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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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番外編『夏花と晴臣』

なななんさんのリクエストで、書いてみました♪

リクエスト、ありがとうございました!


 素直に喜べないな。


 私はそう思いながら、どこかぼんやりとしている晴臣の手元を見た。


「晴臣、食紅入れすぎ」

「え? わ、やべ」


 晴臣は手元の上新粉で作った餅に、ポタリポタリと食紅を垂らしてしまっている。


「どうしたの、晴臣」


 なんて、本当は理由を結衣に聞いて知ってる。

 晴臣の好きだった人が、タクマと付き合い始めたんだって。

 タクマの前でもみんなの前でも、今までと変わりなく笑っているけど、やっぱりちょっとおかしい。


「悪い、ちょっと夏花の餅くれないか?」

「しっかりしなよ、老舗和菓子店の息子でしょ」


 私が練っていた、まだ白いお餅を晴臣に渡してあげる。

 色味の濃くなっていたお餅は、私のお餅を加えてもまだピンクにならず赤いままだった。




 晴臣は私の気持ちを知ってるのか、よくわからない。

 バレンタインデーに手作りしたチョコレートは見事玉砕を食らって返された。

 その時は別に告白したわけでもなく、友達のノリで渡しただけなのに。

 私がどれだけショックを受けたか、晴臣は知らないんだろうな。

 結衣は私の気持ちを知ってるけど、私って顔に出ないタイプのせいか、そんなに真剣じゃないと思われてるみたいだし。


 だから、晴臣が振られたって結衣に聞いた時、私は素直に喜べなかった。


 晴臣も、同じだって思ったんだ。

 私と晴臣じゃ、全然タイプが違うけど。

 感情が表に出ない私と、感情を押し隠して何事もなかったかのように笑ってる晴臣。

 どこか似てるなって。

 誰も気にしないようにって笑っている晴臣の顔を見ると、痛々しくて仕方なかった。

 晴臣の好きな人が、私だったらよかったのに。




 座学の時間になると、教室に移動する。そして鞄に手を突っ込んで教科書を探った。

 ん? あれ?


「どうした、夏花」

「……調理理論の教科書忘れた……」

「ハハッ、夏花でもそういうことあるのかー!」


 晴臣は笑って、当然のように自分の教科書を真ん中にバサッと置いて隣に座ってくれる。

 料理理論は製パンコースと一緒にやってるから、晴臣はいつもヒロヤやタクマと一緒に座っていることが多いんだけど。

 ちょっとだけ、自分のうっかりに感謝した。




 ***




「告白しちゃえば?」


 大和さんという人と付き合っていて、現在無敵状態の結衣が、簡単に言ってくる。

 夏に振られた晴臣も、冬になった今では傷も癒えて次の恋に目を向けているはず……というのが、結衣の考え。

 本当にそうだといいけど、わりと結衣は能天気だから信用しきれない。


「夏花もバレー仲間のクリパ来る? 晴臣の家でやるんだけど」


 晴臣の家で、クリスマスパーティー。

 あああ、すっごく行きたい。

 けど私はバレーにそんなに興味なくて、試合をちょっと覗くくらいしかしてない。

 だから、そんな中に部外者が入って行くのは、ちょっと緊張するな……。

 タクマやヒロヤや一ノ瀬はよく知ってるからいいけど、私、あんまり知らない人とワイワイするのは苦手なんだよね。

 でも……。


「私が行っても、いいのかな……?」

「もちろんいいに決まってるよ! ねぇねぇみんな! 夏花もクリパ呼んでいいよね?!」


 夏花は学校が終わって、集まっていたバレー男子四人に声を掛けてくれる。


「ナツ来んの? べっつにいんじゃね?」


 タクマが何も考えもせずOKしてくれる。


「いいじゃん、夏花も来いよー! 面白れーぜ!」


 こっちも頭空っぽのヒロヤが楽しそうに笑ってる。


「夏花が来たいと思うなら、気にせず来ればいいよ。人数多い方が楽しいし」


 のっぽの一ノ瀬が、気にしている私の心を読んだようにそう言ってくれた。

 でも、晴臣は。


「……」


 ちょっとだけ苦く笑っただけで、なにも言わなかった。


 ああ。


 そうか、私。


 嫌われてるんだ。


「じゃ、夏花、時間だけどねぇ〜」

「やっぱりいい」


 結衣の言葉を制して、私は言った。


「え? 夏花?」

「あ、ごめん、クリスマスは家族で過ごすんだった」


 私は小学生みたいな言い訳をして、「じゃあね」と教室を出る。

 晴臣に私の気持ち、バレてたのかな。

 迷惑だったのかな。


 グシっと涙と拭った時、ガシッと誰かに肩を掴まれた。びくんと体が勝手に反応する。


「夏花、俺!」


 振り向くとそこには晴臣の姿があって。

 私はまたさらに驚いた。私のことだから、多分表情には出てなかっただろうけど。


「どうしたの、晴臣……」

「いや、俺、さっき、ちょっと嫌な顔してたかと思って……ごめん」


 嫌な顔したっていう自覚はあったんだ。


「別にいいよ。バレー関係者でもない人が来られるのは、嫌だろうってわかってたから」


 すごく冷めた声を出しているのが、自分でわかる。

 でもみんなは来ていいって言ってくれたのに。どうして、晴臣だけ。


「来るのはいい、ぜんっぜん問題ない」


 じゃあ、どうして。

 私は表情筋を駆使して、晴臣に顔で訴える。


「あー……あのさ、バレー仲間に鉄平さんって人がいるんだけどさ」


 鉄平? 名前はみんなの会話で聞いたことあるけど、どんな顔だったかは思い出せない。


「あの人、女に見境がないっていうか、手が早いっていうか、酔っぱらうとなにされるかわかんないっていうか……」


 つまり、鉄平イコール、クズ男ってことね。


「夏花、美人だからさ。絶対手ェ出されると思って」


 心配、してくれたんだ……?


「やばいと思ったっす!」


 なんで最後だけ敬語?!

 プッと私が吹き出すと、晴臣の表情も優しく緩む。


「多分、大丈夫だと思うんだけどなぁ〜。鉄平さんも、女の子連れてくるって言ってたし」

「ん……でもせっかく晴臣が心配してくれたから、クリスマスパーティーは遠慮しとくね」

「うん、ごめん」


 晴臣が私のことを心配してくれたのがすごく嬉しくて。クリスマスパーティーに行けない悲しみなんて、吐息だけですっ飛んでいく。


「気にしないで。わざわざ言いに来てくれてありがとう」

「今度なんか埋め合わせするからさ」

「え、本当?!」


 そう言った私の顔を見て、晴臣が目を広げている。

 思わず思いっきり喜んでしまったと、カーッと顔が熱くなる。


「べ、別に、埋め合わせなんていらないから、気にし──」

「っぷははは!! 夏花でもそんな顔するんだなー!! 今の、めっちゃいい顔してたよ!!」


 楽しそうに笑う晴臣。それを見るだけで、さらに耳までが熱くなってくる。


「じゃ、正月明けにでもさ、新年祝いにみんなで集まるか!」


 その言葉に、またまた私の顔は熱くなった。埋め合わせっていうから、晴臣と二人で出掛けられるのかと、勘違いしちゃってて。


「あの、集まるのは本当にいいから……」

「ん? そ?」

「その代わり、お願いがあるの」

「なに?」


 晴臣が笑顔で聞き返してくれる。

 こんなチャンス、もう二度とない。

 頑張れ。勇気出せ、私。


「来年のバレンタインのチョコは、受け取ってほしい……!」


 言った。勢いにまかせて言ってしまった。

 心臓の音がバクバク言って、今にも破裂しそう。


「え? あー……」


 こんなこと言って、完璧に私の気持ちに気付いちゃったよね。

 どうしよう、二人でお出掛けにすればよかった……。


「ん、わかった、受け取るよ」

「……ほ、ほんとに?」


 いつの間にか俯いていた顔を上げると、晴臣がゆっくりうなずいてくれた。


「ごめんな、今年は突き返して」

「う、ううん、大丈夫」


 頭が、ふわふわする。足元が覚束ない。

 ただの埋め合わせの代わりで受け取るって言ってくれただけで、喜ぶようなことじゃないのはわかってる。

 でも、私の心はどうしようもなく浮かれてしまって。


「二月、待ってるから」


 晴臣の言葉に、私は泣きそうになった。


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