《第28話》領主の噂
宿に戻ったインフィ。グレイは宿の近くまでインフィを送ると、屋敷へ戻っていった。
(領主自ら送ってくれるなんて、親切だよな。仕事、忙しくないのかな……?)
考えながら宿に入っていくと、ロビーで丁度食堂から出てきたエリックとサディウスに会った。
「おう、インフィ。メシ、先に食っちまったぞ」
「あれ? 出掛けていたのですか?」
インフィは経緯を説明した。
「そうか……ディーンの家族がいたか。そいつは良かった」
「心置きなく旅を続けられますね」
「グレイさんも言ってたんだけど、魔物が急激に増えてるらしいよ」
一行はそのままロビーの椅子に座って相談をはじめた。
「携球を買い足した方が良さそうだな。倒した魔物ばかり詰まってて、必需品が入りやしねぇ。おっと、教会を探さないな。魔物遭遇地点の申告をしねぇと」
「水と食料も帝都までの分を買い足さないといけませんね」
「西ルートにしといて良かったね。北ルートで魔物に遭ってたら、重い荷物を持ったまま戦うことになってたよ」
「だな」
「教会へは私が行きましょう。買い物は頼みます」
「わかった。俺は矢も多めに補給しておくか。あれだけやって、この先も魔物が出ないってのは考えられないしな」
「うん。馬かなんかで突破したほうが安全じゃない?」
「まぁそうだが……さすがにそんな金はねぇな」
「そっか……。グレイさんに貸してもらうとか?」
「そういうわけにいくか。相手は領主サマだぞ? っておまえ、領主ともあろう奴を相手に随分気兼ねないな。オレはあいつが領主だって知って、内心緊張したぜ」
「シアルは侯領。侯領は王領の次に規模が大きいのでしたね」
「本当は侯領はもっと細かく別れてるんだけど……シアルは確か紫階侯領。侯領の中でも大きい方だね。一般的に階侯はあまり認識されてないけど」
「そのシアルを預かる方というのは、確かに高い身分ですよね」
「だよな。無礼な態度もとれねぇ」
「ああ、そっか。……でもそれを言うならサディウスもじゃない?」
「そうでしょうか?」
「サディウスも普通に話してなかった?」
「なんつーか、二人とも良い度胸してるよな」
エリックはインフィがフォートラスから来たということをほとんど忘れていた。おおざっぱな感覚は異世界のものではなく、インフィの本質だと今は理解していた。インフィは結局この世界のことに詳しいのだし、なにやら想像もつかない背景があるようなので、むしろ異世界という考えは捨て去っていた。
サディウスは教会へ向かい、インフィとエリックは大通りに
出た。めぼしい雑貨店を捜し出し、旅仕度をする。
「メシは領主と食ってきたんだろ?」
「うん。おいしいお店を教えてもらったよ。しかも奢ってもらっちゃった」
「……どうやら見た目に反して気安い領主なのかね」
「そうだと思うよ。不思議な人だけど、良い人だし」
店内を物色しながらしていた会話に店主が反応する。
「お姉さん方、領主様に会ったのかい?」
「そう。魔物と戦っていたところを助けてくれたんだ」
「領主様と会えるなんて珍しいことだよ。あの方は人前にはあまり出ないからな」
「そうなの? なんで?」
「さぁなぁ。忙しいんじゃないかね? いろんな噂もあるしなぁ」
「噂?」
「今の領主様は前の領主様の養子なんだ」
「それは聞いたよ」
「でな、その養子になったのが二十年以上前だっていうんだよ」
ここまでは普通の話に思えた。領主には実子もいるというが、幼かったので養子である彼が遺言によって跡を継いだのだとグレイは言っていた。
「普通じゃん」
「これが普通じゃない。今の領主は養子になった時から歳をとってないって噂だ。そもそもどこから来たのか、何者なのか……養子になる前のことが何もわからないときたもんだ」
「噂だろ?」
「まあそうなんだが……養子になった時に姿を見たっていう奴は少ないしな」
「ただの噂でしょ。グレイさんは良い人だよ」
インフィは少し苛立ちながらきっぱり言い切った。
買い物を終えたインフィは店主から聞いたグレイの噂に首をひねりながら店を出た。
宿に戻るとまだサディウスは戻っていなかった。ロビーで雑談しながら時間をつぶすと、すっかり暗くなってからサディウスが戻ってきた。
「遅かったな」
「ええ。調度帝都の兵が来ていて、いろいろ聞かれました。情報も多かったのですが」
サディウスを加えた三人は食堂へ向かった。夕食をとりながらサディウスは協会でのことを詳しく説明する。
「魔物が突然湧き出るように出現する事件が、ここ最近で急激に発生しているそうです。その警告と防衛のために、各地を兵が視察して回っているんだそうです」
「急激に発生? 俺たちが遭ったのもソレだったわけか?」
「そうですね。魔物の発生を目の当たりにした生存者は少ないそうですが」
「あれはまるで上空で生まれたようだったよね。なんだかとても異質な出来事、って感じ」
「ええ。見たままにお伝えしたのですが、皆さん半信半疑でした」
「帝都までのルートも心配だな。正直、あそこまでのは二度と遭いたくないな」
「うん」
「兵たちは明日帝都に向けて出発するそうです。それで、兵馬車だそうですから、同乗させてもらえないか頼んでみました」
エリックがおっ、と期待した顔をする。兵馬車は大型の幌のある荷台の馬車だ。荷台は民家の一部屋程の広さがある。
「明日の出発に間に合えば、ということでご了承いただけました」
「そいつは助かる! 歩かずに済む上に、もし魔物が出ても兵士が一緒じゃかなり楽だ!」
「だね、運が良いね」
「そういうわけで、明日は早起きしなければいけませんが、よろしいですか? なにせ出発は日の出すぐだそうですから」
一行は不安が軽くなるのを確認し、明日に備えて床についた。




