悲しみに暮れる外で
ピシっ、パン!
氷と氷が重なり、ぶつかり冷たい音を出す。
「うっ、うっ、母様ぁ」
それでもその空間の中心にいる少女はその音に意識を向けることなく涙を流す。
涙が少女の頬を濡らし、落ちると同時に彼女の周りに氷が生まれる。
そうして、流した涙は氷の床を濡らし、少女の周りには鋭い氷が他者を拒絶するように少女を守るように存在していた。その氷は空間を支配し上も下も覆い、全て氷を纏わせる。そこは少女を包み込む冷たい氷の世界となっている。
それでも、少女が涙を流すたびに声を出すたびに氷は生まれ、鋭さを増す。
その空間を区切るドアには人間では無い者達が少女の心配をしていた。
「ああ、なんて事なのでしょう。お嬢様はまだあんなに幼いのに母君を亡くすとは。こんな悲しい事があっていいのでしょうか」
「お嬢様の母君の弟君が王国首都で変わらず一族の仕事をこなす上に母君を殺した者を探しているがまだ見つからないらしい」
「魔法使い殿の方も捜索を行っているが見つからないらしいわ」
「お嬢様にこれ以上負担になる事は無いが、精神、心の方が心配だ」
「ああ、お葬式が終えてから、もう四日とダンスホールに閉じこもって泣いているな」
「お嬢様には魔力があるから栄養失調になる事は無いですがこれ以上は不安ですわ」
「だが、お嬢様が生み出す氷のせいで我らは近づく事が出来ない」
「ドアも氷のせいで開ける事ができない。中の様子も確認できない」
「この状況をどうにかできる弟君も魔法使い殿もあと二日は帰ってこない」
「お二人が帰ってくるのが早いかお嬢様が立ちなるのが早いか、それとも、お嬢様の体力の限界で倒れるのが早いかですね」
「どちらにしても時間がかかりますわね」
「時間が母君の無くした傷を痛みを和らげてくれるといいが」
そんなガラスや氷に命を吹き込まれた使用人達、妖精達、精霊達はただただ少女を心の底から心配をしていた。
だけど、そんな使用人達の心配は少女には届かない。
少女は悲しみの海に沈んでいく。
母親を亡くした悲しみを、嘆きを、声に涙に氷にしてこぼす。
母親と最後に楽しんだ時間を過ごしたダンスホールで。
母親と舞踏会のダンスの真似事をした場所で。
母親と父親が幸せそうに踊っていた場所に。
少女はもう二度と戻らない温かさと幸福を嘆き涙を落とし、氷を生み出す。
そんな少女を見つめる者がいた。
その空間の外に、窓の外に、館の外に少年がいた。
悲しみに暮れる少女は少年に気が付かない。
だが、少年の目には少女が映っていた。
そして、少年はなにか決心した顔をすると。
少女に空間の外から、窓の外から、館の外から声をかけた。
「なぁ、何でお前、こんな広い場所で一人何だよ?」