32.気づかない
七月が終わって八月に入ると、茹だるような暑さが続く。
最近の暑さって、本当に異常。体育館がまた暑いんだよね。みんなの体調を気をつけてあげないと。
そんな風に思ってた、八月の始め。
「え? しばらく練習なし? 」
練習が終わった後の体育館で、私の言葉に拓真くんが頷いた。
「うん。学校も来週から夏休みに入るし、お盆もあるだろ? 俺やヒロヤは帰省するし、来週から二週間だけ、バレーの練習は休みな」
こう暑いと体もキツいから助かるって、三島さんが息を吐いてる。その隣で結衣ちゃんが拓真くんを見上げながら言った。
「タクマは、いつ帰省するの?」
「八月の十二から十五日までな。十二日には地元で夏祭りがあるから、それまでに帰んなきゃいけねーんだよ。店がすげぇ繁盛すっから」
なんだ……十二日には地元に帰っちゃうんだ。
私の誕生日、実は八月十二日なんだよね。一緒に過ごせるなんて思ってなかったけどさ。拓真くんは私の誕生日なんて知らないし。
でも……わかってはいても、少し残念。
「ミキ、帰るぞ」
「あ、うん。じゃあみんな、おやすみなさい」
「おやすみー」
「おやすみっす!」
みんなと別れて、いつものように拓真くんと夜道を歩く。
私が拓真くんの家でご飯を食べられるのは、日勤でバレーのある日って約束だったから、二週間はお預けってことだよね……かなり寂しい。
でも嘆いてても仕方ない。今一緒にいられる時間を有効活用しなきゃ。
「ねぇ、地元のお祭りって、どんなの?」
「ん? 〝灯篭祭り〟っていって、いっぱい灯篭が並べられんだ。お盆の迎え火の代わりみたいな祭りかな。十六日は灯篭流しっつって、昔は海に流してたみたいだけど、今は浜辺で焼くだけだな」
「それって、灯篭流しになってないね」
「はは、灯篭燃やしだなー。でもキャンプファイアみたいで綺麗だよ」
「ちょっと、見てみたいなー」
「まぁ俺、十六日にはこっちに戻ってるけどな」
だよねー。
言ってみただけだもんっ。別に、期待なんかしてないからっ。
「私、十二日は休みなんだよね」
「ミキもお盆休みあるのか?」
「……ない。十二日だけ」
「大変だなぁ、頑張れよ」
期待、してなんか、なかったんだからーっ! しくしく。
「そのお祭り……拓真くんは、誰かと一緒に行くの?」
こんなことを聞いたら、私の気持ちがバレちゃうかもしれなくて、ドキドキする。でも、聞かずにはいられないよ。すごく気になる。
地元にいる女の子とか……拓真くんを誘いそうで。
「いやー、さっきも言ったけど、その日は結構うちのパン屋が繁盛するんだよな。祭り会場がうちの店の前だから、朝から晩までずっとパンを作ったり売ったりしてるよ。祭りの帰りがけにも買ってくれるお客さんが多いんだ。行くとしたら、合間にリナを連れてってやるくらいかな」
拓真くんの口から出てきたのは、妹のリナちゃんだけで、私はホッとした。
「リナちゃんって、お兄ちゃん子だよね。病院にいた時も、拓真くんが来るとすごく喜んでたし」
「ああ、俺とリナは十一歳も離れてるからなぁ。まぁリナは……そこらの女より、よっぽどかわいい」
あ、兄バカだ!!
臆面もなく妹をかわいいって言っちゃうあたり、拓真くんらしいけど。
「そ、そんなこと言ってたら、彼女なんてできないんじゃない?」
私、頑張ってる……攻めてる! 心臓がドキドキして、痛いよーっ。
「そうなんだよなー。まぁリナうんぬんは抜きにしても、俺ってモテねーし」
そんなことないよ……少なくとも、私と結衣ちゃんの二人にはモテてるから。
気づかないんだよね、拓真くんって。結衣ちゃんなんて、あれからすごく積極的になってるのに。
「モテたいの?」
「うーん、モテたくないって言ったらウソになるけど、別に大勢にモテる必要もねーかなって思ってる。あ、別に負け惜しみじゃないぞ」
最後の言い訳のような言葉に、私はクスッと笑ってしまった。
「ミキは? モテたいって思ってるのか?」
わ、拓真くんがこういうことを聞き返してくれるのって珍しい。これは……アピールする、チャンス?
「私も、たくさんの人にモテる必要はないかな。一人の人にだけ好かれたら……私はそれで充分だから……」
そうしてチラッと拓真くんと目を合わせようとすると。
「だよなー! 俺も一緒!」
サクッと雰囲気をぶち壊して、豪快に笑ってる。
うん、わかってたけどね、拓真くんはこういう人だって。
でも、ちょっとは察してよー! えーん!




