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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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28.秘技

 目を覚ました時、私は目の前の光景を信じることができなかった。


 なんでだろう……

 目の前に、拓真くんと晴臣くんが床で雑魚寝してる。二人ともかわいいなぁ。


 …………


 じゃなくって!! ここはどこ!?


 私はベッドの上に寝かされていて、着衣は……うん、乱れてない! 動物園に行った時のまま!

 えーと、どうしたらいいんだろう……二人を起こした方がいい? っていうか、今何時? 外はもう真っ暗で、何時か見当もつかない。


 キョロキョロと見回すと、自分の部屋と同じ間取りなのに気がついた。ここは、きっと拓真くんの部屋だ。

 引っ越し以来、初めて入っちゃった! と、言うことは……これ、拓真くんの布団?!

 きゃーー! う、嬉しいけど、どうしよう!!


 とりあえずベッドを降りようとすると、ギシッと音が鳴って、いつかのように晴臣くんが目を覚ます。


「あ、ミキさん。起きた?」


 寝起きいいなぁ、晴臣くん。


「う、うん、あの……えーっと」


 なにを言っていいのか、言葉が出てこない。眠気はもう、吹っ飛んでるんだけど。


「すんません、一緒の部屋に寝ちゃって」

「え! ううん、大丈夫! このアパートって、ここくらいしか寝る部屋ないし……っ」


 うわ、なんか焦っちゃう。まさかまた、男の子の部屋に泊まってただなんてー!

 晴臣くんは少し申し訳なさそうに、でも口元は笑って説明してくれる。


「勝手に鞄を探って鍵を出したりするのも悪かったし、女の人の部屋に入って寝かせることもできなくて……結構起こしたんすけどね。ミキさんグッスリで、ピクリとも動かなかったから」


 いやあああああ!

 い、いつもはちゃんと起きるんだよ!?

 今日はちょっと……疲れ過ぎちゃってたんだ……


「えっと……私、電車の中から記憶がないんだけど、どうやってここまで……?」

「鳥白の駅に着く手前で起こしても起きなくて、悪いと思ったんすけど抱き上げて連れ出しました」


 ひ、ひゃぁあああ! だ、抱っこ!?


「さすがにその後、ずっと抱いてこのアパートまでは来られなかったんで、タクシーで来たんです。あ、別に重いとかじゃなくって、人に見られるのが恥ずかしいっていうか……いや、俺はいいんすけど、ミキさんに恥ずかしい思いさせたくなかったんで」


 晴臣くん、なんか色々気遣ってくれてる……。

 いいんだよ、私、見た目より重いと思うし、私を抱き上げて恥ずかしい思いをするのは、晴臣くんの方に決まってる。


「ご、ごめんね、色々と……」

「いや、俺の方が……タクマにも怒られた。夜勤明けなんて疲れてるの当然なんだから、連れ出す方が悪いって」

「ち、違うよ! 私がいいって言ったから……」

「いや、俺、ミキさんとデートできると思ったら、浮かれて……反省してます」


 しおらしく頭を下げてる晴臣くん。

 私も猛省案件だなぁ。また黒歴史が増えちゃったよ……。


「結局、ここに着いたはいいけど、ミキさんの部屋には勝手に入れなくて。タクマに頼んで、ここを使わせてもらったんです」

「今日はバレーの練習だったはずだけど……行ったの?」

「拓真は行ったけど、俺はミキさんが起きた時のために、ここで待機してました。あ、誓ってなんにもしてないっすよ!!」


 慌てて弁解してたけど、私は疑ってない。拓真くんが晴臣くんや一ノ瀬くんなら大丈夫って言ってたし、私も晴臣くんのことは信用できる。


「バレーの練習、休んじゃったんだ……ごめんね」

「別に、たまに休むくらいどうってことないですよ。」


 それでも、やっぱり申し訳なかったな。


「ミキさん、部屋に戻るっすか?」

「うん。これ以上迷惑は掛けられないしね。晴臣くんはどうするの?」

「俺はもうここで泊まってきます。帰るのも面倒臭いし」

「じゃあ、晴臣くんの分のお布団を持ってきてあげるよ。友達が来た時のために、一組余分に置いてあるから」

「え、別に俺、床で大丈夫っすけど」

「私が気になるの。いいから待ってて!」


 晴臣くんはなにか言いたそうだったけど、私はさっさと家に戻ると布団を一組持ち上げた。

 ドアを開けようと苦心してたらドアの前まで来てくれていた晴臣くんが開けてくれた。そして当然のように布団を代わりに持ってくれる。

 まずは拓真くんを移動させなきゃ、布団を敷けそうにないなぁ。


「タクマ。お前、自分のベッドに行け」


 そう言いながら、晴臣くんは拓真くんの顔をペチペチ叩いてる。


「う……うー……なんだよ……」

「ベッド空いたから、戻れって」

「うー……ベッド……」


 拓真くんは這いずるようにしてベッドに上ったかと思うと、またスースーと寝息を立て始めた。


「よく寝るなぁ、こいつ」

「まだ夜中だから、ゆっくり寝かせてあげて。待ってね、今布団を敷いてあげる」


 下布団を広げるとシーツを掛けて、枕にも枕カバーをつける。

 今日は暑いくらいだから、薄手のキルトケットで十分のはず。二人はなんにも掛けずに寝てたけどね。

 そんな風に用意する私の姿を、晴臣くんは嬉しそうに見てる。


「はい、終わったよ。晴臣くん、今日はありがとう。ゆっくり眠ってね」


 それだけ言って立ち上がろうとすると、「ちょっとだけ、いっすか?」と止められた。


「いいよ、なに?」

「今日は……あ、もう昨日か。 昨日は一緒に動物園行けて、嬉しかったっす。ありがとうございました」


 丁寧に頭を下げてくれる晴臣くん。こういうところはなんだか忠犬ハチ公みたい。


「私も一緒に行けてよかったよ。すごく楽しかった」

「マジっすか?」


 途中、ちょっと体がしんどかったっていうのは言わないでおいた。だって、楽しかったのは事実だしね。


「また、どっか誘っていいですか?」

「え、もう大丈夫だよ。前回のことはこれでチャラでしょ? 夜勤明けで眠っちゃったのは、私の自己管理が甘かったせいだから。気にしないで、ね」


 もう晴臣くんにはお世話になりっぱなしだし、これ以上迷惑は掛けられないよね。このままだといつまでたってもお詫びお詫びの連鎖で、終わらなくなっちゃう。

 少しの間、口を噤んでた晴臣くんだったけど、なにか意を決したように口を開いた。


「ミキさんからすると、俺みたいな年の奴は……ガキにしか映らないんすか?」


 ガキ? とんでもない!

 晴臣くんも拓真くんも一ノ瀬くんも、年の割にすごくしっかりしてる。

 ヒロヤくんは確かにちょっと子どもっぽいところもあるけど。

 それでも将来のことをしっかり見据えて頑張ってる姿を見て、ガキだなんて言えるわけがない。


「ガキだなんて思わない。すごく大人っぽくてカッコイイよ」


 どこかしょげて見えた晴臣くんの耳が、私の言葉でピクリと起き上がる。

 結構単純だなぁ。かわいい。


「ミキさん。俺にはまだ、可能性はありますか」


 可能性? そんなの、無限大でしょう!

 まだ若いし、夢もある。なんでもできちゃいそうなパワーが、晴臣くんにはある。


「うん、もちろんだよ!」


 ほっとしたような晴臣くんの笑顔。

 どうしたんだろ、こんなことを聞くなんて、自信でもなくしちゃってたのかな?

 私は『大丈夫』って安心させるために、秘技を繰り出した。


 秘技、看護師の微笑み。


 これ、結構効くんだよね。患者さんにも安心できるって評判。


「……ミキさん」


 ついでにもう一回、看護師の微笑み。


「俺……頑張るっす」


 ほらね、やっぱり元気出たみたい。

 私は三度(みたび)微笑んで、大きく頷いてあげた。

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