50.自撮り
私たちは控え室に戻ると、そのまま解散という流れになった。
三島さんによければ二次会に出席してと言ってもらえて、丸木田さんや仲本くんら四人は出席するつもりみたい。
バレーのメンバーは成人してる緑川さんと平さんだけが出席。
二次会は夜のお店でするから、未成年者は仕方ないね。
ちなみに私は不参加。本当は出席したかったんだけど、拓真くんと晴臣くんに止められちゃった。信用ないな〜、私。
まぁ、また心配させちゃうのも悪いし……それに残ったバレーのメンバーで、夕食でも食べようかって話になってるから、そっちに参加することにしちゃった。
とりあえず、みんな一度帰って着替えてから、午後四時くらいに晴臣くんの家に集合ってことになってる。
でも私は出口の方には向かわずに、披露宴の会場の前で、披露宴が終わるのを待った。
せっかくいいカメラを買ったんだもん。絶対よしちゃんの姿も撮りたい。
そうしてしばらく待ってると、遠くの方から拓真くんがキョロキョロしながら現れた。私を見つけて駆け寄ってくる。
「なんだ、ここにいたのか」
「どうしたの?」
「いや、帰ろうとしたらいなくなってるからさ。同じアパートなんだから、一緒に帰るだろ?」
「あ、ごめんね。先に帰ってていいよ。私、よしちゃんの写真を撮りたいんだ」
「ああ、じゃあ一緒に待つよ。一緒に写りたいんだろ? カメラ貸して、撮ってやるから」
あれ、そういう意味じゃなかったんだけど……でも確かに、よしちゃんと一緒に写ってる写真は欲しい。お言葉に甘えちゃおう。
私がカメラを渡すと、拓真くんは色々といじって遊んでる。男の子って、メカ系好きだよね。
「ちょっと練習。ミジュ撮らせて」
「ええ? 私だけ撮るの?? 恥ずかしいよ!」
「恥ずかしくないだろ。その格好、綺麗で似合ってるし」
そんな嬉しいことをさらっと言って、パシャパシャと写真に撮られちゃう。
うわぁ、どんな顔していいのかわかんない〜〜。
「おっけー、いい感じに撮れた。なぁ、俺の携帯でも撮っていいか?」
「ふえ?! なんで??」
「いや、リナに送ってやろうかと思って」
あ……兄バカだ。
「だったら私の写真より、拓真くんの写真を送った方が喜んでくれるよ。私が撮ってあげようか」
「じゃあ一緒に撮ろうぜ」
……ふえ?!!
拓真くんは自分の携帯でカメラを起動すると、私の傍まで来て少しかがんだ。
顔の位置を、私の高さにまで合わせてくれてる。ひゃああ。
「ミジュ、もっと寄って」
グイッと肩を抱き寄せられて、勢いで少し頭がこつんと当たった。
き、きゃーー! 近いよぉ!
拓真くんは気にせず平気でパシャパシャと写真を撮ってる。
「うーん、服は写んねーな」
そりゃそうだよ!
っていうかその写真、私も欲しい。
「ま、しゃーねーか。母さんに送信っと」
えええ!! 池畑さんに?! リナちゃんじゃないの?! あ、まだリナちゃんは携帯持ってないのかー!
どう思われるだろ……だ、大丈夫かな?
うちの拓真に手を出してないでしょうね、とか電話掛かってこないよね? こ、怖いよー、どうしよう……。
さぁーっと血の気が引いていく。母親は息子をかわいがるっていうし、なるべく池畑さんを怒らせたくないのにー。
「ミジュ? 大丈夫か?」
「え? あ、うん……」
「よく頑張ったよな」
そう言って拓真くんは私の頭を撫でてくれたけど……ん?? なんの話??
「本当は、まだ好きだったんだろ」
好きって言葉に勝手に心臓が反応してビクッと動いちゃう。
そ、そりゃ、まだ好きだよ、拓真くんのこと。っていうか気づいてたの?
いや、拓真くんが気づくはずもないよね。じゃあなんのことを言ってるんだろう。
私は撫でられながらそっと拓真くんを見上げる。
「まぁいい男は他にもいるから、落ち込むなよ」
いい男は他にもいる……拓真くん以外にもってこと? もしかして、遠回しに好きになるなって言ってるの?
「……ミジュ?」
わ、わかってるけど……可能性は、ほとんどないって。
わかってたけど……。
仲良くなれたと思うたびに、突き放してくるんだもん、拓真くんって。悲しくなっちゃうよ。
「大丈夫か? 泣きそうなら、無理してここにいなくていいと思うぞ」
「大丈夫。よしちゃんと写真、撮るんだから」
「……無理すんなよ」
私はそのままグッと耐えて、披露宴が終わるのを待った。新郎新婦退場という司会者の声が聞こえて、扉からよしちゃんたちが出てくる。
その後、出席者の見送りが済むまで、私たちは少し離れた場所で見てた。
「やっぱり……羨ましいなぁ、よしちゃん……」
好きな人と結婚して、すごく綺麗で幸せそうな姿は純粋に憧れちゃう。
あんな風になりたいって思うのは、女の子なら当然の気持ちだよね。
視線を感じて拓真くんの方を見ると、捨てられた子犬を見るような、哀れんだ瞳を私に向けてた。……なんで?! 私って、そんなに結婚できなさそう?!
お、落ち込んじゃうよー。




