表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/80

43.疑い

「園田」


 エレベーターに乗ろうとしていたはずのよしちゃんは、それに乗らずに私達の前で立ち止まった。

 私の目を見て、隣の拓真くんを見て、また私に視線が戻ってくる。


「隣の人……どう見ても、リナちゃんのお兄ちゃんに見えるんだけど? えーと、名前なんだっけ」

「拓真です。お久しぶりです、徳澤さん」


 私が答える前に、拓真くんが先に答えた。

 よしちゃんは拓真くんの名前を聞いて、少しスッキリした顔に変わる。


「そーだそーだ、拓真くんだった! 久しぶり。その格好、病気でもしたの?」

「昨日、盲腸で手術したんですよ」

「そうか、大変だったね。けどなんで園田と肩組んでるわけ??」


 よしちゃんの顔は一瞬で訝しげなものに変わった。う、うーん、どこから話せばいいのか……。

 っていうか、私と三島さんの繋がりは隠しておかないと、披露宴の時のサプライズが台無しになっちゃう!


「た、拓真くん、耳貸してっ」

「なんだ、ミジュ」

「み……じゅ……!?」


 よしちゃんの顔が今度は今までで一番驚いたものに変わった。

 ああああ、もう頭が混乱するけど、今はとにかく口止めだー!

 私は拓真くんの耳元で、コソッと話をする。


「後で詳しく話すけど、私たちは三島さんを知らないことにして! お願い!」

「……わかった」


 エレベーター前は人がたくさんいるから、小さな声じゃよしちゃんには聞こえなかったはず。

 とりあえずの口止めが済んでホッとしたけど、目の前のよしちゃんからは逃げられそうにない。


「ちょーっと色々聞かせてもらいたいわね。園田、拓真くん、一緒に食べない?」


 目が……目が笑ってないよ、よしちゃん!!


「徳澤さん。すいませんけど俺、今日はミジュと二人で食べたいんで。またにしてもらえませんか」


 ふえっ?!

 私がどうしようか悩んでる間に、拓真くんが先に断っちゃった!


「そっか、私はお邪魔虫ってわけね。わかったわかった。園田、明日は顔貸しなよ」


 きゃー、よしちゃん怖ーい!!

 よしちゃんは不敵な笑みを浮かべながら、ちょうど来たエレベーターに乗り込んで行ってくれた。

 ふー、とりあえず、危機は脱した……のかなぁ。明日が怖いけど。

 そして、こっちも……ちょっと怖い顔してる。


「三島さんのこと、バレたくないみたいだったから、ボロ出す前に徳澤さんの誘い断っちまったけど」

「う、うん、あれでよかったよ」

「俺もミジュに聞きたいこと、いっぱいできた」

「と、とりあえずここじゃ誰に会うかもわからないし、売店でご飯買って、病室で話そ! ね!」


 もうー、まさかよしちゃんに会うだなんて!

 大きい病院だから、どうせ会わないだろうって思ってたのになぁ。甘かった……。

 私達は売店で晩御飯を買うと、拓真くんの病室に戻った。

 ちょうど夕食が配膳されるところで、御膳をテーブルにおく。でもそれを食べ始めてからも、拓真くんの表情はキツいままだった。


「あ、あの、さっきはありがとうね。三島さんのこと、黙ってくれてて……」

「それはいいけど……どうして徳澤さんに、三島さんと俺たちが知り合いってバレちゃいけなかったんだ?」

「あ、それはね。よしちゃん……あ、徳澤のことだけど、よしちゃんの婚約者が三島さんだからなの」


 そう説明すると、びっくりするほど拓真くんの顔が怒りを帯びてきた。

 え、なんで? どうして怒ってるの?


「ミジュ、やっぱり三島さんとそういう関係になってたのか?」

「ふぇ?!」

「同僚の婚約者を取っちまったから、バレたくなかったんだろ」

「ええっ?! ち、違うよ?!」


 そんな、よしちゃんの婚約者を寝取るとか……ないない、できないし、たとえ好きだったとしてもそんなことは絶対にしない!!


「でも、ミジュはいっつも三島さんとこそこそしてたよな。三島さんがミジュの頭を撫でてるのも見たことあるし」

「そんなの、拓真くんだって私の頭を撫でたことあるでしょ、それも何度も!」

「俺は普通に撫でるけどさ。三島さんはそういうことするタイプじゃないもんな」

「それは、私が友達の妹だったからで……」

「それに、三島さんはミジュの名前を唯一知ってだろ」


 拓真くんは私の視線を外して斜め下を見てる。

 あれ……? これは怒りというより……ふてくされてる感じかも?


「三島さんは、私の兄の友人だったから名前を知ってただけで……」

「ミジュは俺のこと、名前が変わってるからってだけで、からかったり笑ったりする奴だと思ってた?」

「思ってない! 思ってないけど、なんか言えなくて……」

「信用されてなかったのかと思って、あん時すげーショックだった」


 ……ショック。

 えええ、本当に? 普通の顔してどっちの名前で呼んでほしいか、聞いてくれてたよね。

 あれは……一生懸命ショックを隠して言ってくれてたの?


「そうだったんだ……ごめんね、傷つけるようなことをしちゃって……」

「もう俺には嘘つかねーって約束してほしいんだけどな」

「うん。もうこんな嘘は、絶対につかない!」

「んじゃあもっかい聞く。ミジュは三島さんと、そういう関係なのか?」


 まだ疑われてる……やっぱり寝取ったと思ってるの?!

 信用してくれてないのは、そっちじゃない! なんか、腹が立ってきた!!


「三島さんは確かに初恋の人だったけど、今はよしちゃんの婚約者なんだから奪うわけないよ! 私、今まで誰とも付き合ったことないんだから!!」


 頭に血が上って怒りのままに言葉を発する。

 あれ……なんか余計なことを色々言ってしまった気が……。


「ふーん……初恋、だったのか」


 複雑そうな顔で呟いている拓真くん。

 いやーー!! 私今、そんなこと言ったー?!


「で、誰とも付き合ったことがないって、それ本当か?」


 ど、どうしよう……呆れられてる? 二十五歳にもなって、彼氏の一人もできたことないとか……。でも、嘘はつかないって約束しちゃったし……。

 私は声には出せずに、コクンとうなずいた。もしかしたらまた、顔が赤くなっちゃってたかもしれない。


「そ……っか」


 拓真くんは軽く息を吐いた後、ようやくその顔が優しくなった。

 恥ずかしい告白をしちゃったけど、これでちょっとは信じてもらえたのかな。


「ごめん、疑って」

「ううん、私も大きな声出しちゃって……」

「けど、徳澤さんと三島さんが婚約者同士で、なんで俺達が三島さんと繋がってることを隠さなきゃいけねーんだ?」


 首を傾げる拓真くんに、私は披露宴のサプライズのことを話した。そうしてようやく拓真くんは私の行動に納得してくれたみたい。

 拓真くんはそれを聞いて、少し考えた後に顔を上げた。


「なぁそれ、俺らバレーの面子も一枚噛ませてくれねーかな?」


 拓真くんはいたずら小僧のように、私の目を見てニッと笑う。

 私はその話を聞いてから、急いで土曜のバレーに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ