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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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76.ビールとサッカー

 私もそっと玄関のところまで行ってみると、拓真くんが桜助くんの母親と話しているのが聞こえてきた。


「遅くなっちゃって、すみません」

「いえ、リナがお世話になりました。ありがとうございます。ほら、リナも挨拶」

「桜助くんのお母さん、ありがとー!」

「オースケ、リナと仲良くしてくれて……ありがとうな?」


 うわ、なんか言い方が怖いよ、拓真くん!


「リナ、また遊ぼうな! 今度は泳ぎに行こう!」

「うんー!」


 元気な小学生の声がする。顔は見えないけど、複雑そうな顔してるんじゃないかなー、拓真くん。

 拓真くんとリナちゃんがさよならの挨拶をして帰ってくる。リナちゃんは屋台の光るオモチャを手にして、ニコニコ顔。


「おかえり、リナちゃん。楽しかった?」

「ちょー楽しかった! 桜助くんと一緒に、綿菓子食べたんだよ!」

「わー、よかったね!」

「いっぱい汗かいちゃった。ね、もう一回一緒にお風呂に入ろうよ、ミジュちゃん!」


 そう誘われて、私はリナちゃんと一緒にもう一度お風呂に入ることになった。

 汗を流してさっぱりして出てくると、池畑さん夫妻が居間でケーキを食べていた。リナちゃんがズルイと言って、一切れもらってる。

 みんなに誕生日おめでとうという言葉をもらえた。それだけで嬉しいな。


「ねぇミジュちゃん、リナの部屋で一緒に寝よー!」


 ケーキを食べ終えたリナちゃんが、手を引っ張ってくる。私がいいよと答えると、無邪気にはしゃいでる。

 かわいいなぁ。拓真くんがかわいがるの、よくわかるよ。


「拓真、客間の布団をリナの部屋に運んでおいて。ちゃんと敷くのよ」

「おー」

「ミジュちゃん、私たちはお風呂に入ったら、申し訳ないけど先におやすみさせてもらうわね。パン屋の朝は早いのよ」

「あ、はい。おやすみなさい」


 パン屋さん、大変なんだろうな。うるさくしないように気をつけなきゃ。

 リナちゃんの部屋に私用の布団を敷いてもらうと、リナちゃんの要望で拓真くんもリナちゃんの布団に入った。リナちゃんは今日あった出来事を、嬉しそうに拓真くんに話してる。


「でね、その時桜助くんがね」

「オースケの話は聞き飽きた。もう寝ろ、昔話してやるから」

「もうお兄ちゃんったら、リナはもう子どもじゃないよ」

「そんな台詞は二十歳を過ぎてからにしろ。昔話、しなくていいのか?」

「して!」


 結局リナちゃんにせがまれた拓真くんは、ゆっくりとした口調で話し始めた。

 超有名な、主人公がきびだんごを食べて強くなる話。


「桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな……」


 その話が終わる頃には、リナちゃんもぐっすりと眠ってて。私は拓真くんに促されて、リナちゃんの部屋を出る。


「ミジュがよければ、俺の部屋でハヤトの準々決勝の試合観ねぇ?」

「颯斗くんの全国大会の試合? 観たい!」


 リナちゃんの隣の拓真くんの部屋に入ると、ベッドの上に腰掛けて、サッカー観戦になった。

 サッカーのルールなんて全然わからないんだけどね。まぁゴール数が多い方が勝ちだってことくらいはわかるし、楽しめるはず。知り合いも出てるし。


 テレビのアナウンサーが、実況中継をしてる。録画したDVDだから、もちろん今やってるわけじゃないけど。


翔律(しょうりつ)高校は一年生が二人もレギュラーに選ばれています。フォワードの島田颯斗くん、そしてミッドフィールダーの大屋智樹くんです』

『二人は共に山城(さんじょう)中学出身だそうで、小学生の時からのコンビだそうですねぇ。どんなプレイを見せてくれるのか、楽しみです!』


 アナウンサーと解説者が颯斗くんのことを言っててドキドキする。

 結果はもう聞いちゃって、知ってるんだけど。


「ハヤトはすげぇなぁ。あれだけブランクあって、それでも高校入ったら一年からレギュラー取って全国行っちまうんだから」

「すごく努力したんだろうね。颯斗くんのこんな姿見てたら、なんだか嬉しくて泣けてきちゃう」

『さぁ準々決勝、賛明高校対翔律高校、今キックオフです!』


 私と拓真くんは、一緒にベッドに座って颯斗くんの応援をする。

 サッカーってフィールドが広いから、走るの大変そう〜。


『翔律高校、序盤から積極的に攻めていきます。あ、抜けたか?! 抜いた!! あーっと、しかし賛明高校の守護神に阻まれてしまいました!』

『香山選手、ナイスセービングでしたね。しかし島田選手も果敢に攻めていていいですよ!』

「颯斗、序盤から飛ばしてんなぁ。わり、ちょっと観てて、酒とツマミ持ってくる。ビールでいいか?」

「あ、うん、ありがとう」


 ちゃんとお酒飲むって約束、覚えてたんだ。サッカー観戦しながらビール! 楽しそう!

 しばらくすると、拓真くんがビール二本とおつまみを持って戻ってきた。

 おつまみなんだろう。これ……餃子?

 拓真くんが缶ビールを開けて注いでくれる。私も慌てて拓真くんの分を注ぎ返した。


「んじゃ、乾杯」

「乾杯」


 ゴクゴクっと冷えたビールを飲むと、喉の奥をスカッと通り過ぎていった。

 もっと一気に飲みたいけど、怒られそうだしゆっくり飲まないとね。

 見ると、拓真くんは一口飲んで微妙な顔をして、三口飲んで味を確かめてる。


「どう? 飲める?」

「うーん、飲めなくはねーけど、そんな美味しいもんでもないな。炭酸水に麦茶の袋をぶち込んだみたいな味」

「ふふ、慣れると美味しいんだけどね」

「まぁこれだけ飲むわ。ミジュもそれ一本だけな。俺はまだ、ミジュとこうしていてぇから、潰れるの禁止」

「わ、わかってるよ、潰れないし!」


 こうしていたいって言ってくれるのは嬉しいんだけどね。言い方!

 こんな風に二人っきりで夜を過ごせるのも最後かもしれないんだから、絶対に潰れたりしないよ。もったいない。

 私はもう一口ビールを飲むと、つまみに手を伸ばした。口にするとパリッといい音がして、トロリとチーズが溢れ出す。

 この塩気……めちゃくちゃビールに合っちゃうじゃない!! ビール一本じゃ足りないやつ!!


「これも拓真くんの手作り?」

「そんなの、餃子の皮にチーズと生ハム入れて焼いただけだから、全然手間かかってねーよ。手作りのうちに入んねー」


 いやいやいや、手作りでしょ! 手作りだよ!!

 どうすんの、こんな美味しいもの出して!! ほら、もうビールが空になっちゃったじゃない!!

 もう一本……飲みたいなぁ。ダメかなぁ。


「そんな顔してもやんねーぞ。一本だけって約束だっただろ」


 私の心を読んだのか、拓真くんは呆れたように言って自分のビールをゴクッと飲んでる。

 美味しくないって言いながら飲むんだったら、私に欲しいくらいだけど。でも、〝拓真くんと一緒に飲む〟っていうのが目的だしね。もう私、飲み終わっちゃったけど。


「それに、わけわかんなくなっちまった相手に、手ェ出したくねぇしな」

「え?」


 今の、どういう……

 聞き返そうとしたら、アナウンサーの大きな声の実況にが部屋に響いた。


『翔律高校の攻撃、ディフェンダーに阻まれます! おっと、カウンター! 早いパス回しで一気にトップまで……ゴーーーール!! 決まったーーッ! 賛明高校先制点!! 前半三十二分、翔律高校の激しい攻撃を凌ぎ、先にゴールを決めたのは賛明高校です!!』


 盛り上がる実況とは反対に、私達は肩を落とす。


「……入れられちまったな」

「うん……仕方ないね」


 結果はわかってるけど、頑張ってほしいって思っちゃう。

 悔しいなぁ。私でさえ悔しいんだから、フィールド上にいる颯斗くんはもっと悔しいんだろうな。頑張れ。

 私は拳を握り締めながらテレビを見つめた。

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