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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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70/80

70.拓真くんの家へ

 少し落ち着くと、私は一度部屋に戻って着替え、準備していた旅行鞄を持って出た。それを拓真くんがサッと持ってくれる。

 そして一緒に駐車場に向かった。


「運転、大丈夫か? 寝てねぇんだろ?」

「ううん、結構しっかり寝たから大丈夫だよ」


 まだ胸はシクシクと泣いてたけど、いつまでも引き摺ってるわけにはいかない。

 しっかり運転しなきゃ。それでなくても私のせいで出発が遅れてるんだから。

 音楽をかけながら運転していると、助手席に座ってる拓真くんがウトウトしながら一生懸命に目を開けようとしているのが見えた。


「拓真くん、眠っても大丈夫だよ。近くにきたら起こすから」

「うん……悪ぃ。昨日……ほとんど寝てねぇから……」


 言うが早いか、拓真くんはグウグウと眠ってしまった。

 寝てないって……やっぱり、私のせい、かな……。

 申し訳なさの中に、少しの嬉しさが混じる。

 拓真くんの気持ちを本人に聞いたわけじゃない。だから、期待してはいけないんだけど。

 でも、周りの反応や拓真くんの態度を見ると、『もしかしたら』って気持ちが芽生えてくる。

 あとは、私の勇気だけだね。

 ちゃんと好きって伝えられるのかな。晴臣くんみたいに。


 海近市に入ると、拓真くんを起こして詳しい場所を教えてもらう。

 パン屋『うさぎ』は海の目の前のお店で、その裏が住宅になってるみたい。

 少し離れたところに海水浴用の有料の駐車場があって、そこに車を停めてから歩いた。


「うわぁ、本当に海が目の前。綺麗だね」

「だろ? ガキん頃なんて、毎日海で泳いでたんだ。遠泳だっつって調子に乗って泳いで、帰りにスタミナ切れて死ぬかと思ったなぁ」

「む、無茶するよ、拓真くん……」

「泳いでくか?」

「水着持ってきてないよ」

「レンタルもあるぞ」

「う、うーん、とりあえず、リナちゃんたちに挨拶させて?」


 拓真くんの前で水着って、ハードル高いよー! 家に泊まるってだけで緊張するのに、これ以上緊張を増やさないで……っ

 パン屋うさぎの前に来ると、拓真くんは「こっちにみんないるから」とお店の中に入っていく。私もドキドキしながら後に続いた。


「ただいまぁー」

「拓真、お帰り!」

「お兄ちゃん、おかえりなさーい! ミジュちゃんも、いらっしゃーい!」


 池畑さんがレジを打ちながら、リナちゃんはパンを袋に入れる手伝いをしながら迎えてくれた。


「ミジュちゃん、バタバタしてて申し訳ないわね」

「いえ、大丈夫です。明日までお世話になります」

「ちょっと拓真、レジ代わって。お昼ご飯作らなきゃ」

「あー、俺作っとくわ。なんでもいいだろ?」

「いい、いい! 助かるわー」

「ミジュ、こっち」


 一度店を出て裏に回ると、今度は普通の家の玄関から中に入る。店と家とは繋がってるみたいだけど、荷物もあったし、ちゃんと玄関から入ったみたい。


「お、お邪魔します〜」

「今みんな、パン屋の方にいっから、気楽にして」

「拓真くんのお父さんは?」

「裏でパン作りに精出してるよ」


 拓真くんは私の旅行鞄を和室に置いて、冷蔵庫を開けて中身を確かめてる。

 人の家って、ちょっとドキドキしちゃう。池畑家の香りっていうのかな。その家庭独特の香り。

 パン工房が裏手にあるからか、すごくいい香りがするな。

 拓真くんは、こんな家で育ったんだ。あんまり見ちゃ悪いかなと思いながらも、キョロキョロ見回しちゃう。


「ったく、ろくなの入ってねぇなー。ミジュ、トマトの冷製パスタとかでもいいか?」

「あ、うん、なんでもいいよ」

「んじゃあ、ちょっとバジル採ってくっから待ってて。すぐ来る」


 そう言って、拓真くんは水の入ったお鍋に火をかけてから、玄関前の小さな家庭菜園の方に行っちゃった。

 手持ち無沙汰な私は、さらにキョロキョロと見回す。

 あ、柱に身長を刻んでる! これを見ると、拓真くんが小学四年生の時にはすでに私の身長は抜かれちゃってるな。


「ただいま」

「おかえり」


 本当にすぐに帰って来た拓真くんがこっちを気にしながら、手を洗ってまな板を出してる。

 そして相変わらず手早くトマトの冷製パスタを作っちゃった。


「悪ぃんだけど、俺レジ代わってくっから、母さんたちと一緒に食べといてもらえねぇ? うち、昼の食事は交代制なんだ」

「あ、そうなんだ。わかった、ここで待ってればいい?」

「おー。すぐ来させるから」


 そう言うと、今度は玄関とは逆の方に消えていった。少しすると、池畑さんとリナちゃんがキャイキャイ言いながらこっちにやってくる。


「お待たせしてごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です」

「わーい、ミジュちゃんうちに来てくれて嬉しーい!」

「リナちゃん、すごく大きくなったねー!」

「ほら、リナもうミジュちゃんの顎のところまで身長あるよ!」


 うわぁ、これは本当にもう、抜かされるのは時間の問題だなぁ〜。

 私たちは席に着いて、拓真くんの作ったお昼ご飯をいただいた。

 それを食べ終えるとリナちゃんに誘われて、海に行くことになっちゃった。拓真くんはお店の手伝いがあるから、私は暇だしちょうどよかったんだけどね。


 結局水着をレンタルして、リナちゃんと二人で思いっきり遊んだ。

 朝、あんなに大泣きしてたのがウソみたい。思い出すと胸が痛いのは変わらないけど、リナちゃんのおかげで塞ぎ込まずに済んだな。

 泳ぎ疲れて帰ってくると、リナちゃんと二人でシャワーを浴びる。クーラーの効いた部屋で冷たい麦茶を飲んでいると、リナちゃんがアルバムを持ってきてくれた。わー、嬉しい!


「見て見てー、お兄ちゃんが小さい時の写真ー! かっこいいでしょー!」


 リナちゃんが自慢げに見せてくれる写真を見て、吹き出しそうになっちゃった!

 これ、今のリナちゃんと同じくらいの年なのに……拓真くんの顔、今とほとんど変わってないよー! 昔から、こんな顔だったんだー!

 拓真くんはあれだね、四十歳になっても五十歳になっても、今と顔が変わらないタイプだね、きっと。


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