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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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35/80

35.ミジュ

 長く厳しい残暑がようやく終わろうとしていた、九月の後半。

 バレーの練習が終わって、その片付け中に。


「園田さんを借りてもいい? ちょっと話したいことがあるんだけど」


 三島さんがバレーのメンバーに向かってそう言った。


「いいですよ。片付けは俺達がやっておきますから」

「ありがとう、一ノ瀬」

「なんですか、三島さん」


 後片付けを皆に任せて、三島さんについていく。体育館の玄関前まで行くと、三島さんは切り出した。


「えーと……披露宴のことなんだけど」

「あ、はい」

「どう? 看護師さんは何人くらい来られそう?」

「今のところ、確定してるのは七人ですね」

「結構いるんだ。有難いなぁ」

「もうちょっと増えるかもしれないですけど」

「助かるよ、ミジュちゃん」


 三島さんってば、すごく嬉しそう。本当によしちゃんのこと、大好きなんだね。


「で、なにをするかは決めた? どれくらい時間のかかることをするのか、ちょっと知りたいんだけど」

「歌でも歌おうかって話もしたんですけど、結局一人一人、よしちゃんに対しての一言スピーチをすることにしました。一人一分以内に収めようってことなんで、今のところ七分くらいですね。十分くらい見ておいてくれれば、多少人数が増えても対応できると思います」

「うん、時間としてもそれくらいが助かるよ」

「あとスピーチ中に、もう一つやりたいことがあって……」


 披露宴の計画を話していると、三島さんのテンションが上がってくる。


「いいね、それ! ミジュちゃんにお願いしてよかったよ」

「いえ、こんなことくらいしか、できないですから」

「色々考えてくれてて嬉しいよ! ありがとう、ミジュちゃん!」

「ミジュって誰?」


 唐突に後ろから響く、拓真くんの声。

 うそ……聞かれた!!

 振り向くと、そこには拓真くんに晴臣くん、結衣ちゃん一ノ瀬くんヒロヤくん、平さんに緑川さんが私の方を見てる。


「えーと、その……」


 どうしよう、と三島さんを見上げると、「もう言った方がいいんじゃない?」とこともなげに言われてしまった。うう。


「ミキさんの名前、ミキじゃなくて……ミジュだったってことっすか?」


 眉間に少し皺を寄せてる晴臣くん。今まで、嘘の名前を呼ばせてたんだもんね……。腹を立てるのも当然かもしれない。


「ご、ごめんね、黙ってて……」

「どうして言ってくれなかったんですか?」


 今度は結衣ちゃん。怒ってるっていうより、不思議そうな顔をしてる。


「呼びにくいでしょ? それに私、小さい頃この名前でからかわれたことがあって、自分の名前が嫌いで……」

「ああ、気持ちわかりますよ。俺の名前は光輝って言うんですが、〝光り輝く〟なんて名前負けしてて恥ずかしいから、みんなに苗字で呼んでもらってるし」


 一ノ瀬くんが私の行動に理解を示す発言をしてくれて、少しホッとする。


「俺は、ミジュ姉さんもいいと思うけど!!」


 元気ハツラツなヒロヤくん。ありがとう、嬉しいよ。


「ミジュちゃん、いいじゃん! なんかエロいし」


 ホントこの人どうにかして。そういうのが嫌なんだよ緑川さん。


「それじゃあ、これからはミジュちゃんでいいのかな?」


 穏やかな笑顔の平さん。


「ミキは、ミキとミジュ、どっちで呼ばれたいんだ?」

「それは……」


 拓真くんが呼び方を気にしてくれる。

 ミジュって呼ばれるのは、正直抵抗がある。人前で呼ばれたりしたら、恥ずかしいって思いも。

 でも、三島さんが私のことミジュって呼んでも抵抗がないように、徐々に慣れていくかもしれない。

 なにより……拓真くんに、ちゃんと本当の名前を呼んでほしい。


「ミジュで、お願いします!」


 そう言って、思いっきり頭を下げると。


「ミジュ!」

「ミジュさーん!」

「ミジュ姉さん!」

「ミジュちゃん」


 みんなに頭をワシワシワシワシ撫でられた。

 初めてミキって呼ばれた時よりも、もっともっとくすぐったい。

 髪をグシャグシャにされて頭を上げると、目の前には少し悲しそうな晴臣くんの姿があった。


「悩んでたんなら、一言相談してほしかったっす」


 う……罪悪感。


「ごめんね……これからは、ちゃんと相談するようにするから」

「約束っすよ!」

「うん」


 そこでようやく笑顔になってくれた。やっぱり、ちょっとショックを受けてたのかな。

 晴臣くんだけじゃなくて、もしかしたらみんなそうだったのかもしれない。

 申し訳ないことをしちゃったけど、私自身、ようやく本当の名前を伝えられて、ホッとした。

 怒らずに受け入れてくれたみんなに……本当に感謝。


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