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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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75/80

75.やってほしいこと

 祭りは九時までみたいだったけど、八時過ぎに『うさぎ』に戻ってきた。

 同じように帰る人たちが、ここのパンを買っていこうとしていて、夜なのに結構な盛況ぶり。

 中には拓真くんの知り合いもいるみたいで、何人かに話し掛けられてる。


「あら、拓真くん久しぶりねぇ」

「おばちゃん、いらっしゃい」


 そんな会話をしながら客の波を抜けて、レジ前の池畑さん夫妻の前までやってきた。


「あら、拓真。もう帰ってきたの?」

「うん、リナは?」

「まだ帰ってきてないわよ」

「店、手伝わなくて平気か?」

「やることあるんでしょ、こっちは気にしないの!」

「ん」


 拓真くんはそれだけ言うと、私の手を引っ張ってきた。レジの奥に入り、そのまま工房を抜けて拓真くんのお家に帰る。


「ミジュ、まだ食えるか?」

「え? うん、パンを買おうと思って、あんまり食べてないから」

「んーじゃあ、俺の部屋で待ってて、持ってくるわ」


 拓真くんは部屋に案内してくれた後、多分お店に戻っていった。

 ここが、実家の拓真くんの部屋……なんか、なんか、部屋が若い!!

 かわいいアイドルのポスターとか張ってあるよー、ビックリ。でもその隣に男子バレーのポスターもある。どういう組み合わせ。

 多分、この部屋は高校卒業時で止まってるんだろうな。

 本棚も、バレー雑誌が多いなぁ。そしてレシピ本も多い。バレー雑誌とレシピ本って、なんだかすごくアンバランスな本棚だね。


「そんなに一生懸命見ても、そこにエロ本は置いてねーぞ」


 後ろから声が聞こえてビクリとする。

 そ、そんなの探してないよ!! って、どこかには置いてあるの?!

 振り向くと、拓真くんが小さなテーブルの上にケーキを置いてた。それも、ホールケーキ。


「えっ、拓真くん、それ……」

「今日は誕生日だろ? 昼間、パン焼いてる合間に作った」

「うわぁああ……」


 すごい。スタンダードな生クリームのデコレーションケーキ。上には苺と、Happy Birthday って印刷されたチョコのプレートに〝ミジュ〟って名前を書いてくれてる。

 さらにさらに。


「すごい、これ……もしかして、私?!」


 ナース服を来て、ナースキャップを被った女の子が、ケーキの上に乗ってる。

 今はナースキャップを被るところはほとんどないし、私も被ってないんだけど。


「あんま、似なかったけどな。マジパンで作ってみたんだ」

「す、すごい、細かい……っ! かわいい!!」


 こんなのまで作れちゃうんだ! すごいよー!

 拓真くんは律儀に細い蝋燭を二十六本挿して、ライターで火を点けてくれる。

 そして、部屋の電気を消した。


「んじゃ、誕生日おめでとう。消してくれ」

「歌ってくれないの?」

「ケーキならいくらでも作っけど、それは無理。恥ずい」


 まぁそうだよね。私も歌えって言われたら、ちょっと無理かも。

 私は二十六本も火の点けられた蝋燭を吹き消した。こんな大きなホールケーキで誕生日、いつ以来だろ。

 もう一度拓真くんが「おめでとう」と言ってくれる。そして暗くなった室内で、電気のスイッチを探して点けてくれた。


「食べるか?」

「うん……でもいいの?」

「食ってもらうために作ったんだから」

「リナちゃんとか、池畑さんと一緒に食べた方がいいんじゃないかと思って」

「いいよ、別に。後で勝手に食うだろ」


 拓真くんは気にせずにケーキを切り分けてくれた。当然のことながら美味しくないわけがなく、ペロリと一切れ平らげちゃう。


「ミジュがハードル上げてきたから、誕生日どうしようか考えたんだけどさ。結局俺にはこれしかできなかったな」


 食べ終わったお皿を重ねながら、拓真くんは自嘲するように言う。気にしなくていいって言ったのにね。


「灯篭祭りにも連れてってもらったし、大きなホールケーキでお祝いしてくれたし充分だよ。すごくいい思い出になっちゃった」


 結局拓真くんとは付き合えることもなさそうだし……。

 このいっぱいの思い出を、胸に大切に仕舞っておこう。

 付き合えないってことを考えると、心が泣きそうになるけど、今日は最高の一日で終わらせたい。だから、泣くのは明日以降だ。


「誕生日のプレゼント、なんも用意できなかったからさ。なんかやってほしいこと、ないか?」

「やってほしいこと……なんでもいいの?」

「んー、まぁ俺ができそうなことならなんでも」

「じゃあ私、拓真くんと一緒にお酒飲みたい!」


 拓真くんの誕生日の時に思ってたんだよね。一緒にお酒……楽しそう。


「ミジュ、酒癖悪ぃからなぁ」

「失礼な、悪くはないよ?!」

「まぁいいけど、本当に危機感ないよな」

「そんな、前後不覚になるほど飲まないってば」

「いや、そうじゃなくて」


 ん? そうじゃないの?

 拓真くんはやっぱり呆れるように私を見てる。


「俺、酒飲んだことねーから、飲んだらどうなるかわかんねーぞって話」

「え、全然飲んだことないの?」

「洋菓子作るときに、コアントローとかアルコール飛ばさずに作って食うことはあるけど……そんくらいだなー。同級はまだ未成年も多いから、一緒に飲んだりもしねぇし、機会がなかった」

「わ、じゃあ私と飲むのが初めて? 飲もう!」

「ったく、どうなっても知らねぇからな」


 拓真くんが立ち上がった時、玄関の方から「ただいまー」とリナちゃんの声がした。拓真くんはその声を聞いて、ドタドタと慌てて玄関に向かってる。

 あ、もうお酒のことなんか忘れちゃってそうだなぁ、拓真くんは。

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