見えようかというあたりで、街道を反れて街道脇の林に踏み込むと、すでに駐留準備も整い、作戦準備で慌ただしくなった本隊が見えて来る。


 後続隊は本隊に合流し、傭兵団にも幕舎が宛てがわれた。そして参隊の傭兵たちは司令官に引き合わされる。司令官の幕舎の前で少々待った後、兵士が呼びに出てくる。

「ランターザ・ガイズの団八名。中へ。将軍がお待ちです」

「ああ。失礼する」

 ドニエを先頭に兵士が開いた幕舎の入口を潜る。

(将軍……?)

 インフィらも続くが、将軍と聞いてインフィが眉を潜める。気後れするのとはまた違うが、歩みが鈍る。将軍といえばインフィの顔見知りである可能性が高かった。

「わ、私、外で待ってるよ」

 インフィは足を止めるが、これを制したのはドニエの仲間らだった。

「なんだ、緊張してるのか? だらしねぇな」

 ドニエの仲間はインフィの背中を押して強引に進ませた。

「ちょっと……!」

 幕舎の中はちょっとした部屋程も広く、一行に宛がわれた幕舎よりも明らかに広かった。将軍の起居の他、作戦会議室や総司令部の機能を兼ねる幕舎なのだ。

 仕切り代わりに置かれたついたての脇から、向こう側に作業机が設置されているのが見えた。

 そのついたての向こうから声がした。

「ランターザ・ガイズの団、噂には聞いています。長のランターザ・ガイズが不在ということだけど、人員編成を聞かせていただけますか」

 女の声だった。高く澄んでいながら芯の通ったはっきりした声。


 この声にインフィがぎくりと硬直する。

 よく知った声だった。


 ついたての向こうから将軍が現れる。エリックらは武骨な将軍を思い描いていたため、呆気にとられていた。女性らしい華奢な体格、手足はすらりと長く、とても噂に聞く猛将とはイメージが結び付かない。戦闘服であろう衣服に身を包み、華奢ながら凛々しくも、華やかな雰囲気を持つ女性だった。


 その姿を見たインフィは咄嗟に逃げ出したいような衝動にかられる。

 だが、懐かしい……


「私が将軍、アミール・サンドルです。歓迎します。参隊を心強く思います」

 アミールは礼をとる。そして一堂を見改める。ドニエらは歴戦のつわものといった風体で、将軍を前にして堂々としていた。

 アミールが眺めた一団の中に一人、俯いたままの長い黒髪の者がいた。アミールはなぜかその人物から目が離せなくなった。見覚えがあったのだ。その雰囲気に。


 アミールは凍り付いた。その姿は死んだはずの親友のものだった。髪が伸びていても、その者の持つ隠せない雰囲気が親友と同一だとゆるぎない確信があった。

 アミールは恐る恐るその親友の名を口にした。

「インフィ……?」

 インフィはついに呼ばれて、少しの間の後、意を決して顔を上げた。どんな顔をしたらいいのかわからなくて、申し訳ないような顔をしてしまった。

「あなた……ウソ……」

 顔を見たら、やはり間違いなく親友であったと、アミールは驚愕しており、青ざめた。

 インフィは何を言ったらいいかわからず、ただひとつだけ頷いた。

 エリックとサディウスは知り合いであったことを察したようだが、驚きもしていた。ドニエがまさか将軍と知り合いなのかとインフィを振り返るが、インフィはドニエと目が合うと困ったように首を傾げてみせただけだった。

 インフィはアミールに何かを言わねばと口を開いた。

「ランターザ・ガイズの団、八名。編成を教えて下さい」

 遮ったのはアミールの強い口調だった。インフィは開いた口を閉じた。


 ドニエが編成を伝える間、インフィは幕舎から退室していく。

「インフィ」

 エリックが小声でたしなめて振り返った時には、インフィは既に姿を消していた。将軍を前にして無断で退室することは、礼を失した行為だった。

 ドニエが振り返る。

「インフィはどうしたんだ?」

「いやぁ……。申し訳ないが、俺も退室させてもらって構いませんかね?」

 エリックは将軍に対して礼をとる。

「構わないわ」

 アミールの口調に咎める様子は無かった。

「私は話を聞いていますね」

 サディウスが言うのに、エリックは頼むと答えてテントから出ていった。

「……団の者が失礼を」

 ドニエが詫びる。

「いいえ、気にしていません」

 アミールはテントの出入口を見つめていた。

「……彼女はいつからあなたたちと一緒に?」

「一番の新参……というか、実は正規メンバーではない。数日前に共闘することがあって、その縁で」

「そう……」




 エリックがインフィを追って幕舎を出る。途方に暮れたような背中のインフィをみつける。声を掛けると拗ねたような目でインフィはちらりと振り返る。

「知り合いか」

 頷くインフィは簡単にアミールとの関係を語る。

「うん。友達」

 与えられた幕舎へ向かって歩きながら話した。

「アミール・サンドル。ランスマスター」

「あの将軍が有名なランスマスターか!」

「そう」

 ランスマスターは将軍の中でも特殊なことで知られていた。

「将軍は普通、適性があって、優れた者の中から選ばれて任命されるけど、ランスマスターだけは違うんだ。能力ごと継承されていくの。竜の神に選ばれるって言われてる。彼女、十四歳でランスマスターになる前は、ただの村の女の子だったんだよ。酒場で店員やってたんだって」

 そういう事情や背景を知るあたり、近しい者ゆえの情報らしかった。ランスマスターの出地が公表されることは滅多にない。

「へぇ。ランスマスターは実力関係ナシに継承されるってのは本当だったのか」

 これにも頷くインフィ。

「ただの女の子が、継承するとすごい力を発揮できるようになる。術も。アミールにはソードマスターのクラクティ将軍も苦戦するよ」

 ソードマスターもまた将軍の一人で、こちらは優れた剣技、戦闘能力、指揮能力を持った者が選ばれ、皇帝が任命する。

 二人はテントに到着する。ガイズの団八人に宛がわれたひとつだった。八人で休むには少々狭かったが、まだ二人だけなので十分な広さがあった。

 二人は適当な場所に腰掛ける。

「で。おまえは、将軍になる前は何してたんだ? 兵卒上がりか?」

 エリックが問う。エリックは聞かれて嫌がるかとも思ったが、インフィの反応は想像とは少し違った。

「あー……」

 インフィは頭をかきながら「それは聞かないで」照れた様子で答えたのだった。エリックは首を捻るが、これにはインフィは構わなかった。代わりに大きなため息をついた。

「はー……」

「どうした?」

「いや……」

 インフィは悲しそうな顔をしてエリックを見上げた。

「死んだと思っていた人が、生きて目の前に現れたらエリックはどう思う?」

「そりゃー……」

 さっきのインフィとアミールの再会のことだった。エリックは適切な言葉を考え、手を顎に当てながら答えた。

「嬉しいさ。でも、まぁ、まずは驚くな」

 インフィは苦笑いした。

「だよねぇ」

 インフィはまた俯く。

「それに、仕方ないよなぁ。アミールは将軍の任務があるんだし」

 インフィが先ほどのアミールの態度に傷ついているのだとエリックは察した。

 インフィなりに期待はしていたのだろう。ここで会うことは想定外だが、生きていることがわかればきっと喜んでもらえることと。だがインフィの生存を知って、アミールは一瞬の驚きを除き、特別なことは何事もなかったかのような態度をとった。インフィには拒絶のように感じたのだった。

「任務に支障があるかもしれないから、会わないほうが良かったんだろうけどね」

 エリックは悲しそうな愛想笑いを浮かべるインフィをちらりと見ながら伸びをした。

「そんなことは無ぇだろ」

「いや……会わない方が良かったよ……」

 インフィはまた俯いた。

 エリックが掛ける言葉を探していると、ふとインフィは立ち上がった。

「まぁ、仕方ないか。邪魔にならないようにしなくちゃね」

 明るく言ったインフィの顔は笑っていたが、行動を共にしていたエリックにはこれが無理に作った笑顔だとわかった。だがエリックは何も言わなかった。

 インフィはマントのフードを被り、革紐を額で縛って止めた。顔が影になるので、インフィを知る者に見つかることを極力避けられるだろうと考えた。


 少ししてドニエらがテントに戻ってくる。

「気分が悪くでもなったのか?」

「ごめん、そんな感じ。もう大丈夫」

 気を使って声をかけてくれたドニエに、インフィは軽く微笑んで返す。

「あんた、将軍と知り合いだったのか」

「ああ、いや、ちょっとだけ。それより作戦の詳細は聞かなかったの?」

「もちろん聞いた。今晩はここに駐留して準備。その間偵察隊が調査に出る。明日の昼、偵察隊の情報を得て本隊の戦闘隊と俺達傭兵部隊が突入。突入は速度を以って行う機動作戦だ」

 ドニエの言葉はいつも簡潔だった。要点がはっきいしている。

「なるほど。私とエリックはドニエたちの後方支援につく。サディウスは更に後ろ、負傷者を引き受ける。遂道は広くはないから前後支援体制を重視するのが良いと思う」

 ドニエ、エリック、サディウスが頷く。


 作戦の実行時間が待たれた。

 だが、日が暮れた直後、この地は予想外の喧騒に覆われることとなった。

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人から感想を聞いたことがないものでして…(汗)

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