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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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29/80

29.晩御飯

 その日、日勤だった私は朝まで寝直してから仕事に行った。

 日曜は検査も手術の予定もないから、いつものようにドタバタって感じじゃない。まぁ、忙しいのは変わりないんだけど。


 今日はよしちゃんが休みの日だったから、看護師仲間によしちゃんの結婚式のことを相談してみた。よしちゃんとそこまで仲の良くない人は、勤務を代わってあげると言ってくれたし、丸木田さんなんか「なにして驚かしてやろうか」なんて大張り切り。

 まだまだ先の話だけど、披露宴サプライズ、上手くいくといいなぁ。


 仕事が終わると、帰りにスポーツ用品店に向かう。

 私の鼻血で汚しちゃったからね、拓真くんのタオル。

 丁寧に洗ったらなんとか落ちたように見えたけど、やっぱり新しいのを買って返した方が無難かな。

 二千円もあればブランドのスポーツタオルが手に入るし、受け取る方もそんなに気遣わなくて済むよね?

 私は拓真くんの履いているシューズと同じブランドのタオルを買うと、ホクホクと家に帰った。今日は日曜だから、バレーのない日。

 日曜の体育館は人気だから、どこもいっぱいで空きがないんだって。昼間は他のスポーツの試合をしてるしね。


「ふうっ」


 私は拓真くんの家の前まで来て、一つ息を吐いた。用事はあるんだし、堂々としていよう。

 コンコンとノックをすると同時に、小さな声で「拓真くん」と呼びかける。

 するとすぐに拓真くんが出てきてくれた。


「あ、ミキ。お帰り。布団取りに来た?」

「うん。それと、これ……」

「ん? なんだ? まぁ入って」


 わわ、あっさりと入れてくれた。

 一回泊まっちゃったからかな。今までは、入る機会がなかったっていうのもあるけど。

 拓真くんは私が渡した袋をガサガサと開けて、目を丸めていた。


「え、タオル?? なんで? 俺、別に今日、誕生日でもなんでもないんだけど」

「この間、私が鼻血を出しちゃった時に貸してくれたでしょ? 汚しちゃったから、そのお詫びにと思って……」

「古いタオルだったから、別によかったのに。でもありがとう!」


 拓真くんが喜んでくれたから、ホッとした。使ってくれたら嬉しいな。


「布団、玄関まで持ってくよ。ちゃんと干しといたから」

「あ、ありがとう」

「こっちこそ、貸してくれてありがとう。ミキが貸してくれてたのも帰ったのも知らなくて、ごめんなー」

「ふふ、グッスリ眠ってたもんね」

「ミキだって、よだれ垂らしてグッスリだったぞ」

「うそぉ!?」

「うそうそ」


 も、もうっ! ビックリさせないでよー! 意地悪なとこ、あるんだからもうっ。

 私たちは部屋を出ると、隣の部屋に移動する。私の家の玄関先で布団を渡されて受け取った。中に入るつもりはないみたい。


「ありがと、拓真くん」

「ミキ、メシ食った? 俺、今から作るんだけど、一緒に食べるか?」


 ええ! ご飯!? しかも拓真くんの手作り!!


「い、いいの?」

「ミキはいっつもコンビニ弁当だろ? たまにはまともなもん食べないと、倒れるぞ。そんな細っこい体じゃ」


 ……コンビニ弁当……バレてる……。

 最近のコンビニ弁当はバカにできないと思うんだけどね。物によっては野菜もちゃんと採れるし美味しいし。

 でもだからって、ここで断る馬鹿はいない!


「じゃあ……お言葉に甘えちゃおうかな」

「貧乏食材だから、大したもんじゃないけどな。じゃ、できたら呼びに来るわ」

「うん!」


 わくわくしながら待ってると、三十分も経たずに呼びに来てくれた。早い。

 時刻は六時で、お腹の虫もちょうど鳴き出した頃。


「お邪魔しまぁす」


 再び中に入ると、テレビの前の小さなテーブルに、これでもかと食事が乗ってある。

 おおお……和食だー!

 肉じゃがに揚げ出し豆腐、だし巻き卵、きんぴらごぼうにひじきの煮物。青菜のすまし汁、さらには鶏の炊き込みご飯! 美味しそうー! っていうか、絶対美味しい!!


「すごい、あっという間にこんなに作っちゃったの!?」

「あー、きんぴらとひじきは昨日の残りもん。炊き込みはもうセットしてたし、あとは大した手間は掛かってないよ」


 いやいや、大したことあるよ!?

 私だったら、肉じゃがに白いご飯で終わりだよ!! しかもつゆだくのベシャベシャで、芋はゴリゴリで、ちっとも味がしないやつ!

 見た目からして全然違うよー。一気にお腹が空いてきちゃう。


「た、食べていい?」

「おー、食べようぜ」


 私と拓真くんは手を合わせて「いただきます」と声を揃えた。

 ああ、もうこのジャガイモのホクホク感。味付けは濃すぎず薄すぎず、素材の味が生かされてる。

 きゃー、この炊き込みご飯、おいしー!! 思ったよりも薄味なのに、どうしてこんなに美味しいの!?

 きんぴらごぼう……神様が作ったんだろうか、この味は……どれを食べても美味し過ぎる!!


「美味しい……幸せ〜っ」


 ああ、相変わらず美味しいとしか言えない自分が恨めしい!

 もっともっと、この感動を拓真くんに伝えてあげたいのにー!


「おー、よかった。でも俺、炊き込みよりタコ飯の方が好きなんだよなー」

「タコ飯?」

「うん、出汁炊きタコ飯。でもタコがめっちゃ高くてできねーんだよ。グラム三百円とか普通にするもんな」


 そんなにするんだ、タコって。買ったことないから、知らなかった。結構倹約家なのかな、拓真くんって。

 でも、タコ飯かぁ……美味しそう、食べてみたい!


「ねぇ、今度私がタコ買ってくるから、作ってくれない!?」

「え?」

「タコ飯、食べてみたいの。すっごく美味しそうなんだもん」

「あ、まぁ作るのはいくらでも作るけど……いいのか?」

「もちろん! 私が食べたいんだから、払うのは当然でしょ」

「そうだな」


 やった、あっさり納得してくれた!

 タコ飯を食べられるのも嬉しいけど、次の約束ができるのが嬉しい!


「ミキ、明日の月曜は日勤?」

「うん、バレーも行くよ」

「じゃあさ、バレーのある日でミキが日勤の時は一緒に食うってのはどうだ? どうせ一緒に体育館に行くんだしさ、わざわざ約束する必要もないし、わかりやすいし」


 ええ?! 一回で終わりじゃなく、これからずーっとってこと?!

 こんな美味しい食事を作ってくれるなんて……えええ、夢じゃないよね?!


「私は嬉しいんだけど……いいの?」

「食材、半分出してくれんならな」

「出すよ、もちろん出す!! っていうか、ガス代もかかるんだし、私の方が多めに出すから!」

「やった、ミキならそう言ってくれると思った!」


 そう言って歯を見せて喜ぶ拓真くんは、いたずら小僧みたいで。

 どうやら私は、拓真くんの思惑に乗っちゃったみたい。もちろん、願ったり叶ったりなんだけど。


「ミキがいつものコンビニで済ませるよりも安く作っから、心配すんなよ!」


 いや、もう拓真くんの手料理を食べられるなら、いくらでも支払う気でいるけどね!

 でも、そういうところまで気をつかってくれるのが嬉しいなぁ。


「ありがとう。でも使いたい食材があったら、遠慮せずに買ってね。私も美味しいものが食べたいし」

「わかった、そん時には相談するわ」


 相談してくれるんだ。義理堅いよー。


「ミキ、炊き込みおかわり入れようか?」


 あっと言う間に平らげてしまっていた空のお茶碗を見て、拓真くんが手を差し出してくれる。


「うん、お願い。すっごく美味しい!」


 ああー、また美味しいってしか言えなかった!

 けど、拓真くんは満足そうで。


「そうだろ?」って笑う顔が、めちゃくちゃかわいかった。



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