34.来年は
八月も後半になって、ようやくバレーの練習を再開する日がきた。
その前日に、どうやら結衣ちゃんは拓真くんと一緒に有名なパティスリーに行ったらしくて、休憩中のお菓子はお土産のタルトフロマージュを出してくれた。
休憩後の練習が始まると、私はこそっと結衣ちゃんに話し掛ける。
「結衣ちゃん、拓真くんと二人っきりで行ったの?」
「そうですよー。私が行くって言ったら、タクマも行きたいって」
「ずるーい、結衣ちゃん!」
「ミキさんこそ、今日もタクマと一緒にご飯を食べたんでしょ? そっちの方がズルいですよー!」
「今度は私も誘ってね!」
「嫌ですよー、ミキさんこそ私をタクマの食事に誘ってください!」
「それはダメー!」
そんなやりとりをしながらも、お互いにクスクスと笑い合う。ライバルだけど、そんなにギクシャクした感じにはならないんだなぁ、不思議と。
練習が終わると、私は拓真くんと一緒に帰る。結衣ちゃんはいつも、平さんと一ノ瀬くんの三人で一緒に帰ってるみたい。結衣ちゃんが逆方向でよかった。拓真くんを独り占めできるのは嬉しい。
「ミキはどっか夏祭り行った?」
帰り道、拓真くんがいつものように話し掛けてくれる。
「ううん。行ってないけど、十五日の夜は夜勤でね。ちょうど花火大会があったんだけど、病院から綺麗に見えたんだよ」
「へぇ、よかったなぁ」
「できればもっと近くで見たかったけどね。拓真くんはお祭りどうだったの?」
「忙しかったよ。あ、でも祭りの前にハヤトが来てくれたんだ」
「え、颯斗くんが?!」
島田颯斗くんは、以前うちの病院に入院してた、白血病患者。そして、私と拓真くんの橋渡しをしてくれた、あの男の子だ。
「颯斗くん、元気だった?」
「おお……いっちょまえに、彼女連れてた」
「へぇえ。颯斗くんなら、彼女を大事にしてそうだね」
「んー……」
中学生で恋人がいるとか、羨ましいを通り越して憧れちゃう。
あれ? ふと見てみると、なんだか拓真くんの様子がおかしい? どうしたんだろう。
「なんかあったの?」
「あ、いや、ハヤトの奴にさ……」
「颯斗くんがどうかしたの?」
「いや、よくわかんねーんだけど、ミキは祭り好きそうだから、誘ってやれって言われてさ」
「え、ええ!?」
ちょ、颯斗くん! そのアシスト嬉しいけど、嬉しいけどー!! バレちゃうってばー!!
「そう言われてみると、ミキは灯篭祭りのこと気にしてたし……呼べばよかったかなって、今になって思った」
うん……呼んでほしかったなぁ。今年は十三日が仕事だったから、行ったとしてもトンボ帰りになったと思うけど。それでも行きたかった。
「だからまぁ、今年は終わっちまったけど……来年、よかったら見に来るか? まだまだ先の話だから、その時の状況によるだろうけど」
「え……いいの? 行きたい!」
「おお。俺もミキに、あの風景見せてやりたい」
「ほ、ホントに?!」
わああ、嬉しい! 拓真くんのことだから、きっとその言葉に深い意味は無いんだろうけど。
それでも、友達としてでも景色を見せてあげたいって言ってもらえて……胸が喜びの悲鳴をあげてるみたい。
ありがとう、颯斗くん。本当に感謝!!
もう来年が、今から楽しみ!!
「はは、そんなに夏祭りが好きだったんだなー。言ってくれればよかったのに」
「え、えへへ」
私が喜んでるのを、夏祭りが好きだからって勘違いしてる拓真くん。
もちろん祭りは嫌いじゃないけど、拓真くんと一緒に行けたら、本当に大好きになりそう。
来年は、どうなってるんだろう。
できれば……拓真くんの恋人として、一緒に行けたらいいな。




