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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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72.浴衣

 先にリナちゃんが着付けを終えて出ていった。その後、池畑さんが私の着付けをしながら話しかけてくれる。

 浴衣は白地に藍色の、朝顔柄だった。


「ミジュちゃん、いつもあの子がどんな様子か教えてくれて、ありがとうね」

「いえ、拓真くんはいつもリナちゃんと連絡を取ってるみたいだし、必要なさそうなんですけど」

「そんなことないわよ。有難いわぁ」


 池畑さんは浴衣の丈を決めると、腰紐を結んでくれた。


「拓真は顔はおじさんだけど、根は子どもなのよねぇ」


 ちょ、池畑さん! 自分の息子の顔をおじさんとか……っ!


「全然おじさんじゃないですよ! 大人びてるだけで……中身も子どもなんかじゃなく、しっかりしてると思います!」

「あらぁ、ありがとう。で、拓真とは付き合わないの?」


 ええええ?! な、なにその質問!!

 どういう意味で聞いてるの? 付き合ってくれるなってこと??


「あの、そんな感じではないと思います、私たち!」


 慌てて否定すると、少し息を吐いたみたいだった。

 おはしょりを整え終えた池畑さんは、次に胸紐を結び始める。


「あの子、父親に似て鈍感だからね……友達は多いのに、恋人関係までは発展しないし。好きじゃなければ、こんなところまでわざわざ来るわけないじゃない。ねぇ?」


 ふぁ?! そ、それって私が拓真くんのこと好きってバレてるから言われてるんだよね?!


「あの、えっと、私……っ!」

「ふふふ、図星ね。耳まで真っ赤よ、ミジュちゃん!」


 や、やだ、カマをかけられちゃってたの?! 見事に引っかかっちゃったよーっ!

 池畑さんは最後に伊達締めを巻いて、蝶結びで綺麗に整えてくれた。


「ごめんねー、蝶結びしか知らないのよね、私」

「いえ、素敵に着させてくれて、ありがとうございます!」

「私はこの浴衣を着て、主人をたぶらかしたのよ。ミジュちゃんも頑張ってね」


 た、たぶらかし……?!

 で、でも池畑さんは応援してくれてるっぽいよね。有難いなぁ。

 さながらこれは、勝負浴衣ってとこなのかな。あ、エッチな意味ではなくて。

 わ、緊張してきた。

 今から拓真くんと……初デートなんだ。


 ドキドキしながら、拓真くんとリナちゃんの声がする方に向かう。

 先にリナちゃんが私に気付いて声を上げた。


「わーー、ミジュちゃんきれーーい!!」


 その声で、私の存在に気づいた拓真くんが振り返る。

 わ、拓真くんの甚平も似合ってる! 素敵だぁ……。


「ありがと、リナちゃん。リナちゃんもすっごくかわいい!」

「えへへへー、桜助くんも喜んでくれるかなぁ」

「うんうん、きっとかわいいって言ってくれるよ!」


 私たちがそんな話をする中、拓真くんは見向きもせずに我関せずを貫いてる。

 な、なんとなくわかってきた……! 拓真くんは色恋関係の話になると、逃げてこんな態度を取ってるんだ!


「拓真ー!!」

「いでっ」

「そういう態度を取るなって言ったばかりでしょーが!! 女の子が浴衣を着てるのに、なんのコメントもなしとか、親の顔が見てみたいわ!」

「俺の親は、母さんだろうが!」

「口答えせず、ミジュちゃんを褒めるの!!」


 きゃー、池畑さん、無理にはやめてー! 拓真くん、すごく困った顔してるよー!

 どうしようと狼狽えていたその時、玄関から「リナー!」と声がした。


「あ、桜助くんだ!」


 リナちゃんが喜び勇んで玄関に向かっていく。拓真くんが追いかけ、私と池畑さんも向かった。

 玄関には、桜助くんと呼ばれたニコニコ顔の男の子と、その母親らしき人が立っている。夜だし、さすがに子ども二人だけで行かせることはしないか。


「わ、リナ、浴衣かわいいじゃん!」

「へへ、ホント? ありがとうー!」


 小さなカップルはニコニコ顔ですごくかわいい。

 まぁ拓真くんは、そんな二人をへの字口で見下ろしてたけどね……。

 池畑さんが相手の親御さんに「よろしくお願いします」と頭を下げて見送った後、自分の息子を目の端に捉えて大仰に溜め息を吐いた。


「まったく、小学三年生でもリナの浴衣を褒めてたっていうのに……」

「くそ、オースケめ……」

「拓真も桜助くんを見習いなさい!」


 母親にきつく言われた拓真くんは、私に向き直った。そしてジッと私の浴衣姿を上から下まで順に見てくれる。

 なにを言ってくれるんだろう、ドキドキしちゃう。


「……とりあえず俺らも行くか」


 がくっ。

 もーー、やっぱりそうなるの?!


「拓真!」

「親のいるとこで褒められるかっての!! ほら、行くぞミジュ」

「あ、うん! じゃあ、行ってきます」

「はぐれちゃ大変だから、手を繋いで行きなさいよー」

「うっせー、子どもか! 母さんはもう黙っててくれよ!」

「ほほほー。行ってらっしゃーい!」


 池畑さんの楽しそうな声を背に、私たちは海に向かって歩き始めた。

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