表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/80

57.手作りチョコ

 お店を覗くと、どこもかしこもバレンタイン一色。

 そこで買い物をしている女の子たちは、一様に浮かれているように見える。

 後ろを通る、高校生くらいの女の子の会話が聞こえてきた。


「やっぱ、本命には手作りだよねー!」

「あんた料理できないのに、作れるの?」

「溶かして型に流すだけのやつにするー」

「なにそれ、手抜きじゃない。本当に本命?」

「その方が、気持ち伝わりそうでしょ? 普段なにも作れないの知ってるから、こういう時に頑張れば感動してもらえるかもー」


 私の耳はピクピクと動く。

 なるほど、普段なにもしないからこそ、こういう時の手作りは喜んでくれるのかも。溶かして型に流すだけなら、私にもできそう。よし、私もそれでいこう!

 早速材料を買って、家に帰ってきた。

 夜勤明けで朝のうちは寝ちゃって、もう午後三時を過ぎてるけど、今のうちに作っておかなきゃね。


「えーと、チョコを削って湯煎する、と」


 うわ、チョコ削るの面倒臭い! 結構力がいる!

 面倒だから、このままガサッと入れちゃおう。

 お鍋にお湯を入れて、チョコを入れたボウルをセットして混ぜるだけ。簡単なんだなぁ。

 あれ? でも中々溶けないや。あ、削ってないからかぁ。

 しょうがない、火を一番きつくしちゃえ。あ、溶けてきた溶けてきた。

 なんかドロドロしてるけど……こんなもんなのかな?

 あとは色んな形の型に流して、冷蔵庫に入れて……と。固まれば完成! 余裕!!


 ……と、思ってたんだけど。


 午後五時くらいに見てみると、なんか様子がおかしい。

 固まってる……確かに固まってはいるんだけど。

 ホワイトチョコを入れた覚えはないのに、なんでこんなに白いの??

 試しに一つ食べてみると……あれ? チョコはチョコだけど……なんかちょっと違う。

 もう一回溶かして、ちゃんと混ぜたらやり直せるかなぁ?

 私は完成させたはずのチョコを数個だけ残して、ボウルに入れ直した。

 もう一度チョコの溶かし方を検索すると、電子レンジでもできるみたいで、今度はそっちで試してみることにした。

 電子レンジの方が楽だもんね。ピッとボタンを押せば、それでおしまい。最初からこうすればよかったー。

 出来上がるまでの間、テレビをつけて観てると。

 ん? なんか……焦げ臭い?


「きゃーー、ウソぉ?!」


 慌てて電子レンジに駆け寄って、開けてみる。

 中身は……溶岩どころか、乾いてカパカパになった、穴ボコだらけの岩石じゃない!!

 岩石チョコレートが完成しちゃったー!!

 っていうか、匂いが酷い!! ものすんごいチョコレートの匂いと、チョコの焦げた匂いで充満してる!!

 台所の小窓を開けるくらいじゃ間に合わない、玄関も開け──


「あ、ただいま」


 きゃーーーー、拓真くんがバイトからちょうど帰ってきちゃった!!


「お、おかえり、拓真くん……」

「なんかすげー匂いすんな。誰かチョコ作ってんのかな?」


 う。犯人は、私です……。


「ご、ごめんね、臭いよね……」

「え、ミジュん家?」

「う、うん……」

「大丈夫か? ちょっと入らせて」


 止める間もなくズズイと拓真くんが部屋に入ってきた。

 中の惨状を見て、苦笑いしてる。ううう、恥ずかしいよぉ……っ。


「なに作ろうとしてたんだ? チョコレートケーキ??」

「う、ううん。ただのチョコなんだけど……」

「うっわ、焦げっこげ。こっちのは……すげー分離しちゃってんな。っぶ!! やっぱミジュ面白ぇ!! っぶぶ、普通、ここまで……ップハハハハ!!」


 あああ、もう穴があったら入らせてぇぇえ!

 っていうか、穴を掘って埋もれたいーー!!

 私が羞恥で涙を溜めて塞いでいると、それに気付いた拓真くんが笑うことをパタッとやめた。


「あー、ごめん。俺も手伝うよ。材料まだあるか?」

「ううん、もうなくて……」

「ちょっと待ってろ、そこのコンビニで板チョコ買い占めてくっから」


 拓真くんはそう言うと、また止める暇もなく買いに行ってくれた。

 帰ってくると私がぐっちゃぐちゃにしてしまった台所を片付けてくれて、買ってきたミルクチョコレートを細かく削っていく。

 湯煎でサッとチョコを溶かすと、型にいれて、急ぐからと冷凍庫に入れてくれた。

 一旦拓真くんは家に戻ると、二十分もしないうちに親子丼とお味噌汁を持って来て、「適当でごめん、これ食べてて」と渡される。拓真くんはまたチョコレートを削り始めた。今度はホワイトチョコもあるみたい。

 持ってきてくれた親子丼を食べながらそわそわ見てると、ビターチョコとホワイトチョコが綺麗に溶かされてた。

 冷凍庫の中から固まったチョコを取り出してビターチョコでコーティング。

 氷とラップを利用して、ホワイトチョコで花の形を作って飾り付けしたり、ビターチョコとマーブルにしたり、ストライプみたいな線を描いたかと思ったら、爪楊枝を利用して、幾何学模様(きかがくもよう)みたいな絵になったりしてる。

 なにこれ、プロの所業? さ、さすがパティシエを希望してるだけある……。

 私、こんな人にあんなチョコをあげようとしてたの?!


「ごめん、とりあえず急いだからこんなのしかできなかったけど。ちゃんと固まったら箱に入れて」


 そう言いながら、冷蔵庫に入れてくれる。

 こんなのって、こんなのって……充分過ぎでしょ!!


「あ、ありがとう拓真くん」

「いいよ、これくらい。練習にもなるし。俺も帰って急いでメシ食うわ。バレー遅れっちまう」

「あ、私も行くよ。洗濯物とお風呂しなきゃ」

「サンキュー」


 私は食べ終えた丼とお椀を持って、隣へ入った。

 しっかし、やっぱりプロを目指そうかっていう人は違うんだなぁ。

 っていうか……あれを拓真くんに渡すの? 拓真くんが作ったチョコを、拓真くんに?!

 バレンタインデーはもう明日。もう一度作る暇はないよ! 作っても、また失敗しそうだし!

 ど、どうしたらいいの??

 あのチョコで、拓真くんに告白するしかないのーー!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ