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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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52/80

52.ボードに

 私と拓真くんはアパートの階段を上がる。

 私の方が一段先に上がっても、拓真くんの視線はまだ高いまま。けど格段に近くなった視線で話しかける。


「本当にいい披露宴だったね」

「おおー。でも結構緊張したなぁ」

「本当? 全然そんな感じしなかったよ?」

「ミジュこそ、控え室であんなにオドオドしてたのに、本番はバッチリだったじゃん」

「それでも緊張はしてたよー」


 そんな話をしながら部屋の前に着くと、お互いに鍵を出して自分の部屋を開けた。じゃあ後でと言おうと思ったら、拓真くんが声を上げる。


「あ、そーだ、さっきの写真さ、俺にもくれねぇ?」

「ああ、よしちゃんが撮ってくれたやつ? いいよ、今プリントアウトして持っていくから待ってて」

「いや、どれにするか選びてぇから、中に入ってもいいか?」

「え? あ……う、うん」


 え、えええええ?! 急にどうしちゃったの??

 今まで部屋に入ろうとしたことなんてなかったのに……!

 部屋、出る前に掃除しておいてよかったぁ!


「どうぞ」

「お邪魔します。そういやミジュの部屋、初めて入ったな。間取り同じなのに、全然雰囲気違うなぁ」

「そう? 私の部屋は割とシンプルだと思うから、そんなに拓真くんと変わらないと思うけど」

「いや、ちゃんと女の子の部屋って感じするよ。俺は写真用のボードなんて置いてねーもん」


 中に入った拓真くんは、写真をたくさん飾ってあるボードの前に立ち止まった。

 私は花瓶を取り出して、素敵なブーケを入れ替える準備をする。

 今拓真くんが見ているボードには、リナちゃんと撮った写真や、颯斗くんと撮った写真、他の患者の子たちと撮った写真の中に、バレーのみんなの写真も張ってある。こんな風にしてたら、拓真くんの写真が混ざっててもおかしくないからね。

 因みに以前ど真ん中にあった拓真くんがお餅を食べてる写真は、後ろの方に隠してる。わざわざめくってまでは見ないだろうから、対策は完璧。


「へぇ、結構患者と写真撮ってんだな」

「退院の時、お母さん方が撮った写真をくれたりするの。拓真くんたちのお母さんも用意してくれてたでしょ? あとは病棟の保育士さんとかね、バシバシ撮ってくれるから、それのデータを貰ったりとか」

「ふーん。お、ハヤトもいる」


 って、拓真くん、ペラペラめくり始めちゃった?!

 だ、だめ……その下には、例の物が……っ


「あれ? これ俺?」


 ああああ、み、見つかっちゃった!!

 で、でも慌てちゃダメ……慌てると、晴臣くんの時みたいにバレちゃう!


「え、どれ? ああ、正月の時の写真じゃない。そういえば、その写真ちょっと気に入って、印刷しといたんだったかな」


 ふ、不自然じゃないのよね?! ドキドキドキドキ。

 ブーケを飾り終えた私は、カメラのメモリーカードを取り出してパソコンに差し込む。


「それより、どの写真を印刷する?」


 データを見やすいように机の上のパソコンを使って画面に映し出した。

 拓真くんもそれを見るために私の後ろから両腕を机にもたれ掛けさせて顔を寄せてくる。

 ひゃー、近い近い! へ、平常心……!


「これは?」

「悪くないけど、他のも見せて」

「あ、こっちは目を瞑っちゃってるね。次は……これいいんじゃない?」

「中心ズレてないか?」

「トリミングすれば平気だよ。あ、でも次もいいかも」

「まだミジュが引き攣ってるだろ。最後の方がいい写真になるんじゃねー?」


 そう言われて次々と見ていく。

 途中から拓真くんが楽しそうに笑い始めて、私も釣られて笑えてる。

 うわーん、拓真くんがめちゃくちゃかわいいよー!


「これ、ミジュすげーいい顔してんじゃん。俺、これにするわ」

「そ、そうかな? こっちの方の拓真くんの顔が優しくていいと思うなぁ。私はこれにしよう」


 プリンターの電源を入れようと振り返ると。

 拓真くんが……近い。

 しかもなぜか、拓真くんは避けようとしてくれなかった。


「……拓真くん?」

「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」


 え? たった今まで普通だったのに? 私がなにか考えさせるようなこと言ったのかな。特になにかを言った覚えはないんだけど。

 拓真くんが避けてくれたから、私はプリンターの電源を入れて、お互いが気に入った二枚をプリントアウトした。


「あ、L版で良かったよね?」

「うん」

「はい、これ。写真立てあるけど、もしよかったら持ってく?」

「おおー、欲しい! いいのか?」

「いいよ、百均だもん。気にしないで」


 写真立てを出してあげると、早速その中に入れてくれた。部屋に飾ってくれるってことだよね。嬉しいな。

 私は自分のためにプリントした写真を、ボードの真ん中に飾った。

 手の中の写真をジッと見ていた拓真くんが笑顔を見せる。


「なんかこれってさぁ」

「ん?」

「俺ら、結婚したみたいな写真だな!」

「え?!!」


 うわ、いきなりそんなこと言うから、平常心が飛んで消えちゃったよ!


「ななな、なに言ってるの?!」

「あ、いや、冗談だけど」

「わ、わかってるけど……っ」

「そんなに嫌がらなくたっていーじゃねーか」


 うわ、拓真くんがムスッとしちゃった。

 嫌がってるわけじゃ、ないんだけど……。なんてフォローしよう?


「で、でも、私も気に入ったよ? この写真」

「おう、俺も」


 あ、もう笑った。

 拓真くんって、割と単純だからなぁ。


「んじゃ、ありがとな。着替えたらまた来るから、一緒に晴臣ん家行こうぜ」

「うん」


 そう言って、拓真くんは大事そうに写真立てを持って帰っていった。


 その後、いつもの私服に着替えると、拓真くんと一緒に晴臣くんの家へ行く。

 みんなで……というより、私以外で料理を作ってくれて、披露宴の余韻を楽しんだ。

 今日は本当にいい一日だったな。

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