73.灯篭祭り
「ま、待って、拓真くん!」
母親から早く逃げるように、ズンズン進んでいく拓真くん。
ひゃあ、浴衣なんて着慣れてないし、足元は下駄だし歩きにくいよー!
先に行ってた拓真くんは少し戻ってくれて、私の手をスッと取って繋いでくれた。
「あぶなっかしー」
「あ、ありがとう……」
これ、デートだよね。
以前、結衣ちゃんと二人でパティスリーに行ってたみたいだけど、それはデートだと思ってなかったのかな……。
今はデートって言って、いいんだよね?
表に出ると、もう歩道のところに灯篭が灯されてある。それは浜辺へ降りる道へと続いていて、浜辺にもたくさんの灯篭が並べられてあった。
お昼に泳いだときにもすでに用意はされてあったけど、やっぱり夜に火を灯した風景は、情緒があるよ。火が揺らめくたびに、灯篭は優しく手招きしてくれてる。
「綺麗だろ?」
「うん、すごいね! こんなにたくさん灯篭が並べられてるとは思ってなかった!」
灯篭は、浜辺のずっと向こう側まで並べられてる。綺麗だなあ。
「あー……ミジュも綺麗だからな。それ」
「え?」
それ? あ、浴衣?! ついでみたいに言うからわからなかったよ。
拓真くんは照れ臭そうではあるけど、すごく嬉しそうでもあって。笑顔が素敵だなぁ。
「拓真くんも、甚平似合ってるよ。すごく……ど、ドキドキする」
「おぅ」
また緊張してきた。拓真くんはなんか平然としてるけど……どうなんだろ。
「ね、ねぇ」
「ん?」
「拓真くんはデートしたことないって言ってたけど……前に結衣ちゃんと二人で出かけてたよね?」
「一緒に出掛けたからって、デートってわけじゃないだろ」
「じゃあ拓真くんのデートの定義って、なに?」
「そうだなぁ……好き合ってる男女が、どこかに二人だけで出掛けること、かな」
好き合ってる男女……私は、拓真くんのことが好きで、拓真くんの方は……。
「い、今の私達は、デ、デートってことでいいのかな?」
「あー……どうだろうな」
えっ!! ち、違うの?! 拓真くんって、いつも引き寄せといて突き放すんだから……っ
それとも、私のことを好きなのかもなんて思ったのは、やっぱり自惚れ?!
「なにショゲてんだよ」
見てみると、拓真くんは意地悪そうに笑ってる。
も、もう……私のこと、からかって楽しんでるの?
「まぁなんか買って食べようぜ。腹減ってきた」
「あ! 私手ぶらで来ちゃった! お財布……っ」
「いいよ、俺出すから。ってか携帯も忘れたのか、はぐれんなよ。まぁ家はすぐそこだから、はぐれたら家に帰っとけばいいけど」
握ってた手を、ギュッと強く握りなおしてくれた。……やっぱり嬉しいな。
私達は出店を覗くとお互いに好きな物を買った。私はいちご味のかき氷とクレープ。
拓真くんは焼きそば、たこ焼き、イカ焼き、唐揚げ、牛串、フレンチドッグに焼きとうもろこしも食べてた。相変わらずすごい食欲。
「ミジュはそんだけでよかったのか?」
「うん、後でうさぎのパンも食べてみたいし……」
そんな話をして歩いてたら、目の前から歩いてきたカップルがすれ違いざまに声を上げた。
「拓真兄ちゃん、園田さん?!」
え? と思って見てみると。
「おー、ハヤト!」
「颯斗くん?!」
そこには島田颯斗くんがいた! うわー、すっごく久しぶり。颯斗くんが退院して以来かも。
隣にはかわいらしい彼女が、ペコリとお辞儀してくれてる。
もう高校生だったかな? 一時期はガリガリになってた体が、すごく大きくなってる。よかったなぁ。
「颯斗、聞いたぞ! 夏の高校サッカー、全国出場したんだって?!」
「あー、うん。ベストエイト止まりだったけどね」
「それでも一年でレギュラー取って全国で活躍なんて、すごいじゃねーか! 母さんが準々決勝の放送を録画したっつってたから、後で観てみるよ」
「げっ、それ負けた試合じゃん。観なくていーよ、別に」
「恥ずかしがんなって!」
拓真くんは背が高くなった颯斗くんの頭を、グリグリと子ども扱いしてる。やられてる颯斗くんは『しょうがないな』っていう風に受け入れてて、そこがまた成長を感じさせてくれた。
「で、拓真兄ちゃんと園田さんは、デートしてんだ?」
拓真くんの手から解放された颯斗くんが、ニヤニヤ聞いてくる。
うー、でもこれ、デートじゃないらしいんだよー!
私はガックリと肩を落としながら、そっと首を左右に振った。
「え!! 園田さんと拓真兄ちゃんって、まだ付き合ってねーの?!」
「誰が付き合ってるっつったよ」
「拓真兄ちゃん、あんま鈍いと一生独身だぞ」
「言ってくれんなぁ、ハヤト!」
「悔しかったら子どもみたいに手ぇ繋いでないで、俺らみたいに肩組んで歩けばー?」
そう言うと、颯斗くんは自分に彼女をグイッと抱き寄せて肩を組んだ。
うわぁ……それがまた、すごくお似合い。病院にいた頃より随分と男らしくなって、成人した男の人と遜色ないよ。
「じゃーな、拓真兄ちゃん、園田さん!」
颯斗くんは彼女とラブラブしてるのを、見せつけながら去っていく。
ずっと付き合ってるみたいだし、慣れてる感じがするなぁ。
視線を感じて見上げると、拓真くんが私を見てた。繋がれた手が離されて、肩に回されるのかと思いきや……。
「ちょっと、向こうの方で休憩するか」
そのままスタスタ歩き始めちゃった。
颯斗くん……その挑発は、拓真くんには逆効果だったみたいだよー!




