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08.住処

 私は手の中のスマホを確認した。


『八日の午前十時頃に鳥白駅に着く予定です。よろしくお願いします』


 拓真くんからのメッセージ。今日がその八日で、現在九時五十分。

 ああ、ドキドキする。橋渡しをしてくれた颯斗くんに今日会うことを伝えたら、デートだって言われちゃったし。

 デートとかじゃなくって、拓真くんの住む場所の視察を、お手伝いするだけなんだけど。


 私は車を降りて駐車場を出ると、駅の西側の改札口の前に立って拓真くんを待った。少しすると、電車から降りてきた人で改札口は溢れかえる。

 拓真くんは背が高いから見落とすことはないと思うけど……どこだろう?


「園田さん!」


 え!? 拓真くんの声、どこから??

 よく見ると、まだ改札口を通ってない向こう側から私を見つけて、手を振ってくれていた。よく気づいたなぁ。私、身長低いのに。

 改札を通ると、拓真くんは走り寄ってきてくれる。こういうの、なんかいいなぁ。


「拓真くん、久しぶり」

「園田さん、今日はよろしくお願いします!」

「そんな、堅苦しくしなくていいよ。いつも颯斗くんと話してるみたいに、気楽にしてほしいな」


 そう言うと、拓真くんは「ありがとう!」とニッコリ笑ってくれる。かわいい。写真撮りたい。

 私は早速、拓真くんを車に乗せてエンジンを掛けた。この車は小回りのきく軽自動車で、私にはちょうどいいけど拓真くんには少し小さいみたい。

 助手席に乗った彼の足はつっかえて、座席を一番後ろにまで下げていたけど、まだまだ窮屈そうだった。


「ごめんね、小さい車で」

「いや、こんなもんだよ」

「拓真くんは身長いくつ?」

「一八〇センチ」

「うわ、やっぱり大きい!」

「バレーやってたら、これくらいゴロゴロいるよ。俺もあと、五センチは欲しかったなぁ〜」


 一八〇センチもあれば十分だと思うけど、やっぱりスポーツ選手はもっと高くありたいのかな。

 私は車を出すと、最初に拓真くんの通うトキ製菓専門学校に行った。その次は家の候補数軒を見て回る。

 それぞれに良し悪しがあって、拓真くんは中々決められないみたいだった。途中、遅い昼食を食べにレストランに入る。


「うーん、やっぱ学校に近い方がいいけどなぁ。あそこ、家賃高いしなぁ」

「二番目に見たところは?」

「あそこから市立の体育館って遠いよな?」

「うん、そうだね。逆側だから」


 どうやらバレーは続けたいみたいで、しきりに体育館の場所を気にしてる。


「それに、コンビニも近くになかったしなぁ」


 コンビニまで気にし始めたら、それこそ決まんない気がするな。

 でも多分、拓真くんの条件は、私の住んでるアパートに当てはまってると思う。

 私の家から製菓学校までは歩いて十五分、市立の体育館までは十分で行けるし、コンビニは出て道を挟んだ斜め向かい側にある。

 築年数は三十年近いから家賃は意外に安いし。しかも室内はリフォーム済みだから結構キレイ。

 でも、空きがないんだよねぇ……。すんごく残念。空きがあれば、絶対に私の住んでるアパートをオススメしたのにー!


「園田さんはどこに住んでんの? 病院の近く?」

「病院までは自転車で二十分かな。雨の日には車で行くけど、やっぱり二十分くらいかかるよ。私もコンビニを中心に選んだからねー」

「コンビニ近いんだ」

「うん、さっき通ったでしょ。コンビニオレンジ立原支店。その近くのアパートが私ん家なの」

「ええ!! あそこ!? めちゃくちゃいい場所じゃん!! 後でそこ連れていってよ!」

「う? うん!」


 拓真くんの勢いに押されて、つい頷いちゃった。空きがないって言えなかったよ。それは、拓真くんもわかってるだろうけど。

 いざとなったら、私が引っ越して拓真くんのためにあの部屋を空ける? でも引っ越し大変だしなぁ。今の家、気に入ってるし、そこまではさすがにできないや。

 拓真くんは間取りを知りたがって、家賃も気にしていたので教えてあげた。拓真くんは相当お気に召してしまったようで、何度も「いいなぁ」を繰り返してる。

 ……どうしよう、『私が引っ越すから、住んでいいよ』ってポロッと言っちゃいそうだ。ダメダメ、仕事の合間を縫って引っ越しなんて、今の私には無理!


 ご飯を食べ終えると、私の家に向かった。少し離れた駐車場に車を止めて、アパートに向かう。


「この二階の、一番奥が私の家なの」

「へぇ。うわー、マジでコンビニがついそこ! 学校もそこそこ近いし、体育館も……やっぱいいなぁ、ここ!」


 ああ、今、部屋を譲ってあげたら、めちゃくちゃ喜ぶだろうなぁ拓真くん。すごくその顔を見てみたい!!


「あ、あの、拓真くん……」

「あ、園田さん!」


 突如女の人に話しかけられ、声の主を確認する。後ろにいたのは、お隣の浜さんだった。


「浜さん、こんにちは」

「あらー、園田さんの彼氏?」


 浜さんは拓真くんを見て、目の下のお肉を盛り上げた。

 もう、このおばさんは……っ! そういう話が好きなんだからーっ!


「ち、違います! ちょっとした知り合いで……今年の四月からこっちに来るんで、住む場所を探すのを手伝ってたんです!」

「あら、そうなの? もう決まった? この近辺がいいの?」


 浜さんは私にじゃなく、拓真くんに目を向けて聞いてる。拓真くんはニコニコしながら、浜さんに礼儀正しく答えた。


「まだ決まってないです。この辺で物件があれば一番いいんですけどね。学校も体育館も近いし、なによりコンビニがそこだし」

「あらー。じゃ、うちの後に住む?」


 浜さんのその発言に、目玉が飛び出しそうなくらいビックリした。

 え……うちの、後??


「浜さん、引っ越すんですか!?」

「そうなのよ、下の息子も今年で高校卒業して、他県に出ていくでしょ。ずっと単身赴任させてた主人のところに、私も行こうかなって思って。一人で暮らすのは、寂しいものねぇ」

「そうなんですか……寂しいです。浜さんには本当によくしてもらって……」

「私も園田さんを置いて行くのは心配だわー。私の差し入れがなかったら、あなたコンビニ弁当ばかりなんだもの!」

「は、浜さんっ」


 きゃーー、やだーー!!

 拓真くんの前で、コンビニ弁当バラさないでーーッ!


「あ、あの……っ。本当にここに俺が住んでいいんですか!?」


 私の心の悲鳴なんか気にもせず、拓真くんは嬉しそうにキラキラしてる。

 浜さんがいなくなっちゃうのは寂しいけど……拓真くんが私の隣に住むなら、すっごく嬉しい!!


「ええ、大家さんも喜ぶと思うわよ。空きなく入ってくれた方が、いいに決まってるもの」

「園田さん、俺ここに決めた!!」


 えええええ、早い、即決!?

 部屋の中見なくていいの!?


 とりあえずその後は大家さんに連絡して、浜さんの後に入りたい旨を伝えた。

 大家さんは快諾してくれて、次の週に拓真くんは池畑さんと来て契約を済ませたみたい。

 そして、ついに……ついに、拓真くんが隣に引っ越してくる時がきた。

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