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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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53/80

53.クリスマスイヴ

 十二月二十四日はクリスマスイヴ。

 こんな日に限ってロングなんだけどね。

 仕事を終えると、私は急いで晴臣くんの家に向かった。

 今日はバレーのメンバーで集まって、クリスマスパーティをしようってことになってる。

 三島さんだけは、よしちゃんと過ごしたいからパスだって。もちろん、文句なんかあるはずもないんだけど。


 晴臣くんの家に着いた時には、もう夜の九時四十分だった。

 ピンポンとチャイムを鳴らすと、すぐに晴臣くんが出てくれる。その瞬間、中から温かくて美味しそうな空気が外に流れ出してきた。


「ミジュさん、お疲れっす! 」

「わぁ、いい香りがするー」

「早く入ってください。外、寒かったっすよね?」

「ありがとう、お邪魔します」


 入りながら手袋を外して、コートを脱ぐ。

 晴臣くんがそのコートをハンガーに掛けておいてくれた。

 中に入ると、三島さん以外の面々が、お酒を飲んだりジュースを飲んだり、ケーキやチキンを食べたりしてる。


「ミジュ姉さん、お疲れ様でーす! 先食べてるぜ!」

「あ、うん、どうぞどうぞ!」


 ヒロヤくんの目の前にはフライドチキン。定番だね。

 全部半分以上なくなってるけど、また色々と製菓学生のメンバーが作ったみたい。

 おそらくブッシュドノエルだったであろう、一切れだけ残ったケーキ。パネトーネであっただろう物体、ローストビーフが乗っていたであろうお皿、ピザもあるけど二切れだけ。

 本当、みんなよく食べるなぁ。


「ミジュさん、メリークリスマス! 聖夜なのに仕事大変でしたね」

「結衣ちゃん。でも今日は病院でもサンタクロースが練り歩いてたりしてね、子どもたちの喜ぶ声が聞こえるから楽しみなんだ」

「そうなんですね。あ、ミジュさんが来たばかりで申し訳ないんですが、私たちもう帰るんで……」

「え、そうなの? 全員?」


 そう言うと、結衣ちゃんの瞳はチラリと平さんの方に向けられた。

 ん? 平さんと??


「あの、私……実は、大和さんと付き合うことになったんです」

「え、ええ?? いつの間に?!」


 結構前に告白されたみたいなことは聞いてたけど……ついこの間まで『平さん』って呼んでて、そんな感じなかったのに。どうしていきなり?


「三島さんの結婚式があったでしょ? その時、大和さんが二次会に出席しちゃって……いっぱい綺麗な女の人がいたから、すごく嫉妬しちゃったんですよね。それで自分の気持ちに気付いて……」

「それ、平さんに言ったの?」

「言いました。そしたらもう付き合おうって言ってもらえて」


 結衣ちゃんって普段からハキハキしてるけど、そうやって自分の気持ちもちゃんと言えるんだね。私だったら、嫉妬しちゃったなんて多分言えないと思う。


「じゃあ、今からデートなんだ?」

「はい。って言っても、大和さんのお家でだけど」

「え、ええ……ま、まさか、泊まり?」

「そ、それはどうなるかわかりませんけど……っ」


 結衣ちゃん、顔を赤らめててかわいいけど……展開早くない?! 付き合い始めたの今月だよね?!


「あ、あの、私はどうこう言えないんだけど、自分を大事にね」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「結衣」

「あ、うん」


 平さんに呼ばれた結衣ちゃんは立ち上がる。この間まで、結衣ちゃんって呼んでたのになぁ。

 でも平さんは穏やかで優しいから、結衣ちゃんのこと、すごく大切に扱ってくれそう。二人とも幸せそうだし……よかったね、結衣ちゃん。


「ミジュちゃん、仕事お疲れ様。ゆっくりパーティ楽しんでね」

「あ、はい。平さんも……えーと、楽しんで?」

「ありがとう。じゃあみんなごめんね、お先に」


 二人を送り出すのに適切な言葉が思い浮かばなかった……。思わず楽しんでって言っちゃったけど、変な風に捉えられてないよね?

 あーでも二人っきりのクリスマスかぁ。羨ましいなぁ。

 その二人が寄り添い合いながら出ていくのを確認してから、緑川さんがどっかりと私の隣に座ってくる。うっ、お酒臭い。すでに何杯も飲んでそう〜。


「ミジュちゃん、聞いたか?! あいつら付き合い始めたんだってよ! 今からズッポシやるんだぜ、ズルイよなぁ〜」


 うわぁ、絡んできた……しかも最低な発言してるし。無視無視。


「なぁなぁ、俺らも一緒に抜け出さねー?」

「……遠慮します」

「遠慮すんなって、俺とミジュちゃんの仲じゃん!」

「きゃ?!」


 いやーーーーッ、肩抱かれた!! やめてーー!!


「ちょっと鉄っ……」

「緑川さん、いい加減にしないと、駆血帯でその首締めますからね!!」

「くけ……え、なに??」


 看護師はセクハラされても泣き寝入りするだけだと思ったら、大間違いなんだから!

 女の人に触れたいなら、お触りオーケーのお店にでも行ってほしい!

 あ、うん、でも、拓真くんになら触れられても問題ないんだけど。

 緑川さんの後ろに立って止めようとしてくれてた拓真くんと晴臣くんが、顔を見合わせてる。


「駆血帯ってなんだ、晴臣」

「あれだろ? 注射打つ時に縛るゴムみたいなやつ」

「ああ、あれか! あれを……首……っぶ!!」


 また拓真くんが吹き出してる。そ、そんなに面白いこと言ったかな??


「ミジュ、すげー物騒!! 怖ぇぇえ!! ハハハハハッ!!」

「とりあえず、鉄平さんはミジュさんから離れてください。飲み過ぎっすよ」


 晴臣くんが私から緑川さんを引き剥がしてくれた。拓真くんは、まだ笑ってる……。


「あー、じゃあ俺が鉄平さん連れて帰るぜ」


 ヒロヤくんが、食べ終えたフライドチキンの骨を置いて立ち上がった。


「俺はまだ帰らねーからなー」


 目が座ってる緑川さん。お願いだからさっさと帰ってください。


「歩けるうちに帰ってもらわないと、俺らが困るっつーの! ほら、鉄平さん立って!」


 ヒロヤくんが引きずるように緑川さんを背負う。それを見た一ノ瀬くんも立ち上がった。


「ヒロヤ、鉄平さんは俺が送ってくよ。お前は明日一番の電車で彼女に会いに行くんだろ? 早く帰ってゆっくり休んだ方がいい」


 そう言って、長身の一ノ瀬くんがヒロヤくんと交代した。

 ……って、ヒロヤくんに彼女??!


「ヒロヤくん、彼女いたの?!」

「あれ、ミジュ姉さんには言ってなかったっけ? 中一ん時から六年付き合ってる彼女がいるぜ! まぁあっちは東京の大学に行っちまって、中々会えないんだけどなぁ」


 中学生の時から、六年?! まさかのヒロヤくんが、恋愛の大先輩だったなんて……。


「ミジュ姉さんは彼氏いないんだっけか?」

「うっ! うん……」

「そっかー。野郎ども、見る目ないよなー!」

「逆だよ、みんな見る目があるから私なんか相手にしないんだよ」


 あ、言っててちょっと虚しいかも。


「俺が、相手にしてるじゃないっすか」


 少し口を尖らせた晴臣くんが、耳だけ赤く染めながら視線を投げかけてくる。

 心臓が途端にバクバク言い始めちゃった。

 ど、どうしよう。こんな時はなにを言えばいいの??


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