《第13話》インフィの記憶
船上は戦闘後の環境回復のためにあわただしい状態となっていた。だが魔物襲撃時のような緊迫感はもはやない。みな安堵していた。
食堂で怪我人が運び込まれ、治療が行われる。
「リィエス・ティエラ(光よ集え、癒しの力で)……スァムセルコ・フォビリア(歌いたもう、空間に満ちた声で)……」
サディウスが歌を歌うと、怪我をした者の傷が癒えるのだ。ピルエに襲われたガイズも、船員も、目を食い破られた者も、傷の重さにより時間は掛かっているが、元通りに治されていった。
「ほらよ。あの船員からお礼だと。運搬中の果実酒を分けてくれたぜ」
ガイズが船員からもらったコップをけが人の治療を終えたサディウスに渡す。
「ありがとう。喉がカラカラです」
にこりと笑うサディウス。
「すごいなあんた、こんなに高度な唱術を使うなんて。俺の怪我もすっかりいい。助かったぜ」
ガイズの傷も、痕も残さずすっかり治されていた。
「これくらいしかできることがありません」
ご謙遜を、と大笑いするガイズ。
「……インフィはどこに行ったか知りませんか?」
「あのすごい姉ちゃんか。部屋に戻ったんじゃねぇか?」
インフィの部屋の前の廊下で、インフィとエリックが会話していた。廊下の窓からは恒夜の明かりが差し込んでいる。
「なんだ? 勝ったのに暗い顔だな」
「ねぇ、エリック……。エリックは私が異世界から来たんじゃないかって、そう言ったよね?」
「あ、ああ。どうした?」
「だったら……だったらなんで思い出せないんだ? 自分がどんなことをしていたのかとか、友達の顔も、親の顔も想い出せないんだ。こんなこと、あるわけない……」
必死な表情でエリックに詰め寄るインフィ。
「何かが変なんだ……思い出そうとすると、全然違う記憶が浮かぶんだ。あの女の子たちは誰? あの男の人は? ……男の子は? なんで私は戦い方や魔法の使い方を知ってるんだ?」
「インフィ……?」
エリックもインフィが何のことを言っているのかわからず、戸惑っている。
「どうしました?」
船内の廊下、通りかかったのはサディウスだった。
だがインフィは思いつめた表情のままうつむき、船室に入っていく。
「連れが……」
サディウスはインフィが入っていった船室の扉の方を伺っている。
「いや、なんでもない。……あんたは、唱術の……」
「私はサディウスと申します。先ほどインフィとご一緒したものですから、声が聞こえて気になったのです」
「ああ、そうか。心配させたようだな」
会話をしつつも、エリックはインフィの様子が気になっている。
さらにそこに来たのは傭兵団のドニエだった。
「おい、ちょっと来てくれないか。エリック。魔物の報告書を作りたいんだが協力してほしい」
魔物についての分析情報も、国などには貴重な情報として買い取られる。傭兵たちは情報を扱うことも多いのだ。
「一眠りしてからでいい。よかったらあの姉ちゃんも」
うなずくエリック。
「あんたの腕もたいしたもんだが、あの姉ちゃんも凄かったな。あれだけ強力な術と剣技を使いこなすなんて、かなりの手練れだ。ガイズとの模擬戦、あれは一体どうしたんだ? 調子でも悪かったのか?」
「あ、ああ……」
エリックもつい、生返事をする。インフィの豹変には驚いているのだ。
エリックはドニエに報告書作成への協力を約束し、自分の部屋に戻った。ドニエも仲間たちの元へ戻っていった。




