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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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77/80

77.気持ち

『さぁ、後半戦も残り十五分を切りました。スコアは依然、一対〇と賛明高校がリードをしています。翔律高校にも少しずつ焦りが見え始めました』

『まだ時間はありますからね、落ち着いて攻めてほしいですね』


 サッカーは佳境に入って画面から目を離せない。私、サッカーをこんなに真剣に観たのって初めてかも。やっぱり知り合いが出てるからかな。


「厳しいなぁ。三年の相手ディフェンダー、すげー上手ぇよ。ハヤトはデカくなったっつってもまだ高校一年だしな。どうしてもフィジカル負けする場面が出てくんだよなぁ……」


 拓真くんは自分のことのように悔しがりながら観てる。

 テレビの中の颯斗くんは、パスを受けて走り出そうとした。その直後に審判がピピッっとホイッスルを鳴らす。


「え、どうして?」

「オフサイドだ、フラッグ上がった。くっそ、あの三年が一人でオフサイドトラップしてなかったか?」


 私にはなんのことかよくわからなかったけど、テレビの解説者が同じようなことを言ってた。


「颯斗くん、悔しそう……」

「だなぁ……」


『翔律高校、苦しい時間帯に入ってきました』


 観てるこっちも苦しいよ〜。颯斗くん、頑張れー!

 でもその応援も虚しく、試合終了時間は過ぎちゃった。残りはアディショナルタイムだけ。


「ああ〜、これで終わりかぁ……」


 私がガックリと肩を落とした時。


『大屋選手からの絶妙なパスが通ったーー!!』


 アナウンサーの興奮の声がスピーカーから飛んでくる。

 私と拓真くんは同じように前のめりになった。


『島田選手、決められるか?! あーーーッ!! ゴールポストに嫌われたー!! っと、ここで試合終了のホイッスルー!!』


 長い三回の笛が鳴って、ガックリと膝をつく颯斗くん。うわぁ、これはつらい。見ていられない。


『準決勝進出の切符を手にしたのは、賛明高校でした!! 翔律高校、無念です……!』

『いやー、素晴らしい試合でしたね。島田選手と大屋選手はまだ一年ですからね、来年が楽しみです』


 ここで負けて、全国ベストエイトだったんだね。

 サッカーのことはよくわからないけど、すごく惜しかった試合だっと思う。


「ハヤトが観なくていいって言ってた意味がわかったな。ああいう負け方すると、マジでキツイと思うわ」

「そうだね……」

「まぁハヤトは来年も再来年もあるしな。マジでいつか全国制覇しちまいそうだ」


 拓真くんはそれを想像したのか、目を細めて笑ってる。

 本当に近い将来、全国制覇の吉報が届きそう。


「来年は、スタジアムで観戦してぇな」

「そうだね、盛り上がりそう!」

「一緒に行くか?」


 拓真くんが当然のようにそう聞いてくれた。

 一緒に……? そ、それはもちろん、嬉しいんだけど。

 ベッドから立ち上がった拓真くんは、DVDを取り出してケースに片付けてる。


「今日で、終わりじゃないの……?」

「なにが?」

「だって私、告白したよね?」

「言ったか?」


 えええ?! まさか私の最大の告白、届いてないの?! うっそでしょー?!


「し、したよ! でも、付き合ってはもらえないんでしょ?」

「うーん」

「理由はなんとなくわかってるけど……ちゃんと聞かせて。覚悟は……今、したから」

「わかった。元々、これを見終えたら言うつもりだったし」


 真っ直ぐ向けられる視線。こういう男らしいところは好きだけど、なにを言われるのかは怖い。


「付き合わねぇってわけじゃねぇんだよ。俺の気持ちの問題っつか」

「気持ち……?」

「ミジュは医大の看護師で、いくらもらってんのか知んねーけど、結構稼いでんだろ?」

「う、うん、まぁそれなりには」

「ミジュは大人で、酒も飲めて、稼いでてさ。俺はこれから学校を卒業してもすぐに店を持てるわけじゃねーし。修行して、金貯めて、店を出すって夢を叶えるために、借金をすることになると思う」


 そう……だよね。


「その店が上手くいくって保証があるわけでもねーし。ミジュはその……もう二十六だろ? 多分、俺を待ってられないと思うんだよな」

「わ、私、結構貯金あるよ?! 拓真くんの夢を、支援できると思う!」


 思わず立ち上がって訴えたけど、拓真くんは笑顔になってくれなかった。


「そーいうんじゃねーの! ってかミジュってマジで結婚詐欺に遭いそうで、心配するわ」

「こんな提案するの、拓真くんだけだよ! 他の人になんか、しないから!」

「その気持ちは嬉しいんだけどさ。見通し立たない間は、無責任に付き合えねぇかな」


 真っ直ぐ目を見て言ってくれる拓真くんの気持ちは、よくわかった。

 確かに何年も待たせることになるなら、年上の彼女を作るのを懸念するのは当然だし、それは優しさだと思う。

 でも、それでも、私は。


「拓真くんが以前、早く稼ぎたいって言ってたのは……どうして?」

「金があれば、見通しも立つだろ。年上でも、気にせず付き合えられるようになっから」

「その年上の人って……私で、合ってる?」

「今さら、不倫疑惑なんて出してくんなよ。ミジュで合ってる」


 ミジュで、合ってる。

 その言葉を聞いた途端、全身の血がわっと沸騰したかのように熱くなった。

 どうしよう……嬉しい。


「ようやく俺の気持ち、伝わった?」

「う、うん……伝わったよ」

「そっか。よかった、ホッとした。」


 拓真くんの好きな人は、ちゃんと私だった。

 よかった、私の方がホッとしたよ。


「で、ミジュは?」

「わ、私の気持ちは伝えたでしょ!」

「ちゃんと聞きてぇし」


 うっ。確かに、好きとは言ってないもんね。

 ああ、やっぱり伝えるってドキドキしちゃう。

 拓真くんはなんかニヤニヤしてるしー!


「わ、わかるでしょ、言わなくても!」

「俺、鈍感だからわっかんねぇし」


 もう、こんな時だけ鈍感を利用してー!


「す、す、好きだよ……」

「なに? 聞こえねぇ」

「好き! 私は拓真くんが、大好き!!」

「ちょ、声でけぇって! リナが起きんだろ!!」


 慌てて私の口元を押さえる拓真くん。

 隣のリナちゃんの部屋からなにも物音がしないのを確認して、ホッと胸を撫で下ろした。


「ったく……」


 拓真くんの言葉と同時に目を見合わせ、フッと笑う。

 そしてそのまま拓真くんの顔が近付いてきて。


「やべぇ。俺サッカー観てる時から、ずっと我慢してんだけど」

「な、なにを?」

「キスしてぇのを」


 わわ! どうしよう……蒸気機関車並みの蒸気が出ちゃってるかも!


「で、でも、私たち……付き合わないんでしょ?」

「付き合うっつったら、していいか?」

「ちょっとなにそれ、したいだけ?」

「ちげーよ、真剣に付き合いたい。色々言っちまったのは……ミジュの収入を当てにして付き合うって、思われたくなかっただけだ」

「そんなこと、思わないよ」


 拓真くんに伝えると、コクンとうなずいてくれる。


「俺と付き合うかどうかは、ミジュが決めてくれ。リスクがあるのは、ミジュの方だから」


 そんなの……そんなの。

 答えなんて最初っから決まってる。

 私の二年間の想いを、舐めないで!


「拓真くん。私とお付き合い、してください」

「いいのか? そんな簡単に決めて」

「簡単な、ことだよ。拓真くんとずっと一緒にいられるなら、それでいいんだから」


 私の言葉に、拓真くんは『困った女だ』とでも言いたそうな顔で笑ってる。

 拓真くんの大人びた顔が、さらに大人に見えた。

 大きな拓真くんの手が私の頰を優しく撫でて、その顔をゆっくり接近させてくる。

 拓真くんの吐息が、肌に当たる。

 ドキドキして、嬉しくて……でもちょっとだけ、怖い。


「ちゃんと好きだから。いいか?」


 私は耳まで熱くなりながら、目をぎゅっと瞑ってうなずいた。

 するとうなずいたままの顔はグイと上げられて。

 そっと、優しく、唇を奪われた。

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