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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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61.ホワイトデー

 それから一週間が経った、ホワイトデー当日。

 長い長い勤務を終えて、ようやく家に帰ってきた。

 拓真くんの家の前を通り過ぎた時、その部屋の扉が開く。中から顔を出したのは、晴臣くんだった。


「ミジュさん、お帰り! そっち行っていっすか?」

「あ、うん。どうぞ」


 晴臣くんは私が帰ってくるまで、拓真くんの部屋で待たせてもらってたみたい。扉はそのまま閉まって、拓真くんが顔を出してくれることはなかった。

 晴臣くんに中に入ってもらって、テーブルに対面で座る。

 ボードの真ん中に飾ってあった、拓真くんと私の二人で撮ったあの披露宴の写真は、なんとなく外して引き出しに仕舞ってある。


「すんません、夜分遅くに、ミジュさんも疲れてんのに」

「大丈夫だよ。家に帰ってすぐ寝るってわけでもないから」


 そう言うと、晴臣くんはにっこり笑って、速水皓月の袋から箱を取り出した。


「これ、バレンタインのお返しっす。容れ物は速水皓月のだけど、中身はちゃんと俺が作ったんで」

「わあ、見てもいい?」

「もちろん!」


 目の前に置かれた箱を開けると、中には見事な飾り和菓子。

 色とりどりの花や動物を(かたど)ったお饅頭が、今にも動き出さんばかりに喜んで見える。


「す、すごい……綺麗……こんなの、もうプロじゃない!」

「一回、俺がマジで作ったの、ミジュさんに見てもらいたかったんです」

「しかも.…全部、サイズが小さいよね? 普通のお饅頭より」

「気付いたっすか? 前に小さいものの方がかわいくて食べやすいって言ってたんで、うちの規定のサイズより、かなり小さく作ってます」


 あ、前に話してたこと、覚えてたんだ。


「こんなに小さい飾り和菓子、作るの大変だったでしょ」

「そうっすね。でもミジュさんに食べてもらえると思ったら、普段よりも楽しかったっすよ」


 もう、また喜ばせること言う〜!


「ありがとう、晴臣くん。でもこんなに綺麗なの、食べるの勿体ないなぁ」

「味も自信あるんで、食ってください!」

「あ、じゃあ写真だけ先に撮らせて! 食べちゃう前に! すごくSNS映えしそう〜」

「あはは、ミジュさんも普通の女子っすね」

「ちょっと、私のこと、なんだと思ってたの?」

「あんまりかわいいから、天女かと思ってたっす」


 だ、だからこの子はどうしてそう言うことをさらっと言えちゃうかなぁ?!

 私の耳は熱くなりながらも、聞こえなかったフリをして写真を撮る。

 本当にすごいなぁ。和菓子は芸術作品だったんだなと思うよ。

 写真を撮り終えると、その和菓子を一つ口に運んだ。

 うわ、スーパーで売ってる和菓子と全然違う。すごく滑らかで、甘さもしつこくない。

 サイズも一口だから、いくつでもいけちゃうやつだ!!


「どうっすか?」

「うう、すっごく美味しいよー! 晴臣くんってば、天才!!」

「嬉しいっす」


 晴臣くんってば、目を細めてずーっと見てくるんだから.……食べたいけど、食べにくい……。


「ありがとう、残りは後でいただくね。一気に食べちゃうの、もったいないし」

「欲しかったら、いつでも作るんで言ってください」

「ありがとう。でも私、百円ちょっとのチョコしかあげなかったのに、なんか申し訳なくて」

「じゃあなんか、追加でくれませんか?」

「ええ? もうチョコはないし……」


 キョロキョロと周りを見回したけど、なんにもあげられるものなんてない。そもそも、なにが欲しいんだろう?


「ついでに言ってしまうと、俺、昨日が誕生日だったっす」

「ええ?! 本当に?! 言ってよーー!!」


 そ、そう言えば.……私の誕生日だった時に、晴臣くんの登録情報を確認したんだよね。三月……確かに十三日だった気がする。

 すっかり忘れてたー!! 私は祝ってもらってたのにー!!


「ご、ごめんね?! なにが欲しい?! 今から買いに行く?! って言っても、コンビニくらいしか開いてないけど……」

「落ち着いてください、もう誕生日は過ぎてますから」

「けど、なにもしないわけにはいかないよ! 私の時、あれだけ祝ってもらってて……なにかして欲しいことない??」

「そりゃーあるっすよ」

「本当?!」


 晴臣くんはニカッと笑って。


「ミジュさんの時間を、三十分ください」


 と言った。

 ふぇ? どういう意味?


「三十分?」

「はい」

「そ、そんなのでいいの?」

「本当はすぐ帰るつもりだったんすけど、もっと一緒にいたくなりました。だから後三十分だけ、俺の隣にいてほしいんす」


 そう言うと、晴臣くんは自分の隣の床をとんとんと叩いてる。

 えーっと、これは……隣に来てほしいってこと、かな? まぁでも、それくらいなら。

 私は一度立ち上がると、晴臣くんの隣にそっと座った。

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