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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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60/80

60.諦めて

「ミジュさん! 三月十四日、俺とデートしてください!!」


 ホワイトデーを来週に控えたバレーの休憩中に。晴臣くんがみんなの前でいきなりそんなことを言い出した。

 晴臣くんはみんなに私を好きなことがバレてから……というかバラしてから、平気でアピールしてくるようになったなぁ〜。嬉しいような、恥ずかしいような。

 私も晴臣くんのこういうところ、見習いたいよ。


「あの……ごめんね? その日はロングだから、帰りが九時過ぎちゃうの」

「そっすか……じゃあ、その後でいいんで、ちょっとだけ会えないですか?」

「ええ? 九時半過ぎちゃうけど、いい?」

「オッケーっす。また連絡します!」


 嬉しそうに笑う晴臣くんに、ヒロヤくんが「よかったなー!」と頭を撫で繰り回してる。

 私が拓真くんを好きだって知ってる三島さんは、複雑な表情だった。バレンタインの日に告白できなかったことも、拓真くんには他に好きな人がいたってことも、全部よしちゃんに話してある。だから多分、三島さんにも伝わってるはず。

 みんなが晴臣くんに「頑張れよ」とか「男を見せろ」とかやんや言われてる中、拓真くんは我関せずでボーッとソフトバレーの方を見てた。

 製菓学校の子が好きなのかも、と思ってたけど、もしかしてソフトバレーの人? 通学途中にもたくさんのおば様方と挨拶してるって言ってたし、まさかその中の一人に本命が?!

 好きな人がいることをずっと言いたくなさそうだったのは、そういうことだったのかも!

 そういえば以前、私が三島さんと飲みに行って心配掛けちゃった時、確かこう言ってたっけ。


『男女の関係なんて、彼女がいようがいるまいが、関係なくなっちまうこともある』って。


 あ……私、わかっちゃったかも。拓真くんは……年上の女の人と、不倫してるんだ!

 だから付き合ってることもおおっぴらにできなくて、好きな人もいるって言えなくて。告白すると相手の家庭を壊しちゃうから、今は無理って言ってたんだ。

 好きな人に貰ったチョコが義理だったっていうのは、きっとバレちゃいけないからそんな風に言ったか、本命チョコだとわかるようなものだと誰かに見られた時に言い訳できないから。

 以前、『ガキで稼ぎもないし、見通しも立たないから女の人と付き合えない』とも言ってたよね?

 どうしよ、辻褄が合っちゃった。もうこれで、間違いないよ!

 ショックだ……拓真くんが不倫しちゃう人だっただなんて……。

 でも、それならまだ私が付け入る余地もあるかもしれない。不倫なんて、多分つらいだけだよね。年上好きなら、私にだって可能性があるわけだし。

 自分でもしつこいと思うけど、まだ諦めないんだから……!



 練習が終わって家に帰る時が、二人っきりだし一番聞きやすい。

 余計なお世話だと思われるかもしれないけど……やっぱり一言だけでも言っておきたい。

 まだ三月で寒い中、半袖で歩いてる拓真くんを見上げる。


「拓真くん」

「ん?」

「今日、私……気付いちゃったことがあるの」

「なんだ?」

「あの、もしかして、なんだけど……拓真くんの好きな人って、年上なんじゃないのかなって……」


 違うって言われればそれでいい。不倫はしてないってことだから。

 でも、もしそうだって言われたら……。


「あー……うん、そうだけど」


 拓真くんが少し照れ臭そうに、それでいてなにかを隠すように私から目を逸らして前を向いた。

 ああ、この態度……やっぱり間違いないよね。


「拓真くん……それ……あんまりよくないんじゃないかなぁ……」

「……なにが?」

「だから……その人のこと、諦めた方がいいんじゃないかなって思うの」

「……」


 拓真くんからの返事は、得られなかった。

 そうだよね、いきなり好きな人を諦めろって言われても困るよね。

 すぐに諦められるくらいの気持ちなら、とっくに諦めてるんだろうし……。


「諦めるか諦めないかは、俺が決める」

「でも、傷付くのは拓真くんだから……」

「もう充分傷付いてるよ」


 そ、そんなに傷つくようなことがあったの?! なのに、まだ諦めてないとか……そんなにその人のことが好きなんだね。

 部外者に言われるのも、腹が立っただろうな……。


「ごめんね……こんなこと言っちゃって……」

「別に。仕方ねーし」


 うわ、すごく怒っちゃった。どうしよう。


「本当にごめ……」

「もういいから。謝んな」


 拓真くんは私がプレゼントしたタオルで、グイッと顔を拭った。

 汗を拭いただけ? まさか……泣いてないよね……?

 心配になって顔を覗き込むと、少しムスッとした拓真くんの顔がそこにあった。


「……そんな顔すんなよ。わかった、諦める努力は……するから」

「本当に?!」


 よかった、わかってくれたー!

 私はホッと胸を撫で下ろす。


「……やっぱ諦めんのも(しゃく)だな」

「ええ〜……」


 もう、ガクッとくるよ。どっちなのー!

 むうっと口を尖らせながら、拓真くんの目を見つめる。すると拓真くんは一つ息を吐いて。


「わかった、そんなに言うなら……諦めるよ」


 そう言って眉を寄せる、拓真くんの苦しそうな顔。

 そんなのを見てると、私まで胸が痛くなっちゃうよ……。

 好きな人を諦めなきゃいけないって、ものすごくつらいこと。それを、私は強要しちゃったんだ……ごめんね。でも、それが拓真くんのためだから……。

 なんて、私自身のためだよね。拓真くんのためとか言いながら、私が付き合えるの可能性を上げるために傷付けちゃったんだから。

 ほんっと、私って最低。


「ごめんね、許してね……」

「あー、悪ぃ。ちょっと先に帰るわ」


 拓真くんは、家まで残り一分の距離を走っていってしまった。

 私は一分後、拓真くんの部屋の前を通り過ぎる。家に帰ってから耳を澄ましてみたけど、泣いてる様子はないみたいだった。

 きついこと言ってごめんね、拓真くん。でも、不倫はダメだよ。

 早く、元の元気な拓真くんに戻ってくれるといいな……。

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