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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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59.勇気

 いつものように、拓真くんと一緒に帰る時間がやってきた。

 でも、今日はいつものように帰るだけじゃない。

 帰りまでにチョコレートを渡して、好きだって言わなきゃならない。


 っていうか……あれ?

 もう百円のチョコレートを渡しちゃったってことは、拓真くんが作ったチョコレートを渡さなきゃいけない?

 それで告白とか……有りなの?!

 どうしよう……やっぱり勇気がしぼんでいく。振られることを考えると……やっぱり、怖い。


「ミジュさぁ」


 隣を歩く拓真くんが、不可解そうな顔で私を目の端に捉えてる。


「昨日作ったチョコ、好きな奴に渡すんじゃなかったのか?」


 そうだよね、普通そう思うよね。その通り、そうするつもりだったし。


「……渡せなかったのか?」


 あ、渡すなら、きっと今だ。

 さっと取り出して、拓真くんのために作ったの……って、作ったの私じゃないし。

 じゃ、じゃあ、拓真くんのために買ったの……あれ? 私、このチョコの材料費って拓真くんに払ったっけ。ああ!! 払ってないじゃない!! どうするの!!


「顔色悪いけど、大丈夫か? 渡そうとしたけど、断られたのか?」


 拓真くんが、すごく心配してくれてる。

 自分の間抜けさが、情けなくって泣けてきちゃうよ。


「気にすんなよ。ミジュはかわいいし面白ぇし、いつも一生懸命だし……その男に見る目がなかっただけだからな。泣く必要ないぞ!」


 ううー、拓真くんが優しいよー。

 嬉しいけど……完全に勘違いさせちゃった……もう自分が嫌。違うの……どこからどう切り出していいものやら……。

 うーんうーんと考えてたら、しばらくして拓真くんが優しい目で話しかけてくれた。


「そのチョコ、あげたい人にあげられなかったんなら、俺にくれねぇかな」

「……え?」

「嫌ならいいんだけど」

「う、ううん。大丈夫……」


 大丈夫っていうか、元々拓真くんにあげようと思ってたから、願ったり叶ったりなんだけど。

 私はバッグからチョコレートを取り出して、拓真くんに渡した。

 すると拓真くんは一度それを受け取った後で、また私に差し出してくる。


「……え?」

「これってさ、俺の金で俺が作ったチョコレートだろ? だから、俺からミジュにバレンタインのプレゼント。帰ったら、食べてくれよ」


 か、返されちゃった……。

 その気持ちは嬉しいんだけど……完全に、告白するタイミングを失っちゃった気がする!!

 わ、私のバカ……今さら、全部の言い訳をしてから告白なんてできないじゃない。

 でも、もしかしたらこれでよかったのかなぁ……。今はまだ、時期じゃなかったってことなのかも。チョコレートを私が拓真くんのために作ろうとしてたなんて、思ってもなかったみたいだし。

 きっと今、告白してもダメだったんだ。

 やだ、本当に涙出てきちゃった……。


「……泣くなって」

「あ、ご、ごめん……すぐ泣き止むから……っ」


 今日こそは、伝えようって思ってたのに。

 勇気はスウッとどこかに飛んでっちゃった。

 告白って、難しいんだなぁ……。

 勝率の低い告白は、勇気がたくさんたくさん必要になるんだ。私みたいなちっぽけな勇気じゃ、全然足りなかったよ……。

 私は手の甲でグシっと涙を拭う。いつまでも泣いて、心配させてちゃダメだ。


「……もう大丈夫か?」

「うん、ごめんね、びっくりさせちゃって」

「告白、上手くいかなかったのか」

「そうだね……大失敗だった」


 次はもっと、物に頼らず言わなきゃなっていう反省にもなった。この教訓は、ちゃんと覚えておかなくちゃ。


「なんにも気の効いたこと言えなくて、ごめんな」

「ううん。私、告白したことがないから、覚悟が足りなかったみたい」

「覚悟、かぁ。そうだな。覚悟は要るよな」

「拓真くんは……誰かに告白したことあるの?」


 拓真くんは十九歳だし、今までに好きになった人がいても、告白した経験があってもおかしくない。でも、相手に気持ちを伝えたことがあるのかどうか、気になった。

 私の問いに、拓真くんは「いや」と首を横に振りながら答えてくれる。


「ねぇな。告白したいって思う人なら、いるけど」


 その言葉に、胸にドスンと鉛が付くのがわかった。

 告白したいって思う人がいるってことは、現在進行形好きな人がいるってこと。

 やっぱり拓真くん……好きな人、いたんだ……。同じ製菓学校の子かなぁ……。


「そ、そうなんだ。告白は、しないの?」

「しても無理そうだから、今はしねぇ」

「そっか……バレンタインのチョコは、その子に貰えた?」


 悲しみで包まれてるのがバレないように、なるべく明るく。今泣いちゃったら、絶対におかしいもん。


「貰えたけど、義理だったし」


 そう言えば、拓真くんが貰ったチョコレートはほとんどが義理だって言ってたっけ。


「義理でも貰えたってことは、仲がいいってことでしょ? 可能性あるよ、頑張って!」


 ああ、心にもない応援をするっていうのは、苦しい。胸が痛くて、破裂しそうになる。

 拓真くんは「サンキュー」と力なく言って、歩を進めた。

 拓真くんが傷付いたり泣いたりする姿はみたくないけど……その子に振られてほしいって思ってる私がいる。

 本当に今、告白しなくてよかった。いつかまた、チャンスが巡ってくるまで待つしかない。

 私は拓真くんが見知らぬ誰かと付き合っているところを想像して、頭を塞いだ。

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