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【時の末子】  作者: 志村しむら
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《第1話》森の中で

 森の中だ。見渡す限りどこまでも木々が立ち並ぶ。その中にいる。

 だが、今しがたまでいた場所とは違う場所にいるこのことについて、何ひとつ状況がわからない。

 ここがどこなのか、どうやってここに来たのか、どうしてここにいるのか。

「ここ……どこ……???」

 1人たたずむのは、長く黒い髪の毛が印象的な女性だ。いや、女性と言い切るには、どこか凛々しい顔立ちの、中性的な風貌。

 しかし表情は驚愕し、呆れてさえいる様子だった。

「ちょっと待って。デパートで買い物してたんだよ、ね? で、雑貨屋でキャリーバック買って、音楽店でCD買って……」

 言って手にしたプラスチックのブリーフケースを確認、腰にまわされたバッグの中身をあさる。CDがある。どちらもラッピングされたままである。

「キャリーバックもCDもあるしなぁ。夢……じゃないのか~? ……寝たつもりなんて全く無いのに?」

 キャリーバッグとCDを手にして再び周囲を見渡し、うなだれる。あらためて確認しても周りはなにも変わらない。上を見上げれば青々と木々の葉が覆い茂っているだけである。

「え~っと……CD買った後は……秋の空がきれいだなーって思いながら帰って……」

 思考は混乱していたが、なにか糸口を掴むために今一度思い返すことを試みる。全くこんな場所に至った心当たりはない。

「いつもの道を進んで……あの開けた場所に……!!??」




 休日だった。ぐっすりと眠って、起きたのは昼過ぎ。顔が少々むくんでいるので、化粧水を叩いて、着替えて、せっかく天気が良いから大好きな買い物にでも行こうと、はりきって家を出た。

 いつもの道を自転車で軽々とたどり、広々とした秋の空を満喫しながら駅周辺の商店街へ向かう。自転車を駐輪場に停め、商店街を歩いて回った。医薬品の量販店に入って新しい整髪量を眺め、本屋に入ってなにか興味を引くものがないか見渡して、商店街の外れにあるデパートの1階で今流行の服を物色し、6階の雑貨店で色が気に入ったプラスチックのバッグを購入。エスカレーターの下り途中でCD屋に気付いて立ち寄り、お気に入りのアーティストの新作CDをみつけ意気揚々と購入したのだ。

 さて帰ろうと自転車を漕いで帰路に付く。

 ごく普通の休日だった。

 テレビでは、世界中が戦争になるとかならないとかの、論争が続いている。だが平和なこの国においては、ほぼ無関係な話だった。戦争が起こったとしても、少なくとも自分の住む場所が戦火に見舞われることなど無いと、きっと誰もが思っている。

 いつもの帰り道の途中に新しくできたばかりの道路があるが、まだ開通していないため車止めに囲まれており、地面の整った広場と化していた。広けた土地は子供たちの恰好の遊び場となっていて、建物の圧迫からも逃れられる。

 秋の雲一つ無い空に風が吹き込んで、ついこないだまでの猛暑を思うとたまらなく心地良い。

 空があまりにも鮮やかで吹いた風が心地よく、もう少しその心地よさを味わいたくなって、自転車を降りてゆっくりと歩きながら空を眺めた。


 ふと、自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。


 辺りを見回すが特に自分の方を見る人はいない。低くて掠れた男性の声ったが、聞き覚えのない声だったように思う。

 気のせいかと視線を正面に戻したその瞬間、空を突き破るようにして真っ白い棒状の─光の柱のようなものが地面に突き刺さるのが見えた。そして光の柱は膨張し、強大な光が迫ってくる。

 上空から舞い下りたその光は地平線を飲み込み、激しい勢いで土砂を舞い上げ、建物を砕き取り込んでいく。

 叫ぶよりも前に体が光に包まれ、一瞬にして全身が焼かれるような激しい痛みに襲われ……


 すぐに痛みは消えた。


 ……そして今いるのはこの森の中である。

「どういう……こと……?」

 混乱と思い出した恐怖で額に熱が集まる。

「なにあれ……私……死んだの、かな……」

 激しい痛みに襲われたはずだが、体を検めてみるとどこにも怪我はない。服にもなんら変化は無い。

「でも……おかしいよな。死んだんだったらなんでCDとかそのまんま持ってるわけ?」

 想像豊かにいろいろな発想が生まれは消えたりしたが、想像でしかない思考では、答えは出せるはずもなかった。すぐさま冷静に目の前の事柄を分析し、合理的に考えて、想像を広げ、そして思考する。どんな状況でも事実と想像を思考し頭を働かせるのが、この人物の性質らしい。だが、答えはまったくわからず頭を抱える思い。

「とりあえず……この森から出た方がいいかな?」

 考えながらもじっとしているのには向かない性質だった。歩き出すと、地面には落ち葉がぎっしりと敷き詰められているので、踏むと一歩一歩やわらかい感触が、スニーカーの底から伝わって来る。都会育ちの彼女には、稀な感覚で最初は楽しんで歩くことができたが…。


 森の中はひっそりとしていて、木漏れ日がちらほらと刺し込んでいる。

「まさか戦争が本当に始まっちゃったのかな……でも日本が何で急に攻撃されるんだ?」

 なんの前触れもなく空から降ってきた光を再び思い出して、身震いする。戦争を実際に体験したことはないし、学校で知識として学んだ程度にすぎないが、恐ろしい物であるということは理解していた。しかし本当に戦争が起きたのだとしても、自分が今この森の中にいることの説明はつきそうにない。


 森は思いの外広く、闇雲に歩いていても密集して並ぶ木々が途絶える様子はない。

「やっぱダウンロードにしとけば良かったかな……せっかく買ったCDが聞けない」

 独り言を呟いてすぐさま閃く。

「そうだ! スマホ! 警察に電話! 迷子になりましたって!」

 遅れながらも今更に気づいた存在をバッグから取り出しボタンを押したが、画面は真っ暗のままだ。ボタンを長く押しても、電池パックを取り出して入れ直してみても、電源が入る気配はない。

「まじ!? 充電したばかりなのに!? ジーピーエスとか入らないかな……」


 できることといえば、歩く事と立ち止まる事、それと独り言を言う事だけだった。歩いていればそのうち森から出れるだろうと考え、進む。

「……そりゃ、流行りのソロキャンプは憧れてたけど……」

 言葉に出しても誰が応えてくれる事もない、ひたすらに独り言でしかない。


 山の中なら傾斜に沿って下れば、山の麓になら人家があるかもしれない。しかし歩けども地面は平らなままで、行く宛を定めることもできず、状況もわからないまま二時間程も不安のまま歩いた。斜面のない森というのも珍しいのではないかと考える。

 一向に変わらない景色に、歩みを止め、項垂れる。そもそも、森の中を歩く知識も、山でどうすれば良いかの知識も、迷子になった時に迷子センターや交番に駆けつける以外の知識も無い。

「どうしてこんなことに……なっちゃったんだ……」

 泣きたい気持ちだった。見知らぬ場所に一人きり。訳も分からぬ状況にあるのだ。喉も乾いたが飲み物など持ってはいない。川があれば水を飲めるかもしれないが、地面は平行なままで、川がありそうな気配も無い。

 せめて太陽の位置でも見れば時間がわかるだろうかと頭を上げようとして、前方に動く人影をみつけた。

「……あ!」

 こちらに近付いて来るようだ。変わらぬ景色に心折れそうだった最中、期待を込めた眼差しで人影を見つめた。

「……?」

 人影は立ち止まり身構えて警戒する様子を見せるが、こちらの姿を確認してその構えを解いている。人影はこちらが人であることを認識すると、こちらに歩いて向かってきた。人に出会えて安堵する思いが溢れる。

 しかし相手が、姿をよく目視できる距離まで来ると、相手を見て驚いた。

「が、外国人……?」

 相手は地毛と思われる茶髪に明るい色の目をしている事がわかった。風貌からして25、6才ほどであろう。大柄な男だった。皮の上着を羽織っており、大きな弓を背負っている。相手もこちらの様子を伺っているらしく、グリーンの目が釘付けになっている。

「あ、あの……へ、ヘロゥ……」

 声を掛けたくて発した言葉に、相手は首をかしげた。なんとかこの状況を打開したいという意気込みで、会話での意志の疎通を試みる。

「フェア、イズヒィア? えと、あいム ロスト。フェアイズヒア? プリーズ、テルミー、おねがいします……」

 自分が情けなくなる気持ちと、意味が通じるように祈る気持ちで、たいそう複雑な顔になってしまった。

 その呼びかけにグリーンの瞳が見開かれる。

「なんだ、オマエ? イグル語なんか喋って……こんな所で何してるんだ」

 返ってきた言葉は、聞き馴染んだ言葉、日本語だった。日本語を聞いてふっと力が抜ける。安堵の息がもれて、目の端に涙が浮かんだ。

「うぅ……ここどこぉ? ねぇ、家に帰りたいよ……」

「お、おい!? ど、どうしたんだ!? オマエ!!???」

 今にも泣き出しそうな女性に出会い、当然困惑する青年。








202312 拙い文章をあらためて修正加筆しています。

でも拙さがいつまでも無くならない・・・不思議ですね。

(文章力の問題)

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