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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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45/80

45.何か言いたそうだけど

 今日も一日の仕事が終わった。

 急いで着替えてたら、「そんなに愛しの拓真くんに早く会いたいのかー」とよしちゃんにニヤニヤ言われちゃう。

 もう、その通りだよ!

 私の顔は熱くなりながら、拓真くんの病室に急いだ。

 中に入ると、拓真くんはベッドの上で大あくびしてる。暇そうだなぁ〜。


「拓真くん」

「ああ、ミジュ。日曜も仕事かぁ、お疲れ様」

「ありがとう。でも拓真くんが退院する火曜日は休みだから、ちょうどよかったよ。当日は、車で送ってあげるからね。あ、これが着替えかな?」


 手前に置いてあったナイロン袋を手に取り、持ってきた洗濯済みの服を代わりに置いておく。


「ありがとう。な、今日もここで食べてくだろ?」


 よっぽど暇なんだね。私が来ると、水を得た魚のように生き生きし始めた。

 その日はバレーもなかったし、なるべく拓真くんと一緒にいることに決めた。

 バレーのある日で私が日勤の時は一緒に食事してるけど、ご飯を作ってたり後片付けしてたり、洗濯物したりお風呂掃除したりで、ゆっくりのんびり過せるわけじゃないしね。

 拓真くんは自分の子どもの頃の話や、リナちゃんが生まれた時の話なんかをしてくれた。バレーの大会で負けて悔しかったこととか、将来お店を出す夢とか、本当に色々。

 どんな話も楽しそうにしてくれて、それを聞けることが本当に幸せ。

 でも、どんな楽しい時間も終わりが来ちゃう。

 面会時間終了の時刻が近付いて、私はお尻を椅子から浮かした。


「そろそろ帰るね。面会時間終わっちゃう。また明日、仕事が終わったら来るから」

「わ、もうそんな時間か。遅くまでごめん」

「ううん、私も楽しかった!」


 心からの言葉を伝えながら微笑むと、拓真くんは一瞬だけ目を広げて、すぐに私から視線を外しちゃった。あれ? 看護師の微笑みは、もう元気になった拓真くんには効かなかったみたい。


「じゃあおやすみなさい、拓真くん。また明日ね」

「おー。帰り、気ぃつけて」

「うん」


 帰り際の拓真くんの耳が少しだけ赤く見えたのは……気のせいかな。



 翌日は月曜日で、明日は仕事が休みだから気分は週末。

 拓真くんも順調に快復してて、予定通り明日退院になった。

 いつものように仕事終わりに拓真くんのところへ向かう。着替えを洗った物と交換して、少し話した後、私は立ち上がった。


「ん? 売店行くのか? 俺も行くよ」

「あ、ごめんね……今日はもう帰らないといけないんだ」


 今日は月曜でバレーのある日。そして、晴臣くんのご飯を食べに行くって約束した日だから。


「用事?」

「うー……うん」

「どんな?」

「えっと、用事っていうか……晴臣くんがご飯を作ってくれるって言うから」

「ああ、みんなで食うの?」

「う、ううん、二人でだけど……」


 そう言うと、拓真くんの眉間に少しだけシワが寄った。

 拓真くんって三島さんの時もそうだったけど、私が男の人と二人で食事するの、あんまりよく思ってないよね。誤魔化した方がよかったかな? でも嘘はつかないって約束しちゃったし。


「あー、晴臣か……あいつなら、まぁ……」

「やっぱり、行かない方が……いい、のかな?」

「ミジュが行くって言うなら、俺に止める権利はないからな。行きたいなら行けば?」


 その放るような言い方に、ズキンと胸が抉られる。

 そうなんだけど。その通りなんだけど。

 グッと奥歯を噛みしめると、拓真くんはハッと顔を上げて私の顔を覗き込んだ。


「ごめん! 今の、言い方が悪かった!」

「……拓真くん」

「あーー、俺が言いたかったのは、本当は……っ」


 ガシガシと頭を掻いてる拓真くん。

 私はその後に続く言葉の見当が付かず、どこか恥ずかしそうな拓真くんを見るしかなかった。拓真くんはそんな私を目の端で捉えるようにして。


「……わかるだろ?」

「え……わからないよ。なに??」

「それ、トボけてんだろ」

「と、トボけてなんかないよ?! 一体なにが言いたいの??」

「ミジュってホント鈍感だよなぁ」


 え、ええー?!

 拓真くん、私の気持ちにちっとも気付いてないよね?!

 それ、私の台詞だから! 鈍感な拓真くんにだけは言われたくないからー!!


「じゃあ、鈍感な私にハッキリ言ってくださいー! 拓真くんはなにが言いたいの?」


 一体、なんなんだろう。

 首を傾げる私に拓真くんは大きな息をハアーッと吐くと、目を合わさず言い放った。


「ただ単に、俺がミジュともっと一緒にいたかっただけ!」


 ……え?

 予想だにしない発言をされて、私は固まっちゃう。

 それって……嬉しいんだけど、素直に喜んでいいの? 拓真くん、私……


「だって暇だし」


 がくっ。やっぱり。


「引き止めてごめん。行っていいよ」

「あ、うん……一緒にいてあげられなくて、ごめんね?」

「いいって、ただの俺のわがままだから」


 そう言う拓真くんの顔が、やたらと大人びて見える。元々、年より上に見える顔立ちではあるんだけど。

 けど、拓真くんがわがままを言ってくれたこと、素直に嬉しかった。わがままを言ってもらえる関係になれたのかなって。

 それが、ただ暇だからって理由だったにしても。


「明日は、朝から来るからね」

「わかった。待ってるよ」

「じゃあおやすみなさい、拓真くん」

「おやす……〜〜あー、ミジュ」

「ん? なぁに?」


 帰ろうと背を向けた途端に呼び止められて、首だけで振り返ると。


「ミジュは、晴臣……」


 そこで、言葉が止まる。


「なに?」

「んー……いや、晴臣にノートのコピーくれって言っといて」

「ん? わかった、言っとくね。それだけ?」

「……うん」


 どこか力の無い笑みで答えてくれた。少し気にはなるけど、晴臣くんとの約束を破るわけにもいかないし。

 私は拓真くんの病室を後にして、晴臣くんの家を目指した。

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