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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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62.吊り橋効果

 部屋の温度が、一度上がった気がする。

 隣に座る晴臣くんの顔が近くて、それだけで耳が熱くなりそう。


「そういや、俺が最初にミジュさんに告白したの、この部屋でしたね。覚えてるっすか?」

「う、うん、覚えてるよ。 私の誕生日だったよね……」


 あれから七ヶ月。もうそんなに経ってたんだなぁ。


「俺、今もミジュさんのことが好きっすよ」

「し、知ってる」

「よかったー、忘れられてなかった!」


 いや、あれだけアピールされたら、忘れたくても忘れられないからね?!


「まだタクマのことが好きなんすか?」

「うん……ごめんね」

「悪いと思うなら、早く告白して、早く振られてくれたら嬉しいっす」

「その告白が、中々できなくて……晴臣くんはすごいよね。尊敬しちゃう」

「俺だって、毎回ドキドキしてんすからね?」


 そう言うと、晴臣くんは膝に置いてた私の手を、ギュッと握り締めてきた。

 たったそれだけなのに、心拍数がドンと上がっちゃう。


「……早く付き合いたいっす」


 そんな風に言う晴臣くんの顔を見てたら、少し切なくって。晴臣くんの気持ちに応えてあげられないことが、申し訳なくて心苦しい。

 でも、晴臣くんがそんな顔をしたのは一瞬だけで、すぐにいつもの明るい表情に戻った。


「ミジュさん、吊り橋効果って知ってますか?」

「吊り橋効果? あれでしょ、恐怖とか興奮のドキドキが、恋愛のドキドキと勘違いして、実際に恋愛感情を持っちゃうやつ」

「そう、それっす。ミジュさんをどれだけドキドキさせたら、勘違いさせられるかなぁ」

「ちょっと、試さないでよ?!」

「とりあえず、電気消してみていいっすか?」

「ええ?!」

「ちょっとだけ実験させてください。すぐ点けます」


 私が断る間もなく、目の前のリモコンでピッと電気を消されちゃう。


「うわぁ、真っ暗。なんも見えないっすね」


 うわ、これは確かにドキドキしちゃうかも。でもこれは暗いからじゃなくて、暗いところに男の子と二人でいるからだと思うんだけど……。


「じゃーミジュさん、なにか怖い話でもしてください」

「ええ? すぐ点けるんじゃなかったの?」

「終わったらすぐ点けます。病院ってやっぱ幽霊とか出るんすか?」

「私は見たことないなぁ。見える人には見えるみたいだけど。そう言えばよしちゃんは、亡くなった女の子がバイバイって手を振りながら、病棟の扉をすり抜けたのを見たって言ってたっけ」

「へぇ。なんか、想像よりもほのぼのっすね」

「そうだね、怖いって感じじゃないよね」

「じゃあ、俺もなにか一つ怖い話を……」


 あ、やっぱり言うんだ。怖いの、あんまり好きじゃないんだけどなぁ……。


「したいんですけど、知らないんすよね、怖い話」

「なーんだ」

「聞きたかったっすか?」

「ううん、怖い話はちょっと苦手だから」

「それじゃあ、怖い話を聞いてると思って、しばらくこのままでいさせてください」

「このままで? いいけど……」


 私の手は、晴臣くんに握られたまま。暗い部屋の中で、互いの息遣いだけが聞こえる。

 ずっとそうしているだけなのに、少しずつ心拍数が上がってくる感じ。隣の晴臣くんが気になる。どうしよ、すっごくドキドキしてきた。


「……ミジュさん」

「は、はい?!」

「抱きしめちゃ、ダメっすよね」

「そ、それはダメ」


 なにを言い出すの、もうー! 本当に心臓がドクドク鳴り出してきちゃったじゃない!


「じゃあキス」

「それ、むしろハードル上がってるよね?!」

「や、雰囲気でいけるかなって」

「いけないから!」

「じゃあ、肩だけでも抱かせてほしいっす」


 肩……うーん、肩かぁ。肩くらいなら、いいかなぁ。

 無理やりだったけど緑川さんに肩を寄せられちゃったこともあるし、晴臣くんにはダメって断りにくい。


「肩だけだからね?」

「わかってるっす」

「それ以上したら、駆血帯で締めるよ?」

「それはそれで、ドキドキするっすね」


 晴臣くんは軽く笑ってから、握っていた手を肩の方に移動させてくる。

 触れた瞬間に躊躇した手は、少しずつゆっくりと、私の肩を抱き寄せ始めた。


「やべぇ。ドキドキするっすね」

「す、するね……」


 暗い部屋で肩を抱かれて……なにやってるの、私?!

 でも本当にドキドキする。顔が燃えるように熱い。

 本当に吊り橋効果って、あるのかもしれない。

 少なくとも今この瞬間……

 晴臣くんのことが、好きになっちゃってる。


 このまま離れたくないって思ってる私は、どこかおかしいのかな。

 ベッドを背もたれに、晴臣くんの頬が私の髪に当たった。私も身を預けるように晴臣くんに寄りかかる。

 そうすると、逆にドキドキはなくなって、安心感が芽生え始めた。


 トクトクトクトク、晴臣くんの心臓の音が聞こえる。

 晴臣くんの腕の中はあったかくて、安心できて……なんだか幸せで。

 暗闇の中で、私はそっと目を閉じた。

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