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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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38.わからない心

 その後のバレーの練習中、私と一緒に球拾いをしてた結衣ちゃんが話しかけてきた。


「ミジュさん」

「なぁに、結衣ちゃん」

「私、タクマに告白しました」


 わ、報告してくれるんだ。結果は、知ってるんだけど……。


「そ、そうなんだ……どう、だったの?」


 聞かないわけにいかないよね。結衣ちゃんの傷を広げたくはなかったけど、聞かないのもおかしい。


「そんな顔しないでください。大丈夫ですよ、私フラれちゃいましたから」

「そ、そう……」

「もう、ライバル減ったって、喜んでくださいよ!」

「でも……」

「まぁ、そりゃ、悲しいですけど……」

「結衣ちゃんはもう、諦めちゃうの?」


 私の問いに、結衣ちゃんは転がってきたボールを返しながら答える。


「んー、正直、わからないです。諦める努力はするけど、ダメならまだ好きでいます」

「そっか……」


 そうだよね。振られたって、好きでいるくらいは……許されるよね。しつこいと、嫌われそうだけど。


「それに私、平さんと約束しちゃったんですよね」

「え、なにを?」

「タクマにフラれた時には、平さんとのことを真面目に考えてみるって」


 ……へ?! どーいうこと?!


「それって……」

「私、この前、平さんに告白されたんですよ」

「えええええーーーーーッ!!」

「ちょ、声が大きいっ!!」


 はっ、体育館内に私の絶叫を轟かせてしまった……!

 みんなが驚いたようにこっちを見てる。


「ご、ごめんなさい。なんでもないです、続けてくださ〜い……」


 手をひらひら振って見せると、練習が再開される。

 ひゃー、びっくりした! 平さんに告白されてたとか!

 っていうか、平さんは私より一つ年上の二十六歳だよね? 結衣ちゃんは十九歳……って事は七歳も差があるじゃない!

 けど、女が年上の六歳差と、男が年上の七歳差は、意味が違ってくるよねぇ。男が年上ってそんなに問題もないし、普通だもん。


「で……平さんと付き合うの?」

「まだ、今の段階では考えられなくて……」

「そうだよね」

「でも平さんってすごく穏やかでいい人で……こんな人と付き合えたら、幸せなのかなって思うことはあるんですよね……」

「うん……」


 なんとなく……その気持ちは、わかるかもしれない。

 目の前のコートにいる晴臣くんが、華麗にレシーブしてる。いい子……だよね、彼も。


「まぁ、私はもうフラれちゃったんで、ミジュさんに頑張ってもらいたいかな!」

「う、うん……」

「自信持ってください! ミジュさんなら、大丈夫ですよ!」


 結衣ちゃん……拓真くんに私のこと聞いて、特に何も思ってないことを知ってるはずなのに。

 このままじゃダメだって、叱咤するつもりで言ってるのかなぁ?


「うん、ありがとう。私ももうちょっと積極的に頑張ってみる」


 どっちにしろ、今のままじゃダメなのはわかってるんだもん。今の自分を変えるって、中々難しいと思うけど……頑張ろう。

 私の決意の隣で、結衣ちゃんはコックリと頷いてくれていた。



 そのバレーの帰り、拓真くんと歩いていると、「あの時なんで叫んでたんだ?」と聞かれてしまう。

 うーん、結衣ちゃんと平さんとのことは、まだ言わない方がいいよね?


「えーと、あの……結衣ちゃんが、拓真くんに告白したって聞いて……」

「……結衣のやつ、ミジュに言ったのか……」

「ご、ごめんね?!」

「いや、別に言うも言わないも結衣の勝手だし。俺は振った方だから」

「あ……うん……」


 拓真くんは、妹のリナちゃんに似てるから、そんな感情は起こらないって理由で断ったんだよね。

 でも仲良かったのに、特定の好きな人がいないなら、付き合ってみるって選択肢はあったはずだと思う。


「どうして結衣ちゃんと付き合わなかったの? 結衣ちゃんってかわいいし、拓真くんとも気が合ってたのに」

「……結衣から聞いてない?」

「え、なにを?」

「いや、聞いてないならいい」

「なに、気になるよ。あ、もしかして、拓真くんは……男の人が好きだったとか?!」


 私の顔からサーッと血が下がっていくのがわかる。

 もしもそうだとしたら……私に可能性は一パーセントもないじゃないのー!


「っち、ちっげーよ!! 俺はちゃんと、女が好きだっての!」


 頭をグシャッと掴まれてグラグラ揺らされる。

 よ、よかった……ノーマルだった……。別に、ゲイの人を否定するわけじゃないんだけど。


「はー、びっくりしちゃった」

「俺の方がびっくりするわ」


 口をとがらせてる拓真くんが、かわいらしい。


「そっか……じゃあどうして断っちゃったの?」

「んー、まぁ色々。気持ちの問題」

「ふーん……」


 なんの参考にもならない答えが返ってくる。なーんか納得いかないなー。


「彼女が欲しくない、とか?」

「いや、欲しいけど」


 欲しいんだ。なのに、唯ちゃんを断っちゃうとか……矛盾してるようにも見えるけど。

 私の顔が、よっぽど不思議そうな顔をしていたのか、拓真くんは一息吐いて答えてくれた。


「俺さー、まだまだガキだし、稼ぎだってほとんどないし、見通し立たないと不安なんだよな」

「え? それが付き合わない理由?」

「うーん、まぁ」

「そんなの、拓真くんの同年代ならみんなそうじゃない。でも付き合ってる人なんて大勢いるでしょ? 気にする必要ないと思うけどなぁ」

「じゃあミジュは、俺と結衣が付き合った方がよかった?」


 ……どうしてそんなことを聞くの?


「それは、二人の問題だから、私はどうこう言えないよ」


 どうしてかわからないけど、心がささくれ立つ。

 拓真くんの考えてることが、本当にわからない。


「俺は……」


 拓真くんはそう言ったまま、歩みを進めるだけだった。

 結衣ちゃんの告白を断ったこと、もしかしたら後悔してるのかもしれない。


 三歩、四歩、五歩、六歩……二十歩を数える辺りで、ようやく拓真くんは続きを口にする。


「早く稼げるようになりてぇな」


 ……なにその結論。やっぱりよくわかんない。


「急がなくていいんじゃないかな。嫌でも働かなきゃいけない日は来るし、今は今を楽しめばいいと思うよ。若いうちにしかできないことって、たくさんあると思うし」

「……うん」


 私の言葉に納得したのかはわからないけど、拓真くんはあまり元気のない返事をして頷いてた。

 私達はゆっくりと、アパートへの道を歩いて帰った。

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