54.三人っきり
晴臣くんの発言で、多分聞いてた人たちは気づいちゃったと思う。晴臣くんが、私を好きだってことに。
な、なんで言っちゃうかなぁ〜??
「へー、晴臣ってそうだったのか! ミジュ姉さん、晴臣と付き合ってみたら? こいつ、いい奴だぜ!」
そりゃ、いい子なのは知ってるけど……! 私は……
「ヒロヤ、そういうのは自分で言うから」
「おっと悪ぃ! ミジュ姉さん、今のはナシで!」
ヒロヤくんが手を合わせて謝ってくるから、私はコクンとうなずいてあげた。
私もヒロヤくんと同じ立場だったら、よかれと思って同じことを言ってしまったかもしれないしね。
「まーみんな、好きな奴くらいいるよな! 一ノ瀬も好きな奴いるっつってなかったっけ?」
「ああ、それもう失恋したから。俺の好きな人は結衣だったし」
ふあ?! 一ノ瀬くんも、結衣ちゃんのことが好きだったの?!
なんか……色々あったんだね、知らなかった……。
ヒロヤくんは気まずくなったのか、今度は拓真くんに話を振ってる。
「拓真、お前も好きな奴くらいいるよな、な!」
た、拓真くんに……いるのかな、好きな人。
ど、ドキドキしてきちゃった! なんて答えるんだろ、拓真くん。
「んー……どうかな」
ポリポリと頭を掻きながら答える拓真くん。
……どっち?
「俺はいるぞー、好きな女!」
一ノ瀬くんの横から、緑川さんが声を上げる。
「ミジュちゃんとーアイちゃんとールリカとーサクラちゃんとー……あと十人くらい。誰でもいいから付き合いてぇぇえ」
うわー、最っ低。
さすがに周りの男の子たちもドン引きしてる。
「もう出ようぜ、一ノ瀬。ここに鉄平さんがいたら、ミジュ姉さんに迷惑かかっちまう」
お気遣いありがとう、ヒロヤくん。そうしてもらえると助かる。
一ノ瀬くんはうなずいて、ヒロヤくんと一緒に緑川さんを連れて帰ってくれた。
ふう。ようやくゆっくりとクリスマスパーティーが……って、拓真くんと晴臣くんだけ?!
み、みんな、帰っちゃってる……!
「晴臣は、ミジュのことが好きだったのか」
「そうだけど?」
うっ……二人が胃の痛くなるような会話をしてる……っ
「それがどうかしたのか、タクマ」
「いや、別に?」
別に、なんだ……別に……
ええー、それで終わり?!
拓真くんは気にした様子もなく、台所に向かってる。
「ミジュ、ビーフシチューあるけど食べるか?」
「ミジュさん、ケーキどうぞ」
「あ、ありがとう。いただきます……」
なんか……空気が微妙な感じするのは、私の思い過ごし?
二人は食べ物を私の目の前に用意してくれた。そして私の左側に拓真くん、右側に晴臣くんが座ってくる。
は、挟まれちゃった!!
そ、そんなにジッと見られると、食べにくいんだけどー!!
「うまいっすか?」
「あ、うん、ケーキすごく美味しい! 晴臣くんが作ったの?」
私の言葉に、晴臣くんはニカッと笑ってる。本当に嬉しそうなんだから、もう。
「ビーフシチュー、これは拓真くんが作ったんでしょ」
「おう。まぁ作ってるとこ見てたもんな」
クリスマスの前に、拓真くんが一生懸命コトコト煮てた。
それをここまで運ぶの、大変だったろうな。
「すごく美味しい! こんなの食べられるなんて幸せ」
そう言うと、拓真くんの口の端が上がる。こっちも嬉しそうだなぁ。
隣から拓真くんの手が伸びてきて、いつものように頭を撫でられる。
「こんな風に触ってたら、俺も駆血帯で首絞められんのかな」
そう言って、拓真くんはクックと笑い始めた。
「緑川さんは、行動もだけど、言葉がね……平気な子は平気なんだろうけど、私はちょっと嫌かな」
「言葉かぁ〜。俺も気をつけねぇとなぁ」
「拓真くんは大丈夫だよ」
「俺は? ミジュさん」
「晴臣くんは、ちょっと気を付けた方がいいかな」
「マジっすか?!」
「あ、そういう意味じゃなくてね?!」
今の流れでこの言い方はまずかったと、私は言い訳をする。
「晴臣くんってほら、人を喜ばせてくれるのが上手でしょ? 勘違いしちゃう子もいるんじゃないかなって。そういう意味で、気をつけた方がいいと思ったの」
「喜ばせるようなことを言うのは、ミジュさんにだけっすよ。勘違いしてくれるなら、むしろ嬉しいんで」
うう……勘違いはしないよ。だって、もう晴臣くんの気持ち知ってるし。
優しく目を細める晴臣くんを見てると、耳が熱くなってくる。
やだ、治って! 拓真くんが見てるー!
「ちょ、ちょっと暖房効き過ぎじゃない? 熱くなってきちゃった」
「すんません、下げるっす」
晴臣くんがさっと立ち上がって暖房を下げてくれる。
ふう。これで顔が赤い言い訳は立ったはず。もうこの手は使えないから、気を付けなくちゃ。
「ミジュ、もしかして俺、先に帰った方がいいか?」
晴臣くんが席を立った隙に、拓真くんが耳打ちしてきた。
うそ……なんか、変な勘違いしてる?!
「気ぃ回すなよ、タクマ。俺はミジュさんと、まだ普通でいたいんだからよ」
拓真くんの耳打ちは、晴臣くんにも聞こえちゃってたみたい。まぁ、拓真くんの声は大きいからね。
拓真くんは「そっか、悪ぃ」とだけ言って、それからは三人で普通に過ごせた。私は微妙に緊張しちゃってたけど。
食事を終わらせて三人で片付けを終わらせると、もう午後十一時を回ってる。
そろそろ帰らなきゃ。明日も仕事だ。
玄関に向かう私と拓真くんを、晴臣くんが送ってくれた。
「なんか、片付けに来させただけになってしまって、すんませんっした」
「ええ、そんなことないよ! 美味しいご飯やケーキもいただけたし、楽しかったよ。ありがとう!」
毎年帰ってから一人で寝るだけのクリスマスと違って、今年は幸せだった。
好きな人と一緒に、好きになってくれた人と過ごせたんだから。
「おやすみ、晴臣くん」
「おやすみっす、ミジュさん!」
うわぁ、今日一番の笑顔だね、晴臣くん。
そんな顔を見てたら、私も自然と笑顔になっちゃう。
「ミジュ」
「あ、うん」
そう呼ばれて、私は晴臣くんの笑顔を背に、拓真くんを追いかけた。




