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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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55/80

55.降り積もる雪のように

 晴臣くんのマンションを出ると、突き刺さるような風が吹きつけてきた。

 ううー、冬は死ねる。寒い〜。

 でも拓真くんは、コートすら着ずに薄着。バレーが終わった直後は半袖で帰ってることもある拓真くんだけど、さすがに今日は長袖だった。


「拓真くん、寒くないの?」

「そんな寒いか?」

「寒いよー!!」

「手ぇ貸してみ」

「手?」


 言われるまま手を差し出すと、着けてた手袋を外された。そして私の手を、拓真くんの両手で挟んでくる。


「うわ、ミジュの手ぇ冷て!!」

「ふぁぁぁ、拓真くんの手、あったかぁい……」


 人間湯たんぽだ。

 冬にこれだけ体温のある人、羨ましい。私はすぐ手先や足先が凍えるようになっちゃうからなぁ。


「顔は? うわ、顔も冷てぇ! ミジュ、ちゃんと生きてるか?」


 拓真くんが一生懸命に私に顔をゴシゴシと擦ってくれる。そのたびに私のほっぺは上下して、拓真くんはいきなり吹き出した。


「っぶ!! 変な顔!!」

「ちょ、ちょっと!」

「やっぱミジュって面白れぇー!」

「それやったの、拓真くんじゃないー!」


 人の顔で遊んでおいて、それはないでしょー?!

 私も負けじと拓真くんのほっぺを触る。


「仕返し! えいっ」

「手ぇ冷てぇって!」


 嫌がる拓真くんの両頬を、ムギュッと押しちゃうんだから。

 うう、突き出た唇が……かわいい。


「やめろって」

「拓真くんがやめてくれたらね」


 お互いの頬をムギュムギュと押し合いながら膠着状態。

 なにこれ楽しいかも。


「ミジュさぁ、俺のこと舐めてるだろ?」

「拓真くんこそ、いつも私のことバカにしてるよね?」

「してねーよ、かわいいなっていつも思ってる。ほら、今もこの顔超かわい……っぶ!」

「笑ってるじゃないのー!!」


 ケラケラ笑い始めた拓真くんの顔を、今度はグラグラ揺らしちゃう。

 かわいいって言ってもらえて嬉しいんだけど、なんかちょっとちがーう!!


「ごめんって」


 拓真くんは苦笑いでそう言って、私の手首を両手で掴んで頬から離された。その瞬間、バッチリと瞳が合う。

 私も、そして多分拓真くんも。なぜかそこから動けなくなってしまった。

 拓真くんの両手は、私の手首を掴んだままで。


「拓真くん……?」

「俺はさ、嫌じゃねぇの?」

「な、なにが??」

「いや、こうやって手首掴んでるのって俺が一方的にやってることだし、怖かったり気持ち悪かったりはしねぇのかなって」


 もしかして、今日私が緑川さんに取った態度を気にしてるのかな。駆血帯で首を絞められると思ってる? さすがにそんなこと、誰が相手でもしないけどね。


「大丈夫だよ。拓真くんは全然怖くないし、なにされても平気だよ」


 ドキドキはしちゃうけどね。もちろん、これは内緒だけど。


「やっぱミジュって、舐め過ぎじゃねぇ?」


 拓真くんは一瞬ムッとすると、いきなり私の手首を引っ張ってきた。

 顔がドンっと拓真くんの胸にぶつかって跳ね返る。その瞬間、拓真くんの顔がスルリと私の髪を伝って降りて来て、頰と頰が重なった。


「やっぱ、ミジュのほっぺ、冷て……」


 拓真くんの頰が、熱い。

 いつの間にか、その手は私の背中を優しく包んでくれてる。


「あ、あの……」


 ど、どういう状況?? 飲み込めないよ……。

 ただ、拓真くんってやっぱり全身湯たんぽなんだって感想が、頭の中を通っていった。

 拓真くんがなにも言わないから、私もなにも言えなくて。ただ、時間だけが過ぎていく。

 時折、拓真くんの腕に力が入って、私の体はさらに抱き寄せられた。

 どうしよう……どうなっちゃうんだろう。

 嬉しいけど、この先になにが待ち受けているのかわからなくて、正直怖い。体が、震える。


「あー、ごめんな」


 その瞬間、拓真くんの体スーッと離れていった。

 ごめんなの意味がわからなくて、私は拓真くんの顔を確認した。


「大丈夫だったか?」

「え? うん……拓真くんなら、大丈夫だよ。信用、してるし」

「そっか、よかった」


 拓真くんはいつもの笑顔を見せて、私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。

 結局、なにがしたかったのかな。私が嫌がらないかを、試してみただけ?


「まぁでも、気を付けろよ」

「なんの話?」

「あんまり男を煽んなってこと!」


 拓真くんの手は、最後に私におでこをコツンと小突いて。それから元の位置へと戻っていった。


「私? 煽ってなんかないよ?」

「……とにかくさ、晴臣だって男だし……あんまり信用し過ぎるなよ」


 私が晴臣くんを煽ってたって言いたいのかな。

 期待させるのと、煽るのとは別物? 晴臣くんなら信用できるって、前に拓真くん言ってなかったっけ。


「仲間を信用できないのって……寂しいな」

「それとこれとは別だろ? 俺だってバレーやバイトの時なんかは緑川さんのこと信用してるよ。でも男と女の話になると、ちょっと切り離して考えろって。ミジュは鈍感だから」


 だから拓真くんにだけは言われたくないんだけどー!

 でもまぁ、拓真くんの言いたいことはわかった。とにかく気を付けろってことね。


「わかった。これからは、不用意な言動をしないように気を付けるね。心配してくれて、ありがとう拓真くん」

「いや、俺もごめんな、試すような真似して。ミジュがあんまり危機感ねぇからさ、気になった」

「ん、そっか」


 なんだ、やっぱり試されてただけだったんだ。

 でも、身じろぎせずに黙ってたのは、拓真くんだったからなんだよ。

 きっと、気づいてないだろうけど。

 拓真くんがなにかに気づいたように空を見上げた。


「雪、降ってきたな」

「わ、本当」


 真っ暗な空からふわふわと白い雪が舞い降りてきて、私の上気した顔に優しく解ける。

 抱きしめられて、嬉しかった。

 特に意味のあるものじゃなかったのが寂しいけど。

 でも、少しは……少しくらいは、勘違いしちゃっていいのかな?

 そんな風に思っていると、拓真くんがまた私の右手を奪っていった。


「ミジュ、コケそうだから」


 まだそんなに降ってないから、コケたりしないよ?

 でも私はそれを言葉に出さずにギュッと握り返す。


「ありがと、拓真くん」


 その手の温もりと優しさが身に沁みる。

 思わず、好きですって言いそうになる。


 今なら、いい返事をもらえそうな気がした。


 でも結局、怖くて言えなくて。

 今日のクリスマスを、このままのいい思い出で終わらせたくて。


 降り積もる雪のように、拓真くんへの想いだけを募らせた。

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