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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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37.探られる

 晴臣くんと別れた後、家に帰ってバレーに行く準備をする。

 そしていつもの六時になると、拓真くんの家に入った。


「ごめん、ミジュ。ちょっと忙しくて、もうちょいかかりそう」

「うん、ゆっくりしてて。洗濯物とお風呂掃除やっちゃうね」


 私がここにご飯を食べに来る時に、必ずする仕事。

 拓真くんは、パンツだけは畳まれるのに抵抗があるのか、それだけ先に自分で片付けてるみたいだったけど。残りの洗濯物は全部私に任せてくれてる。

 でも、これだけで満足してちゃいけないのかもしれない。お料理も……手伝ってみようかなぁ。頑張ってるアピールに、なる……かも?

 大失敗して呆れられる可能性の方が高いような気もするけど。


 でも、もう『特に』なんて言わせたくない。

 私っていう存在を、拓真くんの中へ植え付けたい!

 洗濯物だけ片付けて、狭い台所に向かう。


「拓真くん、私もなにか料理手伝うよ」


 そう言うと、拓真くんの顔が喫驚した。


「えっ?! どうしたんだよミジュ……頭でも打ったか? 雪でも降るんじゃないだろうな」

「も、もう! 私だって、ちょっとは料理……できないけど、手伝いたいんだから!」

「偉い偉い。まぁもう終わりだから、また今度な」


 うーん、やっぱり拓真くんに妹扱いされてる? これを脱却しないことには、彼女になんかなれないよね。どうしたらいいんだろう。

 今日も美味しそうな食事が並べられて、一緒にご飯を食べる。

 この生活は、一体いつまで続けられるんだろう。できれば一生、こうして一緒にご飯を食べたいけど、今のままだと確実に終わりがきる。それを考えると……ちょっと、胸が苦しい。

 私はご飯を口に運んでいる拓真くんを見た。今日は何となく口数の少ない拓真くん。きっと、結衣ちゃんのことを考えてるからだろうけど。

 すると拓真くんもこっちを見て、私と目が合った。けど、どこか言いにくそうに少し視線を泳がせてる。


「あー……なぁ、ミジュ」

「ん? なぁに?」

「ミジュはその……やっぱ好きな男とかいるのか?」


 え?! なにいきなりその質問?! 結衣ちゃんに告白されたせい??

 もし、正直に答えたらどうなるんだろう……好きな相手が拓真くんだってバレちゃったら、今の状態じゃ百パーセント振られちゃう。

 なんとか誤魔化さなきゃ。


「そういう拓真くんはどうなの?」


 よし、ナイス切り返し、私! ちょっとお姉さんっぽさも演出できたんじゃない? 目指せ、脱・妹!


「え、俺? あー……まぁ、どうだろうな……」


 な、なに、その微妙な反応は……でもきっぱりいるって言われなくてよかった。いるって言われたら、私以外の女の人が好きってことだもんね。

 まぁ今の返事じゃ、いるのかいないのか、はっきりしないけど。


「どうしていきなりそんなことを言い出したの?」

「んー、ちょっと気になって」


 ……それは、私のことを気にしてるって意味? それとも一般的な女性がどんなものなのか気になるってことなのか……今の発言だけじゃ、なんとも言えないなぁ。


「俺らの年だったら、好きなやついるのが当然なのかな」

「それは……色々じゃない? 好きな人がいる人もいれば、いない人もいるだろうし。別にどっちが良いとか悪いとかもないと思うけど」

「そうかな。で、ミジュは好きな奴いんの?」


 うぐ、話が戻っちゃった! 上手く躱したと思ったのにー!


「私……私は、まぁ、それなりに……」


 そ、それなりにってなによ私?! まるで複数人が好きみたいなニュアンスになっちゃった!

 違うよ、拓真くん一筋だよー!


「へー、いるんだ」


 純粋に驚いている顔の拓真くんを見ると、なんだか悔しくて心が痛い。


「病院の人?」

「ど、どうかな。ヒミツ!」

「別に、誰にも言わねーのに」

「そういう問題じゃないの!」


 言えるわけないでしょー! 目の前にいるあなただなんて!!


「大学病院の医者とか、稼いでそうだもんなー」

「お金を持ってるからって好きになるわけじゃないでしょ! ま、まぁ世の中にはそういう女の人もいるかもしれないけど」

「じゃあ、バレーの仲間? 鉄平さんとか?」

「緑川さんだけは、絶対にない!!」

「そんじゃあ一ノ瀬……」

「ちょっと待って?! それ一人ずつ言ってっちゃ、バレちゃうじゃない!」

「……ふーん」


 あ。しまった。これじゃあ、バレーの仲間の中に好きな人がいるって言ってるのも同然だった!

 私のバカー!!!!

 泣きそうになりながら拓真くんを確認すると、なぜか複雑そうな顔で笑ってる。


「そんな顔すんなって! 誰にも言わねーから。な?」


 お箸を置いて、私の頭をグシャグシャと撫でてくる拓真くん。

 それだけで身体中が熱くなって、もう胸が痛いくらいに苦しい。


「はは、ミジュ、また耳まで真っ赤……」


 頭に置かれていた手が、私の耳に移動して。拓真くんは、言葉を止めた。


「まさか……俺?」


 バクンッ


 バクンッ、バクンッ!


 心臓が飛び出しそうなほどに鳴る。

 まだダメ。バレちゃダメ。

 今バレちゃったら、絶対『ごめん』って言葉が返ってきちゃう!


「ま、まさか! 違うよ!」


 バクン、バクン、バクン。

 静まれ、心臓ーー!


 もっともっと拓真くんと仲良くなって、いい女になって、それからちゃんと告白するんだから!

 今、断られるわけにいかないんだから!


「あー、はは……そうだよな」


 複雑そうに笑ってる拓真くん。

 もう、心臓がはち切れそう。

 ほんのちょっとだけでも残念って思ってくれてたら、嬉しいんだけどな……。拓真くんの表情は、よくわからない。


 私達は、微妙な雰囲気の中で食事を終わらせた。



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