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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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47.退院

 拓真くんの退院の日、私は退院の手続きを全部済ませて、拓真くんを連れて帰ってきた。預かってた家の鍵を返して、拓真くんの家の前でホッと一息をつく。


「退院おめでとう。今日はこれからどうするの?」

「今から学校行くよ。バイトもずっと休んでたから行かなきゃな」


 もう行くんだ……私、仕事休みだから、今日ずっと一緒にいられるかも、なんて甘いこと考えてた……。


「無理しないでね。送っていこうか?」

「いや、大丈夫。洗濯してから出るから。ミジュは今日バレー行くのか?」

「うん、行くよ」

「今日も晴臣ん家でメシ?」

「ううん、もう約束はしてない」

「じゃーいつもみたいに六時にうち来て。なんか作っから」


 拓真くんはもう平常モードなんだね。

 仕方ないから私は一人寂しく家に帰った。

 バレーのみんなは、平日は学校や仕事だし、看護師の仲間ともそう休みは合わない。だから休日でも一人が多いんだよね。

 平日の休みはいつもショッピングか、家でゴロゴロ過ごすことになっちゃう。

 結局今日もゴロゴロ寝て過ごして、夕方六時になるなり待ってましたとばかりに隣にお邪魔しにいった。

 中に入ると拓真くんは料理の仕上げに入ってるみたいで、その合間に洗濯物を畳んじゃう。洗濯物を畳むのはいつものことなんだけど……今日は、パンツも置いてあった。今まではこれだけ先に畳んでタンスに入れてたのにね。入院中に何度も洗われたから、諦めたのかな?

 それからはいつものように食事して、一緒にバレーに出掛ける。今日はやめておいたらと言ったんだけど、ボール触ってないと感覚忘れちゃうから、だって。

 何年もバレーやってて、そんなにすぐに感覚を忘れちゃうものかなぁ?

 でもどうしてもやりたいみたいだったから、いつものような激しい練習はしないって約束で、行かせてあげることにした。


「おー、タクマ、もういいのかー!」

「練習出て大丈夫なの?」


 体育館に行くと、わらわらと人が寄ってきた。おじさま〜ずのメンバーにも囲まれてて、拓真くんは人気者だなぁ。


「ミジュに、あんまり走ったりジャンプするのはやめてって言われたしなぁ。晴臣、俺のポジションに入ってたんだろ? 今日は俺がリベロやってみるか」

「おま、リベロ舐めてんだろ?」


 晴臣くんが呆れた様子で、拓真くんの背中に「おりゃ」とか言いながら軽いパンチをしてる。


「いや、飛んだり跳ねたりがダメっつわれると、リベロしかできねーし」


 拓真くん……練習する気満々じゃない! リベロでもダメだよ!

 フライングレシーブとか、スライディングレシーブなんかをやっていいと思ってるの?!

 もう痛くないからって、無理し過ぎちゃダメ! 今日、私がいてよかった!

 私は二人のところにずんずんと進むと、ピシッと言ってやった。


「拓真くんは今日、アタックもレシーブもやっちゃダメ!」

「え、えええ〜? レシーブくらいいいだろ?」

「ダメだよ! あんな強いアタック受けたら、吹っ飛んじゃうよ?!」

「いや、吹っ飛んでたのはミジュだけだろ。俺はあんなにならねーし」

「うっ」

「見事に吹っ飛んでたよなーあん時。俺、あんなに綺麗に人が飛ぶの初めて見たわー……っぶ」


 私が鼻血を出した時の話を拓真くんに持ち出された。当時はすごく心配してくれてたけど、私が吹っ飛ぶシーンを思い返すと笑えてくるみたい。

 いいんだけどね、もう笑い話だから。


「とにかく、せめて今週はゆっくり運動して」

「ゆっくりって……例えばどんな?」

「壁を相手にオーバーハンドの練習とか」

「マジか……せめて誰かにパスの相手してもらっていいだろ?」

「うん、いいよ。あ、結衣ちゃん呼んで来ようか? 中学の時バレーやってたって言ってたし」

「あー、ミジュでいいよ。ちょっと来て」

「ふえ?! わ、私?!」


 拓真くんに手を引っ張られて、体育館の端まで連れていかれてしまった……。

 晴臣くんが「頑張れー!」とボールをひとつ投げてくれる。

 ちょっと、私……死ぬほど運動音痴なんだけど?!


「よし、じゃあやるか」

「な、なにを?!」

「オーバーハンドパス」

「私が?!」

「もちろん」

「無茶な!!」

「ぶ、教えるって」


 そう言いながらタンタンとボールをついて、私と一定の距離を取ってる。そして振り返ると、ボールをポンポンと軽く投げながら言った。


「とりあえず、ミジュがどんくらいできんのか、見せて」

「で、できないってば!」

「中学とか高校の授業であっただろ? ほら」


 ボールが弧を描いて飛んでくる。やだー! いきなり無理……ぶべっ。

 見よう見まねでオーバーハンドをしようとしたら、私の手をすり抜けて見事に顔に着地。いたぁ〜い……!


「っぶ!! 顔面……っ!」

「だからできないんだってばー」

「ごめんごめん、ここまでとは思ってなかった。大丈夫か? また鼻血出てねぇ?」

「で、出てない!」

「よかった。んじゃまぁ、イチから教えるわ。手ェ出して」


 拓真くんが私の後ろに回って 手を取ってくる。

 な、なにこの状況。後ろからの密着は……照れちゃうよ! お願い、顔赤くならないで!!


「手はおでこの上で三角作るように。もっと上、この辺」


 手首を持ってグイッと移動させられる。

 うう、邪なこと考えてるの、私だけだろうなぁ……。


「最初はボールを持ってから、ゆっくり手首のスナップ使って返してみて」


 拓真くんがボールを持って離れていく。

 ほっとすると同時に、ちょっと残念な気も?


「じゃ、投げるから、今の形のまま受け取って」


 拓真くんがパスッと綺麗な音を立ててオーバーハンドする。

 わわわ。きたぁああ!


 ドグッ


「オッケー、そのままゆっくり手首使って返して」


 一回受け取ったボールを手首の力で返す。

 白と黄色と青のバレーボールは放物線を描いて拓真くんの方に返っていった。


「上手い上手い。次は返す時、もっと肘も使ってみて」


 う、上手い……どこが?

 ホールディングどころの騒ぎじゃないし、受け取った時も変な音してたけど?!


「もっかい。おーいいな、今のは肘も上手く使えてた」


 もしかして拓真くんは、褒めながら教えてくれるタイプ?

 ……これは、嬉しいかも。


 結局この日は、私のオーバーハンドの練習だけで終わった。

 拓真くんはちっとも練習できなくて申し訳なかったけど。

 私が相手だったから、激しい練習しなくて済んだって笑ってた。喜んでいいのか悪いのか……。

 でも拓真くんも楽しそうに見えたから、いいよね?


 それからの一週間、私は拓真くんの指導を受けて、オーバーハンドパスの練習を徹底的にやった。

 運動音痴でも、やればできるもんだね……なんとか返せるようになってきた。しょっちゅう〝ボゴッ〟っていう変な音をさせちゃうけど。

 アンダーハンドもやるけど、これがもう痛くって痛くって、何度もやってると骨が折れるんじゃないかってくらいにキツかった!

 翌日には内出血で腕が真っ黒になったし、バレーをやるのって大変なんだなぁ。

 でも、少しだけどできるようになってきたら、ちょっと楽しくちゃった。

 拓真くんが本格的にコートに復帰してからも、バレーのメンバーはちょくちょく私に色んなことを教えてくれる。まだまだ下手なんだけど。

 いつか私でも、ママさんバレーならできるようになるかな?


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