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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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46/80

46.殺しの現場

 一度家に帰ってバレーに行く準備をしてから、晴臣くんの家に向かう。

 午後六時に約束だったけど、五分ほど遅刻してしまった。


「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」

「大丈夫っすよ。仕事お疲れ様です」


 晴臣くんは気にせず中に入れてくれる。

 話し合いとか反省会とか、そういうのはいつも晴臣くんの家でやるから、何度かここに遊びに来たことがある。広いし体育館に近いし、便利だよね。

 中に入ると、もう料理は用意されていた。


「うわ、すごい!」

「予算内に収めるの、苦労したっす」


 リビングのテーブルに乗せられてたのは、洋食だった。拓真くんが作るのは和食が多いから、すごく新鮮。


「これ、キッシュだよね?」

「ほうれん草のキッシュっす。こっちがししゃものマリネ、ラタトゥイユにホワイトソースドリア」

「わぁ、よくこんなに作れたね! 実は予算オーバーしたんじゃない?」

「してねっすよ。一番高かったのはししゃもですからね。肉はほとんど使ってないっす」

「そうなんだ。でも美味しそう!」


 晴臣くんに促されて座ると、一緒に手を合わせて食べ始める。最初にキッシュに手をつけると、絶妙な塩加減で次々と食が進んじゃう。


「今日もタクマんとこに行ったんすよね? どうでしたか?」

「順調だって。痛みももうほとんどないみたいで、明日は予定通り退院だよ」

「バレーはできるのかな」

「みんながやってるバレーは、ちょっと激し過ぎるからね……どんどん動く方がいいんだけど、せめて一週間はバレーはやらない方がいいと思う」

「そっかー、じゃあまだしばらくは俺、ミドルブロッカーっすね」


 今、晴臣くんは拓真くんのポジションに入ってバレーをしてる。本当にオールマイティなんだなぁ。全部のポジションをこなしてるんじゃない。


「晴臣くんはすごいね、なんでもできて……うわーん、このマリネも美味しい〜〜」

「器用貧乏なだけですよ。美味いっすか? ありがとうございます」

「スポーツもできて、料理も美味しくて……なんになるつもり? 晴臣くん」

「和菓子職人っす!」


 屈託の無い笑顔で言うから、ちょっとだけドキッとしちゃう。


「今度はデザートに、和菓子を用意するっすね」

「え……こ、今度?」

「バレーのある日はタクマのところってのはわかってます。でも他の日で暇な時があれば、いつでも来てください。俺の作った和菓子、ミジュさんに食べてほしいんす」

「う、うん、まぁ……そうだね……」


 曖昧で逃げるような返事をして、心が痛む。

 晴臣くんは期待させてもいいって言ってくれたけど……実際、そんなことを平気でできる人って、悪女なんじゃないかと思う。それとも、私が意気地なしなだけ?

 だって、逆の立場で考えたら……期待させられるだけで振られるって、凄く残酷で傷付いちゃうよ。

 きっと、晴臣くんは気にするなって言うんだろうけど……難しい。どうやって接したらいいんだろう。晴臣くんを、傷つけたくないのにな……。

 でも、私が拓真くんを好きでいる限り、傷つけちゃうことになるのかもしれない。


「まーた色々考えてるっすね」


 晴臣くんがキッシュをモグモグと食べながら話し掛けてくる。


「うん、だって……」

「ミジュさんはごちゃごちゃ考えなくていいんす」

「そ、そんなわけにはいかないよ。晴臣くんのことが嫌いならともかく、好──」


 きゃ、私今、なにを言おうとしたの!! ダメでしょー、期待させちゃ!! あれ、期待させてもいいんだったっけ??


「『す』? なんすか?」


 晴臣くんはニヤニヤ笑ってるし!!


「す、すごく大事な人、だよ!」

「なんだ。『好きな人』って言ってほしかったっす」


 い、言いそうになってたけどね……危ない危ない。


「まぁ、『すごく大事な人』でも嬉しいですけどね!」

「ふふっ」


 こんなに喜んでくれてるだけで、私も幸せな気分になれちゃう。期待させ過ぎなきゃ、いいのかもしれないなぁ。


「俺はミジュさんのこと、『すごく大事な人』で『好きな人』ですよ」


 ま、またそういうことを平気で言う……!


「あ、ありがとう……」

「ミジュさんってすぐ赤くなるんすよねー」

「ちょっと、試さないで?!」

「かわいいっす」

「や、やめて〜、にやけちゃうから!」

「優しいし頭いいし」

「そんなことないよ?!」

「面白いし天然だし」

「うっ、否定はできない……っ」

「しっかりしてるし、笑うと天使みたいで」

「ほ、褒めすぎだってば!」


 きゃー、全身がこそばゆくなっちゃうー! もうやめてー?!


「すげぇ綺麗です」


 そんな、キラキラした目で言わないで……は、反応に……困るーっ! 顔が燃えちゃうー!! 綺麗じゃないからー!!


「うわあ、顔大丈夫っすか? そのうち消し炭になりそうっすよ」

「だ、誰のせいよ、もうーーーーッ?!」


 ドリアを食べようとしていたスプーンを置いてポカポカ晴臣くんの胸のあたりを叩く。でもすごく嬉しそうに笑って受け止められちゃった。あれ? 余計に喜ばせちゃった?

 悔しいー! 褒め返してやるんだから!!


「晴臣くん!」

「はい?」

「今から私はあなたを褒め殺すから!」

「っぶ! やっぱミジュさん面白ぇっす!」


 眉を下げてヒーヒー笑ってる晴臣くん。うう、ここから反撃開始なんだからね!


「晴臣くんは女の子にモテる!」

「いや、モテないっすよ。告白されたこともないし」

「うそお?!」

「マジっす。多分、俺よりタクマの方がモテてますよ。あいつ、気が付かないだけで」

「誰にでも好きとか綺麗とか言ってるんじゃないの?」

「心外っすね。ミジュにしか、言ったことないのに」


 ドクッと音が鳴る。

 え、今……私の事呼び捨てにした?


「うわ、呼び捨ては心臓ヤバい。あいつ、よく平気でミジュさんのこと呼び捨てられるよなぁ」


 ほ、ホント心臓に悪いよ、呼び捨てはー! いきなりやめてよぉ。

 ま、まだドキドキ言ってる。


「次はなにを褒めてくれるんすか?」

「え?! えーと……料理が上手!」

「ありがとうございます」

「スポーツ万能!」

「バレーだけっすけどね」

「将来は大物!」

「ざっくりきたっすね! ブククッ」


 えーとえーと、他にどんなこと言ったらいいの?!

 晴臣くんを絶対に照れさせてやるんだから!


「男前!」

「ミジュさんにそう言ってもらえると嬉しいっす」

「バレーしてる姿がカッコイイ!」

「あざーす」

「優しいし、気遣いできるし」

「ミジュさん限定っす」

「いい声してる!」

「耳元で囁きましょうか?」

「えーとえーと、すごくいい筋肉してそうだよね!」

「いつでも見せますよ」

「ふぁ?! 男らしくてドキドキしちゃうし──」

「ドキドキ、してくれてるんすか」


 ズイッと近寄ってくる晴臣くん。

 どうしよう、心臓が、心臓が、肋骨をへし折って出てくるかもしれない!!

 晴臣くんの手がほんの少し躊躇しながら、私の髪に手櫛を通す。


「まだまだ言い忘れてました。髪もサラサラで綺麗だし、目はくりくりしてて可愛いし、ほっぺはプニプニして触り心地いい」


 手は頬に移動されて、視線がガッチリと晴臣くんに固定される。

 どうしよう……顔を、逸らせない。


「鼻は小さくて愛らしいし、唇は柔らかそうで──」


 どう、しよう……

 なんか……変な雰囲気に飲まれちゃいそうで。


「は、晴臣くん、離して……?」

「──試していいっすか」


 うそ……え……し、しちゃうの?


「もう……我慢、できないっす」


 わ、わぁっ

 逃げられずにギュッと目を瞑ってしまう。

 晴臣くんの息づかいが、目の前から聞こえる。


「ミジュさん……」


 きゃーー……


 ……


 ……


 ……



 グイッ。



 ……ん?!



「な、なにやってるの、晴臣くん」


 目を開けると、晴臣くんは真剣な瞳で私のおでこを見てる。

 私の前髪は、晴臣くんの左手でグイッと上げられていて。


「おれ、デコフェチで、おでこを確かめてるんす」

「は、はぁ……どう?」

「この生え際のフォルム、最高ですね! ちょっと広めなおでこがたまんねぇっす!」


 晴臣くん、まさかのデコフェチだったよ!!

 珍しいんじゃない、そのフェチ!


「おでこも完璧だし、あ、睫毛も長いんすね。眉毛も自然に整ってて、いい感じです。爪は清潔に切られてて好感度高い……つまり、全部最高です」


 うーん。

 結局私が誉め殺されちゃったよ。ふしゅー。


「あ、急いで食べないと、時間なくなってきたっすよ!」


 あ、今日はバレーだったんだっけ。

 もう頭が回んないよー。

 サッと離れて食事を続ける晴臣くん。

 私はたっぷり三十秒は放心してから、食事を再開した。

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