母様
「アイサ、それにお嬢様もいらっしゃいましたか」
「お嬢様、執事長が少々アイサと話があるのでこの儂といましょう。他の者は少し立て込んでおりましてな」
二人のその姿に私は違和感を覚えた。その氷でできている体のようにいつも冷静な執事長のコヲの顔に焦りのような不安のような面立ちで、先生も笑っているのにそれが作り笑いだと分かった。
「ねぇ、どうしたの?」
私はコヲの裾を掴んで訊ねると二人の顔に一瞬悲しそうな目をした。
「いえ、大丈夫ですよ。お嬢様は何も心配することはありません」
コヲは私にそう言った。
その瞬間、体から空気からピシッと何かが、氷の壊れる音と響いた。
「お嬢様!」
次には体から力が抜けて、倒れてしまった。
「お嬢様!?」
アイサが私の体を抱きしめる。
でも、その感覚はあるのに目の前に映るのは別の光景、母様の背中が赤く染まって倒れていく。その姿が見えた。
「母様ぁーーーーーー!!!」
叫んだ時、私の目には私を心配そうに見つめるアイサの顔を映していた。
「お嬢様! お嬢様!」
彼女は一心不乱に私の名前を呼んでいたけど、私は彼女の腕を払って、飛び出して、部屋を出た。
飛び出した部屋から私の名前を呼ぶ執事長と先生の声が聞こえたけど、私は振り返らなかった。
今見た光景を信じたくなくて、母様が無事だと信じたくて、母様の私を見る優しい眼差しを見たくて私は長い廊下を走り出していた。
廊下には混乱したり何か焦っている何人かのメイドや執事、妖精、精霊がいた。
私が横切るとお嬢様と呼んでくれたが私はそれを無視して、走って、走って、走った。
そして、玄関ホールに行くと多くのメイドや執事、妖精、精霊がいて、その中心に私の母様の弟、叔父様と母様があの男と言った魔法使いのジーグルと二人に支えられてぐったりしている母様がいた。
「母様ーーーーー!!!」
私の声はホール中に響き、私の存在はその場の全員に感知された。
全員の視線が私に向けられたけど、私はそんなことを気にせず、母様の元に走った。
そして、母様のすぐそばに来た時。
「雪華、どうか嫌いにならないで信じて愛して」
そう言うと母様は私を強く抱きしめた。
その体はいつも温かいのに今はとても冷たかった。
「そして、いっぱい幸せになって」
その言葉を言うと母様は雪のかけらとなって消えた。
母様が消えた。
死んでしまった。